強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第13話

 それはまさに間一髪であった。

 闇派閥の一人が抜き放った紅色の短剣。

 一振りするだけで、それは火球を生み出し突き進んでくる。

 デモポンは続けてアイトーンを展開、着弾と同時に爆炎が上がり周囲に煙を立ち昇らせた。

 その煙を突き破る様に現れたのは白濁色のローブに身を包んだ者達。

 人数は4、種族性別は判断不可能。

 もとより顔が判別できないために、いくら記憶を探っても相手の情報は出てこない。

 そのため自身と相手のレベル差が判断できない。

 それでもデモポンに考えている時間は無かった。

 

 「ゼェあッ!」

 

 双頭剣を振り抜き一閃、その勢いを殺すことなく蹴りを放ち着地と同時に拳を叩き込み足を引っかける。

 倒れた相手の背に肘を叩き込んで黙らせた。

 

 ―――やれる。

 

 デモポンは相手がレベル2以下と判断した。

 いくら顔が知れた闇派閥幹部の白髪鬼(ヴェンデッタ)がレベル3だと言っても、周囲にいるのが、底辺のレベル2、もしくはレベル1の集まりならどうにかなる。

 見たところ闇派閥は30人、いまので4人潰したので残り26、ヴェンデッタさえどうにかすればこちらの冒険者達ですり潰せる。

 それをリーダーの冒険者も理解していたのだろう。

 指示を出し、後衛の冒険者に詠唱を始めさせ防御に最小限の人数を残し残りの冒険者達に突撃の指示を出す。

 ただデモポンは嫌な予感が消えないでいた。

 闇派閥の出現がそうなのではないかと考えたが、先程からその寒気のする予感は消えてくれない。

 勝てると思えてもだ。

 デモポンは向かってくる闇派閥を双頭剣で切り捨てる。

 倒れる闇派閥の者から呻き声が聞こえた。

 デモポンの心に重いなにかが伸し掛かる。

 だがデモポンはそれをあえて無視して向かってくる敵に双頭剣を振りかざす。

 

 やはり戦力ではこちらが上なのか、数で来る闇派閥を次々に撃破し、魔法が放たれ勝敗は喫したと思われていた。

 当然だ、なにせ今回の一団は最低でもレベル2中位である。

 油断さえしなければ大抵の事はなんとか出来るだけのポテンシャルが存在している。

 ただ闇派閥はソレを覆した。

 

 「キャッ!」

 「うわぁ!」

 「あいつら……」

 

 数を残り5人としていた闇派閥全員が、魔剣を抜き放ち、倒れている仲間もろとも吹き飛ばしたのだ。

 それも魔剣が砕け散るまで全力でである。

 その流れ弾は後衛にも届き、盾を失ったアミッド達に落石のように降り注いだ。

 

 「テメェ等ッ!!」

 

 デモポンは怒りに瞳を染めながら、魔剣を振っていた者達を切り裂く。

 ヴェンデッタはリーダーの冒険者が攻防を続けている。

 デモポンは双頭剣に染みついた血を振り払うこともせずに加勢に向かった。

 

 「甘いわ!」

 

 だが、そこはやはり闇派閥の幹部。

 対人戦に異様に慣れているのだろう。

 同レベルのリーダーの冒険者の攻撃を防ぎながら、デモポンに蹴りを打ち込む。

 デモポンは蹴り抜かれた反動で嘆きの大壁に罅を付ける程に叩きつけられた。

 デモポンの口から鮮血が飛び散りガードした右腕が反対方向に曲がり、肋骨を砕き、内臓に骨が突き刺さる。

 それは適格に人を壊す一撃であった。

 デモポンは第一級冒険者達との戦闘訓練の経験がある。

 だが、こんな技術は知らなかった。

 一撃でここまで人体を破壊出来る方法を。

 デモポンに気を取られたからだろうか。

 先程まで優勢に動いていたリーダーの冒険者が防戦一方になっている。

 それを見ながら、崩れ落ちるデモポンは想った。

 

 早く来いと。

 

 瞬間、デモポンの内部からまるで炙られているかのような激痛が生まれる。

 

 「来た」

 

 その激痛がその熱が、身体を焦がし生まれ変わらせる。

 刺さった骨が元の位置に、内臓の傷が癒え、曲がった腕が正確な位置に戻る。

 まるで内側から蒸されているかのような眼球に力を込め願う。

 

 あの敵に勝つ力を、と―――。

 

 ヴェンデッタは勝ちを確信していた。

 目の前のおそらくレベル3の冒険者を倒せば、気を失っている戦場の聖女(デア・セイント)を殺すことなど容易いと。

 目の前の冒険者も後一撃拳を叩き込めばそれで終わると。

 その時、背筋を何かが這い回った。

 そして原因を確かめるために視線を一瞬向けると、倒れていたはずのガキが立ち上がっていた。

 それだけでなく向かって来ている。

 一瞬モンスターか何かかと目を疑った。

 綺麗に入った一撃、それは同レベルだけでなくレベル4の冒険者にも通用した一撃の筈だった。

 それが出来るだけ弱い相手だった。

 

 ―――筈だった。

 

 デモポンは生まれたての雛のように足から腰を震えさせながらも、走っていた。

 奇妙な感覚、この体を炙る熱を感じたときは、格上に勝つことが出来た。

 デメテル様に聞いても教えてはくれなかったおそらくスキルの類のモノ。

 でもこの熱が訴えてくれるのだ。

 生き残れと、勝てと。

 故に走った。

 双頭剣は既に砕けている。

 だが、自分には無二の魔法がある。

 

 デモポンは走りながらアイトーンを展開する。

 紅い熱波は両掌から放出され、地面を枯らして削る。

 ヴェンデッタは危機を感じた。

 アレはまずいと本能が理解した。

 そのため邪魔な目の前の冒険者を一撃もらいながらも拳を叩き込み沈める。

 猶予はまだあるはず一度体制を立て直す。

 ヴェンデッタはそう判断し、距離を取ろうと後方に下がろうとした瞬間に強制的に停止させられた。

 

 「なっ!?」

 「……いかせるかよ」

 

 停止させたのはヴェンデッタの腕を掴んでいた沈めた筈の冒険者だった。

 

 「えぇい離せッ!」

 

 叫び乱雑に殴り続ける。

 それでも腕は絡みついた鎖のように離れない。

 そして―――。

 

 「アイトーンッ!!」

 

 デモポンは手首を合わせるようにして熱波をヴェンデッタに撃ち込んだ。

 まるで上級魔導士の魔法のような威力。

 それをまともに受けてしまったヴェンデッタは苦痛に叫ぶ。

 だが腐ってもレベル3、一瞬で内部の血を沸騰させるまでには届かない。

 そしてその一瞬をヴェンデッタは逃さない。

 弱まった腕を振り払い、飛び退く。

 

 「はぁ……はぁ……はぁ……、貴様ぁ」

 

 ヴェンデッタは焼け爛れた腹部を見ながら、怒りに毛を逆立たせる。

 その姿はまさに鬼であった。

 対するデモポンは肩で息をしている。

 全力の一撃、後数瞬時間があれば止めをさせていたかもしれない最後のチャンスだった。

 だが、それも無くなった。

 でもデモポンの心は折れない。

 もう一撃、撃ち込んでやると掌に魔力を集める。

 リーダーの冒険者も苦悶の表情を浮かべながら立ち上がった。

 

 「すまない……、やれそうか?」

 「……はい」

 「よし」

 

 その時、デモポン達を地響きが襲った。

 

 「なっ!?」

 「ぐぅ……」

 

 その振動は傷に良く響く程った。

 これも闇派閥の作戦の内なのか。

 デモポンは最悪を予想した。

 だが、最悪を予見したのはヴェンデッタも同じであった。

 

 「ば、馬鹿な」

 

 ヴェンデッタはそう呟くも、口元を三日月型に歪めた。

 

 「ダンジョンとは本当に恐ろしい、故に我が主の悲願成就のために!」

 

 ヴェンデッタは叫ぶと満足したのか、18階層に続く階段にその身を飛び込ませた。

 

 「逃げるな!」

 

 リーダーの冒険者が叫ぶがそこにはもうヴェンデッタの姿は無かった。

 そしてそれが姿を現した。

 

 「グゥオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 嘆きの大壁と呼ばれる白一色の石壁。

 それのデモポン達の遥か高い場所の一部に亀裂が走り、ソレは生まれた。

 

 「う、嘘だろ……」

 

 リーダーの冒険者もそう息を吐くしか出来ない。

 生まれ落ちたのは迷宮の孤王(モンスターレックス)、またの名をゴライアス。

 灰色の体表に覆われた巨人。

 無謀を良しとする冒険者達の裁定者。

 本来ありえない筈の未知が、絶望と共に生まれ落ちた。

 

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