強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第14話

 腹の底が震える。

 巨人が一呼吸するだけで、生死を判別されているかのようだ。

 今まで皆を導いていた冒険者も情けない音とも取れない呼気を出すことしか出来ない。

 巨人の一撃。

 ただの拳の振り下ろし、それだけで大地が脈動し、縫い固められたかのように身動きが取れない。

 ただ、それが合図だった。

 

 「行って下さい……」

 

 デモポンは静かに告げた。

 

 「へっ……?」

 「俺達のクエストはアミッドを18階層に届けること。19階層のことは別の冒険者に任せれば良い。今は何よりもアミッドが優先される。それと、闇派閥幹部(あのクソ野郎)が逃げた先も18階層です。戦力は多い方が良い。あと、あなたがいないと守り切れない」

 

 デモポンはゴライアスを睨みつける。

 ゴライアスは足元で逃げ惑う闇派閥の残党に攻撃を加えていた。

 一撃一撃振るい落とすだけで、肉塊が生まれていく。

 幸いこちら側には死者がいないのが救いだった。

 

 「割れてなければ、アミッドのバッグに回復薬と気付け薬が入っています。それを使って皆を先導してください。……悩まないで下さい。今出来る最善をお願いします」

 

 デモポンは見捨てろと言っていると感じられた。

 相手はモンスターレックス、並みの冒険者では太刀打ち出来ない真の化け物。

 それを子供一人を残して逃げるのか。

 ただ、その子供は絶望を前にしても心が折れていなかった。

 なんとかしてやると、背中が語っていた。

 唇を噛み締め、拳をきつく握りしめ、万感の想いを乗せて一言。

 

 「―――すまない」

 

 倒れている仲間達を時には放り投げ、担ぎ上げ、引きずって後方まで下がるリーダーの冒険者を横目で見て、デモポンは申し訳なさそうにしていた。

 辛い選択を取らせてしまったと。

 けれど、これが今は最善だと思えた。

 戦う意思が無い者が、勝つ気が無い者がどれだけ挑んだとしても、ゴライアスには届かない。

 無駄に犠牲を増やすだけだからだ。

 

 ―――準備が出来た。

 

 デモポンはどさくさに紛れて盗んでいた一本の壊れかけの魔剣を握る。

 それを軽く一振り。

 吐き出されたのは、一本の電撃だった。

 それがまっすぐに進み、ゴライアスの顔面で爆発する。

 

 「ふぅーーー……」

 

 デモポンが大きく息を吐きだしたと同時に、ゴライアスは次なる獲物に向け進軍を始める。

 デモポンはゴライアスを引き付けながら、速度強化のスキル、アレイオーンを発動する。

 逃走の際に超域強化をもたらすこのスキルを使えば、ゴライアスの速度を上回ることも可能だった。

 走りながら叫ぶ。

 

 「行けっ!走れッ!!」

 

 起き上がった仲間の冒険者達にデモポンは叫ぶ。

 冒険者達は状況を瞬時に判断、助けに向かおうとする者達も現れたが、それはリーダーの冒険者が短い言葉で説得し、それに成功していた。

 18階層に向かう階段の前に陣取っていたゴライアスは、デモポンに導かれ、階段の入り口に背を向けている。

 その隙間をゴライアスに気づかれることなく冒険者達は走り抜けていこうとした。

 ここでうまく仲間を逃がすことが出来ていれば、デモポンも一端の冒険者と言えただろう、もしくは後世英雄になりえた存在と言われたかもしれない。

 ただそんな未来をダンジョンは許容しない。

 ゴライアスの胸部が微かに膨れ上がる。

 急激な風の流れ、17階層中の空気を搔き集めるかのようにゴライアスに吸い込まれていく。

 そして、ゴライアスが咆えた。

 それは轟雷の様であった。

 視界が一瞬歪み、続いた爆音。

 空気に押しつぶされるという感覚をこの時デモポンは初めて知った。

 

 「咆哮(ハウル)ッ」

 

 ゴライアスはただ吸い込んだ空気を叫びと共に吐き出しただけ、それだけでゴライアスの前面に広がる地面は捲り上がり、押しつぶされた。

 デモポンは咄嗟に行動していた。

 コンマ何秒と言う刹那、仲間の冒険者達の眼前に躍り出て魔法を展開していた。

 だが、無傷とは言えない。

 デモポンのアイトーンは前面を守る盾であっても全面を守護する壁ではない。

 空気が音が蛇のように回り込みデモポン達を襲う。

 傷を癒されたばかりの冒険者達は、また傷を負ってしまい戦意すら喪失した。

 それはリーダーの冒険者も同じだった。

 

 ―――もう駄目だ。

 

 そう呟いた彼は、膝をついてしまっている。

 何度も繰り返される絶望の波状攻撃。

 それでもデモポンは折れない。

 意地を見せた。

 一歩を踏み出す。

 ゴライアスは胸板を叩き威嚇を繰り返す。

 そのリズムにつられるようにしてデモポンは笑って返してやった。

 

 「まだだ、ここからだ。そうだろ、……冒険をしなくちゃなッ!」

 

 ―――走る、奔る。

 

 猫から逃走する鼠の様に、縦横無尽に駆け抜ける。

 その動きが余りにも癪に障ったのかゴライアスは雄叫びを上げながら、所かまわずその巨大な腕を振り回す。

 デモポンの作戦は単純。

 咆哮(ハウル)を撃たせない様に、足元を駆け回り意識を常に自分に向けさせ、人型のゴライアスの二本の脚に魔法を叩き込む。

 デモポンはオリヴァスとの戦闘で編み出した自身の魔法の拡大解釈の一つ、熱波を一つの塊として叩き込む衝撃波としての運用を行っていた。

 狙うは脹脛、ゴライアスが人体を模しているなら、そこには神経が集中しているはずであった。

 ゴライアスが苦悶に満ちた雄叫びを上げる。

 作戦通りに進んでいることからデモポンは笑みを隠すことが出来ない。

 それは危機に陥った弱者の生存戦略の成功を確信したからだ。

 

 「……かと言って全てうまくいくわけではないか」

 

 デモポンも少なからずダメージを受けていた。

 それは単純にゴライアスが捲り上げて生まれた岩石が、砲弾のように撒き散らさられるからだ。

 デモポンの身長以上の大岩が真横を通過していくのは、肝を冷やすどころではなかった。

 

 「それでも!」

 

 繰り返しアイトーンを撃ち込み続ける。

 掌から放たれた熱波は爆風となって着実にゴライアスの脹脛にダメージを与えていく。

 ゴライアスの脹脛は度重なるデモポンの衝撃波を受け変色を始めていた。

 灰色の皮膚が蒼く滲む。

 それはゴライアスがうっ血している証拠だった。

 

 「オラァっ!」

 

 紫電を纏った衝撃波が爆ぜ、ゴライアスは苦悶の叫びを乗せて膝を折った。

 巨体が音を立てて崩れ落ちる。

 四つん這いの姿となったゴライアスは、脹脛の痛みからか苦悶の叫びを繰り返す。

 この時、デモポンには二つの選択肢が提示されていた。

 一つはこのままゴライアスを嬲り殺すこと。

 一つ一つの攻撃は微々たるものだが、塵も積もれば山となる。

 現にゴライアスは膝をついてしまっている。

 もう一つは、この時間を使い皆で避難すること。

 16階層に向かうにしろ、18階層に向かうにしろ状況的にはまさに絶好の機会と言えた。

 そしてデモポンは判断した。

 皆を連れて一端逃げるという選択肢を。

 デモポンはゴライアスに背を向けて駆け出す。

 仲間の冒険者達の方に、咆哮(ハウル)の影響から抜け出し起き上がった者達も数名いる。

 それに安堵を覚えるが、心配なことがあった。

 それはアミッドが目を覚ましていないことであった。

 守ると約束した。

 目の前で死なないと約束した。

 そのアミッドとの約束を履行するために、デモポンはアミッドの下に向かう。

 こんな状況から一刻も早くアミッドを逃がすために。

 だがそれは冒険者として正解であったとしても、生物(弱者)としては不正解であった。

 

 「今のうちに逃げましょう!」

 

 仲間の冒険者達の下に辿り着いたデモポンはそう叫んだ。

 アミッドもただ気絶しているだけであり、特に外傷などは見受けられない。

 故に今しかない。

 起き上がる冒険者達も撤退に向けて、倒れる他の冒険者を担ぎ上げながらゴライアスとは正反対側、つまり16階層に向けて走ろうとした。

 その時、誰かが叫んだ。

 

 「危ない!」

 

 デモポンは咄嗟に振り返る。

 その視線の先には、四つん這いになりながらも足を引き摺りながら進み拳を振り上げたゴライアスがいた。

 

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