強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第2話

 アイズはデモポンにポーションを渡されると、あまり美味しくないそれを一息で飲み干した。

 そしてアイズが呆けているのを見たデモポンはアイズの手を引き10階層の中を歩く。

 アイズは自身の手を引き歩くデモポンを見る。

 握られた手の大きさから同い年か少し年上だろう。

 歩くたびに揺れるブラウンの髪は良く整えられていてさらさらとしている。

 ひたすら前だけを見て自身に溢れた様に歩く姿は、あの三人に似ている。

 そんな事を考えていると、少し大きな岩が見えた。

 その岩を回り込むと、子供の背丈ほどの洞窟が口を開けている。

 その中に入ると、入り口に比べて大きな空間が広がっていた。

 デモポンは手を離すと、アイズに振り返った。

 その顔はどこか自慢気である。

 

 「ここは俺がたまたま見つけてな。不思議な事にこの中にはモンスターが入って来ないし、生まれもしない。休憩するにはもってこいの場所だ」

 

 その時アイズのお腹から可愛らしい音がした。

 アイズは顔を赤くし、そっぽを向く。

 デモポンは苦笑すると、ドカリと地面に座り、背のリュックから昼食袋を取り出した。

 その袋から香ばしい匂いがして、アイズの食欲は臨界点を突破し、口から涎が垂れる。

 そして少し近すぎなくらいの位置までデモポンに迫り座ると、昼食袋を穴が開くほどに見つめた。

 デモポンがその中から紙に包まれた物を取り出しアイズに手渡す。

 

 「それ、今度東の区画で売り出すことになってるジャガ丸くんだ」

 

 アイズは一口食べて、驚愕した。

 油の風味に、芋の食感、どこかしつこい感じだが、口が止まらない。

 デモポンは無言でがっつくアイズを見て満足したように頷く。

 商売の成功を確信したのだろう。

 

 「そのジャガ丸くんの芋な、俺の故郷で取れた芋なんだ。旨いだろ?」

 

 デモポンがそう言うと、アイズはジャガ丸くんの衣がついた口を拭おうともせずに、キラキラとした瞳がデモポンの瞳の中一杯になるほどに顔を近づける。

 

 「この美味しい芋を……、すごい……」

 

 デモポンはアイズを押しやると、手に持っていたもう一つのジャガ丸くんを手渡す。

 アイズは「いいの?」と尋ねるが、デモポンが笑顔で見ていたことに気が付いて、喜んで食べ始めた。

 すると入口から声がした。

 

 「探したぞアイズ」

 

 その凛とした声を聞いた瞬間、アイズの肩は跳ね上がりデモポンの背に隠れる。

 

 「リヴェリア……」

 

 リヴェリア・リヨス・アールヴ、オラリオ探索系ファミリアの二大巨頭の一つロキファミリアの幹部、二つ名は九魔姫(ナインヘル)

 デモポンの遥か上の存在、レベル5の第一級冒険者。

 突然の大物の出現にデモポンも目を見開く。

 王族(ハイエルフ)のリヴェリアは美しい若葉の如き緑髪を見せながら、子供の背丈程しかない入口から屈んで入ってくる。

 

 「……10階層にこんな場所があったのか」

 

 リヴェリアはそう呟き、アイズを視線に納めた。

 デモポンはその瞳を知っていた。

 デモポンを叱りつけてくる時の、ファミリアの大人達の目と同じだったからだ。

 リヴェリアがそのまま説教を始めようとしたため、デモポンが待ったをかけ、自己紹介からの状況説明をした。

 その間、アイズはデモポンの背に隠れながらもしっかりとジャガ丸くんをリスの様に食べていた。

 そして、アイズが食べ終わるのと同時にデモポンの説明も終わる。

 その瞬間、アイズからヒキガエルの断末魔の様な声がした。

 デモポンが振り返る。

 そこには、先ほどまで目の前にいたリヴェリアがいつのまにかそこにいた。

 これにはデモポンも驚愕した。

 リヴェリアの姿は初対面の者でも、なんとなく察することが出来るような、魔導士としての出で立ちだ。

 ファミリアでは、後衛職であろうに、眼で追うことすら出来なかった。

 アイズに振り下ろした拳骨もかなりの威力だったようで、アイズは声も出せずにいる。

 そんなアイズの姿にデモポンは内心、今ので耐久の経験値(エクセリア)だいぶ稼げたのではないだろうかと思うほどだった。

 

 「デモポンだったか。ありがとう、ロキファミリアを代表して感謝する」

 

 リヴェリアはそう言ってデモポンに手を差し伸べた。

 デモポンはそれを見て、慌ててガントレットを外そうとして考えた。

 エルフとは他種族と接触を極端に嫌う種族であるということ。

 ましてや相手が、異性の他派閥の人間である。

 そしてなによりリヴェリアはハイエルフだ。

 ガントレット越しでなど、不敬と言われるかもしれない。

 ガントレットはすでに外してある。

 外気に触れた手は少し汗ばんでおり、ひんやりと空気が肌を撫でた。

 固まったデモポンを見て、リヴェリアは差し出した手を伸ばし、強引に握手をした。

 

 「私がハイエルフだからなどと気にしないでくれ、私はそういうのが嫌いなんだ」

 

 リヴェリアはデモポンの手を握りながら、話しかける。

 

 「私達はこれからオラリオに戻ろうと思う。だが道中、後衛の私だけでは武器の無いアイズを守り切れるか心配なんだ。良かったら、デモポンにも一緒に来て欲しいのだがどうだろうか?」

 

 どうだろうか?なんて尋ねてはいるが、リヴェリアは手に少し力を加えデモポンを逃がそうとしない。

 まるで、頷かなければ引きずってでも連れて行くと言わんばかりである。

 デモポンは第一級冒険者の圧に負けるようにして、頷いた。

 デモポンとアイズとリヴェリアはダンジョンの帰路を進む。

 デモポンが現れるモンスターを一撃で灰に返していく様子をアイズとリヴェリアは見ていた。

 

 「シッ!」

 「ギャッ!!」

 

 デモポンが双頭剣をウォーシャドウの首元に突き刺し捻り抜くと、その勢いのまま背後から近づいてきていたもう一体を切り裂く。

 その見事な体捌きにリヴェリアも驚く。

 

 「うぅ~~~~」

 

 アイズは自身もモンスターを倒したいと藻掻くが、リヴェリアがガッチリとアイズの肩を握っているために抜け出すことが出来ない。

 

 「デモポンは随分とうまく立ち回るのだな」

 

 魔石を回収して戻ってくるデモポンにリヴェリアが声をかける。

 

 「ありがとうございます!先生達が良いからですかね」

 

 デモポンはそう言うと、子供らしく笑いながら後頭部を恥ずかしそうに掻いた。

 道を進んでいるとアイズが話しかけて来た。

 

 「デモポンは……、私も戦いたい」

 

 アイズはそう言ってデモポンを見つめた。

 言外にだから剣を貸してほしいと言っている。

 リヴェリアが叱ろうとするが、デモポンはそれより早く言葉にする。

 

 「それは出来ないな」

 

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。

 アイズの大きな瞳がさらに大きくなる。

 

 「これは俺の体だからな。体を貸すことなんて出来ないだろ?」

 

 デモポンはそう言いながら、双頭剣をクルクル回転させ、時には投げながら、それでも体から離すことなく、まるで体の一部とでも言うかのように巧みに操っている。

 

 「それにアイズは戦い方が下手糞だからな」

 

 下手糞と言われてびっくりするアイズの頭にデモポンは手を置く。

 

 「アイズには俺よりも強い人が知り合いにいるだろ?」

 

 デモポンは一瞬リヴェリアに視線を向ける。

 

 「そんな人達に戦い方を教えてって聞けば良い。そしたら、今よりも強くなってより下層に潜れるさ」

 

 その時、獣の唸る音が聞こえた。

 音の方向に視線を向けると、そこには子牛程の大きさの黒い犬がいた。

 

 「ヘルハウンド、どうしてこんな上層に!」

 

 リヴェリアが声を張り上げる。

 ヘルハウンド、本来は13階層から出現するモンスター。

 本来は群れで移動することが多いモンスターであるが、雰囲気からして単体で上層まで昇ってきたらしい。

 このモンスターは別名放火魔(バスカビル)と呼ばれている。

 

 「くっ」

 

 リヴェリアがデモポンとアイズの前に立とうするが、デモポンはそれよりも前に出た。

 ヘルハウンドは口を大きく開くと、火炎を周囲一帯に広がるように吐き出した。

 まるで強者であるリヴェリアの身動きを封じるかのように、弱者であるデモポンとアイズに向けて吐き出された火炎は、それを遥かに上回る熱波によって封じられる。

 

 「アイトーン!」

 

 火炎に向け翳されたのは、デモポンの右手。

 ガントレットが悲鳴を上げるかのように金属を打ち鳴らす音と同時に、掌から紅い波が紫電を伴って放たれていた。

 まるで心臓の鼓動のように何度も波打ちながら、その波は火炎を防いでいる。

 

 「速攻魔法……だと……」

 

 冒険者にとって切り札となる魔法は、その効果・威力によって詠唱文の長さが決められている。

 それを撃発音声だけで放てる魔法は、威力や効果こそ低いがレア中のレア魔法であることに変わりはない。

 が、リヴェリアの驚きはそれだけに留まらなかった。

 火炎の放射が終わると同時にデモポンは駆け出し、二度と火炎を放てぬようにと、口を閉じさせるように右掌をヘルハウンドに叩きつけた。

 そして今度は撃発音声無しに、アイトーンを放った。

 ヘルハウンドは苦しみに藻掻く暇なく。

 内部の水分を瞬間沸騰されたかのように膨れ上がり、爆ぜた。

 沸騰し舞い散った血の霧、それはまるで大輪が花開いたかのようでどこか美しい。

 リヴェリアが呟いた。

 

 「……紅蓮」

 

 アイズが視線を向けてくるも、リヴェリアはその視線をデモポンに固定したままだ。

 

 「可笑しいとは思っていた。子供がソロでダンジョンになどと……。だから、私は小人族(パルゥム)だと決めつけて……」

 

 アイズがリヴェリアに尋ねる。

 

 「リヴェリア……?」

 「あぁ、アイズ……。彼の二つ名は紅蓮、冒険者になって僅か1年1か月で上級冒険者へと至った。レコードホルダーだ」

 

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