強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第3話

 ダンジョンを蓋する建物、バベルを背にデモポン達は歩いていた。

 

 「いいか?オークの攻撃はこう来たらこう避けて」

 

 ダンジョンの中とは違い、年相応のはしゃぎ方でアイズに先輩風を吹かせて話し続けるデモポンと、それをうんうんと聞いているアイズを見てリヴェリアは嬉しそうに微笑む。

 

 人形姫―――。

 

 アイズは冒険者達からそう呼ばれている。

 それは何もアイズが人形の様に可愛らしいからではない。

 どれだけ傷付こうが感情の欠落した表情で淡々とモンスターを屠るその姿が余りにも悍ましいからそう呼ばれているのだ。

 リヴェリアとアイズが所属するロキファミリアの黄昏の館(ホーム)でもそれは変わらない。

 いつもその表情は死相が見えそうで、他者との関わりを極端に減らし、すべて鍛錬に当てている。

 最近では食事の時間や睡眠時間すら削っているありさまだった。

 無理に強要をすれば、その反発はアイズ・ヴァレンシュタインの死と言う結果をもたらすだろう。

 それが分かっているだけに、保護者役のリヴェリアも主神であるロキもアイズとの距離の埋め方を図りかねていたのだ。

 それを自然と詰めてしまったデモポンはアイズと年齢が近いからだろうか。

 他者との関りを避けていたアイズもどこかぎこちないが自然体で接している。

 

 「……少し妬けるな」

 

 リヴェリアのその言葉は、街の喧騒に揉まれて行った。

 

 

 ギルドについたデモポンはアイズの手を握ると受付まで駆け出した。

 

 「ソフィさん、ただいま!」

 

 銀髪の美しいエルフは、無表情だった顔を瞬時に安堵の表情に変え、その表情を驚愕に変えた。

 

 「ポンちゃん……?えっと、隣の子は?」

 

 デモポンは一瞬キョトンとするが、握っていたアイズの手事持ち上げる。

 

 「アイズって言うんだ。えっと……、友達!」

 「ッ!?」

 

 デモポンの友達発言にアイズはビックリして手を放してしまう。

 急に手を離されて、デモポンは悲し気な表情を浮かべた。

 それに気が付いたアイズはあわあわしながらも、今度は両の手でデモポンの手を握ると恥ずかしそうに言った。

 

 「と……友達……」

 

 アイズの言葉にデモポンも嬉しそうに笑う。

 そんなアイズの様子にソフィは目を見開いた。

 ソフィはギルドの受付嬢だ。

 冒険者の情報は逐次仕入れている。

 そんな中でもロキファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインは有名人だった。

 いつもボロボロで、他の冒険者が腰を抜かす程の戦い方と戦績を残し、その瞳は濁り切り、その体は諸刃の剣のようにボロボロで触れればこちらがケガをするのではと思わせる。

 ギルド職員の間では、いつ死んでしまうのかと言う話題が出てくるほどに死に急いでいる冒険者。

 都市に貢献しているロキファミリアのギルド内での評価を下げてしまった元凶。

 そんな存在が可愛らし気に頬を染めている。

 瞳は未だに濁っているが、奥深くにあった彼女本来の輝きが少し見えた。

 ソフィはギルドの入り口に視線を移す。

 そこには、苦笑を浮かべるリヴェリアが立っていた。

 その姿を見て、ソフィは相手がハイエルフであるため目礼してから、息を吐きだし椅子に座りなおした。

 するとデモポンは今日の成果を報告し始めた。

 何階層のどんなモンスターと戦ったのか、回復薬は使ったのか、そしてアイズを助けたこと等を褒めて欲しそうに話す。

 ソフィはデモポンの報告を聞くと、その頭を優しくなで、ついでにその柔らかい頬を抓った。

 

 「いひゃい!」

 「ポンちゃん!今回はリヴェリア様がいらしたからよかったけど、危ないことはダメって言ったでしょ?そんな時は、周りの大人に頼ること!」

 「ひゃ、ひゃい……」

 「でも、ヴァレンシュタインさんを助け出してくれてありがとう」

 

 ソフィへの報告が終わると、デモポンはそのままアイズを連れ換金所まで駆け出して行った。

 リヴェリアがその後ろ姿を見ていると、ソフィが受付カウンターから姿を現した。

 

 「ご無沙汰しております。リヴェリア様」

 「なに、私もたまにしかギルドに顔を出さなくなった。気にする必要はない」

 「はい……。リヴェリア様は勿論のこと、ロキファミリアの皆様にも、深く感謝しております」

 「普段なら世辞は止せと言うところだが、闇派閥への対応とダンジョン遠征……、さすがにロキファミリア団員達にも疲れが見え始めている。ギルド長に、苦言を呈しておいてくれ。もう少し、こちらの都合と予定を考えろと」

 「はい、お力になれるかわかりませんが、ロイマンへは私から報告させて頂きます」

 「それで、態々私の愚痴を聞きに来た訳ではあるまい?」

 「はい……、ギルドの職員である私が、ましてやハイエルフで在らせられるリヴェリア様にこのようなことを申し付けるのは忍びないのですが、どうか……、どうか、ダンジョンでデモポン氏を見かけられましたら、お暇がある時で構いません。気に掛けて頂きたいのです」

 「ふむ……、ソフィ、私の記憶が確かならお前は他人に興味を示さない様にしている同胞(エルフ)だと思うのだが?……特に冒険者には」

 「はい……」

 「とは言え、アイズの命の恩人の担当アドバイザーからの頼みだ無下には出来ん」

 「えっ……?」

 「話してみろ、デモポンのことを、お前がそこまで心配するのだ。子供だからという訳ではないのだろ?」

 「はい、彼……、デモポン氏は冒険をしすぎてしまうのです」

 「なに?私はダンジョンから今までしか付き合いはないが、ダンジョン内にてデモポンは分相応な立ち回りをしてみせたぞ?」

 「それは恐らく、リヴェリア様とヴァレンシュタイン氏がいらしたからだと思います」

 「私達がいたから……?」

 「はい、デモポン氏はパーティを組む時は冒険を控えるのです。普段はガネーシャファミリアの私の担当の冒険者に付き添いをして頂いているのですが、ここのところ闇派閥の活動が活発になり始め、そちらの対応で……。その冒険者の方の話によると、デモポン氏はダンジョンに降ると必ず一回は格上と戦おうとするのだそうです。さらにソロの時は、無謀な数のモンスターにその身を投げ出しているとも、報告が上がっています」

 「私が言っては何だが、アイズも同じようなことを仕出かすが、デモポンはアイズのように悪い噂を流されていないように感じるが?」

 「それはデモポン氏がそういう風に見せる戦い方をしていないだけです」

 「つまり……」

 「常に余裕をもって戦っている様に見えている。それが例え、無謀な事であっても……。彼は……ポンちゃんは……、才能に愛されている」

 

 リヴェリアはギルドでデモポンと別れた後、ソフィの話の続きを考えていた。

 

 「さらにデメテルファミリアが、放任を貫いている。……愛されている事は感じることが出来るが、冒険をすることを容認している」

 

 それは矛盾した話であった。

 神デメテルは、豊穣と慈愛を司る。

 その眷属もまた優しい人物達が多いことで有名だ。

 眷属は神に似る。

 それを体現しているかのようなファミリアである。

 そのような者達が子供がダンジョンにソロで向かう事を良しとするだろうか?

 さらにソフィは言いずらそうに言っていた。

 戦闘衣や防具を見れば明らかに負傷した跡があるのに、回復薬を使用していない。

 さらに、身体への傷跡も一切ない。

 

 「回復魔法か?」

 

 だが、デモポンは別の魔法を使って見せた。

 魔法が発現しない者が殆どの世の中で、まだ10にも満たないような子供が二つも魔法を得ることが果たして可能なのか、魔法が特異なエルフではなく、ヒューマンの子供に。

 それに回復魔法を使用したのなら、魔力の残滓を感知した筈である。

 だが、あの場その道中でそれを感じなかった。

 

 「ならば後は、そういった何かしらのスキルに恵まれたということか」

 

 だが、噂が広まっていないのはどういうことだろうか。

 嫌、相手がデメテルファミリアであるということで、それは説明出来る。

 オラリオの約9割の農作物、果物、酒の原料のシェアを誇り、他国との貿易においてもオラリオを利用する数ある商社を儲けさせている。

 さらに、周囲をガネーシャファミリアを始めとしたギルド傘下のファミリアに護衛させている。

 そんな存在、闇派閥ですら、おいそれと手が出せない。

 なら、神デメテルの神意はどこにある?

 

 「帰ったら、ロキに相談してみるか……」

 

 リヴェリアがそう呟くと手を繋いでいたアイズが首を傾げながら聞いてきた。

 

 「……ロキに、なにを聞くの?」

 「あぁ、デモポンのことをな。お前の命を救ってくれたんだ、挨拶に伺うことになるかもしれない」

 リヴェリアがそう言うと、アイズの無表情が一瞬解けた。

 「デモポン……、友達……」

 「あぁ、良かったな。アイズ」

 「……うん」

 

 リヴェリアはそう言うが、内心思考の海から引き返せずにいる。

 ソフィの言うことが全て正しいなら、今のアイズにとってデモポンは劇薬以外の何物でもないだろう。

 デモポンの真似をアイズがしようものなら、目も当てられない状況になることくらい容易に想像出来る。

 リヴェリアは心労がまた増えたと、小さな溜息を零し帰路を急いだ。

 

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