強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第4話

 冒険者の街オラリオ、その中心地バベルから北側、北区と言われるその場所にはオラリオ観光の名所の一つがあった。

 その名は黄昏の館、広大な土地の中に城がいくつも組み合わされたかのような、見方によって多彩に姿を変えるトリックアートの様な巨城。

 北区はその巨城に見守られる城下町かのように、闇派閥が闊歩するオラリオ内であっても活気を見せている。

 それが許されているのは、現在のオラリオで探索系ファミリア最強との呼び声もある。ロキファミリアがその巨城に構えているからに他ならない。

 黄昏の館、北区を眼下に一望出来る執務室、そこに人を小馬鹿にしたような糸目の女神、ロキが書類が丁寧に積み重ねられている机に座り、眼前の長机を挟み合う形のソファーに座る三人を見ていた。

 

 「で、リヴェリアたん。ウチに話ってどうしたん?」

 

 ロキが独特な口調で話し出す。

 リヴェリアがどこか言いづらそうにしていると、リヴェリアの反対側に座る小人族の男、フィン・ディムナが口を開く。

 

 「やっぱり、アイズのことかな?」

 

 続いてフィンの隣に座るドワーフの男、ガレス・ランドロックが口を開く。

 

 「そう言えばアイズの奴、また剣をダメにしたそうじゃのう。ダンジョンで何か問題であったのか?」

 

 数瞬リヴェリアは考えて、やっとのこと口を開いた。

 

 「あぁそうなのだが、今日ダンジョンで起こった私の失態は聞いているだろ?」

 「君がダンジョン内でアイズと逸れてしまったことだろ?報告は既に受けているよ」

 「報告を聞いた時は、ヒヤッとしたがアイズの奴、またダンジョンに行きたいと愚図っておったわ」

 「そのことは、アイズたんもリヴェリアも無事やったんやから、それでええやん?」

 「ならリヴェリアが言いたいことは、アイズを助けてくれた冒険者の方かな?」

 リヴェリアはこくりと頷く。

 「確か、デメテルんとこのレベル2最短記録保持者(レコードホルダー)の子やろ?デメテルはゼウスとヘラがおったころからファミリア持っとった古株やけど、眷属は全員が非戦闘員、それが急に冒険者をギルドに登録させて、しかもそれが当時最年少、さらにレコードホルダーになってもうた。デメテルの目利きのセンスはピカイチやって、神の連中から言われとるわ」

 

 ロキは「キーーーーーッ!」と叫んで悔しそうにしている。

 まぁ、ロキの本心はデモポンの事ではなく、それに付随して思い出してしまったデメテルの圧倒的破壊力を持つ胸部に対する嫉妬であるが。

 突然叫びだし、自身の無乳をマッサージし始めたロキに呆れの視線を向ける三人。

 

 「確か神々から与えられた二つ名は紅蓮だったかな」

 「随分とまぁ仰々しい名を付けられたもんじゃのう」

 「うちのアイズとよく似たモノさ。そこに込められているのは、余り良い意味じゃなさそうだ」

 「それで、その紅蓮がどうかしたのか?儂は先程までアイズの命を救ってくれた礼をせねばなと考えていたところなのじゃが」

 「あぁ、それは私が出向こうと思うのだが、そうでなくてな……」

 

 どこか煮え切らないリヴェリアにガレス苛立つ。

 

 「ええぃ、ハッキリ言わんか!」

 

 ガレスの言葉に、もう悩むのも馬鹿らしくなったのか。

 それとも他二人と一柱も巻き込んでしまえと思い至ったのか。

 リヴェリアはガレスの言う通りハッキリと言った。

 

 「アイズに友達が出来た」

 「「「……は?」」」

 

 ロキファミリア陣営が頭を悩ませているその時分、デメテルファミリアでは、暖炉の暖かい熱に頬を蒸気させながら、デモポンはいつもの如くデメテルに抱きしめられていた。

 

 「そう、ロキファミリアのアイズちゃんと、お友達になれたのね」

 「うん!暗い顔した子だったけど、ジャガ丸くんが美味しいって言ってくれたんだ」

 「あら良かったわね。なら、商品化しちゃいましょうか?」

 「本当?やった~!」

 

 その姿はどこからどうみても、母親と愛息子のソレである。

 デメテルはデモポンが怪我をしたであろう箇所を優しく撫でる。

 暖炉の熱と(自身)の熱で温めていく。

 くすぐったそうに身を捩るデモポンが可愛くて抱きしめたくなるが、我慢する。

 デメテルは思う。

 出来る事なら冒険者なんて危ない事は、今すぐにでも辞めて欲しい。

 けれど、その道に進むと眷属(子供)が決めて、その心が本心と告げているなら、妨げてはならない。

 ただ必ず帰ってくると、その約束を履行してくれるなら、他には何もいらない。

 デメテルが重みが増したことに気が付くと、デモポンがすでに寝息を上げていることに気が付いた。

 デメテルはその寝顔にキスを落とすと、まるで壊れ物を扱うかのように優しくけれど熱く抱きしめた。

 それから幾日か過ぎ、ジャガ丸くんの屋台が無事経営を始めた頃、デモポンとデメテルは黄昏の館の大きな門の前にいた。

 今朝がたロキファミリアから訪れた護衛の冒険者数人は、デメテルファミリア産の野菜や果物が入った大きな木箱を抱えている。

 デモポンは大きなリュックを背負いながら、大きな門を前に興奮していた。

 最敬礼をしていた門番が鈴を鳴らすと、門が音を立てて開かれた。

 

 「よぉ来てくれたデメテル、歓迎させてもらうわ!」

 

 まず出迎えたのは女神ロキ、歓迎の意を見せるがその視線はデメテルの胸に固定されている。

 そんな視線など慣れっこだというようにデメテルは意に返さず、一本のボトルを差し出した。

 

 「これ、うちで作ってるワイン持ってきたの、良かったら感想教えて」

 

 デメテルからワインのボトルを受け取ったロキは甲高い声で歓声を上げた。

 

 「やったーーーーッ!!言う言う!いくらでも試飲して感想言うたるで!」

 「ふふっ、よろしくね」

 

 デメテルとロキの横を野菜や果物が入った木箱が通り過ぎる。

 それを見てロキは先程のテンションが嘘かの様に真面目に言った。

 

 「食べ物ありがとうな。ホンマに助かるわ。このご時世や、ウチんとこ見たいなファミリアにとっては買い物するだけでも大変なんや」

 「えぇ分かっているわロキ……。オラリオはあなた達に助けられている。これはただの自己満足だから気にしないで」

 「ホンマおおきにな……、で!」

 

 急にロキが視線を下げデモポンを睨みつける。

 

 「お前がウチのアイズたんを誑かした男か!」

 

 デモポンが固まった瞬間、ロキの叫び声が響いた。

 

 「ほんぎゃーーーーーーッ!」

 

 デモポンが視線を正面に戻すと、そこにはロキの脛を蹴り上げたアイズがいた。

 

 「アイズ、久しぶり!」

 「うん……」

 「あ、これ!」

 

 デモポンはリュックを開けると、紙袋を取り出した。

 アイズが受け取りその中身を見ると、そこにはジャガ丸くんが入っていた。

 

 「やっと店売りになったんだ。凄いだろ?」

 

 デモポンがそう笑うと、アイズはさっそくジャガ丸くんを食べながら頷いた。

 

 「うん、凄い……」

 

 痛みから復活したロキがわなわなと震える。

 

 「お、お前……、アイズたんを餌付けしたんか……。キーーーーッ、許さんで、ウチは許さんで!アイズたんはウチのもんや!」

 「ロキうるさい」

 

 わいわいやっていると、別な人物が現れた。

 

 「ロキいつまで客人を外に居させる気だ?」

 「本来ならば儂等が出向かなくてはならん立場だろうて」

 「さすがにこれ以上はロキファミリアの名に傷がついてしまうよ。ロキ」

 

 そこには九魔姫(ナインヘル)リヴェリア・リヨス・アールヴ、重傑(エルガルム)ガレス・ランドロック、勇者(ブレイバー)フィン・ディムナのロキファミリア幹部の三人がいた。

 

 「あら~、気にしなくてもロキはいつも通りだから大丈夫よ?」

 

 デメテルの言葉にリヴェリアは眉間に皺を寄せ、ガレスは溜息を付き、フィンは天を仰いだ。

 

 「俺も気にしてませんので」

 

 デモポンがそう言うと、フィンが一歩前に踏み出した。

 

 「僕はフィン・ディムナ、まずは君に心から感謝を、アイズを助けてくれてありがとう」

 

 フィンがそう言って握手を求めデモポンはそれに応える。

 

 「ガハハハ、一体全体どんな小僧なのかと思うておったが、良い目をしておるわい。儂はガレス・ランドロック、何も無いところじゃがゆっくりしていってくれ」

 

 蓄えた髭を撫でながらガレスは楽し気に笑った。

 

 「おいガレス何も無いなどと言うな、ロキファミリアの品位が下がってしまうだろう。―――久しぶりだなデモポン、気に入るか解らないがお菓子やジュースを用意させている。今日は疲れを癒して帰ってくれると、こちらもありがたい」

 

 それぞれ挨拶を終えると、客間へとデモポン達は案内された。

 そこには、オラリオで有名な店の菓子類が机に並べられていた。

 デモポンが瞳をキラキラさせていると、フィンは苦笑しながら説明した。

 

 「申し訳ないが、すべて譲り物なんだ。だから遠慮せずに食べてくれ」

 「はい!」

 

 デモポンはそう言いながら、お菓子に手を伸ばそうとして止まった。

 その様子を見て、リヴェリアが心配気に聞く。

 

 「どうかしたのか?」

 

 すると、デモポンは手を引っ込めた。

 

 「……手、洗ってない」

 

 それを聞いてハッとしたリヴェリアは視線を移す。

 そこには客のことなど放っておいて、コップにワインを注ぐロキと、ジャガ丸くんを食べ終え、菓子を食べているアイズの姿があった。

 リヴェリアは再度視線をデモポンに向けると、心底疲れた様に大きく溜息を吐いた。

 それにデモポンが何か不快にさせてしまったのかと、心配そうな顔になるが、リヴェリアは優しくデモポンの頭を撫でた。

 

 「気が付かなくてすまない、すぐに案内しよう」

 

 笑顔でそう告げたリヴェリアはすぐにロキとアイズに視線を移す。

 

 「おいロキ、子供に出来る事がどうして出来ない?アイズ、ここはダンジョンじゃないんだ。食べ物を食べる前は手を洗うこと、良いな?」

 

 一段声色を落としたリヴェリアにアイズはビクッと体を震わせすぐに立ち上がり、ロキは愚図ろうとした瞬間にリヴェリアに叩かれ、渋々同行することとなった。

 それから世間話などで一頻り盛り上がったところで、デモポンはデメテルに視線を向けた。

 

 「あぁ、そうね。デモポン、聞いてみなさい」

 

 デメテルの言葉にフィンが答える。

 

 「どうしたのかな。デモポン君」

 

 デモポンは客室にいる皆が黙ったからだろうか、少し恥ずかしそうにしながら言った。

 

 「お、お願いがありまして……」

 

 デモポンの言葉にフィンは、ようやく来たかと内心身構える。

 今回の催しは、デモポンがアイズを助けたことが切っ掛けである。

 ロキファミリアはオラリオで有名である。

 今のような治安が悪化したオラリオであっても、態々オラリオ外から入団希望者が訪れるほど、その看板にはそれだけの価値がある。

 今回、本来挨拶に伺う所を、黄昏の館に態々来てもらったのには、それなりの理由があった。

 多少の願いなら聞き入れるが、それ以外の法外なモノになるなら、角が立たないよううまく丸め込む。

 ロキファミリア団長のフィンはそう考えていた。

 

 「叶えられる範囲でなら、なんでも言ってくれデモポン君、君はアイズをモンスターから助けてくれた勇敢な冒険者なのだから」

 

 まずはジャブ。

 子供が冒険者になるなんて事は、大抵が物語の英雄に強い憧れを抱いているか、主神やファミリアの誰かに唆されたか、それか―――力を今すぐに手に入れたかったか。

 どれかだろうとフィンは考えた。

 そしてデモポンは会話の内容からある程度の教養があると判断し、物語の英雄譚に出てくる英雄のようにお姫様を助けた君が変なことは言わないよねと、言外にそう言ったのだ。

 静かになった室内、フィンの凛とした声が良く響いた。

 そしてデモポンの唾を飲み込む音が聞こえる。

 デモポンの緊張しきった様子から、フィンはやはりそうか、と納得した。

 おそらくファミリアの誰かに、無茶なお願いをしてくるように頼まれたのだろう。

 神デメテルは、豊穣と慈愛を司る。

 ロキの話からも、信用出来る神だと推測出来る。

 そして、デモポンは良い子だ。

 今回はロキファミリアのしかも幹部の落ち度、デモポンはそれを理解していても他人に無理なことを強要出来ない。

 そういう良い子なのだろう。

 だから少し―――残念だ。

 フィンは一瞬で他にも様々なことを考えた。

 そしてどんな解が示されても何とかして見せようと、気づかれない様に瞳に力を籠める。

 ようやっと、デモポンは口を開いた。

 

 「サイン下さいッ!」

 「―――えっ?」

 

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