強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第5話

 静まり返る室内、デモポンはやはりダメだったかと瞳をギュッと瞑った。

 すると、ロキの大爆笑が響き渡った。

 さらにガレスもリヴェリアも笑っている。

 アイズは不思議そうに首を傾げ、デメテルはこうなることが分かっていたかのようにデモポンの頭を優しく撫でた。

 復活したフィンが口の端を曳くつかせながら答える。

 

 「あ、あぁ、そんなことで良いなら。いくらでもさせてもらうよ」

 

 するとデモポンは喜び、室内に入るまで背負っていた、まるでダンジョン遠征のサポーターが持つリュックのように膨れ上がったソレをドンと置いた。

 そしてリュックの口を開けると、その中には膨大な数のサイン用の羊皮紙が入っていた。

 デモポンはそれを嬉しそうに、机に並べていく。

 それはもはや、長机の一角を埋め尽くすほどに積まれていた。

 しかもご丁寧に、インクとペンが4セットも並べられる。

 この光景にフィン達は、違う意味で笑った。

 

 「は、ハハハ……喜んでさせてもらうよ。ところで、これだけの量を誰に渡すんだい?」

 「はい!オラリオ外のデメテルファミリアと従業員の皆に渡します!皆、俺がオラリオに行くって言ったときにフィンさん達と会えるかもしれないのが羨ましいって言っていたので、きっと喜んでくれると思います!」

 

 満面の笑みで言うデモポンにフィンは今日の分の仕事を明日に回そうと決めた。

 

 デメテルが苦笑しながら助け舟を出してくれた。

 

 「ごめんなさいね。仕事が忙しかったら断ってもらっていいからね。……うちは種族関係なく雇っているから、あなた達それぞれにファンがついているの、私もこの量はどうかと思ったのだけれど、デモポンが皆に喜んで欲しいからって聞かなくて」

 

 フィンはやられたな、と内心毒づいた。

 ロキファミリアのサイン、しかも4セットと言うことはロキもだろう。

 それはロキファミリアとデメテルファミリアの仲をこれでもかと知らしめることが出来る。

 今のところデメテルファミリアは何も問題行動を起こしていない。

 だが、それは未来永劫そうであるとは限らない。

 神々とは娯楽を求めて下界に降りて来た者達だ。

 平和を望むのも混乱を望むのも、下界の人間が右往左往する様も多くの神々にとっては娯楽である。

 よって、昨日まで善神と思われていた神が、邪神同様の行動に出ることもある。

 神々の考えることなんて、下界の住人にはわからない。

 

 フィンは横目でロキを見た。

 それに気づいたロキは頷く。

 それを見たフィンは、笑顔になりデモポンと握手した。

 

 「わかった。精一杯やらせてもらうよ」

 

 その時、フィンは見たデモポンの表情が少し曇るのを。

 それからロキとデメテルは二柱で話があるからと部屋から出ていき、アイズも部屋から何やら持ってくると出ていくと、会話は自然と消えてなくなった。

 

 「さて、デモポン君。本当の君の願いを聞かせてくれるかな?」

 

 フィンは真剣な顔でそう言った。

 リヴェリアもガレスも何かを察した様子である。

 

 「別にサインをすることが嫌だと言ってる訳じゃないんだ。ただ、その裏に何か別の願いがあって、それを君は申し訳なく思っている。僕はそう感じたんだ。違ったのなら謝ろう。僕の悪い癖でつい、君を疑ってしまったと、神デメテルにも謝罪する。だからどうか聞かせてくれないかい?」

 

 フィンの声はどこまでも真摯だった。

 叱るでもなく、嫌味でもなく。

 そこにあったのは、力になりたいと言う思いだった。

 そう思わせる声色だった。

 デモポンは静かに語りだす。

 その姿がどこか叱られるのを待つ子供の姿であったためか、リヴェリアはデモポンの隣に座りその手を握りしめた。

 

 「うちのファミリアは規模が大きいです。いろんな人達が働いています。でも、皆本当に優しくて、ケンカとかしているところを見たこともなくて、ましてや戦うなんてこともできなくて……」

 

 デモポンは項垂れるように視線を下げる。

 

 「モンスターなら、罠でなんとか出来ます。強いモンスターなら冒険者を雇います。でも、俺がオラリオに来る前から、強盗とかをする悪い人達が出てき始めて、それで俺を庇って家族が一人傷つきました」

 

 昔のことを思い出したのだろうか、デモポンの瞳は前髪で見えないが、涙が零れ落ちているのが分かった。

 

 「だから俺はオラリオで強くなって、誰にも負けない様な無敵になったなら、誰も家族に悪いことをしなくなるだろうと思っていました。でも、オラリオに来て思いました。それだと時間が掛かりすぎるって、だからオラリオの外に居ても話に出ていたロキファミリアと繋がりが持てたなら、その時間稼ぎが出来ると考えました。……ロキファミリアの皆さんの都合は二の次でした。―――ごめんなさい」

 

 デモポンは深く頭を下げる。

 その話を聞き、姿を見て、三人は視線を合わせた。

 そして恐らく嘘ではないだろうと結論付けた。

 フィンが硬い口調で、デモポンに語り掛ける。

 

 「君は、ロキファミリアと繋がりを得るがために、アイズを利用したのかな?―――つまりは、アイズが苦戦する程のモンスターの群れをレベル1の彼女に押し付けたのかい?」

 

 デモポンはハッと顔を上げて、息を飲んだ。

 フィンの視線は寸分違わずデモポンを射抜いている。

 その視線は嘘を許さないと告げている。

 そして、もし言葉通りなら許すことは出来ないと語っていた。

 デモポンは第一級冒険者の威圧に喉が攣りかけるが、気合で言葉を発した。

 

 「違います!アイズを助けられたのはたまたまあそこにいたからで、リヴェリアさんとアイズと出会ったことをファミリアの皆に話したら、デメテル様が今日会うことが出来るからって教えてくれたから……、もしかしたら……お願いを聞いてもらえるかもしれないって、そう……思って……」

 

 言葉を続ける程に、声は小さくなっていく。

 デモポンは子供ながらに考えた。

 今、家族を守れる最善を、ロキファミリアはオラリオ外で英雄のように語られる。

 そして家族の皆はそんなロキファミリアの人達を尊敬していた。

 ならば、代わりに守ってくれるのではないか。

 子供の浅知恵だが、藁にも縋る気持ちで、今まで貯めていたヴァリスを使って出来るだけサイン用羊皮紙を掻き集めた。

 無理なら諦める。

 それはデメテルとの約束であった。

 だが、デモポンは考えつかなかったのだ。

 ロキファミリアのオラリオでの役割とその存在の意味を、彼らの都合を、考えに入れなかったのだ。

 だからそれに気が付いた時に、咄嗟に取り繕ってしまった。

 そしてそれを見逃してくれるほど、フィン達は優しい世界で生きていなかった。

 

 ―――落胆しただろう。

 ―――嫌われただろう。

 

 そう言った負の感情がデモポンを襲う。

 再び下げられた頭は震え、涙が止め処なく溢れた。

 視界が涙で閉ざされた中で、デモポンの耳にフィンの声が聞こえた。

 

 「デモポン君の話は良くわかった、そして信じよう。そのうえで言わせてもらうが、デモポン君の願いを今すぐ叶えることは出来ない」

 

 デモポンは自身の喉がひくつくのがわかった。

 

 「だが君の考えは良い案だと思える」

 

 デモポンは涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔を上げた。

 すると、フィンは嬉しそうに笑っていた。

 

 「一つ懸念事項があったとするなら、ロキが許可を出すかどうかだった。神の付き合いなんて下界の住人には知る由もないからね。ロキと神デメテルの付き合いが浅い、もしくは不仲であったなら、この申し出は断ることになっていただろう」

 

 フィンはまるで教導するかのようにデモポンに語り掛ける。

 

 「だがこれは問題が無かった。ならば、サインを得る事は出来る。だがデモポン君は見落としをしている」

 

 え?とデモポンが口を開く。

 

 「まずデメテルファミリアが所有する莫大な土地、そして人々、いくら僕達ロキファミリアがオラリオで最大規模を誇るガネーシャファミリアに次ぐ冒険者を抱えていると言ってもその数には制限がある。つまり、守り切ることは出来ない。ガネーシャファミリアと共同で行ってもね。次にギルドも戦力である僕達を容易にオラリオ外に出させないだろう。いくらデメテルファミリアの農作物が9割に昇るシェアを誇り、オラリオの生命線であると言ってもだ」

 

 ガレスが呟く。

 

 「冒険者依頼(クエスト)を出したとしても、ギルドは出させる戦力を渋りそうじゃしのう」

 

 さらにフィンは続ける。

 

 「最後にこれが一番大きな問題だけど、僕達は有名であるがその分敵も多い。闇派閥の中にはロキファミリアを優先的に狙ってくる者達までいる。そんな者達にロキファミリアと目に見える形で懇意にしていると知られれば、デモポン君の家族がより危険な目にあうかもしれない」

 

 なんだ、ダメではないか。

 自身の考えの浅さにデモポンは気が重くなる。

 だがフィン(勇者)は言った。

 

 「サインは喜んで書かせてもらう。ただし、条件を付け加えさせてもらうよ」

 「条件?」

 「そう条件だ。まず、サインを目立つ位置に飾るのは暫くの間、控えることを周知させて欲しい。期間は、僕達が闇派閥との闘いを終えるまでだね。次に、ギルドに今回の件を報告すること、デモポン君の家族に何かあれば僕達が出向くと脅してもらって構わない。そうすれば、ギルドは今以上に信の置ける冒険者を護衛につけてくれるだろう。もし、その冒険者達よりもやっかいな敵が現れたなら、僕達にクエストを迷わずに出してくれ、必ず出向くと僕の二つ名に誓って言うよ」

 

 その申し出はデモポンにとってみれば非常に有難かった。

 そして少し恐ろしくもあった。

 なぜそれほどまでに考えて、動いてくれるのかと。

 

 「……最後に、これはあってはならないと考えているが、デメテルファミリアがロキファミリアの敵になった場合、僕達は全世界に向けてこの情報を拡散しなければならなくなる。だから、サインを渡す人達に言いつけて欲しいんだ。……ロキファミリアの名を必要以上に利用するなと、僕達は、否、僕はロキファミリアの名に傷がつくことが許せない。それでも構わないかい?」

 

 フィンは真剣な瞳でデモポンに問う。

 破格の条件だが、最後の条件、これは自身がいくら気を付けたとしても完全に回避することは出来ないかもしれない。

 人の欲望は見えない。

 もしかしたら、強大なロキファミリアの名を笠に悪事を働く者がデメテルファミリア、その従業員に出るかもしれない。

 もしそうなれば、ロキファミリアはすぐにこのことを全世界に拡散し、デメテルファミリアの名は地に落ちることになってしまうだろう。

 それこそ、信用が全てと言っても過言ではない商業系ファミリアであるなら尚のこと。

 だからこそデモポンは考えた。

 フィンからの提案、そして最悪を出来るだけ回避する方法を。

 そして、涙は引いたが汚れた顔のままデモポンはフィンを見た。

 

 「わかりました。その条件で宜しくお願いします。ただ変な話ですが、良いですか?」

 「なんだい?言ってごらん」

 「……サインを渡しに行くタイミングは、俺が決めたいと思います」

 「だが、そうなると君の願いはどうなるんだい?直近の危機が去った訳ではないだろう?」

 「はい、ですので……。二番目の条件を……、ロキファミリアとの深い繋がりがあると、ギルドに脅しに行くことを許可してほしいです」

 

 フィンはわざとらしく顎に手を乗せ考える。

 

 「ギルドだけに伝え公にしないなら、構わないと僕は考えるけど、二人はどうだい?」

 

 フィンに聞かれ、リヴェリアとガレスも了承の意思を見せた。

 

 「ただサインはどうするんだい?」

 「……俺が無敵には届いていなくとも、今よりも強くなって、闇派閥を壊滅させてから、自分の足で届けに行こうと思います。そこで、自分の責任で見極めます。ロキファミリアの名を悪用しない人かどうかを」

 

 たかだかサインを書くかどうかの話が随分と大きくなってしまった。

 リヴェリアはデモポンの顔を見る。

 涙と鼻水で酷く汚れているが、その目は未来に向いていた。

 そして夢を語り、現状自身で考え出せる最善を語り、それを実行するという強い意志が見て取れた。

 それは英雄譚の序章かのようにも見えた。

 故に危うい。

 いくら秘め事が大きく、意思が固く、実力を示していると言っても子供である。

 どこかで無茶をして転げ落ちてしまうかもしれない。

 だが他派閥の冒険者だ。

 今以上に踏み込むことはマナー違反である。

 リヴェリアは思考を切り離すべくフィンに問いかけた。

 

 「で、どうするフィン?」

 

 ガレスが続く。

 

 「儂は構わないと思うが?」

 

 フィンは真剣な瞳をフッと緩める。

 

 「わかった、それでいこう」

 

 フィンがそう言った瞬間、疲れがドッと押し寄せたのか、デモポンは椅子に深く座り直し、息を大きく吐き出した。

 

 「すまぬのぉデモポン、第一級冒険者三人に囲まれて、ブレイバーにあんな詰め方されたら、息も詰まるじゃろうて」

 「おいおいガレス、僕だけを悪者にしないでくれ、君達だって止めずに見守っていたじゃないか」

 「私は、途中何度か止めに入ろうとしたが、それを悉く塞いだのはお前だろ、フィン?」

 「やれやれ、少し大人気なかったかな。すまなかった紅蓮、君を試すような真似をしてしまった。僕もロキファミリアの団長として見極めて置きたかったんだ」

 「い、いえ、あの……、大丈夫です。こちらこそ、その……、ありがとうございました」

 「そう言ってもらえるとありがたいよ。うん、アイズが戻ってくるまでの間に顔を洗ってくるといい。君のそんな顔をアイズに見られたら、僕が怒られてしまう」

 「は、はい!」

デモポンが退室すると、少し怒った風にリヴェリアがフィンに問いかけた。

 「いったいどういうつもりだフィン?子供相手に大人気ないだろう」

 「アイズの友人がどういった人物なのか知りたいと言ったのは君じゃないかリヴェリア」

 「私は確かにそう言ったが、それはロキ達がいた間に確認したではないか」

 

 口論になりかけたところでガレスが間に入る。

 この三人はロキファミリア立ち上げ当初かたのぶつかり合いの中で、処世術を身に着けていた。

 

 「もっと深く知りたくなった……。嫌、可能性を見ようとした。そうじゃな、フィン?」

 

 ガレスにそう言われ、フィンは笑う。

 

 「あぁ、この感情は久しぶりだよ。他の派閥が羨ましく感じるなんて」

 

 その言葉にリヴェリアは目を見開いた。

 

 「な、フィンまさか!?」

 「誤解しないでくれリヴェリア、君が思うようなことはしないと誓うよ。……あぁでも、彼をロキファミリアに欲しいと思ったのは事実だね。なんなら、いずれ空席になるであろう僕の席に僕が育てた彼が座るのも悪くない。そう思ってしまった」

 

 そう嬉しそうに語るフィンにガレスも続く。

 

 「後は、どれほどの腕前なのか確認したいところじゃのう。そこに問題がなければ、本格的に勧誘してもいいかもしれぬな」

 「おい、ガレス!」

 「分かっておるわリヴェリア。あやつは儂等がいくら勧誘をしたとて動かん。そういう目をしておる。だからこそ、惜しいという話なのだ。お主もそう思わなかったか?」

 「私はただ……、アイズの友人がどんな者なのか気になっただけだ」

 「フフ、相変わらずお母さんをしているねリヴェリア」

 「誰がお母さんだッ!」

 

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