強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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第6話

 客室に戻ってきたアイズが異変を感じたのは、少し空気が違ったからだった。

 どこかデモポンが気疲れしたように見え、リヴェリア達はそんなデモポンをわかりにくくではあったが、気遣っていた。

 アイズはその空気が気に入らなかった。

 デモポンと知り合ってから、己の中で色々と考え、出会いと少しの成長の結果与えられた世界にただ一つアイズだけの専用武器ソード・エール。

 なんとなくそれを自慢したくなったアイズが慌ててソード・エールを抱えて戻ってきてみれば、雰囲気が暗い。

 

 「……むぅ」

 

 ここに友達といたくない。

 その思いが、デモポンの手を取って走り出すという結果に変わった。

 デモポンが連れられてきたのは、黄昏の館の裏庭。

 普段は団員達が自主訓練等を行っている訓練場。

 そこの隅の木陰に座るデモポンとアイズ。

 幼子が肩を寄せ合い話し合う姿は、二人の容姿もあってか妖精の語らいのように見えた。

 ただ、手に持っているのが両刃の剣と言う物騒極まりないものであったが。

 

 「……これ」

 

 アイズは美しい波紋を見せるソード・エールをデモポンに手渡す。

 

 「うわぁ……、すっげえ綺麗……」

 

 デモポンは思ったことをそのまま口にした。

 アイズはそれに満足したのか胸を張った。

 

 「振ってみて、……いいよ?」

 「えっ、良いの!?」

 

 デモポンは即座に立ち上がり、子供が持つには少し大きなその剣を片手に持つと、勢いよく振り落とした。

 刃が風を斬る音が一瞬なる。

 子供にしてはよく出来た動きだった。

 基本が良く出来ているとも言える。

 教えてくれた人が丁寧な人だったのだろう。

 そう思わせた。

 ただアイズは何が可笑しいのか、ニンマぁ―――と嫌らしい笑みを浮かべた。

 その顔は、言外に「その程度?」と語っており、デモポンをイラつかせる。

 デモポンはソード・エールの重さ、グリップの心地、剣の重心の位置を確認するために、数度振るい、時には逆手に、時には動作中に左右持ち替えての斬撃、冒険者らしい動きも加えていく。

 そして終わりに華麗にポーズを決めると、決め顔を作ってアイズを見た。

 デモポンは態度で「どうよ?」とアイズを煽る。

 

 「ぐぬぎぎぃ……」

 

 アイズは悔しそうに女の子が出してはいけない音を出しながら、小さなお尻についた土を払うことなく立ち上がり、デモポンの手からソード・エールを奪い取る。

 そして顎と視線で座ってろと促す。

 デモポンは余裕たっぷりに、口笛を吹きながらアイズが座っていた位置に座りなおした。

 

 「ふぅーーー」

 

 アイズは息を吐きだし、全身の力を抜いていく。

 そうやって体内と脳のタイミングを同機させていき、一瞬のウチに踏み込みソード・エールを横薙ぎに振るっていた。

 それは少女の域を超えた一閃だった。

 髪が舞うより速く、ソード・エールは振り抜かれており、数秒遅れで追いつく。

 銀の剣に金の髪が映り込む。

 砂埃が舞った量は少量、大きく踏み込んだのに外界に与える影響は極僅か。

 だが、アイズが振るったソード・エールは必殺の一撃であった。

 アイズはソード・エールを騎士のように鞘に納める動作をすると、静かに振り返り、笑みを浮かべた。

 

 目と目で語り合う。

 

 『ごめんね?私、レベル1だけど、もうこの領域にいるの』

 『は?いやいやいやモンスターは待ってくれないからね?あんな溜めしてたら、死んじゃうからね?』

 『え?あんなの私の全力の一端でもないからね?見せ技って言うのかな?技術力の高さを教えてあげるには、デモポンみたいに無駄に動き回る必要とかないから』

 『ふっ……、あの程度で技術力云々とかないわあ~。俺なら、あの一回で10回は振れてたね』

 『わかってないね。私は態々デモポンにも見えるように一回ですませてあげただけなの、それすら察することが出来なかったの?』

 『強がらなくていいよアイズ。あの一回が全力だったんだろ?手先が震えてるじゃないか。疲れたんだろ?あぁ、無理をしなくても良いよ。なんなら、勝ちを譲ってやってもいい。まぁ、実際に試合をすれば俺が勝つだろうけど』

 『レベル2ってだけでいきがってる?もしかして知らないの?レベル2とレベル1とでは技術力で埋めることも可能なんだよ?そんな状態で私がレベル2になれば、言わなくてもわかるよね?今の間だけなの、あなたが私より優れていられるのは。……悲しいね』

 

 注釈すると、この目だけの会話、互いが互いにそう言ってるだろうと思っているだけである。

 が、沸点を越させるには十分であった。

 デモポンは立ち上がると、アイズの前に立つ。

 アイズはソード・エールをデモポンと自身の間に突き刺すと、ここを超えれば戦争だと態度で示す。

 が、そこはレベル2のデモポン、アイズより先に動き、アイズの柔らかな頬を引っ張った。

 

 「い、いぃ~~~~ッ!!」

 

 瞬間涙目になるアイズだったが、彼女は負けず嫌いであった。

 

 すぐさま反撃とばかりに、デモポンの頬を抓み上げる。

 

 「む、むぃ~~~~」

 

 互いに譲らず、バランスを崩して転んでも、意地でも相手に負けてなるものかと抓った頬は離さない。

 そうしてしばらくすると、突然二人は猫のように持ち上げられ拳骨を落とされた。

 

 「はう!」

 「キャイ!」

 

 その衝撃で互いに手を放してしまう。

 

 「どこかに消えたと思えば、何をしているんだお前達は……」

 「まるで子猫のケンカじゃったのぉ」

 

 持ち上げたのはガレス、拳骨を落としたのはリヴェリアだった。

 だが二人は未だに戦意を失っていない。

 互いに睨み合っていると、再度拳骨が落とされた。

 

 「やめんか」

 

 それで互いに痛みの許容値を超えたのか、頭に手を乗せて小さくなった。

 そうこうしていると、ロキとデメテルが姿を現した。

 

 「なんやどこ行ったんやと思っとったら、こないなところで何いがみ合うとうねん」

 「あらあら、もうすっかり仲良しさんね」

 

 デメテルに仲良しと言われて、顔を見合わせたアイズとデモポンは瞬時にそっぽを向く。

 そんな二人にロキは嬉しそうに笑い、デメテルは困ったように笑った。

 するとデメテルが両手を合わせてデモポンに話しかけた。

 

 「あ、そうだったわ。喜んでポンちゃん、ロキファミリアの皆がお稽古つけてくれるそうよ」

 

 デメテルのその言葉にデモポンは瞳を輝かせた。

 

 「本当っ!?」

 「えぇ、良かったわね。私、がんばっちゃった!」

 「デメテル様大好き!」

 

 ガレスの手から逃れたデモポンはその勢いのままデメテルに抱き着く。

 抱き着かれたデメテルも幸せそうだ。

 

 「けっ、何が頑張ったや。あんなん脅しやないか」

 

 ロキが不満気な様子のまま、デメテルに抱き着くデモポンを睨みつける。

 

 「えぇか、確かにウチのファミリアのもんが自分に稽古つけたる。今はこんなご時世やからな。自分アイズたんの友達なんやろ?なら、せいぜい気張りや。ウチのファミリアはガネーシャのとこみたいに優しくないからな」

 

 ロキなりの叱咤激励であろうか。

 それともアイズの友達を名乗るなら、しごきに耐えて見せろと言う嫉妬心からくる嫌がらせだろうか。

 ただ、そんな思いもデモポンには関係が無かったようで、元気に挨拶していた。

 そして先程まで険悪な雰囲気だったアイズの手をとり喜んでいる。

 デモポンのそんな様子にアイズは瞳を白黒させた。

 その様子にロキファミリアの面々は、破顔した。

 モンスターに復讐することしか、力にしか興味を示さなかったアイズが、他所に興味を示し、消え去っていた感情が出てきている。

 ロキファミリアの面々にとって、これは嬉しいことだった。

 

 「良し坊主、どれほどのものか儂がみてやろう」

 

 ガレスはそう言うと、訓練場の真ん中まで移動した。

 アイズは少し不満を覚えた。

 訓練をするのなら、ダンジョンに行きモンスターを殺したほうがステイタスも伸びるし、強くなれると思ったからだ。

 それに気が付いたデモポンが、準備運動をしながらアイズに語り掛ける。

 

 「良く考えてみろよアイズ」

 「?」

 「俺たちがいくら我儘を言ったってダンジョンでは上層までだ。無理して行ったとしても、皆に心配をかけるだけで、帰ってきたら確実に叱られ、余計にダンジョンに行けなくなる」

 

 アイズはコクリと頷いた。

 

 「それに比べて、地上での訓練ならいくらしたって怒られないし、探索系のロキファミリアならむしろ褒められる。なにより……」

 

 デモポンはそこで歯をむき出しにして、獰猛に笑った。

 

 「あそこにいるのは重傑(エルガルム)、レベル5の第一級冒険者。モンスターにしたら深層か迷宮の孤王(モンスターレックス)レベル、そんな相手と戦えるなんて、こんなチャンス二度とないかもしれない」

 

 そして準備運動を終えると、アイズに拳を出した。

 

 「今ここで全てを出し切って、今の俺を確認してくる。その後は、ダンジョンで本番だ」

 

 アイズは出された拳におずおずと拳を合わせた。

 

 「―――行ってくる」

 

 デモポンがそう言いながら、ガレスの下に向かう。

 その背中を見て、アイズは何故か「いってらっしゃい」と声を出していた。

 デモポンはそれに片手を上げて答える。

 そんな子供達を見て、デメテルは頬に手を当てた。

 

 「あらあら、青春じゃない。素敵だわ」

 

 デメテルのその言葉にロキは「けっ」と唾を吐いた。

 ガレスの前に立つデモポン、先程までの好々爺な雰囲気は消え、大岩の前に立っているかのような感覚を味わう。

 

 「なぁに、小僧がレベル2だということは知っておる。ちゃんと加減はしてやるわい」

 

 ガレスが構える。

 デモポンも構えをとる。

 両者動かない。

 ガレスはデモポンが初手どう動くのか見極めようとしている。

 デモポンは動いた瞬間に地面に倒れている自分が想像出来たので、動けずにいた。

 数秒、両者睨み合っていると、ロキが両手を力強く叩いた。

 それが合図となったのか。

 デモポンが大きく踏み込む。

 レベル2にして速くそして大胆、子供らしい大振り、ガレスは一発受けてやるかと体に力を籠める。

 が、ガレスにとっての意外が起きた。

 

 「ぬぅ!」

 

 デモポンは振り上げた拳の中に砂を仕込んでいた。

 準備運動をしていた時に、握り込んだのだろう。

 砂粒がガレスの顔に降りかかる。

 ガレスはそれを片手で防いだ。

 その瞬間に、デモポンはガレスの腹に二発、そしてガレスの軸足を蹴り抜こうとして、壁の高さを味わった。

 

 「ぐ……」

 

 ガレスの腹を殴った両手は痺れている。

 バランスを崩してやろうと蹴り抜いた足は、ガレスの大樹のような足を1C(セルチ)も動かすことが出来なかった。

 逆に力一杯蹴り抜いた足が止められたことに、バランスを崩す。

 その時、デモポンの頭上から声が落ちてくる。

 

 「まるで昔のフィンのようなことをするのぉ」

 

 デモポンは咄嗟に両手で顔面を、後方に飛び抜きながら片足で腹部をガードするが、その上から大槌で殴り抜かれたような衝撃が全身を襲う。

 

 「ガッ!!」

 

 デモポンは大きく吹き飛ばされ、嫌、空に体を浮かばせながら地面に叩きつけられた。

 

 「ガハッ!」

 

 手を抜かれた、手を抜かれた一撃で、全身の筋肉が悲鳴を上げた。

 デモポンはそれを理解した時、歓喜した。

 これが第一級冒険者、これがレベル5、あと3つ(・・)レベルを上げるだけでこの力が手に入る。

 リヴェリアはその光景を見て叫んだ。

 

 「ガレス!」

 

 それは子供に向けるには凶器と呼んで差し障りない一撃だった。

 大の大人の冒険者でも泣き出し蹲るほどの一撃だった。

 

 ―――心が折れる。

 

 そう感じたリヴェリアはデモポンの下に駆け出そうとした。

 だが、それは意外な神物(じんぶつ)から待ったをかけられる。

 

 「行かないであげて」

 

 その声の主はデメテルだった。

 

 「しかし、神デメテル!」

 

 非難の視線を向けるリヴェリアにデメテルは女神らしく笑みを浮かべる。

 

 「大丈夫、あの程度でポンちゃんの心は折れたりしないわ」

 

 その神託の如き言葉にリヴェリアは喉元まできていた言葉を押し留める。

 

 「天界に居た頃から思っとったけど、自分けったいな愛も持っとんな。けど、その愛がデカ過ぎると、あのガキ潰れてまうぞ?」

 

 ロキが糸目を開けながら、デメテルを見る。

 しかしデメテルの表情は変わらなかった。

 まるでそれも織り込み済みであるかのように、笑みを浮かべている。

 リヴェリアの背筋に冷たい汗が流れた。

 過去ロキはデメテルを怒らせてはならない女神だと言っていた。

 その意味が分かった気がした。

 デメテルはふっと息を抜くと、困ったように頬に片手を当てた。

 

 「あの程度(・・・・)で心が折れてくれるのなら、ポンちゃんは今頃、ファミリアの皆と農作業をしているわ。ポンちゃん必ず帰ってくると約束してくれたけれど、ダンジョンに可愛い眷属()を行かせたくないもの、……オラリオにすら来させたくなかった。ロキ、私がポンちゃんに神の恩恵(ファルナ)を与えてオラリオに連れてきて、まずしたことはなんだと思う?」

 「うん?そりゃ先輩冒険者見繕ってダンジョンに行かせて、ダンジョンの怖さを教えるとかやろ?」

 

 ロキのその言葉にデメテルは首を振った。

 

 「いいえ、私がまずしたことは、ポンちゃんの心を折ることだった」

 

 デメテルのその言葉にロキもリヴェリアもアイズも驚きをもってデメテルの顔を見た。

 その発言は余りにも常軌を逸しているからだ。

 愛している眷属(子供)にやることではない。

 それでは、眷属(子供)に試練だなんだと言って、眷属(子供)で遊んでいる最低の神々と同じではないか。

 

 「だから私は、ガネーシャに頼んだの、子供が無謀な夢を抱いて危険なオラリオに来てしまう。だから、オラリオの怖さを教えてここから逃げたくなるように徹底的に痛めつけてほしいって」

 

 ロキは頭が痛いと、誤魔化すように掻いた。

 

 「で、ガネーシャはその嫌な役を誰にさせたんや?」

 「象神の杖(アンクーシャ)よ」

 

 その予想外の人物にリヴェリアは口を開いてしまう。

 

 「な、馬鹿な!ファルナを与えたばかりの子供にレベル4のシャクティ・ヴァルマをぶつけたのか!?」

 「……団員にそないな心労を与えてまう仕事させられへんかったんやろ。ガネーシャファミリアの団長として」

 「えぇ、あの子には悪い事をしたと思っているわ。でも、シャクティさんは、進んでこの申し出を受けてくれたわ。彼女も今のオラリオに思うところがあったそうでね」

 「で、今のあのガキを見るに、それは失敗したと」

 ロキが起き上がるデモポンを見ながら言った。

 「そう折れなかった。折れるはずが、さらに先に進んだ。それがポンちゃんの怖いところ……、あの子の心は決して折れない」

 

 デメテルは困ったと笑う。

 

 「最後にはシャクティさんから、クエストを放棄したいって申し出があったほどなのよ?」

 

 デメテルのその言葉にまたもやロキ達は驚いた。

 仕事に忠実で、実力がある彼女が折れる。

 それはどれほどのことだったのか。

 リヴェリア達はデモポンとガレスの戦いを見守るしかなかった。

 

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