強くなりたければオラリオに行けば良い   作:はんふんふ

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それは聖女さんとのお話で
第9話


 デモポンは微睡の中で懐かしい香りを感じていた。

 それは太陽と土の香り、優しくて暖かい好きな匂いだった。

 デモポンが意識をそのまま覚醒させていくと、目の前に小麦色が広がっていた。

 

 「何してるの、ペルセフォネ?」

 「ん~?ポンちゃんが苦しそうにしてたからお熱でもあるのかと思って」

 「……どう、だった?」

 「たぶん……、大丈夫かな?」

 「自身無さ気~……」

 

 デモポンが目元を擦りながらそう言うと、ペルセフォネは楽しそうに笑った。

 ペルセフォネ、デメテルファミリアの団長にして生産系では珍しいレベル2に至った人物。

 神々は言う、胸が無い方のデメテルと―――。

 ペルセフォネがデモポンに当てていた額を離すと、大きく伸びをする。

 

 「う~~~ん……。よし、朝ごはん食べにいきましょ!」

 

 デモポンが未だ眠そうに返事を返す、するとペルセフォネは仕方がなさそうに、デモポンを抱き上げた。

 デモポンはペルセフォネが大好きである。

 それはファミリアというのもあるが、何よりも彼女が世話好きで甘やかしてくれるからだ。

 顔を洗い終えたデモポンが食堂に向かうと、最近よく見る顔が混ざっていることに気が付いた。

 

 「おはよう、デモポン。ふむ……、ペルセフォネが言うように夜分遅くまで自己鍛錬しているようだな。努力をするなとは言わないが、それは周囲の者達の気持ちを蔑ろにしてまで行うことではないだろう。つまりはだ……」

 

 食堂の一席に座っていたリヴェリアはそう言うと、身を屈めデモポンの小さな鼻を人差し指で弾いた。

 

 「ふがっ!」

 「無理はするなということだ」

 

 デモポンが鼻頭を押さえて、恨めしそうにリヴェリアを睨むとリヴェリアは腰に手を当てて意地悪な笑みを浮かべた。

 それを見ていたペルセフォネは、笑いながらデモポンの鼻を撫でてあげる。

 すると、肩を叩かれた。

 

 「?」

 

 デモポンがそちらを振り向くと、アイズがそこにいた。

 一瞬、なんでここにいるんだ?と考えたが、リヴェリアさんがいるならいるかと一人納得する。

 

 「おはようアイズ」

 

 デモポンがそういうと、アイズは眠たいのか半目で頷いた。

 

 「うん、おはよう……」

 

 その時、よく透き通る声が食堂内に響いた。

 

 「みんな~、おはよ~!」

 

 食堂にいた全員が元気に挨拶を返すと、声を発した本人であるデメテルが満足そうな顔をして現れた。

 そしてキョロキョロと食堂内を見渡すと、デモポンを発見したデメテルは花が咲いたように笑い速足で移動する。

 そして、デモポンの目の前に立つといつものごとく大きな胸にデモポンの顔を埋めて抱きしめた。

 デモポンとアイズの視線が交差する。

 

 『……苦しくないの?』

 『……苦しくない様に見えるか?』

 『なら、なんで……』

 『デメテル様の顔を見てみろ』

 『―――ッ!?』

 『……良い笑顔だろう?この笑顔の為なら、たかだか一分、二分くらいどうということはない』

 『でも、だからと言って』

 『それになアイズ、聞いてもらえやすくなるんだよ』

 『……なにが』

 『我儘が―――』

 『ッ!?』

 『ロキ様……いや、リヴェリアさんで構わない、やってみろ……。少しだが、世界を拓けるぞ』

 デメテル達を見ていたアイズは、リヴェリアを見た。

 リヴェリアはアイズの視線に気が付くと不思議そうな顔をしている。

 アイズは小さくなりながらリヴェリアの前に行くと、リヴェリアに向け両手を広げた。

 

 「……?なんだアイズ、どうした?」

 だがリヴェリアにはそれがどういった意味なのか理解が出来なかった。

 いくら都市最強の魔導士と言えど、すべての知識を網羅しているとは限らないのだ。

 リヴェリアの肩をペルセフォネが突く。

 

 「どうしたペルセフォネ?」

 

 そうしてペルセフォネが指差す先の光景を見て合点がいった。

 その瞬間、リヴェリアは頬が紅潮した。

 アイズを見るリヴェリア、その視線が期待に溢れていることに気が付く。

 リヴェリアは恐る恐るアイズを包み込むように両手を広げ、抱きしめた。

 そうしてリヴェリアは気が付いた。

 朝方の子供の体温の暖かさを、そしてつい口から言葉が漏れ出した。

 

 「……帰りに、ジャガ丸くんを買って帰ろう」

 

 アイズはこの時確信した。

 リヴェリアに抱き着くイコール、ジャガ丸くんであるということを。

 

 

 朝食を食べ終えたデモポン達は、リヴェリア引率の下ダンジョン15階層まで来ていた。

 

 「前方からミノタウロス3、来るぞ!」

 

 リヴェリアが叫ぶと同時に、仄暗いダンジョンの奥から棍棒を持ったミノタウロス3体が姿を現した。

 それと同時に、デモポンとアイズは駆け出す。

 ミノタウロスは叫び声を上げながら、棍棒を振り下ろすが、デモポンは走っていたのを急制動をかけ棍棒を回避し、さらにその棍棒を足場に飛び上がるとミノタウロスの首を一閃した。

 灰となって消え去るミノタウロスの奥では、アイズが剣に風を纏いミノタウロスを両断している。

 アイズとデモポンは視線を一度合わせると、デモポンは着地と同時に地面すれすれを滑るように走り抜け、アイズは風を体に纏い着地すると同時に剣を後方へ振り抜いた。

 デモポンはアイズの後方で、ミノタウロスにより振り下ろされた棍棒を手首ごと双頭剣で切り裂き、棍棒が宙を舞うと同時にアイズの剣がミノタウロスの腹部を切り開いた。

 ミノタウロスが断末魔を上げて灰に返ると、地面に落下を始めた魔石をデモポンがキャッチする。

 そして再びデモポンとアイズは視線を合わせると、二人揃って、残りの魔石を拾いリヴェリアの下に戻ってきた。

 それを見ていたリヴェリアは内心驚いていた。

 

 「お前達は、その……、連携がしっかりととれているのだな」

 

 リヴェリアがそう言うと、アイズとデモポンはキョトンとしている。

 まるでそれが当たり前で、リヴェリアの言っていることが良くわからないと言った様子だった。

 その時、咆哮が一つした。

 声の主はライガー・ファング、ヘルハウンドよりも一回り大きいライオン型のモンスターである。力もスピードも脅威ではあるが、何よりもライガー・ファングは他のモンスターを呼び寄せる特性が危険視されている。

 デモポンは緩急をつけながら接近し、ライガー・ファングの視線を奪う。

 アイズはエアリエルを纏うと、ライガー・ファングを素通りし集結しつつあったモンスターの殲滅を始める。

 ライガー・ファングがすぐ隣を通り過ぎたアイズに気が向いた一瞬、デモポンはライガー・ファングの下顎を掴み上げそのまま押し倒すとアイトーンを発動し、高温の熱波を直接体内に送り込まれたライガー・ファングは紅い花となって弾け飛んだ。

 デモポンは無惨な姿となったライガー・ファングに目もくれずにアイズに加勢すると、集まっていたモンスター達を蹂躙し始める。

 アイズとデモポンはこの間無言だった。

 無言で黙々と、作業の様にモンスターを屠り続ける。

 黙ってそんな二人を見ていたリヴェリアは、多少戦い方がましになったと喜ぶべきか、それとも叱ってやるべきか、頭痛を押さえるように手を頭に押し付けた。

 

 

 ダンジョン探索から帰還したデモポンはアイズ達と別れると、一人ギルドに来ていた。

 そしていつもなら、担当アドバイザーのソフィに報告に行くのだが、今日は少し違っていた。

 デモポンは、ギルドに張り出されている大きな掲示板を見上げる。

 そこにはランクアップを果たした冒険者達が似顔絵と共に張り出されていた。

 その中の一つをデモポンは見る。

 そこにはアイズ・ヴァレンシュタインのレベル2へのランクアップが告知されており、その所要時間が一年丁度であることが記されていた。

 デモポンは黒いワイヴァーンとの戦闘後、今日みたいにロキファミリアに誘われダンジョンに潜る回数が増えた。

 そしてその中で知ることとなった。

 アイズが前に言っていたように、レベルを同じくするなら剣技においてアイズは自分の先を行ったと。

 だがデモポンはそれを悔しいとか妬ましいとは思わない。

 ただアイズが強さを求め日々努力をしているように自分もさらなる努力をしなければならないと、決意を新たにしただけだった。

 

 「やっぱり悔しい?レコードホルダーの座も取られちゃったものね」

 

 デモポンに声をかけて来たのはソフィだった。

 ソフィは膝を抱え込むようにしゃがむと、デモポンと視線を合わせる。

 まるで愚図る弟の話を聞いてあげている姉のように、微笑みを浮かべて。

 だが、デモポンは晴れやかな顔をしていた。

 

 「悔しくはないです。ただ……」

 「ただ?」

 「負けてられないなって、アイツは友達ですけど、きっと神々が言うところのライバルって奴なんだと思います」

 

 そう言って笑うデモポンにソフィも笑い、デモポンの頭を撫でてやった。

 冒険者間ではレベルとは優位性の序列であり、絶対の指針である。

 故に普通の冒険者であれば、急成長を遂げている冒険者を見れば悔しく思うし、妬ましく思う。

 その感情が無用ないざこざを招いてしまうこともある。

 だが、デモポンは子供だからか、逆に大人びているからか、さらなる高みに至るための言葉を紡いだ。

 多くの冒険者を担当していたソフィにはそれが酷く眩しく見え、また危なっかしく見えたのだった。

 その時、一人の冒険者がギルドに駆け込んできた。

 

 「た、助けてくれ!」

 

 ギルドに駆け込んできた冒険者は、戦闘衣に身を包んでいるが肌が見える箇所はその殆どが火傷を負っていた。

 

 「ど、どうされましたか!?」

 

 慌ててギルド職員が駆け付ける。

 冒険者は話し出す。

 19階層で希少種モンスターのファイアーバードが複数体出現し、19階層は火の海と化していること、それに多くの冒険者が巻き込まれ18階層のリヴィラの街に怪我人が多数いること、ヒーラーの派遣をすぐにしてくれと、冒険者は矢継ぎ早に言った。

 その報告を聞いたギルドの対応は早かった。

 すぐに冒険者を向かわせること、また人数分のサラマンダーウールを手配することを走り込んできた冒険者に告げ、指示を出していく。

 そうしてすぐに、ギルドからのクエストは出された。

 ギルドから飛び出して行く職員の姿も見られ、待つばかりだけでなくすぐに行動出来そうなファミリアに要請をしにいったのだった。

 ソフィも慌てて立ち上がり突然の仕事に向かう。

 それを見送ったデモポンは一瞬考えると、ダンジョンに向け駆け出した。

 

 「ポンちゃんは、危険だから行っちゃ……」

 

 ソフィはハッとしてデモポンに向け大声を出すが、その時にはデモポンの姿はギルドになかった。

 

 

 ダンジョンの入り口にデモポンが辿り着くと、そこには人だかりが出来ていた。

 デモポンはそのグループがこれから18階層に向かう冒険者達だと当たりを付け、その中に入り込む。

 デメテルファミリアの護衛を依頼しているファミリアの冒険者も数名おり、デモポンは顔見知りのその冒険者達と会話をしていた。

 その時、デモポンを呼ぶ声が聞こえた。

 

 「なんであなたがここにいるのですか……」

 

 そうデモポンに声をかけて来たのは、腰辺りまで伸ばした銀髪の少女、アミッド・テアサナーレであった。

 

 「あれ、アミッドも行くの?」

 

 デモポンがそう聞くと、アミッドは溜息混じりに言った。

 

 「ファイアーバードによる火傷は普通の火傷とは違います。適切に処理しなければ最悪の事態を招くおそれもあります。ファミリア内で今手が空いているのは私だけでしたので、私が出向いた。それだけのことです」

 

 そう言われたデモポンは素直に返す。

 

 「でも良くディアンケヒト様が許可してくれたな」

 

 神ディアンケヒト、オラリオの二大製薬系派閥の一角を担うこのファミリアでのアミッドの立ち位置は、まさに生命線ともいえる。

 アミッドは未だ少女と呼べる年齢ではあるが、類まれなヒーラーであり、治療行為だけでレベル2に至った稀有な存在だった。

 そしてアミッドの有する魔法は、多くのヒーラーの中でも最上位と呼べるほどの効果を持つ。

 毎日だれかが死に掛けるオラリオにおいてアミッドの価値は鰻登りとなっており、傍若無人なディアンケヒトが許可を出すとは考えにくい。

 デモポンの言葉に無言で返してるところから見ても、いてもたってもいられずにこの場にいることは容易に想像出来た。

 だからこそ、デモポンは自然と笑顔になった。

 

 「やっぱ優しいなアミッドは」

 

 アミッドは褒められたのに、呆れたようにジト目をしてデモポンを見た。

 それは過去、まだ彼女がレベル1の時に、デモポンは彼女の世話になりっぱなしだったからだ。

 しかも、周囲に悟らせることなく姿を現しては、アミッドに治療をさせる。

 そんなことが続けば、年齢が比較的に近かったからだろう二人は友人とも呼べるような気安い関係になっていた。

 

 「はぁ……、あなたのスキルは知ってますが、くれぐれも無茶はしないで下さいね」

 

 そういうアミッドに対し、デモポンは歯を見せて笑う。

 

 「大丈夫だって、もしなんかあっても夜か朝一にアミッドに治してもらいに行くから」

 

 デモポンの言葉にアミッドは人差し指を付きたてながら怒る。

 

 「だ・か・ら、無茶はしないでと言っているのです!!」

 

 そうプリプリ怒るアミッドにデモポンは尚も笑顔だった。

 

 「ヤバくなったら逃げる、いつものことさ。アミッドは俺が守るし、無理なら連れて逃げてやるから安心してろって!」

 

 アミッドとデモポンが会話をしていると、二人分のサラマンダーウールが渡される。

 デモポンはそれを受け取ると、手早くアミッドに着せてやった。

 少し照れくさそうにしているアミッドに向け、デモポンは言った。

 

 「それじゃ、行こうか!」

 

 この冒険はデモポンにとって初めての経験だった。

 守ってくれる人達はおらず、守るべき対象がいるダンジョンアタック。

 それは高みに至るための、最初の登竜門のように感じ取れた。

 だがデモポンは探索に慣れてきていたからだろうか、それとも救助を待つ人達を救いたいという使命感からだろうか、頭の中から抜け落ちていた。

 ダンジョンとは未知の宝庫であり、どこまでも優しくないということに。

 

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