(そして例のごとく続かない)
八雲立つ 出雲重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
世界とは不完全だ。
それは社会であれ、人間であれ、次元であれ、原理であれ、過去であれ、歴史であれ、未来であれ。
どれもがどれも、まるで細い一本の紐で綱渡りしているような絶妙の感覚で“今”というものを維持している。
当然ながら、いくら細いといっても渡れる者が少ないわけではなく、既に構築された既出のレールに沿って歩けば細い紐を、ゆっくりでも少しずつ渡ることが不可能ではないカリキュラムというものが存在する。
しかしそれは同時に、天から降る落穂を受け止めようと掌を伸ばし、零れ落ちる穂が存在するように、レールを歩けず紐から落とされ篩に分けられる者も存在する。それらは古今東西存在するものであり、人はそれを勝手に“必要な犠牲”と括っては忘却の彼方に葬られた。
人であれ。
歴史であれ。
そして、神であれ。
※ ※ ※
世界というものは存在する。
聞いたことがない場所、見たことがない景色、知らない処。
知ればその空間は己が記憶の中で永遠に生き続け、既知となる。既知ともなれば、それはその者の人生で得た己の知る場所であろう。
人は己の感動を映写機に留め、広め、世界を知ってもらおうとする傾向がある。知れば、行きたい。見たい。感じたい。興味を持つのは、人間のように生きとし生けるものにとって人生のスパイスであり抗えぬ欲求である。中にはその欲を押さえ込み、今ある自分の世界で満足し自分を閉じ込める者もいる。ある種の事故防衛本能と呼んでもよい。
話を戻そう。世界は存在する。
知ればそれは世界であり、知らなければそれは――異世界となる。
その世界が異世界であると理解するのは、異世界の存在があると知覚出来るのは現存する生命体では不可能。
だがある者は言った。異世界とは、異次元とは人の数だけあるのだと。人の数だけ己の世界があり、人の数だけ己が知らない世界が存在すると。
故に、ひとつの世界を追放されていた神は言った。
「出雲飽きたからちょっくら異世界行って見るわ」
「え?」
ケロヨンにタオルとシャンプー持ったから風呂入ってくるぜ的な軽いノリでそう言ったのは痩身の男だ。その男はただ細い体を持っていると言うわけではなく、浴衣の裾から覗く肌には引き締まった筋肉が顔を出していた。土間に腰掛けて草鞋を履こうとする男を、背後で呆けた様に口をあけていた女が呼び止める。
「ちょっとあなた、異世界へ行くってどういうこと?」
「なんか変な衝撃を感じてなぁ。空間の乱れ、いわゆる空震ってやつさ。どうやら葦原中国と日ノ本と印度に露西亜に…いや、この地球とはまた別の、でもおんなじ様な世界ってもがあるらしいなぁ。大して驚く事ぁないが」
「何で異世界に? まぁ別に隠居してるから何したってバレないからいいけど。どうせ今度出るのは昆孫の時の話だしね」
「なぁに、終わるまでには戻ってきてから叱ってやるよ。ちょいと見てきたくてな」
「何を?」
草履を履き終えると、玄関にぞんざいに立てかけられていた刃を潰された鈍器のような刀に鞘を通して腰に挿す。あーどっこいしょういち、となんとも人間味溢れる掛け声で腰を上げ、男は言った。
「赤ん坊みてぇな神と、世界が変わってくサマってやつをな」
居合い。
かちん、と男が腰に挿した刀の鍔を親指で軽く押し上げては放すと、鍔鳴りと共にその姿は消えた。霊剣たるかの刀は男の思うままに斬ることが出来る。それが豆腐であれ、蛇であれ、距離であれ、境界線であれ。
「晩御飯までには戻りなさいよぉー今日はホッケよぉー」
夫の後姿を想像しながら、女はエプロンをはためかせて手を振った。なんとも健気な妻である。
※ ※ ※
距離、境界線、そして世界の壁を割断した先には、やはり、というべきか、当然と言い切るべきなのか。兎に角、男の推測通り異世界らしきものは存在していた。
「こりゃあすげえ、ヘンテコな生き物まで居やがる。ありゃあなんだ? でっけぇ蛇か? 土偶みてぇなのもいるな。鳥みてぇなヒトも居らぁ」
早速物見遊山にこの世界の生態系というものを観察した。なるほど、人間らしき種族はいるようだがそれ以外も多いらしい。あるいは人間でないような存在も確認できた。親指と人差し指で作った輪を覗けば千里眼の如く遠方を見渡すことが出来る。男は日本の他に地平線の向こう側に存在する大陸と、そしてその存在まで見通す力を持っていたが、この異世界でもそれは適用されているようだ。
一部を除いて、どの種族も大いなる力の恩恵を与えられているらしき痕跡が見える。その大いなる力こそがこの世界の神だということが理解できた。だがその神が若干不安定なのは動揺だろうか。否、神の恩恵に預かっている存在が、何らかの大きな力によって動かされているように思えた。
煽動。時代の流れは時々刻々と変化する。それこそまるで世界が生き物の様に、絶えず変動を繰り返す。そして世界はその波に乗っているのだ。
どうやら様子を察するにどれもが大きな戦に巻き込まれていたことは間違いない。屍骸こそあまり見かけないが何らかの力で崩れ去ったがらくたの山、荒れ果てた大地や森が確認出来た。
「やっぱ当事者に聞かねぇとわかる事もわかんねぇな」
いつまでも高みの見物してないで、地上に降りる。どうやら自分と同じような生態をした人類たる存在は確認出来たが残念ながら空を飛ぶことができる訳では無さそうだ。
それもそうだ、本来飛べる人間なんぞ神力か超科学を持ってもいなければ常識的に空を舞うことは出来ない。一部、この世界では翼を宿した種族や神力の恩恵を預っている者もいるようだが、悉く地上からの攻撃に晒されている。
危ない、もう少し空にいれば攻撃されていたかも知れない。
「いや、それ以前に」
この世界に来た己の姿を、誰にも見られなかっただろうか。
この世界に元から居た存在からすれば、己がこの世界に来た瞬間はまるで瞬間移動のような光景を目の当たりにでもしたのだろう。仮にこの世界で瞬間移動が日常的光景であればそれはそれはなんとも混沌な世界だ。
ざり、ざり。草葉を掻き分けて歩く。どうやら森林地帯に落ちてしまったらしい。足を掠める植物の感触からして元居た日ノ本の国とも違う、まったく異なる生態系であることには相違無い。見たことも無い生き物が視界を掠める程度なら問題ないが、神ともなると如何せん、
「うおっ、なんだこりゃ」
ごうんごうん。まるで起動音のような鼓動をした途轍もなく大きな生物が空にうねっていた。今の今まで気付けなかった存在だ。この世界にいる存在でも気付けるものは少ないだろう、世界を構成する一部の生態系だ。それは病であったり、自然現象であったり、誰かの想いであったり、世界の意思であったり。
兎に角、ありきたりな自然現象の一部分に過ぎない。別に見ることが出来なくても問題ないし別段見なければならないものでもない。見れれば「へぇーすげー」的な感想しか思いつかなかった。
ただ、そんな「見えない」存在が世界の均衡を保っているということを、知るのと知らないのとでは現実で大きな差が生じるだろう。
蛇のような竜のような鯨のような、はたまた大きな船に見えるそれは頭頂部に何かを埋めていた。強く照り輝くそれは恐らく、この世界の『鍵』たりえるものだろう。つまり、
「おいおいおい…まさかありゃあ」
この世界の、『
世界を司り書き換える力を持つのが『鍵』であるならば、いま目の前を自由気ままに泳いでいる『主』は『錠』。管理者であり審判者だ。
世界を司るというのは並々ならぬ事態だ。何故ならば世界が生まれてから今の今まで築かれてきた秩序が脅かされているのだから。そしてその変革を強く、強く望む存在がいる。そう考えれば、結構珍しい時期に来れたのかもしれない。
恐らく『主』は、最後の遊泳を楽しんでいるのだろう。何故ならば『鍵』の出現と譲渡は己の存在の消失を意味する。仮定の話だが、この世界には唯一といえる神がまだ存在していないのだろう。地を治め、管理する神が不在の世界。生まれてまだ一度も変革が行われなかった世界、そういうことだろう。そしてその変革者が生まれるまでずっと一人で『錠』の役目を担い世界を見守り続けていた。
『主』は、男の目をその大きな瞳で捉え、またどこかへ泳いでいった。
それは『主』なりの、最初で最後の他者との邂逅だったのだろう。同時にそれは『主』なりの男への歓迎も示していた。
「…やっべー…この世界、好きになっちまいそーだ」
ちょっとばかし男の涙腺が緩んだ。
そこでふと考える。なぜ『主』はここを遊泳していたのか。確かに男が異世界から来た歓迎という捉え方もあるだろう。だがそれは多分、おまけだ。つまり別の目的があってここに来た。恐らく、何かを見届ける為に。そしてそれを見届けたから、また世界の果てまで遊泳しているのだ。そしてそれは、的中した。
――結果として、別の意味で。
「ん?」
「え?」
草叢から、女の子が出てきた。
幼い、ロリだ。
羽がある。天使だ。
頭に輪が乗ってる。天使だ。
肌色成分が多い。痴女だ。
だ が ロ リ だ 。
「あ、もう俺この世界に一生居てもいいや」
「えっ? あの、どちら様で…」
「嫁確保。済まないクシナダ」
「ちょ、いきなり求婚宣言!? そして妻持ちとはなんと業深い人間!!」
「俺の名はスサでいい。取り合えず結婚してくれ。いやしろ」
「どうしようもない変態様ですのよおおおおぉぉぉ!!!!」
―――これが、世界が唯一神テトによって『ディスボード』へと世界の名を変えられる少し前。まだ大戦と呼ばれていた血生臭い時代。
異世界の神――
うん、ジブリールはどんなにギルティでも可愛いから許す。許して下さいってかァ!? 許してやr(殴)
あのね、そもそもゆかりんボイスな時点でアウトなんですよかわいいんですよ。でもなのはは観たこと無いからわからないという