コミュ力おばけと幼馴染(♀)がイチャコラするだけの話 作:百合好きの獣
なんか筆が進んだんで、後編投下します。アンケート結果の反映は次回から。
後半ちょっとじめじめ注意報です。
一之瀬から内密に相談があるということで、天白が連れてこられたのは一之瀬が宿泊している部屋だった。
ルームメイトは外出しているようで(そうでなくとも、人払いをしたのだろうが)、現在部屋は天白と一之瀬の二人きりだ。
ここに来る前にカフェでテイクアウトした飲み物をテーブルに置き、一之瀬に促される形で対面に向かい合うように腰を下ろした。
「…………」
「…………」
なぜか無言で。
この一之瀬帆波は天白の容姿が自身の理想のお人形さん像であった為、そわそわと落ち着きがない。わああ可愛いいと限界化しているのだ。落ち着け。
そして天白はというと、クッションに腰かけた事でローテーブルによって胸から下が隠れており、机に乗っかりそうなお化けバストに目を奪われていた。しかも性質が悪いことに視線はしっかりと一之瀬の目に向かっており、広い視野角で捉えた胸に意識を割いているため、見られている方もそうと気づかない悪辣さ。一之瀬気づけ! その理想のお人形さんはお前のおっぱいを見て「すっげ……」と夢中になってるおっぱい星人だぞ!
さすがにずっと無言でいるわけにもいかないので――天白としてはこのままずっと観察していてもいいくらいなのだが――一之瀬が意を決して口火を切った。
「えっと、ごめんね百合ちゃん。時間をもらっちゃって」
「………………」
「ゆ、百合ちゃん……?」
「……! 気にしないで。桔梗ちゃんのお友達なら、全然かまわない」
こいつはおっぱいに意識を割きすぎて声をかけられたことに気づいていなかったようだ。最低過ぎる。
気を取り直して、本題に入る。
さすがに天白もおっぱいへの意識を10割から2割まで減らして話に集中するようだ。もっと集中しろ。
「……それで、相談っていうのは?」
「えっと、そのぉ……」
天白から話を切り出すと、一之瀬はもじもじ指先をこすり合わせながらもゆっくりとその悩みを打ち明け始めた。
「えっとね、最近肩こりが酷くって……」
一瞬で打ち明け終わった。カフェでしていた決意の瞳はこの肩こりと決別をしたいというだけのものだった。表情の重さに対して悩みが軽すぎる。もっとTPOを弁えて表情を作ってほしい。
と、普通ならそう思うところだが、一之瀬にとってそれは割と深刻な悩みだったのである。
肩と首、両方が痛み授業も集中できないし、それによって最近は軽い頭痛まで引き起こし、耳も閉塞感を感じたりもする。
日常生活にだいぶ支障をきたすレベルで悩まされていた。
病院に行けと言いたいところだが、一之瀬は肩こりで病院に行くのは……とちょっと及び腰だった。
これは大変危険な事である。肩こりとは筋肉が緊張することで血行不良が起こり、それによって引き起こされる症状だ。これは放っておくと一之瀬が感じている症状以外にも、激しい頭痛や吐き気、指先の痺れを感じるようになってしまうことがある。そうなるともうそれは肩や首の筋肉だけの問題だけでなく、脳神経や血管に異常が生じてしまっている可能性があるのだ。最悪の場合、脳梗塞等の大きな問題を引き起こしてしまうこともある。
そのため、肩こりが酷いときには自己判断せず、必ず医療機関に相談をしよう。症状によって整形外科や脳神経内科、場合によっては心療内科を受診しなければならないので、まずは自分の症状をしっかりと把握することが大切だ。
話が逸れたが、酷い肩こりというのはそれほど危険が潜んでいるため、さすがの天白も表情を強張らせて即座に問診を開始した。
急に雰囲気が変わり真剣な表情となった天白の姿に戸惑いながら――ギャップにちょっとキュンとしながら――も質問に正直に答えていく。
問診の結果、指先の痺れやボーっとすることが多くなるなど、神経や脳の問題は確認できなかったので、ひとまず天白は安堵から胸を撫でおろした。が、素人判断でしかないので、後日必ず病院へ行き、検査をしてもらうように約束をした。
「でもなんで私だけこんなに肩こりが酷いんだろう……」
そりゃそのおっぱいのせいやろがい! と言いたいところだ。
「……そんな大きいものぶら下げてたら、そうなる」
「え、へっ!?」
実際に言った。しかも指もさした。
あけすけな天白の言葉に、一之瀬は顔がかぁーっと熱くなるのを感じた。
「……おっぱいが大きいと肩がこりやすいっていうのは、本当のこと。何故かというと、普通に重たいから肩や首に負担がかかるのが一つ。ブラとかで支えてても、肩紐が圧迫して血流が滞るのが一つ。おっぱいが大きいから上半身が動かしにくいのが一つ。さらに胸を張るのが恥ずかしく感じる人だと猫背になるから余計な負荷がかかるのが一つ。これだけ理由がある」
「ほぇ~……」
あんまりな物言いに驚き恥ずかしがった一之瀬だったが、スラスラと出てくる理由がどれも当てはまり、驚きが羞恥から関心へと切り替わり感嘆の声を漏らした。
天白はおっぱい星人であるが、アマチュアとはいえ立派な整体の資格持ちなのだ。しかも実力もかなりの数の女生徒がお墨付きをするレベルの物。
高度育成高等学校で唯一、生徒でありながらマッサージ店を開業したのは伊達では無いのである。
そして、天白は話を締めくくる様にこう言った。
「……つまり、そんなにおっきいおっぱいをしてるのが肩こりの原因」
「酷い言われ方!?」
台無しだった。
ほらまた一之瀬が恥ずかしさに顔を赤くしている。……顔が赤くなるということは、それだけ顔に血流が集まっているということであり、むしろ血行が良くなったのでは? まさか天白はこれを狙ってわざと恥ずかしがるような言い方をした……ってコト!?
まあそんなわけは無いのだが。
ちなみに、天白の目から見て肩こりの原因はそれだけではないとは見抜いていた。おっぱいおっぱい連呼しながらも、一応はきちんと診断をしていたのである。
その原因は、恐らくストレスの蓄積だと天白は睨んでいる。
肩がこる原因は、「同じ姿勢」「運動不足」「眼精疲労」「ストレス」の四つが四大原因と言われている程に多い。
この内、「同じ姿勢」というのは肩や首に負担がかかる事を指すので、胸が大きいというのはこれに含まれる。
「運動不足」や「眼精疲労」は、学生であるしデスクワークをしているわけでもないのでそこまでひどくなる原因としては弱い。もしそうであれば中高生は全員漏れなく肩こりになってしまうからだ。
とすると、消去法で「ストレス」という事になるのだが、これは現時点では聞き出せないだろうなと天白は思っていた。自覚してるかは分からないが、それは『悩み』といって差し支えないものであり、それを聞き出す為にはもうちょっと踏み込まなければならない。
「えっと、じゃあこの肩こりってこの先もずっと付き合わなきゃいけないのかな……」
天白から肩こりの原因(一部だけ)を聞いて、表情を暗くし落ち込む一之瀬。
肩こりはそれ自体がストレスになりやすく、ストレスによって肩こりも慢性化し、さらにストレスが溜まり……という負のループに陥ってしまう。
が、重度のものならまだしも、現状であればマッサージやストレッチでなんとかなりそうだというのが天白の診断だった。
「……大丈夫。シャワーやお風呂を浴びたあとにストレッチをすれば、少なくともそこまで酷い肩こりにはなりにくくなる」
「ほんとっ!?」
希望を持たせるような天白の言葉に、一之瀬は一転してパッと明るい顔になった。表情がころころ変わって可愛いなちくしょうと天白は思った。
「……それは後で教える。今は肩を動かすのも辛いだろうから、まずはそれを治すところからやる」
「と、言うと……?」
天白はふふん、と自慢気に鼻を鳴らし、一之瀬に対してこう告げた。
「まずは帆波ちゃんの肩甲骨を――引っ剥がす」
「にゃっ!?」
ちょっと恐ろしい言い方に一之瀬が猫みたいな悲鳴を上げた。
◇
「もう……骨を引っ剥がすとか言うからびっくりしたよぉ」
取り敢えず風呂に入って温まってこいと命令され、言われるがまま船内にあるスパで湯浴みをしてぽかぽかとなった一之瀬が、ぷうと頬を膨らませながら怒った風に言った。いちいち可愛いがよ……。
「……間違ってはない。実際に、肩甲骨剥がしっていう名前で通ってる」
肩甲骨剥がし。一見猟奇的な言葉に聞こえるが、れっきとしたマッサージ・ストレッチの名称である。まあ肩甲骨が物理的に剥がれるわけもなく、医学的根拠が無いただの通名であるが。
マッサージ店や整骨院等の広告で見かけることも最近は増えたこのマッサージ方法は、一言で言うなら肩甲骨周りの固まった筋肉を解して肩の動きをなめらかにするというものである。実際にベリベリと肩甲骨を剥ぐ訳では無い。鶏肉じゃないんだぞ
肩甲骨には、数にしておよそ17種類もの様々な筋肉によって、様々な部位と繋がっている。胴体にはつながっておらず、鎖骨のみと繋がって少し浮くようにして存在しており、この骨が腕を自由に動かす補助を行っているのだ。
これ以上は長くなるので詳しくは割愛する。要は、背中の上部にある羽のようにパタパタ動く骨の周りの筋肉を解すということだ。
天白は一之瀬の肩甲骨の前にまずブラを引っ剥がし(もちろん上はTシャツを着させたままだが)、施術台に腰掛けさせた。
そして自身はその背後へと周り、左腕を取って上と持ち上げた。
ゆっくりと肩と平行になるまで上げ、そこからさらに速度を落としながら腕の可動域を調べる。
「……ここまで上げると、痛い?」
「にゃ、大丈夫、だけど……ちょっと苦しい」
「……分かった。じゃあ次はこっち」
そうして両腕がどこまで動くのか、そして範囲に違いがあるのかを把握した天白は、比較して症状が重そうな左腕から先に解すことにした。
一之瀬に手のひらを自分の肩に置くように指示し、天白は肩甲骨のくぼみに手を当て、肘を取ってぐるぐると回す。
「わ、わ、すごい。なんかゴリゴリって音がするよ」
「……筋肉が固まってるから、そういう音がする」
順回し、逆回し、肘を引っ張って胸を張らせたり、逆に押して肩を開かせたりを続けていると、次第に肩から臼を引くような音がしなくなっていった。
そして天白は告げた。
「……じゃ、挿れるね」
「えっ……へ?」
困惑する一之瀬をよそに、天白は掛け声と共に一息で手のひらを突っ込んだ。
「……えいっ」
「ひゃああっ!?」
一之瀬の肩甲骨のくぼみの中に、天白の小さな手のひらがずぼっと入り込んだ。
「えっ!? 何!? 今私何されてるの!?」
「……これより、直接肩甲骨を引っ剥がします」
「怖い!?」
もちろん天白はお茶目で言っただけであり、手羽を割くように肩甲骨をべりべりと引き裂く訳ではないので安心してほしい。
肩甲骨とは、先に説明した通り体幹とは直接つながっておらず、鎖骨によって宙に浮くような状態である。なので、普通に指が入る。マッサージ店とかに行くとズボってされるのだ。
そして肩甲骨の隙間に手を突っ込んだ天白は、そのままより深部の筋肉を解すために手を動かしていく。
「ひゃっ、やっ……すご、そんな奥まで……! ふにゃあああっ♡」
「……ここ? ここ気持ちいい?」
「あっ!? そこ……!♡ ビリビリってするのっ♡ 奥っ、奥ぐりぐりしちゃだめぇ……!♡」
肩甲骨剥がしである。
肩甲骨剥がしなのである。猥褻は無い。
天白が好き放題一之瀬の肩甲骨を蹂躙し、施術を終える頃には一之瀬は息も絶え絶えになっていた。
汗でぴっとり張り付いた前髪が艶めかしい。
「ふにゃああ……すごかった……♡」
「……それは何より」
一之瀬はへとへとだ。なので、続けられた天白の言葉に絶句した。
「……じゃ、逆側やるね」
「へ……?」
この後めちゃくちゃ肩甲骨を剥がされた。
◇
「わわわっ……! すごい! すっごい肩が軽い!! 羽みたいだよ!!」
両腕共に十分にほぐされ、重荷を下ろしたかのように軽くなった肩に感動して「みてみて!」とぐるぐるしてみせる一之瀬に、天白はぐっと親指を立ててサムズアップしてみせた。
「……これは応急処置みたいなものだから、しばらくするとまた固くなっちゃう。その度にやってあげてもいいけど、自分でも出来るストレッチがあるからそれを教える」
「わ、ありがとう!」
肩甲骨剥がしは調べればストレッチ方法がいくらでも出てくる。要は普段あまり動かさない部分の筋肉を動かして温めればいいので、色々試してみるといいだろう。
天白が教えたのは、一回3分程度で終わる簡単で効率的なストレッチの方法だった。
尚、天白が自分でやってみせるのを真似していた一之瀬だが、彼女が誇る九一式徹甲弾が如きキャノンボールおっぱいがぶるんぶるんと凄まじく火を吹いていた事を追記しておく。
ストレッチ方法を伝授した後、せっかくだからということで腰のマッサージも行うことにした。
何故かというと、腰の筋肉が硬いと仰向けで寝にくく寝返りが打ちにくい。そして横向きで寝続けてしまい、結果肩に負担がかかってそれも肩こりの原因となってしまうからだ。
「あぁ~……きもちいい~……」
一之瀬も腰がほぐされていく感覚に思わずだらしない声を上げてしまっていた。
両足をもって転がすように左右に振り、ほぐれのバランスを取っている時に(尚、櫛田をも超える脅威の93ヒップも同時にふるふると揺れている)一之瀬が何の気もなしに問を投げかけた。
「そういえば、さ……百合ちゃんはどうしてこういうことをしようと思ったの?」
「……マッサージの事?」
こくりと頷いた一之瀬。天白はそうだなぁとかつてを振り返るように視線を斜め上に向けながら言葉を紡いだ。
「……最初は、桔梗ちゃんを癒やしたくてやった」
「桔梗ちゃんを?」
「……そう。桔梗ちゃんは凄い子だった。けど、頑張りすぎて、ちょっと疲れてるように思った。だから、わたしがそれをなんとかしてあげたくて、してあげたの」
「そうなんだ……」
一之瀬は「優しいいい子だなぁ……」とほんわかとした気持ちになった。
尚、初めてマッサージをした時は櫛田の服をひん剥いてベッドに転がしてから『へっへっへ……大人しくするんだなお嬢ちゃん』と変なキャラ付けで強制マッサージを行ったのが真実である。
思いは純粋なれど、絵面が酷い。
なお、あの変なキャラはどうして出てきたのかは櫛田をもってしても理由が未だに分からない最大の謎となっている。ちなみに天白も分かってない。
「……今は、わたしがマッサージしてあげることで、誰かの悩みとか、つらい気持ちとか、そういうのをほぐしてあげられるのが嬉しくて、やってる」
いつのまにか、お店開く事になっちゃったけどと天白は照れくさそうに笑った。
その言葉を聞いて、一之瀬は――
「……あの、ね。わたっ、私、私……っ!」
何かを打ち明けようと、苦しみを吐き出そうとした。
しかし、喉につっかえがあるような、吐き出すことへの恐れから中々それを口にすることが出来ない。
天白はただ静かに待った。彼女が勇気を出して何かを伝えようとしている。その邪魔をしないように、ゆっくりと腰を揉み解してあげながら、無言で彼女の勇気に対して頑張れとエールを送り続ける。
そしてその思いが伝わったのか、一之瀬は声を震わせながら、ついに言った。
「私っ……本当は、悪い子なの!」
「…………?」
天白は何言ってんだこいつって顔をした。
うつ伏せの一之瀬はそれに気づくこともなく、一度口に出来たからか、堰を切ったように内に抱えていた物をぶちまけはじめた。
一之瀬は語った。
家が母子家庭で裕福では無かったこと。
中学三年生の時に母が過労で倒れ、妹の誕生日プレゼントを買ってあげる事が出来なかった事。
今までずっと我慢を続けてきた妹が、期待が裏切られた事で感情の制御が出来なくなってしまい、つい泣いてしまったこと。
そして一之瀬は、そのプレゼントをデパートで万引きしてしまったこと。
それが母にバレて謝罪に行き、許されてしまったこと。
それが原因で、半年近く家に引きこもったこと。
「だ、だかっ……だからね……! わた、私は……っ! いい子じゃないの……っ! なのに皆、わ、私の事を、凄いって、いい子だって……! ひぐっ……、違うのに……、私は、そんなんじゃ、なくて……っ!」
止めることの出来ない感情の発露に、一之瀬の紺碧の瞳から涙がボロボロとこぼれだしている。
枕に顔を埋め、嗚咽を漏らしながら泣き続ける一之瀬を、天白は助け起こしてから強く抱きしめた。
「あっ……」
「……よしよし」
「百合……ちゃん……」
「帆波ちゃんは、頑張った。頑張ったね……」
「百合ちゃん……っ! 百合ちゃん……! うわああああん!!」
身体を包み込むような暖かさと柔らかさに、一之瀬はついに声を上げて泣き始めた。
その彼女が落ち着くまで、天白はあやすように優しく背中をさすり続けたのだった。
「……ごめんね、みっともないところ見せちゃって」
「……ん。平気」
一之瀬が落ち着きを取り戻したのは、それから十分程経過してからだった。
泣いたことで目が充血し、涙袋がぷっくりと膨れた顔で、一之瀬は照れくさそうにそう言った。
一之瀬は落ち着くと身体を離そうとしてきたが、天白が抱きしめる力を強めた為、今も抱き合う格好のままだ。
「……帆波ちゃんの悩みは、分かった。そのうえで、言いたいことがある」
「……うん」
天白は自分の思ったことを頭の中で言語化し、口を開く。
一之瀬は何を言われようと受け止めるつもりで、静かに言葉を待った。
「……帆波ちゃんは、おばか」
「えっ…………へ?」
ちょっと予想外だったのでびっくりした。
「……話を聞くに、帆波ちゃんが辛いって思ってるのは、自分が悪い子なのに皆から凄い凄いと崇拝されていること」
「す、崇拝って……」
一之瀬は崇拝という言葉に思う所があったようだが、これは何も的外れというわけではなかった。
Bクラスは団結力が強い。
能力的にはAクラスよりやや劣るものの、チームワークという点では他のクラスよりも突出してると言えるだろう。
……訂正する。この妖怪とコミュ力おばけのせいでAクラスも非常に強く纏まっているため、DとCクラスよりも団結力が強い。
しかしAクラスが四人を頂点としているのに対して、Bクラスは一之瀬帆波一人を頂点としている。
それが、どれだけ彼女に重責を背負わせているかを知らず。
自分は『悪い子』だから、人に優しくしなければならない。そういう強迫観念の元、一之瀬はクラスメイト全員に人当たり良く接した。
元々優秀だった――入試成績で1位を取得するほど――事に加え、容姿の良さ、そして性格の良さから瞬く間にクラスのリーダーに祭り上げられてしまった。
人に優しく接することは、苦ではなかった。元々の資質が天白と似ている為、人の為に動く事は苦ではない。
しかし、それによって「凄い」「偉い」と褒められる度、一之瀬の心は軋みを上げていったのだ。
自分は悪い子なのに何故、と。
自分の事を『悪い子』だと思い込もうとしている一之瀬にとって、それは非常にストレスになる事だった。
「……帆波ちゃん、理由があるとはいえ、万引きは悪いことです」
「っ……うん、だから私は――」
「なので、帆波ちゃんはごめんなさいをしました。そしてデパートの人は許しました。これでおしまい」
「えっ……」
「……帆波ちゃん。貴女は悪い子だから……その贖罪の為に人に優しくしなければいけないって言ってたけど」
天白は少しだけ身体を離し、一之瀬と目を合わせた。
アクアマリンと紺碧、二つの青が交差する。
「……許してあげてないのは、帆波ちゃんだけだよ」
「あっ……や……」
一之瀬は目を見開き、わなわなと身体を震わせ始めた。
「……帆波ちゃんは、自分が思ってるよりも、優しい。だから、許されちゃいけないと思ってる」
「ち……ちが……」
「違わない、の。ずっとずっと苦しかったね。でも、もういいんだよ。帆波ちゃんは……頑張った帆波ちゃんは、もう、自分を許してあげても、いいの」
一度は収まった涙が再び一之瀬の目元に浮かび上がり、そのままつうと頬を伝った。
「いいの、かなぁ……私は、もう、悪い子だって……思わなくても……いいのかなぁ……っ!」
「……許してあげるのは、帆波ちゃんだよ。……帆波ちゃんは、どうしたい?」
「わかんないっ……わかんないよぅ……」
一之瀬はいやいやと駄々をこねるように頭を左右に振りながら、天白の肩へと頭を押し付けた。
「……むずかしいよね。こればっかりは、帆波ちゃんの気持ち次第だから。わたしで良ければ、いつでもお話、聞くから。つらいって思ったら、おいで? マッサージしてあげる」
「百合ちゃん……」
一之瀬は天白の肩に顔を押し付けたまま、すんすんと鼻を鳴らし、嗚咽を零し始めた。
伝えたいことは伝えた。後は一之瀬がどう折り合いをつけるかだ、と天白は一之瀬の頭を優しくなで続けてあげたのだった。
◇
「……落ち着いた?」
「……うん」
そこから更に十分程で、一之瀬は泣き止んだ。
しかし、鼻をずびびと啜りながらも天白の肩から顔を離すことはなかった。
シャツが一之瀬の涙やら鼻水やらでべちょべちょになっているが、天白は気にならない。なんなら櫛田にマッサージを施して上げたときも、場合によってはそうなることが多々あるので。
どんな場合かって? ……みなまで言うな。
「……ありがとう、百合ちゃん。ちょっとスッキリしたかも」
「……よかった。さっきも言ったけど、いつでもお話しに来ていいから。マッサージとかも、してあげる」
「ううん、マッサージは、ちゃんと予約する。だから、お願いがあるんだけど……」
「……なあに?」
一之瀬は天白抱きつく力を少し強め、ぐりぐりと頭を擦りつけながら言った。
「また……こういう風に、ぎゅってしてもらってもいいかな……?」
耳まで赤く染めながら、恥じらう様にそう言うと、天白はふわりと微笑みながら「もちろん」と優しい声で返した。
この日以降、Bクラスでは一之瀬のワントップではなく、彼女が信を置く人物『神埼隆二』と『白波千尋』の二人を幹部に据え、三人チームでクラスを導くようになった。
そして時折、一之瀬が天白マッサージ店の予約申請をしまくる姿があるのだが、それはまた、別のお話。
今度こそ少し間開くと思います。許して。
Q.白波千尋の脳が破壊されちゃう……
A.実は破壊されてない。なんでかはまた今度触れます。でも妖怪のせいって事だけは回答しておきます。
帆波ちゃんのケアについては、完全解決ではなく本人次第というとこに決着つけました。あの子の抱えてる事は回答出すのが難しいんよ……!
なんかまた妖怪がたらしこんでますが、メインヒロインは変わらず桔梗ちゃんです。
トゥルーエンドは桔梗ちゃん√なので悪しからず。
ハーレムルート? ……か、考えておきます。
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