コミュ力おばけと幼馴染(♀)がイチャコラするだけの話 作:百合好きの獣
まだ夏休みから抜け出しません。
夏休みも残すところ、片手の指で数えられる程となった。
天白マッサージ店は特別試験後に営業再開しており、夏休み前ほどは客足が無いものの、熱心なリピーター等によってそこそこ繁盛をしていた。
夏休み中ということもあり、一日の受け入れ可能数が増えた事も影響している。
そんな天白マッサージ店なのだが、本日の業務を終えた午後18時を過ぎても、天白は退店をしていなかった。
約束があるためだ。
バカンス中に堀北が言っていた、Dクラスで少し話をしてあげて欲しい子というのが、本日業務終了後に訪れる予定となっている。
とりあえず施術台は片付け(折りたたみ式となっている)て、ローテーブルとクッション、そして紅茶を淹れる準備をしながらその人物を待った。
お湯を沸かしていると、チャイムが鳴った。どうぞと声を掛けると、カラコロとドアベルを鳴らしながら扉が開く。
そうして「お邪魔します……」とおずおずと入室してきた少女を見た瞬間、天白は音もなく駆け、少女の背後へと回った。
「……動くな、小娘……!」
「ひっ!?」
少女は当たり前のように悲鳴を上げた。
逃げ出すまもなく腕を取られ、背中に身体を押し付けられて少女は身動きが取れなくなった。
天白は小柄なくせに筋力だけはいっちょまえなので、大して鍛えてもいない少女等鼻歌まじりに拘束出来るのだ。
ところでなんで拘束したんですか?
「キミ……なんだねこの歪んだ身体は……。わたしの前で歪んだ身体は禁止だ。他にも歪みが無いか見せてもらう」
「ひぇ……整体奉行……!」
天白の豹変の理由は、視界に入った瞬間に少女の身体の歪みを見抜き、内なる武士の精神が表出しただけだった。辻斬りよりたちが悪い。
あれよあれよと言う間に部屋の中に連れ込まれ、瞬時に組み立てられたベッドの上に転がされる様はまるで誘拐された少女。誘拐した方も少女なので、ギリギリ犯罪には見えない。
「……ところで、貴女が鈴音ちゃんの言ってた佐倉愛里ちゃん?」
「ふぇっ!? えと、その、はい……」
急に冷静になった天白に問われ、少女――佐倉愛里は混乱から抜け出せないまでも肯定した。
というか、天白は相手が誰かも分からずに拘束して転がしたわけである。見境なしにも程があった。
「……とりあえず、話をする前に、身体を見せて。ひと目見て分かるレベルで歪んでるから」
「ひゃ、ひゃい……」
佐倉は天白に振り回され、混乱した頭が回復しないまま頷いてしまった。大丈夫? 詐欺師に騙されたりしない?
仰向けに寝かせた佐倉の両手両足をまっすぐに揃え、天白はてきぱきと各部をチェックしていきながら問診も並行して行い始めた。
身体をペタペタと触れる暖かな手のひらと、耳朶を震わせるやたらと落ち着く声に、佐倉の警戒心はすっかりとほぐれてしまい、天白の投げた質問に素直に答えてしまう。チョロすぎない?
「……最近、身体に痛い所は?」
「ふぇ? え、っと……肩と、首? かな……」
「……足とかは?」
「別に、大丈夫、です……」
「……おっぱい大きいね、何カップ?」
「えふ……?」
「……F……だと……?」
問診である。他意はない。
このデカさでFは無理でしょ……と天白は戦慄した。彼女がFならば、坂柳はなんだというのだ。マイナスか?
この佐倉愛里という少女のバストは、あの天白を虜にした一之瀬バストよりもデカかった。
大きすぎて虜になるというよりも畏怖を抱くレベルだ。『この歳でこれほどの力を持つとは……』と天白の中の武士の精神も恐れ慄いた。
なのに彼女の申告ではFだという。つまり一之瀬の自己申告と同じということだ。お前つまんないウソつくねと白髪の少年もおこである。
今は診断に集中しなければならないので、後ほど後学の為にじっくりと観察してやろうと天白はケツイした。最低過ぎる。
仰向けの後は上体を起こして首や背中のチェックを行い、一通り診たところで天白は「さて」と口を開いた。
「……とりあえず、足腰はへいき。でも、上半身が問題」
「も、問題って……?」
「……一言で言うなら、酷い猫背」
人の背骨は首付近の頸椎、胸の辺りにある胸椎、そして腰辺りの腰椎という三部位からなる。
正常であれば緩やかなS字を描き、首や身体を支えているのだが、姿勢が悪い上体が長く続くと歪みが出てくる。
胸椎が湾曲してしまった状態が、猫の背中のように丸くなる為猫背と呼ばれている。
詳しくは割愛するが、日本人は骨格や体格の関係で猫背になりやすいとされている。骨盤が後ろに倒れやすく前かがみになりがちだからだ。
そして猫背は放置しておくと、将来は円背と呼ばれる杖などの補助具が無ければ歩行する事も困難な酷い症状になってしまうこともあるほどだ。
それだけではない。人体の中で頭部は約4kgから6kgほどもあり、それを背骨で支えているわけなのだが、猫背で前かがみになってしまうと首にエラい負荷がかかる。
負担の大きさは角度にもよるが、姿勢がまっすぐの状態を0°とした時、たった30°傾くだけで約3倍以上もの負荷がかかるのだ。
そうしてしまうと何が起こるのか。
まず当然の様に血行不良が起きて肩こりになる。
深い呼吸がしにくくなって、代謝も落ちるし臓器の働きも鈍くなる。
猫背になって良い事は一つもないのだ。
「――と、いうことなので、猫背を改善すべし」
「そう言われても……どうすればいいん、ですか?」
「……おっぱいを張れ」
「へ?」
おっと間違えた。
「……胸を張る事を意識する。わたしがある程度直すけど、それでも普段から姿勢を良くしなければ、猫背は治らない」
猫背とは生活習慣病と呼ぶ人もいる程、普段の生活に密接して影響が出る症状だ。例え整骨院に言って矯正してもらっても、楽だからといって姿勢を崩してしまえばたちまち元に戻ってしまう。
楽なのは、歪んだ状態に慣れてしまっている状態だからだ。
「でも……」
佐倉は迷いを見せた。
当然である。そんだけデカい物を持っているのだから、胸を張ってしまえば注目を浴びることだろう。今まさに天白が凝視しているように
「……姿勢の改善は、精神面の改善にも繋がる」
「え?」
「……俯いていると、気分も俯きやすくなる。逆に、姿勢が良くなると、自信がつきやすくなる」
胸を張るというのは、自信に満ちた態度を取るということ。ココロとカラダは相互に作用するため、あながち間違いではない。
「……その良い例が、鈴音ちゃん」
「堀北さんが……?」
「……鈴音ちゃんは、常に自信満々。本人の実力もそうだけど、姿勢、いいでしょ?」
「確かに……」
天白の前ではただのクソマゾだが、クラスでの堀北は『深窓の令嬢』と呼ばれる程にミステリアスで人気が高い。
空気を読めるようになった為攻撃性は薄れたが、ズバズバと物を言う姿には佐倉も憧れを抱いていた。
同じクラスということで堀北を例に出したが、他にも櫛田や坂柳等も、自分に自信を持つ者は総じて姿勢が良い。
「……うん、分かった。姿勢、頑張って直してみます」
佐倉は決心したようだ。
元々、自分に自信が無いという事もあったが、そもそも他人との関わりを必要ないと切り捨て、目立たない様に縮こまっていたのが原因だ。
そして、ある事件がきっかけで佐倉は『変わりたい』という意識を持っていた。ならば、自分を変えるきっかけになればという思いから天白の助言を聞き入れた。
それを聞いた天白は、頬を緩めて頷いた。
「……ん。あと、敬語は必要ない。同い年だし、鈴音ちゃんのお友達なら……わたしも、友達」
「わ、分かった……。えと、ありがとう」
天白もまた、櫛田の『お前の友は俺の友』という薫陶をしっかりと持ち合わせていた。
「……あとで姿勢を良くするコツとか、ストレッチ方法を教える。その前に、まずはわたしが直せる範囲で直す」
「あ、マッサージ……してくれるの? でも、私あんまりポイント持って無くて……」
「……大丈夫。鈴音ちゃんの紹介だし、サービス」
もとよりポイントを貰おう等とは思っていない。これは完全に天白が『そのような姿勢、許しておけぬ!』と武士道精神を発揮しているだけなので。
ちなみに佐倉が断ったとしても強引に矯正してやるつもりだった。妖怪『ほぐし入道』は時により強引な施術も辞さない。
「じゃあ、お願い……しようかな」
「……ん。任された」
本人からの許可も取れたので、天白はウキウキしながら佐倉を施術台を横たわらせた。
これは友達の姿勢改善の手助けを出来るからのウキウキであり、けして『ひゃっほうおっぱい触り放題だぜぐへへ』と喜んでいる訳では無い。
無いったら、ない。
そもそも天白が猫背矯正でおっぱいを触ることは無い。あっても反らされるモンスターおっぱいに視線を釘付けにするだけである。最低。
それはさておき。
天白はまず、佐倉を横向きに転がし、腕を取って片腕でバンザイのポーズを取らせた。
「……これが、今の状態。腕が耳よりも前にある」
「う、うん……」
「……で、これが正しい位置。耳よりも後ろ」
「ちょ、ちょっと苦しい……」
苦しいのは肩が内向きに丸まってしまっているためだ。
続いて、天白は佐倉の腕を背中に回し、反りを直すように身体の正面から圧をかけはじめた。
「……今更だけど、全身をやるから少し時間かかる」
「え? 全身?」
猫背の矯正と聞くと、上半身をボキボキと反らせる施術を思い浮かべがちだが、実際は違う。
全身をじっくりと直していかなければ根治しないのだ。
「……ちなみに、胸を張るのはいいけど、姿勢を直そうとして無理に腰を反らすと別の歪みになる。だから、そうならないように上半身も下半身もバランスよく整えるのが、大事」
「そ、そうなんだ……」
上半身だけ整えて下半身を疎かにしてしまうと、良い姿勢を保とうとして腰を反らす――腰を突き出すような格好となってしまう。
そうして腰を無理に反らしてしまうと、ぽっこりお腹の元となる反り腰という別の歪みが発生する。
反り腰は骨盤が前傾し、内臓が降下するため、幼児体型のようなイカ腹のようにぽっこりお腹となってしまうのだ。当然腰にも負担がかかり、腰痛の原因となる。
なので、上半身と下半身はバランスよく整えてあげなければならない。
「……ここを、こうして、こう」
「わ、わ、すごい。入っちゃった……」
それから十分程度、肩や背中、腰や足をぐいぐいと押したり捻ったりすることで施術は終了した。
整体は完了したが、せっかくなので「どうせ肩こってるでしょ?」と肩甲骨剥がしのサービスも行う。ちなみに胸を凝視しながら言っていた。こいつ、ついに隠そうともしねぇ……。
頭痛や目眩などの症状が出るほど重い肩こりだった一之瀬と違い、佐倉は確かに肩こりではあったがそこまで酷くはないようだった。
一之瀬の場合はストレスで雁字搦めになっていて、佐倉はそれが無かっただけなのだろう。対人関係はストレスを軽減させる事も貯める事にも繋がるのだ。
天白は背中側から肩甲骨周りをほぐしつつ、腕の動きに合わせてぶるんぶるんと揺れるおっぱいを凝視しながら佐倉と会話を重ねていく。集中の割合としてはおっぱい8に会話が2。もっと集中して差し上げろ。
「……さっきの話の続き。おっぱいちゃんは、自分を変えたいという認識で良い?」
ほら8割もおっぱいに思考を割いているから最低な呼び方になってしまっている。もっと左脳を働かせろ。
「……失敬。愛里ちゃんはお友達なので、愛里ちゃんと呼ぶ。いい?」
「え? いまおっぱいちゃんって……」
「愛里ちゃんで、いい?」
「は、はい……」
頭がふわふわする声で無理やり誤魔化すな。
「こほん。……それで、愛里ちゃんは、姿勢改善を頑張ると言った。つまり、変わりたいって事だと思った。あってる?」
「う、うん。そう、なの、かな……?」
「……なんで疑問形?」
「ちょっと、自分でもどうなりたいかが分からなくて……」
天白マッサージは身体だけでなく心も解きほぐす。
暖かな手のひらと落ち着く声、そして天白自身が可憐かつ小柄であるため、その相乗効果により、受けた者の警戒心を吹き飛ばし内に抱えた物を吐き出させるのだ。
『ある意味洗脳』とはAクラスのあるスキンヘッドが残した言葉だ。これを善意でやっているのだからたちが悪い。
そしてまた一人、妖怪の手によって迷える子羊が悩みを打ち明けた。
「私ね、高校生になる前から人と接するのが苦手で――」
佐倉が言うには、元々人と接する事が苦手であり、それを隠す為にひょんな事からグラビアアイドルになったという。
ひょんでは誤魔化せないくらいのメタモルフォーゼなのだが、天白はおっぱいに思考の大半を取られているため、なぜグラビアアイドルをやることになったのかについては引っかからなかった。
カメラの前では明るく元気なアイドル『雫』として振る舞い、普段は引っ込み思案な地味な少女。そんな二面性を持ったまま、この高校へと進学した。
そこで事件があったそうだ。
グラビアアイドル『雫』の厄介ファンによるストーカー被害。
約三ヶ月も続いたそれは、ある人物によって解決されたそうだ。
「堀北さんがね、襲われそうになった私を颯爽と駆けつけて助けてくれたんだ」
「………………………………そうなんだ」
天白の脳内は二つの感情でせめぎ合っていた。
親友がクラスメイトを悪漢から助け出した事に「やるじゃん」という感嘆の感情と
「足つぼでよがってくすぐりでイくドMが……?」という疑問の感情。
まあ、堀北は天白と櫛田の前以外では完璧超人に見えるし実際にそういう面もあるため、結局天白は「さすがわたしの親友だぜ」と納得することにした。先日のくすぐり絶頂事件は稜線の彼方へと投げ捨てながら。
「堀北さんはその前から私の事気にかけてくれてて、クラスの中で浮いてた私をずっと支えてくれてたの」
佐倉は嬉しそうに語った。
天白としては意外である。
堀北もどちらかというと「天白と櫛田がいれば十分」とあまり友人を作らないようにしていると思っていたからだ。
裏話をしてしまうと、堀北は友達いっぱいで囲まれた仲良しAクラスに対してちょっと羨ましいと感じていたため、同じクラス内で気軽に話せる友人が欲しくなってきていたのである。
隣の芝が青く見えてきた堀北が目をつけたのは、どうやら自分と同じく孤独グループに所属しているらしき佐倉だった。
「私が人と接するのが苦手だって分かってくれていたみたいで、無理やりじゃなくて少しずつ小さな事から一緒にお話してくれてたんだ。あれは、嬉しかったな」
実際にはどうコミュニケーションを取っていいか分からず、死ぬほど頭を働かせながら接した結果後手後手に回りまくっただけである。現実とはかくも惨い。
こうして天白マッサージに放り込んだのも、後でどういう風に接したらいいか天白に相談するためであった。
ちなみにことコミュニケーションという分野では天下無双の櫛田を頼らなかったのは、以前相談した時にもらったアドバイスがおよそ同じ言語だとは思えなかったかららしい。
IQが20違うと会話にならないというが、それはコミュ力にも当てはまるようだ。
「だからね、そんな堀北さんと友達になりたくて……。けど、堀北さんはすごく綺麗で、かっこよくて、凄い人だから……少しでも近づきたくて、変わりたいって思ったんだ」
「……ふふん。鈴音ちゃんは、凄いから」
どうやら佐倉は堀北に対して結構な幻想を懐いてしまっているようだ。騙されるな、あいつはコミュ障ぼっちのドMだぞ。
もちろん天白は親友大好きウーマンなので、『わたしが育てました』とばかりに得意げだ。育てたというより魔改造してしまったと言う方が正しい。
さて、そういう事なら天白の出番である。
天白にかかれば堀北は指先一つでアヘらせる事が可能な特攻兵器。ヤツの事ならわたしに聞けとばかりに対堀北コミュニケーション術を授け始めた。
「……鈴音ちゃんは、ああみえて結構寂しがりや。だから、積極的に話しかけてあげるべし」
「え? でも……迷惑じゃないかな」
「……そんな事無い。例えば、休み時間中に本を読まずにぼーっと外を見てるのは『誰か話しかけてくれないかなー』のサイン」
「へ、へぇー……」
中学生の時にクラスが天白とも櫛田とも分かれてしまった時、堀北はよくそういう事をしていた。ちなみにその待っているのは『誰か』というのは天白か櫛田の事である。自分で別クラスに行くのも、キョロキョロソワソワするのも恥ずかしいので、窓の反射を利用して教室の入り口を見張っているのだ。
「……愛里ちゃんくらい距離が縮まってれば、話しかけられて嬉しいと思うはず」
「そうなの? そうだったら、嬉しいけど……」
「……それは確実。ただのクラスメイトだったら、わたしに紹介なんてしない」
堀北はちょっと面倒くさいタイプのぼっちなので、少し話す程度のクラスメイトであれば天白と櫛田に近づけない。なぜなら堀北にとって二人が一番なので。その一番を取られるのは快く思わないのだ。
「そ、そうなんだ……」
佐倉は堀北に仲が良いと思われているという事に、頬を染めて喜んだ。……おや?
しかし天白は、背後からマッサージしていることと、おっぱいに気を取られている為その変化に気づく事が出来ず、引き金を引いてしまった。
「……そういえば、Dクラスでの鈴音ちゃんって、どんな感じなの?」
そう聞かれた佐倉は、嬉しそうにぱっと表情に花を咲かせ、機関銃の如く語りだした。
「あのね、堀北さんはね――」
その後、天白が部屋に戻ったのはおよそ2時間後だった。
天白は言う。
「門限が無ければ、一晩中拘束されていた」
と。
日常系ハートフルマッサージ二次創作なので、特別試験よりも4.5巻とかの方が比重多くなりますのは許して。
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