コミュ力おばけと幼馴染(♀)がイチャコラするだけの話 作:百合好きの獣
さて、世間では気温も緩やかに暖かさを増しており、春の訪れを感じさせるものであります。
つきましては、日頃の御礼と致しまして、僅かばかりではございますが季節感あふれる今話をお送りいたします。
それでは皆様ご唱和くださいませ。
メリイイイイクリスマアアアアアアアス!!!!
12月25日。
この日は、特別な日であった。
日本どころか世界各地で、老若男女問わずに12月25日と言えば? と聞けば迷いなく正解が返ってくるほどの知名度。
クリスマス。
元はイエス・キリストの降誕祭として、「キリスト(Crist)のミサ(mass)」という意味に由来する年に1度の特別な日。
敬虔なキリスト教徒ではなくともその日はチキンにケーキを机に並べ、家族や友人、親しい人とプレゼントを交換したりする。キリストとか知らないけどクリスマスは祝うものという認識でいる者は多い事だろう。
日本人は古くから祭りに対して敏感だ。事あるごとに祭りを開催し、祝い、騒ぐ。
高度育成高等学校も例外ではなく、むしろ多感な時期の少年少女達が、親元を離れ学園という閉鎖された環境に閉じ込められているという事からその鬱屈したフラストレーションを解放する為にパーティを開く。
1年Aクラスも25日の前日、所謂クリスマスイブにクラスでパーティを行い、多くの死者を出した。カラオケで行ってしまった事が死因だろう。
そしてその翌日となったクリスマス当日。人気者の櫛田はもちろん、天白と愉快な仲間たちもそれぞれのグループでクリスマスパーティーを行い、櫛田あたりは様々なところに顔を出した為分刻みのスケジュールが組まれる等大忙しであった。
その夜。日もとっぷりと暮れ、宵闇が彼方を埋め尽くした20時過ぎ。
天白ルームに、四人の少女が集っていた。
「めりーくりすまーす!」
「……わー」
櫛田主催、親友たちとのクリパである。
クリパと言っても小規模な物で、寝巻きを着ている訳では無いがパジャマパーティーのような様相となっている。この後は天白ルームで寝泊まりする予定の為なおのこと。
参加者は主催の櫛田、天白と――
「メリークリスマス」
「め、メリークリスマ――きゃっ」
堀北、そして坂柳の計四人である。
一之瀬や佐倉、軽井沢等は声をかけたものの、遠慮からかこのプチパジャマパーティへの参加は辞退していた。
ローテーブルにケーキやジュースが並び、各々が手元のクラッカーをパンと鳴らした。色とりどりの紙吹雪が舞い、仄かに火薬の匂いがあたりに広がる。
堀北は中学時代に何度もこの三人で小規模パーティーを行ってきた経験もありクラッカーを鳴らす手際も慣れたものだったが、坂柳は初めての経験に恐る恐る紐を引っ張り、思いの他大きな音がなったのでちょっとびっくりしていた。かわいいね。
にまにまとした生暖かな目線が向けられていた為、坂柳は取り直すように咳払いをした。
「こほん。それにしても、桔梗さんお疲れ様でした。今日一日引っ張りだこでしたね」
「ありがと~有栖ちゃん。確かにちょっと疲れちゃった」
櫛田は一年生の主グループ(軽井沢や一之瀬等)だけでなく、上級生の催しにも声をかけられており顔を出していた。
よくわからないが新生徒会長がやたらと好意的で、また聞き上手であった為天白とのエピソードを余すところなく語ってしまったのは記憶に新しい。*1
一年生の情報網構築は完了しており、後は上級生に侵食していく予定だったので都合が良かったのだが。実際に新生徒会長を始めとした中核メンバーに顔を売れたのは大きい。
ただし、さすがのコミュ力おばけといえども著名人の様にあちこちに顔を出しては挨拶と顔売りを日に何件も熟せば疲れも出てくる。
出てくるがつい先程天白に膝枕されながら頭を撫でられた事で全て吹き飛んでいる。兵站補給路が強すぎる。
というわけで、この小規模クリパは櫛田お疲れ様会の意味合いもある。既に夕飯は軽く済ませてあるので、ケーキを食べてジュースを飲みながらのんべんだらりと過ごすのだ。
「あ! そうだ。先にプレゼント交換しちゃおうよ」
お泊り会しようよという誘いをかけたとき、お互いプレゼントを送り合おうという事で合意しており、各自で休日などにクリスマスプレゼントを買ってあった。あまり高級な物を送るのもあれなので、常識的な範囲内でという約束のもと。
櫛田の音頭に、それぞれカバンから小包を取り出し――いやまて、なんか一人だけでかいのを持ってきているやつが居る。
「……鈴音ちゃん、それは一体何……?」
「これ? これは百合へのプレゼントよ」
「えぇ……?」
櫛田、天白、坂柳が出したのは長方形や円形という違いはあるがどれも小さな包だ。緑やピンクの包装紙で包まれ、赤いリボンが可愛らしく結ばれている。
が、堀北が取り出したのは、三人の全ての小包を重ねてようやく届くかといった大きさのもの。天白へのものという言葉通り、あと二つプレゼントらしきものが両脇におかれているが、そちらは常識的な大きさであるといえる。
「えぇ……? 鈴音、これ……えぇ……?」
「? どうかした? 別に変なものではないと思うのだけど……」
「いや、明らかに大きいじゃん。これで変ではないっていうのは無理だよ鈴音……」
とりあえず天白は受け取った大きなプレゼントを手に持ち、こつこつと叩いて確認している。
「……硬い。それに軽い。……何が入ってるんだろう」
「聞こえた音からして、何か木箱のような物に入ってるのでしょうか……」
出だしから少々不穏な空気が醸し出されてしまったが、ひとまずは各々にプレゼントを渡していく。
プレゼント交換は開封の儀が一番の盛り上がりポイントだ。誰がどんな物を受け取ったのか、一つ一つ開けて確認するのはなかなかに楽しい。
が、今は机の上に鎮座しているでかいやつがやたら存在感を発しているため、妙な緊張が一名を除いて走っていた。
「……じゃあ、とりあえずわたしから……。鈴音ちゃん、あけていい?」
「ええもちろん。喜んでもらえると嬉しいわ」
堀北はなぜか自信満々だ。
天白は何が飛び出て来るのだろうとおっかなびっくりしながらも丁寧に包装を剥がしていく。
そして現れたのは――箱。
肌触りもよく艶のある、桐箱。いよいよもって何なのかがわからなくなってきた。
「……き、桐箱? え、鈴音ちゃんこれ高いものじゃないよね……?」
「ああ、桐箱は別に買ったのよ。数万するものとかではないから安心してちょうだい」
この時、堀北以外の脳内ではこれは一体何だという予想が繰り広げられていた。
候補① 実は可愛らしいぬいぐるみ。箱の大きさ的にぬいぐるみが入る余地はありそうだ。包む時にそのままだとくしゃくしゃになってしまうので、箱に入れたと言うのであれば辻褄は合う。何故桐箱なのかという事は置いておく。
候補② 瓶のジュース類。候補①同様に、包やすさという点と、あと割れ物であるため桐箱に入れるのはおかしくない。おかしくはないがクリスマスプレゼントとしてはちょっとおかしい。お中元じゃないんだぞ。ただ、持った時に感じた重さから違うのではないかと天白は予想している。
この二つのどれかであればまあ分かる。どちらも天白に送るにあたってイメージはぴったりだ。
送り主が堀北でなければ。
このコミュ障は足つぼでよがり囁き罵倒とくすぐりでイき、中学生の時はラブレターのような方法で連絡をよこしてきた。
中学生の時は大勢でのパーティに参加しており、プレゼント交換も対象が多数であったため無難な物を送っていた記憶がある。だが、個人に対してのプレゼントを送るという経験は初めてでなかろうかという不安が大きいのだ。
ごくり、と天白が恐る恐る桐箱を開けると――
まず目に入ったのは、赤い色をしているということ。
それは長く、太く、丁寧に巻かれている。
蝋でも塗られているのか、やや光沢のあるそれはルームライトをわずかに反射していた。
一言で言ってしまうと。
桐箱の中に鎮座していたのは『麻縄』だった。
高級蜜蝋なめし麻縄~朱染~ お値段ぽっきり3800ポイントである。
「変なものじゃないのよぉーーーーっ!!!!」
櫛田、キレた!!!!!
「変なものじゃないわよ! これは、その……」
「その、何!?」
「ほら、最近百合がよく縛ってくれるのだけれど、普通の麻縄だとチクチクしていて百合の手が傷ついてしまうのではないかと思って……ほら、蜜蝋コーティングしているから手触りいいのよこれ。ちょっと残念だけれど」
「完全にあんたの趣味じゃない!!!!」
「し、私利私欲のこもったクリスマスプレゼントです……」
坂柳もドン引きであった。
しかし天白は違う。お出しされたものがどストレートにアダルトグッズだった為面食らったが、それでも嬉しそうに微笑んだ。というかどこで買ったんだこんなもん。
「……鈴音ちゃん、ありがと。わたしの為にって気持ちはすごく嬉しい」
「百合……っ!」
良かれと思って買ったプレゼントに櫛田がきゃんきゃん噛みついて来たので「また何かやっちゃいました?」と不安になっていたところに、天白の嬉しい発言。これには堀北もきゅんと胸を掴まれた。
……天白の上手いところは、プレゼントそのものに対しての感想ではなく、プレゼントを選んだ堀北の気持ちに対してお礼を言うことで絶妙に論点を逸らしたところだ。流石にアダルトグッズをプレゼントされたのは天白もびっくりしていたので。
「百合がそう言うならいいけど……。もう、他の人にはこういうの渡しちゃダメだからね鈴音。流石にドン引かれるよ」
「当たり前よ。百合以外にはきちんとリサーチして普通のプレゼントを選んだわ」
「そこまでしておいて何故これをチョイスしてしまったんでしょう……いえ、当人たちが納得しているのならいいですが……」
やいのやいのと麻縄プレゼントショックについて意見を交わしていると「じゃあ」と堀北が櫛田を見た。
「そういう貴女はどうなの? 百合へは何を渡したのかしら」
「私のは普通だよ! ちゃんと考えて選んだんだから!」
櫛田は心外だとばかりに頬を膨らませて怒ってみせた。
坂柳視点ではちょっと怪しい気もする。なにせ、天白が絡むとポンコツになるのはどちらも同じなので。尚、坂柳も大概である。
「……じゃあ、次は桔梗ちゃんのを開ける。いい?」
「うん! さあさあどうぞ!」
櫛田が送ったプレゼントは、外観は普通のプレゼントに見える。長方形で、やや小さめ。黄色の包装紙にピンクのリボンが結ばれており、手に持った感じだと結構軽い。
アクセサリーか何かだろうか。天白はわくわくしながら包装を解いた。
現れたのは――
「…………耳かき?」
名人製、最高級耳かき。お値段据え置き4000ポイント。
変ではない。いや、変ではあるが、先の麻縄と比べれば普通――いや普通か? 祖父や祖母に送る父の日母の日のプレゼントじゃないかこれは。
何故これを選んだのか。そう問いかける堀北の視線に、櫛田は胸を張って応える。
「そう! 普段やってもらってる耳かきが凄いから、是非って――」
「変なものじゃないの!!!!!!」
堀北、キレた!!!!!
「あ、あ、貴女!! よくそれで私のプレゼントに言いがかりつけられたわね!!!」
「緊縛グッズよりマシでしょーっ!?」
「あの……どっちもどっちかと……」
どちらにしろ自分に使ってもらう用のグッズだった。そろそろ天白は怒っていいのではなかろうか。
しかしこの天白、これにも嬉しそうに微笑んだ!!
「……ありがと、桔梗ちゃん。これで一杯気持ちよくしてあげるね」
「はぅっ……ゆ、百合ぃ……♡」
はいチョロい。
猛犬櫛田もこれにはノックアウト。今にもヘソ天して完全降伏してしまいそう。
「……最後、有栖ちゃんのも開けていい?」
「え、あ、はい。……ただ、なんというか、お二人のと比べてしまうと少々オチに欠けてしまうかもしれませんが……」
オチってなんだ。コントやってるんじゃないんだぞ。
坂柳からのプレゼントは、櫛田からのものと同じくらいのサイズだった。
流石に二人ほど性癖をこじらせてはいないだろうと、天白は安心しながら封を開けた。
出てきたのは、透明な――コスメグッズだろうか。小瓶サイズの何かが二つ。
「……えっと、HESOGOMA BUBBLE CLEANER……。へそごま……?」
「はい。おヘソ掃除の時に良いと店員さんに聞きまして――」
「「………………すぅーっ(大きく息を吸い込む音)」」
堀北と櫛田がキレるまで、あと3秒。
◇
ひとしきり騒いだ後、天白と櫛田は自動販売機に飲み物を買いに外へと出ていた。
「……んふ、ふふふ」
「もう百合、笑いすぎだよ……ふふ」
天白へのプレゼントがあんまりにもあんまりであったが、それでも三人がぎゃーぎゃー言い合っているのを見て天白はついおかしくなってしまい、大笑いした。
天白がお腹を抱えてけらけらと笑い転げるのは珍しく、三人は一瞬呆気に取られはしたが、天白が楽しそうに笑ってるのを見てつられて全員で笑ってしまったのだ。
ちなみに、その後の開封の儀で飛び出てきたのは普通のものだった。天白からはそれぞれの好きな色で作られた万年筆。櫛田からは人気のコスメグッズ。堀北からは本の栞で、坂柳からはケヤキモールのスイーツバイキングで使えるチケットを。
なんで天白にだけゲテモノを送りつけたんですか……? 愛ゆえ……だろうか。
防寒着を着込み、マフラーもつけているがそれでも冬の夜は冷える。天白と櫛田はお互い身を寄せ合い、手を繋ぎながらも乾き透き通った寒空の下を歩いていた。
その時、天白の鼻先に白い小さな塊が舞い降りた。
「……あ、雪だ」
「わぁ、すごい。ホワイトクリスマスなんて素敵だね……」
上を見上げれば、しんしんと粉雪が舞い降りている。
都内ではめっきり雪が降らなくなり、久しぶりに見る幻想的な光景に二人は立ち止まって雪の降る夜空を見上げた。
「……ね、桔梗ちゃん」
「なに――」
天白に呼ばれ、顔を向けたその一瞬。櫛田の唇を柔らかな何かが触れた。
驚き目を開く櫛田に、天白は悪戯が成功した子供の様に微笑んだ。
「……大好き」
「私もだよ、百合」
お返し、とばかりに今度は櫛田から口づけを落とす。
あたりは夜の静けさに包まれており、二人の愛の証明は夜空だけが見守っていた。
「……やっぱり、恋人同士にはならない?」
「うん……少なくとも、今は」
かつて、高校に進学してからそういう話題になったことがある。
お互い勘違いの仕様も無いほど好意を抱いており、そしてそれは友愛や親愛ではなく、惚れた腫れた――恋愛によるものであると確かめあった。
両想いであるわけだが、それでも一線を超える――関係性を変えるような事はしなかった。
櫛田が待ったをかけたのだ。
その理由は――
「だって……こんな閉じた環境で恋人になっちゃったら……色々我慢できなくなっちゃうから」
周りの目が気になるとか、醜聞がどうとか、そういう問題ではなく、ただの本人の自制心が限界だからだった。
「……わたしも、所構わず襲っちゃうかも」
「そんなのっ……拒否出来ないよ……っ!」
「桔梗ちゃん……」
「百合……」
くそボケ共め。
・天白へのプレゼント
あまりにもあんまりなので、後日普通にプレゼントを贈りなおされている。
受け取ったアダルトグッズ類については私室に保管しており、各自へのご褒美として今後たまに使用されるようになるとか。
・恋人にならない理由
爛れた生活になってしまうからという、バカップルも助走つけて殴るようなとんでも理由。
なお、恋人になってしまった場合、裏のように天白がサキュバス化してしまい、櫛田だけでなく被害者を拡大していくようになるのでこの警戒は間違っていない。
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