コミュ力おばけと幼馴染(♀)がイチャコラするだけの話 作:百合好きの獣
A.お兄様しか見えてなく、急に突き放されてオロオロしてる時に彗星の如く現れた二つの光に目を焼かれて少し社交性が増した。精神的な重圧が無くなったので、憧れのお兄様と同じ学校に親友と進学できて浮かれて調子に乗ってるため
Q.なんで堀北回じゃないの?
A.いずれ分かる。いずれな……
高評価、感想ありがとうございます。お陰様でルーキー日刊に載る事が出来ました。
坂柳回です。長くなってしまいました……
「……どうぞ」
「お邪魔します」
櫛田が天白と共通の親友――堀北と、Dクラスの綾小路と邂逅を果たしている頃。
天白はというと、同じクラスに在籍する少女を部屋に招き入れていた。
上質な絹のように輝く銀糸の髪。切れ長の目は葵色で、意思の強さを表す様に光を宿している。
全体的に小柄で華奢ではあるが、それでもなお美しいという感想が出てくる程の美貌の持ち主。
櫛田よりも綺麗な堀北。その彼女でさえも凌駕しかねない容姿を持った少女の名は、坂柳有栖。
「……足元、気を付けて」
「え、ええ。ありがとうございます……」
坂柳は足が産まれつき不自由であり、常に杖をついて歩行を補助していた。
奉仕種族である天白がそれを見逃すはずは無く、入学式初日にふと視界に映った瞬間には駆け出し、あれこれと補助をするようになっていた。
これには坂柳もびっくりである。
これまでも、杖を持っていることから良心を持った人物から補助を申し出られた事はあったが、誰もが一度坂柳を視界に入れてから少し悩んでいる様子を見せており(悩みながらも補助を申し出てくれるあたり、やはり心優しい人物達であったが)、ここまでノータイムで飛び込んできた人物は初めてだったから。
もはや反射の域ではなかろうか。熱い物に触れたら手を離すように、思考ではなく脊髄で行動を起こしていた。なんだその怪物。
実際には天白にも多少の思惑はあった。
足が不自由そうな人が居る→助けてあげたい→仲良くなれるかもしれない→結果的に桔梗ちゃんとの野望に一歩近づくといったロジカルだ。
どちらかというと思惑より先にお助け精神が発露しているような気がするが。
そんなこともあり、天白は坂柳とクラス内の自己紹介前から交友を結ぶ事が出来ていた。
天白が櫛田を紹介しないはずが無く、自然と櫛田と坂柳も連絡先を交換し、無事に友達となっている。
そういう意味では、この学校に来て初めて出来た友達が天白も櫛田も坂柳という事になるだろう。
それからも天白は悉く坂柳の世話を焼きたがった。
朝は早朝から起床し、朝食の準備を終えた後は部屋で眠る櫛田を起こし(当然のように天白の部屋で寝泊まりしているが何も言うまい)、二人で朝食を取り登校の準備をしたら、坂柳を部屋まで迎えに行く。
坂柳の歩くペースに合わせながら一緒に櫛田と三人で登校し、移動教室があれば同様に手を差し伸べる。
授業が終われば、坂柳を自室まで送ってから、場合によっては寄り道に付き添いながらも共に下校をする。もちろん櫛田も共に。言うまでもないが。
余談ではあるが、入学してから10日程経過した段階で、坂柳、天白、櫛田の三名はその容姿も相まってAクラスでも評判の存在となっていた。特に天白は坂柳と同程度に身長が低く、可愛い×可愛い×可愛いと可愛いのジェットストリームアタックと化している。見たものはあまりの可愛さの光に目を焼かれ櫛田の友達となる。
坂柳にしてみれば、突然現れた全自動お世話マシーンの天白に戸惑いっぱなしである。
それが「ハンデを抱えた生徒にやさしくしている自分」に酔っているだとか、「可哀想だから手伝ってあげよう」といった哀れみを持っていたのであれば不快感を抱き、あらゆる手段を用いて潰してやろうと考えていた所だろうが、天白から感じ取れるのは驚きの100%善意。利己的であるといえばそうなのだが、純度100%で「大変な思いをしている人を助けたい」といった感情であることが坂柳アイによって導き出されていた為、なんでこの人はこんなに尽くそうとしてるんだろうと困惑必至であった。
しかもやたらとこちらのやりたいことを汲んでくるし、手際が良すぎる。あまつさえ何も受け取ろうとしない。ありがとうという言葉でさえ、嬉しそうにするものの「受け取って当たり前」ではなく照れくさそうに笑うのみだ。
『誰かを助けるのに理由がいるかい?』と言葉を残した盗賊団のいち員もご満悦である。
その理由については説明は簡単だ。
もともと誰かの為に何かをすることを苦に思わない――むしろ楽しく思うような世話焼き体質であり、それが中学生の三年間で天白セラピー、または天白メンタルクリニックと呼ばれるお悩み相談室により、天白の中では困りごと=手助けという図式が習性レベルで染み付いてしまっていたのだ。
まさに奉仕種族である。なお同族は今のところ確認されていない。
坂柳が困っていたのは、そんな得体のしれない謎の奉仕種族におはようからおやすみまでお世話をされるようにあっという間になってしまった事であり、さらにそれをどこか心地良いものとして認識してしまっている事だった。
坂柳有栖、15歳。生まれつきのハンディキャップを抱えており、少なくない悪意を幼少期にぶつけられた事もある。父の仕事を間近で見て、社会の闇を垣間見た事もあった。
そんな彼女が産まれて初めて出会った、純粋な優しさから無償で寄り添い支えてくれる存在に出会ってしまった。触れ合う事の温かさを知ってしまった。
坂柳有栖は確かに、この天白百合という少女に惹かれ始めていた。
ただしまだ堕ちたわけじゃない。自分はそんな安い女じゃないと坂柳は理性を保っている。
自分はちょろっと欲しい言葉を囁かれただけで完堕ちなんてしない。甘く見ないでほしい。
「……ん。座ってちょっと待ってて。飲み物は紅茶でいい……?」
「アッ温かい手……んん”っ! はい。お願いします」
そっと触れた手の温かさに胸がトゥンクとときめいてしまったが問題ない。
問題ありませんとも。
キッチンに立ち薬缶で湯を沸かしている天白を横目に、坂柳はぐるりと部屋の中を見回した。
共通の家具については特に手を入れられている様子は見えないが、小物が多いような気がする。
「……あら?」
見た限り、小物の種類が統一されていないように思える。
自室のインテリアというのは大抵はその部屋の主の好みに寄って来る。
坂柳の目から見ると、この部屋には趣味趣向が二人分は存在しているような……。
ハッとしてキッチンに目を向けると、マグカップはまだしも食器、箸などが二セットあるのが目に入った。
「あの、天白さん」
「……何?」
「櫛田さんと普段から共に生活をされてますか?」
「うん」
即答だった。
何か問題が? というような態度だ。いや、別に同性であれば泊まりも問題ないけどさぁ……。
「……そうですか」
「うん」
「……もしかして、お付き合いされてますか?」
「……ん?」
「その、櫛田さんと交際を……。いえ、そういった愛の形というのも良いと私は思いますが……」
いくら幼馴染とはいえ、自室に二人分の生活雑貨をそろえるレベルで寝泊まりをしているのは普通ではないだろう。
というかよく見れば枕が二つある。寝泊まりどころか同棲しているのではと坂柳は勘繰った。正解である。
同性同士の恋愛について、坂柳は偏見を持たない。そもそも偏見を持つ程ノーマルな恋愛観があるかも怪しいので、当人同士が納得しているのであればいいんじゃない? 程度の認識だ。
しかし人によってはコンプレックスとなっているとも聞く。その為少し慎重にけん制を入れつつも問いかけたわけだが。
「……? 別に、付き合っては、無い」
「……そ、そうなんですか……?」
「……うん。桔梗ちゃんは、幼馴染」
その距離感で幼馴染は無理でしょと、二人と付き合いが長い堀北ならば突っ込んでいたであろうが、この場に居るのは恋愛経験皆無の素人のみ。
幼馴染も居ない為、「そうだったんですね……なるほど……」と変な認識をしようとしていた。待ちたまえ。この二人の距離感がバグっているだけで君は正常だ。
「……お待たせ」
「あ、どうも……」
幼馴染ってそうなんだ……と坂柳が誤った知識を更新している途中で、紅茶を淹れ終えた天白が坂柳の前に湯気の立つカップを置いた。
幼馴染同棲ショックから立ち直れていない坂柳は促されるままそれを口につけ――
「あ、美味しい……」
「……ありがと」
思わず素直に感想を口に出してしまい、それを聞いた天白がふにゃりとはにかんだ。
気恥ずかしくなってしまい、ぷいと顔を逸らした坂柳の頬は薄紅色に染まっていた。それでもずずと紅茶を口に含むのを辞めない。
紅茶を飲みなれている坂柳は、茶葉自体はその辺で売っているインスタントのものだろうとアタリをつけた。しかしそれにしても美味いのだ。
「淹れ方を工夫されているんですか?」
「……そう。カップを温めたり、中で蒸らしたりの簡単なものだけど」
「それでも立派です。インスタントであってもおいしく飲もうという気概は好ましく思えますね」
「……照れる」
言われた天白は言葉通り照れ、それでも本当に嬉しそうに表情に朱を差しながらえへへと頬を掻いた。
(可愛らしい仕草ですね……これで狙ってやっていないのだとしたら才能なのでしょう)
ピロン、と坂柳の好感度ポイントが上昇する音がどこかで鳴った気がした。現在80ポイント。最大値は100である。
「……それで、私だけにしたい話って……何?」
す、と居住まいを正した天白に、坂柳もつられて姿勢を伸ばして表情を引き締める。
「……天白さんは、出身の学校が福島県にありましたよね」
「……? うん」
「そこにはずっと住まれていたのですか?」
「うん」
そこまでを確認した後、坂柳は恐る恐ると、何かを期待するかのような声音で、こう問いかけた。
「……天白竜太郎という医者の名前に、聞覚えはありませんか」
「……!!」
天白竜太郎。
日本どころか世界中に名を知られる胸部心臓外科医であり、天才的な腕を持ち数々の難しい手術を成功させてきたその道の権威である。
そしてその男は――
「……わたしの、お父さんだよ」
「……! ああ……! やはり……」
天白百合の、実父だった。
「私は生まれつき、心臓に疾患を抱えていました」
坂柳はぽつぽつと語り始めた。
先天性心疾患であり、産まれてから今まで心臓に負担をかける行為――運動等の一切を禁じられ、その影響で足にハンデを抱えてしまったこと。
そして、中学生の時に天白竜太郎による外科手術を受け、それが無事成功したこと。
「その手術のお陰で、私は普通に成長をすることが出来るようになりました。軽い運動程度であれば許されるようになったのです。一生の付き合いになるはずだった足のハンデも、成長をすれば軽減……されると……」
坂柳は語る内に、感情が溢れ出してしまったのか、ポロポロと涙を流し始めた。
流石に天白も慌てて駆け寄り、頭を胸に抱いてあやすように背中を撫でる。
「ずっとずっと……お礼を言いたかったんです……! 手術後に目が覚めた時にはもう別の場所に向かわれていて……連絡をしようにも、分かるのはあの人のプロフィールしかなくて……私を助けてくれた方に何も言えないままで……どうしたらいいのかも分からなくて……」
『天白』という名字は国内でも珍しい部類にあたる。その数は全国でも1200人程度しか存在しない。
そして天白竜太郎の出身地は福島県であることは、調べるとすぐに出てきた。福島県に居る『天白』の姓を持つ者は――たったの10名程である。
そのため、初日の自己紹介時に天白の出身が福島県にある中学校だと知り、もしやと思えば大当たりだった。
坂柳有栖は天才である。
非常に幼い頃――それこそ、物心ついて間もない頃には大人びた思考を持ち、一を聞いて十も二十も知る神童だった。
しかし、心臓の病と足のハンデというそれだけのウィークポイントで、幼少期は奇異の目に晒される事が多かった。
坂柳にとって満足に動かない身体と言うのは強いコンプレックスになっていたのである。
時間はかかるものの、それらが取り除かれると知った時の坂柳の気持ちは語るまでも無いだろう。
天白はえぐえぐと嗚咽を上げ始めた坂柳を抱きしめ、優しく背中を撫で続ける。
「……実を言うと、わたしが入学式初日に坂柳さんを見つけたのは偶然じゃない」
「…………え?」
天白から告げられた言葉に、坂柳は胸に埋めていた顔を上げて疑問符を零した。
「……わたしがこの学校に入学すると家族に報告した時、理事長の娘が同い年で入学してくるかもしれないと言っていた。そしてその子は足にハンデを抱えているから、できるだけ力になってあげて欲しいと」
胸にするりと滑り込んでいくような、不思議と落ち着く声音で天白は続ける。
「……お父さんは言ってた。自分がもっと早く対応できていれば、今頃普通の高校生として過ごせていたと」
天白竜太郎は坂柳有栖の事を覚えていた。
高名な人物の一人娘であり、術前に交流があってその少女の優秀さも聞き及んでいた。
大分娘自慢に寄っていたがと天白竜太郎は苦笑していたが。
尚、竜太郎自身も大概娘を溺愛している。
例え激務で方々に行かなくてはならなくとも毎日必ず連絡を寄越してくるし、月に一度は無理やり時間を作ってまでも娘に会うために自宅に帰っている。
そんな目に入れても痛くない程に可愛い可愛い一人娘が、高度育成高等学校という三年間は外部との連絡も取れない全寮制の学校に入学すると知った時の荒れようは酷かった。
大の大人が「やだやだ」と転げ回りながらダダを捏ねる姿は普通に地獄の光景だった。
「……そんなことありません。あのままであれば、誰かの介助が無ければ一人で生活することすら難しかったのですから。それが今なら、制限こそありますが人並みの生活を送れるのです。これ以上、何を望む事がありましょうか」
しかしそんな事をつゆも知らない坂柳は、ただただ感謝の気持ちを恩人の家族へと伝える。
「卒業後になるでしょうが、貴女のお父様にお伝え下さい。私は、貴方のお陰で元気に過ごせていると」
「……うん。分かった。伝えておくね」
「ああ、やっと言えました……本当であれば、直接お伝えしたかったのですが……」
「……卒業したあとでよければ、会う? いつ会えるかは、お父さんの都合次第になっちゃうけど」
「よろしいのですか……! ぜひ、お願いします」
そう言って、坂柳は胸のつかえが取れたかのように、華やかな表情で破顔した。
◇
「ところで、私が天白さんをお呼びしたのは、もう一つ理由があったんです」
話が落ち着いた頃に、坂柳は涙で潤んでいた目をハンカチで拭いながらそう切り出した。
「先程お話した通り、私は生まれつき心臓に疾患を抱えていました。天白先生の手術で治療したことで、様々な制限が無くなりました」
「……うん」
「例えば運動ですね。まだ足は上手く動かないのでスポーツなどは出来ませんが、それでも上手く行けば、高校生活中には杖の補助無しで歩くことが出来ると主治医にお墨付きを頂いています」
「うん」
「なので、今まで出来なかった事をこの機会に経験したいと思いまして」
なるほど、と天白は頷いた。
彼女は自分にその補助をして欲しいのだろう。歩く事が出来なくても出来る運動はいくつもある。櫛田や堀北に協力してもらえば更に選択肢も増えるだろう。櫛田コミュニティを使ってフレンズを集めれば、大きな規模で遊ぶ事もできると天白は思案した。
なので、続けられた言葉が少々予想外だった。
「それで……その、天白さんはマッサージが特技と自己紹介の時に仰っていましたね」
「……? うん。民間のだけど、資格も持ってる」
やるならば専門的な知識も必要だろうと、母親に頼み込んでとある社団法人の会員となり、受験をした経緯がある。
しかしそれがなんの関係があるのだろうかと天白は首を傾げた。
「あの、よろしければ……私にマッサージをしていただけませんか?」
恥ずかしそうに頬を赤く染め、おずおずと申し出てきた坂柳を見て、天白はようやく彼女が何故こんな事を申し出てきたかを理解した。
マッサージは身体のコリを解し筋肉の疲労を軽減するわけだが、そもそもとしてその根幹には血流の促進が関わっている。
心臓に負担を掛けることが出来ない、心疾患を抱えた患者に対するマッサージなどは絶対に行ってはならない。そのため天白は坂柳と仲良くなる事に対してマッサージという手段を選択肢から除外していたのだが、問題が無くなったのであれば構わないだろう。
「……ん。分かった」
「本当ですか!? ああ……とても、楽しみです」
どんな心地なのでしょうと目を輝かせた彼女は、言葉通りにマッサージへの期待感に胸を躍らせていた。
そこまで楽しみにされては、こちらも気合が入るというもの。まずは実際に少し触れてみて、何が必要かを考えようか。
「……あ、そういえば」
「どうされました?」
突然思い出したように声を上げた天白に、坂柳が疑問を返す。
「……名前」
「……?」
「……わたしのこと、『天白さん』じゃなくって、名前で呼んで」
その言葉に、坂柳は目を見開いて驚いてみせた。
そんな彼女の様子に、天白はふにゃりと相貌を崩して微笑んだ。
「……わたし達、もう友達――ううん、親友、でしょ?」
「――! ええ、では、百合さん、と……」
「よろしくね、有栖ちゃん」
こうして、天白は二人目の、坂柳にとっては初めての『親友』が出来たのだった。
◇
「それで、私はどうすればいいのでしょうか」
晴れて親友となった二人だが、ご希望のマッサージはこれからである。
一般的に何をすればいいのかといった知識はあるが、実際にはどうしているのかを知らない坂柳は素直に天白の指示を待った。
「……とりあえず、ベッドにうつ伏せに寝て」
「あ、はい」
促されるまま、ベッドへと横たわる坂柳。
天白も同じくベッドへと上がり、膝立ちになりながら軽く触診をする。
首から肩、肩から背中、背中から腰、そして足の様子を天白は軽く押してみたり、手のひらを当てて擦ってみたり、腕や足を動かしてみて可動域を調べたりとてきぱきと坂柳の身体を診断していく。
中学生の頃、天白はセラピストの資格を取るだけでなく、もうちょっと出来るようになりたいと母親の伝手を辿って整体師の手ほどきを受けたことがあった。
国家資格を取得するには専門学校に通わなければならないため、柔道整復師やあん摩師等の資格こそもっていないが、骨格の歪みの少ない学生相手であれば十分な治療を施せる程度には知識と実力を得ていた。
「……ふう。とりあえず、有栖ちゃんには、マッサージというよりは整体が必要な事が分かった」
「整体、ですか?」
「そう」
一通り触診を終えた天白は、一度坂柳の身体から手を離し、結果を彼女へと報告する。
「……外から見てた時に感じてたけど、杖をついてるから利き手側に少し歪みがあった。あと、有栖ちゃんは座る時の姿勢がいいから本当に僅かだけど、首とかも少し」
「なるほど……」
「……ちょっと本格的なやつになるから、今の設備じゃ難しい」
「えっ……そ、そうなんですか……」
ガーン、という効果音がつきそうな位に坂柳はショックを受けていた。
楽しみにしていた遠足が雨天中止となってしまったようなものだ。遠足に楽しみを見出した事は坂柳には無いので、完全に憶測でしかないのだが。
「……なので、今日はハンドマッサージをする」
「ハンド……マッサージ……?」
聞き覚えのないハンドマッサージという言葉に、坂柳の優秀な頭脳がその回答を導き出す。
それはつまり手をマッサージすることでは? と。
心残りの一つが解消できたこと、親友が出来たこと、あとなんかふわふわする声を聞いてしまって坂柳の頭脳は一時的にその性能を大幅に落としている。本来の性能の一割にも満たない。ダメ人間製造機がまた一人ダメにしてしまったのだろうか。
あくまでも一時的なので、後日の坂柳は正常に――むしろかなり調子が良くなっていることを念のため追記しておく。
そのまま楽にしていて、という天白の言葉に従い、うつ伏せのままだらりと両手から力を抜いていると、その手を天白の両手のひらが包んだ。
「……手のひらと腕には、色んなツボがある。それに、手の血行をよくすることで色んな良いことがある」
「例えば、どのような」
「……むくみの解消、ストレス軽減、代謝や免疫力向上。副交感神経も活発になるから、リラックス効果もあるし自律神経も整う」
つらつらと上げるマッサージ効果に、坂柳は素直になるほどと関心を示していた。
出来ることが一気に増えてから、何事にも興味を持つようになったのだろう。その姿を可愛らしいなと思いながら、天白はベッド脇のキャビンから一つの小瓶を取り出した。
「それは?」
「……マッサージオイル。滑りを良くして、マッサージの効果を高める目的で使う」
天白は数滴オイルを自身の手のひらへと落とし、軽く伸ばしてから坂柳の手を取り、塗布していく。
手のひらから甲、指へと満遍なく塗ったり、オイルを足して二の腕までを滑るようにして坂柳の腕に艶を出していった。
「これだけでも、かなり気持ちの良いものですね」
「……良かった。でも、まだこれから」
今度は両手を使って、坂柳の小さな手のひらをゆっくりと指圧していく。
ツボを押し、円を描くように指圧を加え、血管に沿って伸ばすように。
「あぁ……これは……すごいですね。手への圧迫だけなのに徐々に身体が温かくなってきました」
「……血行が良くなった証拠。気持ちいい?」
「ええ……とても……」
坂柳は腕や手から伝わる心地よさ、快感に身を任せうっとりと目を閉じる。
普通よりもちょっと温かい天白の手が触れるたび、ふわふわと夢心地な気分だ。
肉付きの薄い坂柳が痛くないようにと、絶妙な力加減で行使されるマッサージがたまらない。
特に、指の間、親指の付け根、腕の中心の指圧を坂柳は気に入った。あまりの気持ちよさに思わず声をあげそうになったりもしたが、それほどの快感なのだ。
まさかマッサージでアンアンとはしたなく喘ぎ声を上げる者が居るわけはないだろうが、これは広く普及するわけだと思う。
それから半刻程、坂柳は天白によるハンドマッサージを心ゆくまで堪能した。
「……お疲れ様」
「ハンドマッサージ、素晴らしいものでした。……ところで、百合さん」
全身が温まったせいか、じんわりと額に汗を浮かべた坂柳を甲斐甲斐しくタオルで拭いてあげていると、何やら思案げな表情をしていた。
冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターを渡し、続きを促すと坂柳は一つ質問を投げかけてきた。
「本格的な整体をするためには、今の設備では難しいと仰っていましたね」
「……? うん」
「その設備を揃えるためには、費用がかかりますよね」
「うん。結構」
「では、こういった事を始めるのはどうでしょう」
そうして坂柳が話し始めた提案は、その手があったかと天白を驚かせるものだった。
そしてそれが叶えば、中学生の時以上の事をすることが出来ると思い、笑みを浮かべた。
坂柳が無人島特別試験参加フラグ
龍園は死ぬ
ハンドマッサージって気持ちいいんです。
専用の家電も発売される位に。
ソルジャークラス1st(2nd)の人も思わずあえいじゃうくらいに。
追記
天白にとって櫛田は親友ではなく幼馴染となります。
この場合の幼馴染とは限りなく恋人に近い存在の事を指します。幼馴染とは……??
次の日常回何やる問題
-
堀北、坂柳、椎名のビブリオガールズトーク
-
堀北(兄)、南雲の漢祭り
-
きよぽんグループ(外村平田)のオタトーク
-
漢葛城、その苦悩
-
幼馴染と部屋でイチャイチャするだけ