初めての手合わせから半月。夏休みも終盤だ。
それでなんだが、実は一つ問題が。実家に帰らなくちゃいけないことをすっかり忘れてた。
とはいえ、無理もない。なんせ夏休み期間中一度も連絡をとっていないのだ。
それに、この期間中、某もちもち娘と特訓やら個性について話し合って色々と試したりしてみたりと忙しくも充実した日々を送っていたので普通に忘れてしまってたし、そんなことがどうでも良くなってしまうくらいの発見があった。
そう、やっと俺の個性はオペオペと同等の能力である可能性が高いことがわかったのだ。
なんでわかったかって?ずっと特訓していた
つまりは既存の個性からはかけ離れたものであると言える。まあそもそもローの能力の使い方を知らなければ、まともに運用することすらままならなかったはずのものだし
なんで『解析』の習得を優先的にしたか?理由は簡単。六式に必要なものが鍛え上げたれた肉体だからだ。つまりは筋肉。
六式は言ってしまえば特別な能力を必要としない身体能力の延長線上にある技術でしかない。
そこまで気がついた時に閃いてしまったんだ。本当にこの個性がオペオペの実と同じであるのなら自分は改造自在人間ということになる。
………であれば、身体好きなように弄れるのでは?ってね。
◇
突然だが、筋肉には種類があることはご存知だろうか?
一般的には赤筋と白筋と言われていて、赤筋は酸素を多く取り込めるので持久力に優れ、白筋はエネルギーの蓄えを消費するが瞬間的な力に優れることから遅筋、速筋と呼ばれることもある。
つまりだ、その筋肉の割合を必要に応じて自在にコントロールすることができればこれほど頼もしいことも無いのではなかろうか。
それにはっきりと言ってしまえば個性《円》は超人系、こちらの言い方だと発動型個性に分類される。つまりは動物系、異形型個性のように常時身体能力に何かしらの加算がされるタイプでは無いので、通常の戦闘において役立たずだ、しかもオペオペの実自体も戦闘描写が多いので勘違いされがちだが、本来戦闘能力など皆無である。
医療技術を戦闘に応用しているに過ぎない。原理がわからないものもあるって?気にしてはいけない、そういうものなんだ。
で、あるからこそまずは身体に直接干渉するところから始めなくてはいけなかったんだけど、ちょうど良い練習相手がいてくれた。預けられている祖父の家にいる猫のおつるちゃんだ。猫なのになぜ鶴?とは思わなくもないけど、気にしてはいけない。祖父はネーミングセンスがそれはもう残念なのだ。
おつるちゃんはそれなりの歳したおばあちゃん猫で『解析』で見たところ全体的に筋肉が衰えていることがわかった。
それを自発的に運動させることは現実的に厳しいので、自身の中に流れている微弱な電気を個性で増幅し劣化カウンターショックもどきの『電気マッサージ』による筋肉運動を実現させるべく現在誠意特訓中ってわけ。おつるちゃんは凄く賢くて、俺がやることに怯えたりせず身体を預けてくれるから大助かりだ。
おかげで特訓は順調そのもの。『電気マッサージ』を半月継続した結果、おつるちゃんの微量ではあるものの筋繊維の活発化に成功!自分の変化に気がついたのか昔のように散歩するようになった。電気による筋肉の制御はこれからも続けていくつもりだ、練度を上げることで本来の目的である瞬間的な赤筋、白筋の割合操作なども出来るように目指している。
やりたいことができるようになってきたのは良いことだが、忘れてはいけない。夏休みは有限であることを…。
そう、もう夏休みが終わってしまうのだ。宿題?(やって)ないです。まあ事件のおかげで出来るならば、くらいで渡されてるから良いのさ。
この夏休みの間にできた事と言えば、個性制御と個性伸ばし。トレーニングによる肉体の強化、六式の習得、各覇気の習得、申し訳ない程度の医学の勉強。元のスペックを活かした受験勉強、と結構多岐に渡る。とはいえ結局実ったのはそう多くなく、六式、覇気に関してはほぼ進展なしだ。見聞色だけなんとなーく気配読めるかな?くらいにはなったけどね。
ついでに言えば六式も全て覚える必要なくない?と最近思い始めてしまった。鉄塊と紙絵に関してはほぼ使い所無いし。四式使いでも良いかなあ、なんて。
◇
現実逃避もほどほどにしないとね。
記憶を探ってみるに、知ってる原作キャラっぽい人は知り合いにはいないみたいだし、程よく適当に生活しようかなと思う。
ぼっち?いやいや高校受験してしまえばこっちのもんよ(謎の自信)。
え?独り言が長い?
今、そこそこ頑張ってお茶子の攻撃躱し続けてるんだけどなあ。
名前呼び?いつも、おい、とか呼んでだら名前で呼んで!って言われたからつい。
「なんっ…で!半月でこんなに動きが変わるん!」
「常に考えながら動いてるからな。」
「それでこんなになるん?!才能マンやろ絶対!」
「もう10分経った、休憩するか。」
と、言いつつ視線を外してみると。
最初の組み手の時とは違い、声を上げずに音を極力出さないようにして素早く踏み込んできた。まだまだわかりやすいものだけどフェイントも入れている。
「…上々。」
想像以上の成長に思わず笑みをこぼしながら彼女の拳を一歩前に踏み込み捌く。触れた時にパチリ、と音が鳴り彼女の顔が一瞬困惑に染まるも動きを止めることはなく反転し、空いていた左手で裏拳の横打ちをしてくる。屈んで躱してガラ空きになった太ももに触れてもう一度、パチリ。
力が抜けたように座り込む彼女を前にしゃがみ、頭に手をのせる。
「休憩だ。」
「???」
「水とってくる。」
「…??なにこれ?!」
水をとりに戻りながら、笑いの止まらない顔を引き締めようと頑張る。
そもそもな話、出会った時から彼女の戦闘スタイルが個性の発動条件によって接近戦主体になることは簡単に予想できていた。
自分が知っている彼女は雄英入学時点までだが、戦うという行為をいまいち理解できていないといった印象だった。それがどうだ、今の彼女は行動にフェイントを入れることを学び、簡単な痛みや、不意を突くような行動に対して無防備になることを克服しつつある。未だ攻撃を受ける際に目を瞑ってしまう癖こそ治らないものの、原作開始時点よりは確実に強いといえる実力だ。
やっぱり無理。笑いが止まらない…なんせ組み手の回数と彼女の成長速度が比例していないのだ。ちょっと教えただけなのに近接戦闘の伸びが著しい。つまるところ異常なのだ、才能なのか主人公組特有の補正なのか未だ分からないことは多いがワクワクが止まらない。知りたいという思いが溢れてくる。
とはいえ、今は水だ。不自然にならない程度に戻らなくては。
顔を引き締めて戻ってみると柔軟をしているのが見えた。音で気がついたのかこちらを見てくる。
「少ししたら動くようになったけどなんなん?あれ。」
「なんでだと思う?」
「え〜?ピリッとしたから電気な気がするけど…電気?個性は物を動かすだけでしょ?」
「あーそれな、間違ってたみたいだわ。」
「複合個性?それとも複数持ち?」
「んー、複合かな?多分。ちなみにさっきのは微弱な電気を流して運動命令を遮断したんだよ。」
「…運動命令の遮断?」
「腕とか足とか動かすのって脳から指示して動かすだろ?あれは電気信号なんだ。だからそれを邪魔してやれば?」
「…身体が思うように動かせなくなる?」
「その通り、触らなきゃ無理とはいえ便利だろ?」
「なんなんそれ、強個性すぎるやろ…。」
「いやまあ、個性は使い方次第ってな。」
水を手渡しながら詳しく説明するとすぐに理解してくれた。さすが未来の雄英生、頭の回転が早い。
この技術はおつるちゃんを治療していた時に偶然できたものだ。こういうものがあるとは知っていたものの自分ができるとは思っていなかったので棚ぼただった。
「まあ、今日で最後だからな。サービスだサービス。」
「喜んでいいのか複雑~。でもありがとね、おかげでだいぶ強くなれた!前と明らかに違うもん!」
「ご褒美は膝枕でいいぞ。」
「しやんよっ?!」
「じゃあいいや。」
「ええんかい!…なんかこれはこれで気に食わんな…。」
「次会うときは入学式か、楽しみだな。」
「その切り替えの早さなんなん?…もう受かった気でいるん?慢心はいかんよ?」
「分かったわかった、……じゃ、そろそろ帰らないと。」
「うん、またね!入学式で!!」
いい笑顔でずっと手を振っているお茶子を見て笑いながら帰路につく。
なーんか忘れてるんだよなあ。
……あ、母さんのこと完全に忘れてた。
やっっべ。
どうしよう