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イシュタル、私の妻の親類たる雷神。
――賭けは、わたくしの勝ちのようですね?――
雷の神器の使い手、彼女と私の兄、アルヴィスの息子たる。
――よし、ゲームは終了だ――
ユリウス皇子、彼の神器。それに対して、私は何か「違い」のような物を感じていた。
――雷の神器は、良くも悪くもフォルセティのそれと同質だ、しかし――
単に魔法の種別や、神器その物の強弱ではない。
――対して、ユリウス皇子の神器、いや、彼自身が、何か――
違いを、別の異質さを私に感じさせていた。
――――――
そして今、その異質さが解った。
――兄は、ファラフレイムを使いこなしているのではない!!――
その、顔中身体中に汗を流している私の目前で焔に、白く焔に包まれていく兄の躰、いや。
――兄が……!!――
深紅の、燃え盛る炎の翼を持つ、歪な物。
――ファラフレイムそのもの、なのだ!!――
人ではない、炎の肉体を持ち、獰猛たる鷹を彷彿とさせる、怪鳥の面。
――兄そのものが、ファラフレイムと同化しているのだ!!――
神器の、使い手の力量を問われるうんぬんではないレベル。
――イシュタル殿も、セティ殿も、歴代で最強の神器の使い手――
顕現する、燃え盛る炎の不死鳥。微かにトラキアの飛竜、それの風貌がありながら、全体的な姿は、歪に極まりない、鳥類の勇姿。
――しかし、あのユリウス皇子と、兄上は、使い手という、人間の評価を超えている――
いつかみた、降りしきる雨と、漆黒の泥沼、そこで蠢く私が見た、あの覇王の鳥。
――この二人は、神器を使っていない――
「……もはや、使いこなす必要が、ないんだ、兄上は……」
――さあ、アゼルよ――
耳、ではない。
――遊びは終わりだ、弟よ――
――頭に、直接聴こえる――
その不死鳥からの声が、兄の声が、耳障りな雑音を伴った、兄の声が。
――……あれ、は?――
太陽が翼を拡げたかのような、その不死鳥の胴体中央に位置する。
――何だ?――
そこだけが、蒼く。
ドゥク、ドゥウ……
と、律動する、薄く光る「蒼」で出来た炎の塊。
――心臓、なのか?――
そう、まさしく巨鳥の心臓のように見える部分。そこから、兄の声が聴こえてくる。
――では、行くぞ!!――
その、兄からの「声」と同時に。
コゥア……!!
焔の鳥のくちばしが、大きく開かれ、そして。
ザァ、ア!!
「火炎の息!?」
いや、これは、不死鳥の口から吹き出された、大気そのものが圧迫される程の、威圧感は。
「……違う!!」
――――――
――下級の魔法はファイアー、中級はエルファイアー、そして最上級はボルガノン――
――……続けて下さい兄上――
――炎は、雷に速度で切り裂かれ、弱くなり――
――雷は、風にその構成物質をかき乱され、弱く――
――風は、炎により熱を持ち衰退し、弱い――
――……なるほど――
――光と闇は、その三種全てに有効――
――なぜですか、兄上?――
――光はその先の三種の相克を、有利な要素を取り出して構成される、ゆえに強くなる――
――では、闇は?――
――三要素の不利な面を凝縮させる、光魔法の逆が闇魔法だ――
――そう言う物、なのですか?――
――俺が時々使うライトニング、その光魔法が、なぜ、あたかも雷魔法のような名前なのか、それに答えがある――
――……解ったような、解らないような……?――
――そして、伝説の神器も、この相克からは逃れられないのだよ、アゼル――
――ファラの炎もですか、兄上?――
――まあな――
――――――
それを、兄の教育を私も信じていて、実戦でも同じ結論を出した。
「し、しかし……」
ゆえに私は、擬似的な光魔法を産み出す技を身に付け、これに兄への勝機を賭けたのであるが。
「……これは!!」
その言葉は、理屈は人間の魔道士だけで通用する、魔法の理論だ。
ザァア、ア……!!
「炎……!!」
ではない、そのような、火や炎など、人の概念で計れる品ではない。
「……兄上の、心!!」
単に、圧倒的な力。
ピィ、ン!!
「……!!」
この戦い、兄との対決に備えて作り上げた防御の品が。
「……まだ、直撃してもいないのに!?」
数々のマジックシールドの護符、それらが全て。
「あの、圧力のみで……!!」
甲高い音を立てて、砕け散る。
「……これが、兄の望んだ力」
今より少し前の戦い、ヒルダ女王との戦いでは。
「………魔法理論の大家であった兄上が、自らの理論すら無視する」
悪しきその女王、私の妻の心を破壊し、そして最後には死へと追いやった、私の血族でありながら、憎し女王。
――ちぃ、私のボルガノンが通じないっていうのかい!?――
あの者が放つ炎の最上位魔法に対してすら、強力な力を発揮した、五枚の護符が。
「……力、理論を越えた暴力」
兄の放った「炎」の余波によって、即座に魔力がパンクし、弾け飛び、そして。
ズォウ!!
「………光の、渦!?」
熱い、を感じている暇がない。瞬時に私の身体を覆ったそれは、苦痛という物すら与えない。
――ウァアア……!!――
消える、私の身体が、あと僅かで。
――アーサー、ティニー、そして……!!――
だが、しかし。
「……!?」
その、亡き私の妻の名を頭に浮かべる直前に。
スゥ……
突如として、止まる兄上からの炎の力、破滅の吐息。
――兄、上?――
シィ……
兄のその双眸、激しく輝く、その怪鳥の眼光からは、何も読み取れない。
――あれは?――
しかし、その兄がさらけ出している。
ドゥ、ドゥク……
兄の心、蒼い炎を放つ「兄」の燃え盛る胴体の中央に位置する、それは。
――何かを、兄は言っている……?――
恐るべき、破壊のみの不死鳥と化した、人の力を超えた兄。
「……だが」
――透き通った、清らかな水を思わせる、あの、蒼い炎の心臓――
そこからだけは、兄アルヴィスの、その烈火の心を感じない。
――兄の心臓、心……?――
いや。
――心、本性……?――
いや、一つだけ、何かを放っている。
「……光?」
そう、私の腕に絡み付いた、ファイアーエムブレムとやらから。
シィ、ア……
放たれる、小さな輝き。
――兄の、蒼い光……――
兄の心臓、それが放つ蒼い光と呼応して、同質の、蒼い光を放っている。
――兄は、これを私に与えた、渡した――
スゥア、スゥ……
静かな、猛火の化身たる兄の身体の中で、その「蒼い心」だけが静かに鼓動し、そして小さく。
リィ、ン……
双方ともに、紋章も兄の「心」も、本当に小さく、輝く。
――……!!――
この紋章とやらと同じ、光。
――地獄の業火の中の、ちっぽけな光――
蒼く、清らかな、そしてあまりにも微弱な、心の光。
――……そうか!!――
見えた、その炎の鳥の心が。
――激しい、兄上の炎、煉獄の魂――
どこまでも拡がる焔の翼、何もかもを、力で支配する事を望み、そしてこの大陸を包んだ、紅き光の翼。
――発散する、拡散する炎の心――
その兄の暴力的で、威圧的な強さの源、それは。
――そして、その炎の中核は――
シィ、ン……
小さく輝く、弱々しい、兄の蒼い心臓。畏怖すべき業火の中央にある。
ザァウ、ア!!
巨大にして、破壊の権化たる焔鳥とは、全くにして似つかわしくない、光。
――そう、それは――
弱さ。
――兄の火炎が、強ければ強いほど――
心から、決して人を信用することが出来ない「弱さ」と。
――そう、その炎が暴力に満ちた物で、あればあるほど――
心の底から、他者に愛を注いでも、その自分の気持ちを、自分そのものを信じられない「弱さ」
――それは、自分を守る、炎の鎧――
この世の理不尽と不条理、その全ての破壊を望みながらも、それを徹底できない兄、なぜならば。
――全軍、総攻撃を掛けよ!!――
――アルヴィス、貴様!!――
――これで最後だ、逆賊シグルドを、討て!!――
無意識に、己もその理不尽を行ってしまう、兄アルヴィスの「弱さ」
――……だから!!――
それが、この恐るべき兄の、強者にて、万能者である、皇帝アルヴィスの「強さ」の原泉。
――だから、兄は、恐ろしい人だったのか!!――
脆弱な、弱々しい自我。
――そして――
そして、今。
――あの、兄の心臓――
兄は、その弱点を自ら私に晒している。
「……しかし、何故!!」
兄が、あの兄がそこまで迂闊な人間なのか。
「弱点をさらけ出す程の、間抜けな人間であるはずが……」
――甘いな、アゼル――
――……!!――
低い、私の心に響く、あの。
――恐ろしい、兄の声――
だが、あの小僧の時分であった時の私が、常に感じていた、兄への畏怖、それは。
――……感じない?――
もちろん、歳のせいも、この戦いという場に、身を置いているという状況で。
――……兄上――
そのような、昔の恐怖を感じている暇はない、というのもあるが。
――兄上、お教え下さい――
スゥオ……!!
兄の、魂そのものである火焔の渦、乱炎のそこから散らばる幾多の火の粉、それらがもたらす凄まじい熱気、そして。
――なぜ私に、このファイアーエムブレムを渡したのですか?――
スゥ、ァア……!!
その焔の凄まじさにより立ち上る陽炎、その揺らぐ熱の帳の中で、私は「なぜ」を問う。
――お前に、俺の弱さを突く、強さがあるか?――
――……あっ――
そうか。
――お前に、余が超えられるか?――
――……兄さん――
これは、紋章を私の手に与えたのは。
――……兄上!!――
兄からの、最期の指導。
「……解った」
兄上の、不甲斐ない弟へ向けての、最後の導きなのだ。
「わかったよ、兄さん!!」
そして、私は光を。
「……集え、我が手に」
シュウ……
私は光を、拡散しつつあった、私の魔力を。
「炎よ、風よ、雷よ!!」
――頑張ってね、アゼル――
キィン……
腕に輝く紋章の力、いや。
――私には、妻を始め、力を貸してくれる人達がいる――
愛する妻が支えてくれる証である、その腕からの暖かな光、それによる助けを借りながらも、魔法を形成し続ける。が。
――しかし……――
その刹那、ふと頭によぎった雑念により。
――しかし、兄上には?――
スゥ……
文字通りに腕が、腕に宿った加護の光が鈍る。
「……」
信念に基づいて、謀略を駆使し人の外道の道を歩み、それでも自分を信じた兄アルヴィス、しかしその挙げ句。
「全てを失った、兄上……」
兄の息子たるユリウス皇子はもちろん、あのアイーダも、ディアドラ様もユリア様もいない、この世でただ一人だけの、孤独な皇帝。
「覇王の、成れの果て、死骸、そう……」
覇骸、全ての人を切り捨て、そして今、この世の全てから不要とされた、覇王の躯たる、兄上。
――ならば、私が手を差し伸ばすべきではないか?――
あの覇骸を、助けるべきなのではないのか?
――甘えるな、アゼル!!――
「……!!」
――お前には、すでに家族がいる身だろう!?――
その兄の叱咤。
――お前は、自分の子供に、試練の一つも与えないのか!?――
――……!?――
――私の「父親」としての義務、それをお前は、自らの子に、何一つ与えないのか!?――
兄の、厳しく冷たい、人を突き放す声。
――アーサー――
それを私は、昔に。
――ティニー、ティルテュ!!――
何十年も前に、聴いた。
――――――
――兄上、私にはエルファイアーなど、出来ません……!!――
――……甘えるな、アゼル!!――
僕は、昔から兄が怖かった。
――出来るまで、今日は休む事を許さん――
息苦しい、兄の姿を見ると、身体がすくみ、呼吸が詰まりそうになっていた。
――さ、これで涙をお拭き下さい、アゼル様――
――……アイーダ――
――はい、何でしょうか、アゼル様――
――僕は、僕のような出来の悪い弟は、兄上の邪魔なんだ――
――……アゼル様――
――何、アイーダ?――
――溺愛するのは、もちろん愛情、しかし――
――しかし?――
――突き放すのも、愛情なのですよ?――
僕は、ヴェルトマーの館の裏庭で泣きじゃくっていた、昔の僕は。
――そんな、こと――
その、彼女の言葉の意味を。
――あるわけが、ない……――
その時は、何も理解出来なかった。
――――――
そして、今。
「……」
ズォウ……!!
焔の嵐の中で、兄の叱咤を、昔に聴いたそれの、意味が解った。
「……魔力よ、我が全ての魔力よ」
ポ、ツゥ……
再び、久し振りに聴いた兄の叱咤の声を受けて、流している涙、それは。
「炎神ファラよ、光となりて……」
私は、ここまで兄上に愛されていたのか。
「いざ、闇を討たん……」
その兄の心を知っていたのは、もしかしたら。
――……アイーダ――
そう、彼女だけだったのかも知れない。
「ヴェルトマーの名に掛けて、光となれ……」
ならば、私は。
――兄さん、行きます……――
兄、そして「父」でもあった、彼の心に応えよう。
「我こそは……」
キィイッ……!!
私の腕にぶら下がる、紋章の輝きなどは、もはや私の目に入らない。力が、想いが。
――頑張って、アゼル!!――
「我こそが、ヴェルトマー家第二子……」
――強く御心を、アゼル様――
腕に、宿る。
シャア、ウ!!
魔力、という魔法理論ではない。兄のそれと同質にして、異なる光。
「アゼル・ヴェルトマーである!!」
――頑張れよ、俺の可愛いヤツ!!――
私は、もう目の前の怪物が、恐ろしくない。
――父さん、頑張れよ!!――
――お父さん、頑張って!!――
もはや、兄を恐がる、理由がない。
「ヴェルトマーの名に掛けて」
何故ならば、その怖れは自分の弱さが作り出した、錯覚であるから。
「アルヴィス、貴様を葬る!!」
その時、微かに。
――やるのだ、我が弟よ――
シャ……
炎の化け物が、それの双眸が、微笑んだ気がした。
――やはり、僕は出来の悪い弟でしたよ、兄上――
この時、最期のこの瞬間に初めて、兄の心が解り。
――申し訳ありません、兄上――
――ならば越えよ、我が……――
ドゥウ、ア……!!
兄の、心臓の鼓動と共に、火の鳥から舞い散る、輝く白焔の火の粉の中で、この終末の時に初めて。
――最愛の、弟よ――
――はい、兄上……
兄と、真の意味で心が通じ合うとは。
――そして、その兄上の愛を受けた、光は――
グゥア……!!
化け物が、覇骸の怪物が、再びその燃え盛る、異形の口を開く。
――そして、その光は……――
「……光は、ここにある!!」
シィ、アァ……!!
次こそは、怪物の火焔によって、一瞬の間に私の身は消滅するであろう。ならば。
「ファラ……」
神器に依らない、神器の力を。
――頑張りなさい、我が子アゼルよ――
心の器。
――はい、母上――
心器の力を。
ガァア……!!
覇骸の口から、怪物のアギトから放たれた破滅の力。それと同時に。
――今よ、アゼル!!――
――解った、いくよ、ティルテュ!!――
兄の心に向けて、その己の両手から。
「ファラ……」
輝く、光柱を、愛する兄の、蒼い心に向けて。
「……フレイム!!」
過去に、美しき過去に向けて。
ズワォア!!
私の身を包む業火の中、失われる感覚、そして消え行く意識の中で。
――さようなら、兄上――
強く、彼方まで、放った――
――――――
シュア……
風が、吹いていた。
――甘いな、アゼル――
――くっ、こんな……!!――
――フン、相手の弱点を突くことこそ、戦いよ……――
――しかし、それは卑怯では、兄上!?――
――……フフッ――
――な、何ですか兄上……?――
――ハッハッハッ、お前は可愛い奴だ、アゼル!!――
――か、からかわないで下さい、兄上、そんなに頭をクシャクシャにしないで!!――
――まあ、今日はここまでだ、茶でも飲もう――
――は、はい兄上……――
シィ……
その、砂漠からの風が、僕と兄の、炎の色の髪を、同じ色を軽く揺らす。
――アルヴィス様、アゼル様、お茶をお持ちしました――
――すまないな、アイーダ――
――さっ、アゼル様も――
――あっ、ありがとうアイーダ――
この、砂漠特有の、乾いた。
シィ、ア……
しかし、不思議に心が安らぐ風が、どこまでも、いつまでも。
――アゼル、早く私を越えるのだ――
――そんな、出来ません……!!――
暖かく、しかし時には苛烈な太陽の放つ光の中、僕達に向かって。
――僕は、弱い男なのです――
――故に、出来る――
優しく、そして。
――俺が、出来たのだからな――
――……?――
そして。
スゥア……
強く、吹いていた――
――――――
その、彼の面立ちは、あまり兄には似ていないように思えた。
「……何でしょうか、御老人?」
どちらかというと、アイーダに似ている。
「……お初にお目にかかる、サイアス殿」
「……貴方は?」
彼、やや神経質そうな、まさしく兄に似た雰囲気がある彼の傍らに立っていた。
「……父上」
「ン……」
燃えるような色合いの髪を持つ、私の記憶にいつまでも在る。
――兄の、性別を変えただけのような――
全く同じ、炎の髪を持つ女性。
「父上、わたくしは退出した方がよろしくて?」
その長身の女性。彼女の放った、凛とした言葉に対して。
「ああ、そうだな……」
軽く、一つ頷いてみせる、兄の息子。
――なるほど、彼女が、噂の――
「では、失礼」
スゥ……
恐らくは、彼女こそ。
――剣を取れば無双、炎を使えば無敵、魔法戦士ファラの生まれ変わり――
と、皆が敬い、それと共に。
――世界を闇に陥れた、暗黒皇帝の孫娘、穢れたヴェルトマーの再来――
畏怖され、怖れている、兄の孫娘なのだろう。
「さて、旅の老人よ」
「ウム……」
つまり、このサイアス殿はもちろん、かなり彼と歳の離れた子であるその娘、彼女も当然、ファラの血筋だと言うことだ。
――……似ている、な――
この二人とも、亡き兄が持っていた、あの。
――優しさ、そして――
そして、古の炎の鳥、それの鋭く強い、双の眼と同じ目だ。
「これを、サイアス殿……」
「……?」
最初、私はこの遺品を彼に渡そうとは思わなかった。
――もう、セリス様が亡くなって、二十年になるのか――
だが、このユグドラルに再度起こった戦乱、それによって私の息子と娘、そして一人の孫が戦死し。
――私は――
唯一、実の娘の子、つまりもう一人の孫だけが私の血縁となった時に、心を決めた。
――結局、私は兄上の名を、ヴェルトマーの名を汚すような生き方しか出来なかった――
その息子達の死、それは私の甘さが招いた物だ。
――……兄上――
兄アルヴィスの非情さは、全てを失った。
――しかし――
だが、私の優しさ、いや甘さもまた、兄と同じ道をたどった。
――ゆえに、せめて――
我々、炎に翻弄された兄弟の絆、その内の一つは、暖かい炎の紋章は、生き残った孫に。
――絆の紋章、ファイアーエムブレム――
そして、もう一つの炎。
――破壊を終わらせる為の、破壊の力――
兄の、苛烈な、悪を憎むこの、正義の心は。
――信じよう、この正義と悪が入り雑じった――
今では、暗黒のロプトと同じく、忌まわしき血と呼ばれている、ファラの血。
――そのヴェルトマーの、猛々しき、燃え盛る正義の血を――
それは、私の「邪悪」な兄の。
――ロプトの血を復活させ、聖戦士の誇りを捨てた、穢れた聖戦士め!!――
悪の聖戦士の子よ、と彼、そしてあの、険しい顔をした「ファラの再来」の娘。謂れなき非難を浴びている、彼らに。
「あなた、サイアス殿の父上からの、届け物を持って来ました」
「……」
この、ヴェルトマーの生き残りの者達に、預けよう。
「……私には、父はいません」
「そうなのか?」
「父は、私と私の母を捨てたのですから」
「ふむ……」
――なるほど、ね――
やはり、いくら外見が似ていなくても、彼は兄の息子だ。
――この、鋭い目と心は、僕の兄のそれだな――
私はこの時、久しぶりに、本当に何十年か振りに。
――アゼル、もっと気合いを入れろ!! ――
――はいぃ、すみません、兄上!!――
兄と、そして。
――まあまあアルヴィス様、少し厳し過ぎます――
――そ、そうか?――
そして、初めて異性を意識した女性の。
――まあいい、今日はここまでだ、アゼル――
――……はい、兄上――
――しかし――
――な、何でしょうか、兄上?――
――術を発動させる、その手際に、もたつく事がなくなったな?――
――……え?――
懐かしい、もはや七十年は昔の事になる、今は存在も名前すら、民衆に破壊された、あのヴェルトマーでの日々。
――まあ、アルヴィス様が褒めるなどと、珍しい――
――あ、ありがとうございます、兄上!!――
――……コホン!!――
その過去での、陽光に包まれた中庭での。
――休憩したら、またつづけるぞ、アゼルよ!!
――は、はい!!――
――アゼル、焔を取れ!!――
――はい!!――
あの、二人の「声」を思い出していた。
―終わり―