War Commander’s 異世界傭兵戦記 作:ウルヴァリン
ファングボアの討伐を報告して、衛兵隊を助けたことと衛兵隊長に関する侮辱発言の報告、衛兵隊からの依頼に関する依頼受諾拒否の申請はすぐに終わった。
不機嫌だったようでミィは少し驚いていたが、事情を知って納得してくれたらしい。
報酬を受け取り、ファングボアに関する卸先を指定してから捌き終えたファングボア1頭分の肉を受け取り、猫の寄り道亭へと戻った。
肉を土産にしたらシャムさんから感謝され、ミィちゃんも目を輝かせながら喜んでくれた。嫌なことはあったが、ここまで感謝されたならお釣りが来る。
その日の夜はシャムさん特製ソースをたっぷり付けた厚切りステーキを満喫して、部屋で寛いでいると仕事を終えたミィが来客があったと呼びに来てくれた。
すぐに食堂へ向かうとアレクセイと例のクズ野郎、それと左目に切り傷がある初老の女性が立って待っていた。
「急に訪ねてすまないねぇ。あんたが桜崎かい?」
「………衛兵隊の依頼は拒否すると伝えたが?」
「桜崎、この方は「構わないよアレクセイ。名前くらいは自分で言うさ」……承知しました」
「あたいはハーヴィット衛兵隊の統括を任されてるクィン・レーナ・バルメッサってんだ」
「…………桜崎 照史です」
家名があるということは貴族だ。警戒はするが口調は正した方がいいだろう。
「それで……こんな夜分に如何な用でしょうか?」
「アレクセイから話は聞いたよ。部下を助けて死んだ連中を運んでくれたってのに、この馬鹿野郎が失礼極まりない事を言って怒らせたんだってね」
「………………」
「………そちらは隊長に対してどういう教育をされているか気にしていません。どうせ興味はないんでしょうし……」
「桜崎、こいつは隊長なんかじゃない」
「……隊長じゃない?」
「あたいも聞いて耳を疑ったさね。こいつは確かにアレクセイの先輩ではあるんだが、問題行為があまりにも多過ぎて未だに見習いを卒業できてない単なる雑務担当だよ」
隊長じゃないのに隊長と偽っていたってことか……。
このクズ野郎の顔は腫れ上がっていて、髪はボロボロ、額には包帯が巻かれている。恐らくだがクィンと名乗る目の前の女性が制裁を加えたんだろう。
男気が強そうでクズ野郎のやったことが本当に嫌いな雰囲気がある。
「けど部下の失態はあたいの責任でもある。だからここに来たのは正式な謝罪をしに来たんだ。本当に申し訳なかった」
そういいながらクィンはクズ野郎の頭を押さえながらアレクセイと一緒に頭を下げた。
「本当に申し訳ないことをしたよ。この街は組合に支えられてて、特に冒険者は民を守ってくれてるってのに、悪態をついただけじゃなく差別発言やら賄賂要求やらなんて……」
「………謝罪をしたいだけならお引き取りください。どれだけ謝られても衛兵隊からの依頼は今後絶対に引き受けるつもりはありません」
「もちろん言葉だけじゃないさね。ここに来る前にこいつを組合に連れて行って土下座させて、正式な処罰を与えると約束した。こいつには今までの問題行為に対しての処罰として衛兵隊から追放、裁判次第にはなるだろうけど犯罪奴隷落ちで20年は鉱山でこき使われるだろうね」
「…………それで私の怒りが収まるとでも?本人をどれだけ断罪したとしても私の衛兵隊に対しての印象は最悪なものです。エルフやキャットピープル、多くの種族を侮辱したのですから」
「もちろんそれだけじゃないよ。アレクセイ」
「はっ」
そんな話をしているとアレクセイがトレイに乗せられた袋と小さな箱を取り出して、真ん中の机にそれを置いた。
「桜崎、中に白金貨1枚と金貨20枚が入っている。お納め頂きたい」
「………謝礼金は遺族に回して欲しいと伝えましたが?」
「遺族には別で遺族恩給が支払われる決まりがある。金で解決って訳じゃないけど、謝礼金の額をあたいの私財から増やしておいた。だからこれは今後の冒険者としての資金だと思って受け取って欲しいんだ」
「そんなことをされても困ります。別に金に困っている訳じゃないですし……」
「迷惑料だけではない。箱を開けてみて欲しい」
そう言われて隣の箱を開けてみた。中には雄叫びを挙げる狼の刻印がされた1枚の特殊な銀貨が入っていて、狼の下に俺の名前が書かれていた。
「これは?」
「バルメッサ家の家紋銀貨だ。それがあれば王都以外の街に入る検問を素通りでき、バルメッサ商会傘下の店を半額で利用できる」
「あたいの実家は商会組合の元締めでねぇ。この街にも支店があるから来る前に急いで作らせたのさ。王国内の街には最低でも1か所は必ず店があるから、今後の冒険者としての活動補助にはなるさね。だから無理は承知でお願いしたい。衛兵隊の依頼受諾拒否は考え直してくれないかい?」
「……………」
「冒険者は経験が豊富だから衛兵隊には必要な存在さ。だからあんたにも依頼を出した際には引き受けて貰いたいんだよ」
クィンは更に頭を下げて懇願する。どうやらこの人は本当に謝罪の気持ちでここにきて、自分ができる限りのことをしている。
ここまでされてしまったら彼女の顔に泥を塗る行為になってしまう。
というか商会組合の元締めってかなり大成功した貴族じゃないか。
だったらここいらが落とし所だろう。
「………追加で条件を加えたいのですが?」
「あたいらに出来る限りのことなら聞かせて欲しい」
「慰謝料は受け取ります。しかし白金貨と金貨15枚は街の孤児院に寄付して下さい」
「………いいのかい?」
「構いません。先ほども言った通り金には困っていませんので……」
「了承した。他には?」
「そのクソ野郎の身辺調査を徹底的にやって下さい。恐らくですが今分かっている罪状は氷山の一角の筈です。必ずまだまだ出てくるかと……」
「もちろんさね」
「最後に二度と今回のようなことを発生させないと約束してください。もし発生させた衛兵がいたならば厳格な処分をお願いします。それが了承されるのでしたら明日にでも受諾拒否は取り下げます」
「………感謝する」
それからクィンは詳細を詰めるのをアレクセイに任せ、クソ野郎の髪の毛を引っ張りながら宿を後にした。
それから次の日には約束通り受諾拒否を取り下げ、衛兵隊が生まれ変わることを願おう……………。