War Commander’s 異世界傭兵戦記 作:ウルヴァリン
組合長のエドガーから予想外の臨時ボーナスを受け取り、本来の目的である領主からの手紙を配達する仕事を終わらせるため、教えてもらった建物へ向かう。
このヴェルダリアは4つの区画に分けられている。まず第1城壁に守られた俺たちが今いる城下町“ロート”。ここには先ほどの統合組合の他に一般人の住宅街、低所得者が必然的に集まって無法状態となっているごく一角だけの悪所が存在する。
その隣に商人の住宅街と商会が集中している“ゲルド”。小規模や個人経営の店と違って国内で有名もしくは世界的に有名な商会が集中していて、この街でかなりの金が動くらしい。
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その次の区画が貴族街となる“グリューン”。ここにはヴェルダ王国の伯爵や侯爵などの貴族が生活していて、ここから先に一般市民が入るには貴族もしくは王族の許可書がないと入ることができないルールがある。
そして王宮の“ヴァイス”の4つが丘を降るように広くなっていく造りのようだ。
教えられた貴族の住宅も最初は貴族街のグリューンかと思われたが聞いていたらこのロートに住宅を構えているらしく、結構な身分を持っているのに庶民の視線で生活していると聞いた。
場所は俺達が入ってきた区画の隣の地区にあると言っていたので、貰った地図と一緒に渡されたイズ討伐完了報告を片手に向かった。
「ここだな?」
「地図に間違いがなければ間違いないかと・・・」
到着した建物は周囲の建物と比較して住宅というよりは酒場のような雰囲気を醸し出している。実際に入り口に設置されている看板には酒場を意味するジョッキとナイフとフォークが彫られていて、その周りに“コートと手鏡”と書かれている。だがよく見たら傭兵を意味する兜と2本の剣が彫られた吊り看板が設置されていて、そのまわりには“真闇の夜中”という組織名が書かれている。
「ご主人様、どうしましたか?」
「いや、傭兵事務所なのか酒場なのかどっちなんだろうって思ってな」
「ご主人様、ご存じないのですか?」
「なにが?」
「傭兵事務所には団員の息抜きとか情報交換、依頼受注も兼ねて酒場と兼業している場合が多いんですよ。それに依頼主が個人を雇いたい場合にすぐ交渉できるようにするという意味合いもあるんです」
「そうなの?」
「はい。むしろ傭兵で酒場と兼業をしていないほうが珍しいですし、それに普通の酒場よりも価格が抑えられてますから酒場だけの利用客も多いんです。まぁ傭兵が経営していますから問題を起こしたら剣の血錆になることもありますけど・・・」
さり気無く怖いことを口にするルシャナ。だが確かに傭兵なら酒が楽しみの一つだろうし、酒造組合も顧客にすれば確実に儲かるだろう。ちなみに自衛隊の駐屯地内に設置されている自販機は外の自販機と比較して低価格で設定されてて、安くしても一定数以上の売り上げが出るし演習やイベントなどでは完売状態になるから利益が出る。
扉を開けて中に入ると酒を楽しんだり、依頼の交渉をしている光景が広がっている。入ってきて数人がこちらに振り向くが、客かどうかわからないので酒に戻る。
ひとまずは手紙をどうするか聞く必要があるので、バーカウンターで洗い終わったジョッキを磨いているバーテンダーに話しかける。
「いらっしゃい。酒か?それとも依頼か?」
「いや、まぁ依頼といえば依頼なんだが、これをここに届けてほしいって依頼を受けて来たんだ」
そういいながバーテンダーに手紙を見せ、それをバーテンダーは手に取って確認する。すると蝋封印に押されているハーヴィット領主の紋章を見て何か納得した。
「あぁ、こいつはうちの団長宛てだな」
「分かるのか?」
「そりゃぁ紋章が入った蝋封印があって名指しじゃないんだったら大抵は団長宛てだしな。それでお前さんはこの手紙が何なのか知ってるか?」
「いや、内容自体は聞かされてないけど何か意味があるの?」
「まぁ意味は団長から聞いてくれ・・・・・・団長!!客ですぜ!!」
バーテンダーが大声で呼ぶと、それに反応した人物がこっちに歩み寄ってきた。
金髪のセミロングを束ねて傭兵とは予想できない華奢な体格。だがモデルを連想させる黄金比とも思えるスタイルを有して優雅でどこか神秘的な雰囲気を醸し出す女性だ。
だが目線を外せなかった。少し吊り目ではあるが非常に整った顔立ちにウイ困れそうな感覚になる透き通った瑠璃色の瞳をしていて、誰がどう見ても絶世の美女だというだろう。
「呼びました?」
「はい、この連中が手紙を持って来まして、ハーヴィットの領主からです」
「そう・・・ありがとうございます。わざわざ届けて頂いて・・・」
「い・・・いえ・・・依頼ですので・・・」
「謙虚ですわね・・・それであなた達のお名前は?」
「は・・・はい。自分はハーヴィットの冒険者組合“山越の風”所属の桜崎 照史です。こっちは従者のルシャナ・・・ルシャナ?」
何故か分からないが彼女の雰囲気に言葉が無意識に詰まってしまう。自分の名前を名乗ってルシャナを紹介しようとすると、ルシャナは片膝をついて頭を垂れた。
「・・・お初にお目にかかります。私はルシャナ。旧名はルシャナ・グロースウィットと申します」
「あら、ファルダシア王国のグロースウィット家の方でしたのね?」
「はい。すでに追放されて今はただのルシャナではあります」
ルシャナが家名を名乗るなんて初めてだ。俺もアメリアさんから購入した際に渡された資料で知ってはいるが、余程のことでもない限りは追放した家の名前を出すのは禁句だった筈だ。ルシャナはそういった決まりごとは絶対に守るので、目の前にいる女性の存在が余程のことなのだとすぐ察した。
「ルシャナ、どうしたの?」
「ご主人様、このお方は・・・」
「自己紹介してくれたのだからこっちも自分から名乗らなければいけないわね」
そういいながら団長は雰囲気を変えた。この一瞬で雰囲気が傭兵からそれ以上のカリスマ性を有した何かに代わり、それは俺も驚愕することになる。
「私はジャンヌ・ダルク・べディヴィエール・ヴェルダ。傭兵団“真闇の夜中”の団長にしてヴェルダ王国第13代国王フリードリヒ・キルヒナー・ヴァン・ヴェルダの第2王女です」
ジャンヌ・ダルク・べディヴィエール・ヴェルダという名前に驚愕した。何しろ目の前にいる美しい傭兵団長がまさかの第2王女だったのだから・・・・・・・・・・・・。