War Commander’s 異世界傭兵戦記 作:ウルヴァリン
シルヴィアとラウラと別れた俺は彼女達が勧めてくれた猫の寄道亭という宿屋へと向かう。
道中の屋台道ではさまざまな屋台が鎬を削っていて、串焼きや食材、衣服や武器など異世界ならではの店が揃っていた。
途中で肉串を買って食べながら歩いていると目的の宿屋が見えて来た。
「ここだな……猫の寄道亭は……」
木組の2階建で庭には小さな野菜畑、猫の肉球が描かれた吊り看板が取り付けられてドイツ語で"Katzenumweg"と書かれている。
移動中に気が付いたがこのヴェルダ王国の言語はどうやらドイツ語にかなり近いようで、若干のアクセントの違いはあるが問題なく話せている。
小さな鈴が取り付けられたドアの取手を握り、鈴の音と共にドアを開けた。
「おっ、いらっしゃい。お客さんかい?」
カウンター前にいたのは肝っ玉お母さんの印象が強い女性だがどう見ても人間ではなかった。外見こそは人間だが頭にシャムネコのような猫耳が付いていて、腰から猫の尻尾、両手が猫の手となっているからだ。
猫の寄道亭って猫好きな主がやってるんじゃなくて、猫人がやっている宿屋って意味だったのか……流石は異世界だ。
「すみません、宿泊をお願いしたいんですが……」
「ウチは一泊、朝と晩の食事付きで銅貨5枚だよ。誰かの紹介で来たんかい?」
「はい、優凪の衛のシルヴィアさんとラウラさんからの紹介で来ました」
「あぁ‼︎シルヴィちゃんとラウラちゃんの知り合いかい⁉︎だったら大歓迎だよ‼︎」
そういいながら女性は豪快に笑いながら俺の背中を叩き、満足するとカウンターから宿帳らしきものを引っ張り出して、インクのついた羽ペンを差し出してきた。
「シルヴィちゃんの紹介なら銅貨2枚でいいよ。何泊するんだい?」
「ひとまずは2泊で。もしかしたら延長するかも知れないです」
「あいよ、そんで兄さんの名前は?」
「桜崎。桜崎 照史といいます」
「サ…サクラ……なんだって?」
「桜崎です。名前の照史だけでも構わないですよ」
「家名があるなんて、あんた貴族かなんかかい?」
「いえ、故郷じゃ家名は誰にもあるんです」
「へぇ、随分と珍しいねぇ」
そういいながら宿帳に記載していく。するとカウンターの端側に何かが動く気配を見つけて視線を向ける。
すると5歳児くらいの三毛柄模様の猫耳、猫尻尾、猫手をした小さな女の子が隠れながらこちらを見ていて、視線を向けるとハッとした顔をして隠れるが尻尾が見えてしまっていた。
「えっと………すみません…お子さんですか?」
「んっ?……あぁ、なんだい出てきてたんかい。ほら、こっちにおいで」
女性がそう手招きすると女の子はヒョコっと顔を出して様子を少し見るとトテトテと歩み寄ってきて女性のスカートにしがみついてから再び俺を見る。
「はははっ、すまないねお客さん、この子ったら人見知りの癖があってねぇ」
「いえ、大丈夫ですよ。はじめましてお嬢ちゃん。俺は桜崎 照史。名前は言えるかな?」
「………ミケは……ミケにゃ」
それだけいうと恥ずかしそうに顔を女性のスカートに埋める女の子。
………な……なんなんだ……この小動物は……。
お菓子をあげて食べてる時に頭を撫でてあげたい衝動がある。
それから女将さんが自分の名前はシャムだと名乗り、今日は休みたかったので夕食は遠慮して割り振られた部屋のベッドで横になる。
心地よいカバーの下に敷き詰められた干草の柔らかさと仄かな香りに眠気が来る中、濃い1日の中で一番の印象はこれだ。
………やはり“猫は正義"‼︎