【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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10.Buddy

 その日、黒花は千束とたきなと共にDAを訪れていた。

 理由は千束のライセンス更新、そしてたきなのDA復帰の嘆願のためである。

 黒花は既にライセンス更新を済ませていたため付いていく必要はなかったのだが、なんだか面白そうな事が起こりそうな予感があったのでついていったのだ。

 そして、その黒花の予想は当たった。

 たきなが今のフキのバディになったセカンドリコリス――サクラという少女に罵倒され、千束がその二人と模擬戦を行うことになったのだ。

 千束は仮にもファーストリコリスであるフキ、そしてそのフキとバディを組めるほどの腕前のサクラを相手に、まったく引けを取らないどころか二人を弄ぶように戦っていた。

 

「さすが千束だな」

 

 黒花はそれを二階のガラス越しから観戦していた。

 決着はつけようと思えばすぐにつけられただろう。

 だが、千束はすぐに決着はつけなかった。理由は黒花には明白である。彼女は、待っていたのだ。

 

「はあああああああああああああ!」

 

 そして、その待ち人は来た。たきなだ。

 たきなはフキの後ろから現れ、殴り飛ばし、そしてフキにペイント弾を撃ち込んだ。

 フキはそのペイント弾に当たり、決着がつく。

 千束とたきなの勝利だ。

 

「なるほどあれがたきなの射撃か。対人戦をちゃんと見るのは初めてだが、いい腕をしている」

「まるで年寄りのような感想だな」

 

 と、そんな風に二人を見ていた黒花に背後から声がかけられる。

 振り向くと、そこにいたのはDAの司令、楠木だった。

 

「ああ、楠木司令、ご無沙汰」

「ふん、そうだな。ライセンス更新のときは顔を合わせなかったし、しばらくお前当ての仕事もなかったから話すのも久しぶりか」

「だね」

 

 黒花はそう言うと再び視線を目下の千束とたきなに移す。

 喜び合う二人は、既にいいバディの姿をしていた。

 

「いいリコリスじゃないか、たきな。どうして左遷なんかしたんだ? そんなにDAの失態を認めたくない?」

「……組織というのは、そういうものだ」

「ふっ、相変わらずじゃないか」

 

 ポケットに手を突っ込みながら笑う黒花。

 いつもの癖でタバコを取り出しそうになったが、さすがにDAの敷地内、しかも司令の前ではとても吸えないためにギリギリで留まった。

 

「変わらないのはお前もだな。たまにお前に仕事を回すと、必ず皆殺しだ。非戦闘員まで含めて」

「いいじゃないか、他のリコリスだってそうしているだろう?」

「お前ほどじゃないさ。そっちの方が処理しやすいのなら場合によっては逮捕の形を取るし、非戦闘員の殺害までいくのは稀だ。でもお前は違う。お前にケースバイケースという言葉はない。敵対勢力と認識したら、一人残らず必ず殺す。まさに徹底的な仕事ぶりだ」

「でも、私をそれでクビにしたりはしない。それは、私の事を評価しているから、だろう?」

「……まあな。お前が優秀なファーストリコリスであることには間違いない」

 

 楠木は軽くため息をつきながら言う。

 黒花は一方でそんな彼女を見て軽く笑う。

 

「それならいいじゃないか。私はちゃんとDAに、この国に貢献している。なら問題ないはずだ」

「ああ。だが、不思議に思ってな」

「不思議? 何がだ?」

「お前が千束とうまくやれている事を、だ」

「ああ、そのこと」

 

 黒花は訓練場を再び見る。

 そこにはもう千束とたきなの姿はなく、フキ達の姿もない。見物人達もいなくなっており、すっかり撤収していたようだった。

 

「私と千束は確かに真逆の存在だ。でも、だからこそやっていける。お互いの線引きをしっかりと把握しているからこそ、つきあえる仲なんだ。下手に相似点があるよりよっぽどいい。人間関係ってそういうものさ。でも……」

「でも?」

「今のあいつのは、たきなができた。私なんかとは違う、本物のバディを手に入れた。なら、そろそろ私はお払い箱かもしれん」

「……?」

 

 楠木は黒花の言う意味を分かりかねていた。

 その言葉を言った黒花の顔が、珍しくどこか寂しげに見えたのも判断がつきかねる理由としてあっただろう。

 

「それじゃ、私も撤収しようかな。ま、あいつらをもうちょっと二人にしてやりたいし。DAの中をフラフラしているとは思うけれどね」

 

 黒花はそう言ってガラスの近くから離れ楠木の横を通り過ぎていく。

 その瞬間だった。

 

「ブラッディドラゴン」

「……!」

 

 楠木が呟いた単語に、黒花は足を止める。

 

「かつてこの国の暗部で活躍していた殺し屋の名だ。腕は間違いなく世界トップクラスだが、過剰なまでの殺しをすることで恐れられそう呼ばれた。DAも暗殺しようとして多くのリコリス、リリベルを送ったがことごとく返り討ちにあいついには諦めた相手だ。お前の仕事ぶりを見ていると、奴の事を思い出すよ」

 

 リリベルとはリコリスの男版のようなものであり、リコリス以上に荒事を担当している部隊の事でもある。

 

「……へぇ。でも、かつてって事は今はいないんだろ? なら、どこかでくたばったんじゃないか?」

「さあな……そういえば、奴が姿をくらませたのと、お前がDAに来たのは同時期だったな」

「だから?」

「いや……不思議なめぐり合わせもあったものだと、思っただけさ」

「……そうだな」

 

 黒花は笑顔を作ってその場を去る。

 しかし、一人になるとスッとその笑顔を消した。

 

「まったく、楠木め……よく覚えてたものだ」

 

 彼女は悪態をつくように言う。

 ブラッディドラゴン。

 それは、彼女がよく知る名前であった。それもそのはずである。なぜならそれは、彼女の生前の呼び名だったからだ。

 

「ま、忘れるわけもないか。当時部下をさんざん殺したからな。でも、やり口覚えられていたなら少しやりづらくなるか……まあいい、それよりも、アレの確認だ」

 

 彼女はそう言いDAの中を進んでいく。そうして彼女が訪れたのは、警備室だった。

 

 

「もう黒花遅いー! 電車一本逃しちゃうじゃーん!」

「悪い悪い」

 

 帰りの車の前で言う千束に、黒花は右手を縦にし謝るポーズを見せる。

 その横には、どこかすっきりした様子のたきながいた。

 

「おうたきな、見事な射撃だったな。なかなかいい腕じゃん」

「ありがとうございます」

 

 晴れやかな顔で礼を言うたきな。

 その口調からも、憑き物が落ちているのが分かる。

 

「今度は私と模擬戦しような」

 

 黒花はたきなの肩に手をポンと置いて言うと、車の後部座席に入る。

 

「……はい!」

「黒花はおっかないぞー? 食べられないようにしないとねぇ」

 

 それに続いてたきな、千束が後部座席に続く。

 

「誰が食うか誰が」

 

 出発する車の中で、千束の冗談に笑いながら返す黒花。

 そう言いながら、彼女は二人の目を盗んでスマホをチェックする。そこには、地図上で丸が青く点滅していた。

 地図の場所は、まさしく彼女らがいたDA本部だった。

 

「千束とたきな、本当にいいバディだ……羨ましいよ、まったく」

「ん? なんか言ったかー?」

「言ったよ。千束は馬鹿で羨ましいってな」

「あぁん!?」

「それ、ちょっと分かります」

「たきなさん!?」

 

 賑やかな喧騒は、リコリコに帰るまで続いた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 その夜は、雨が降っていた。

 人々が外出を控える夜で、さらに外出しなくなる雨天。

 それは黒花にとって好都合だった。

 

「さて、ラジアータへのダミー映像まであと五秒……四、三、二、一、ゼロ」

 

 時計の針が十二時ちょうどを指し示す。

 すると黒花は、雨の中黒い傘をさしながらも素早く移動する。

 彼女が移動したのは、街の何気ない監視カメラの下だった。

 黒花は監視カメラにスマートフォンをかざす。すると、スマートフォンから信号が出て、監視カメラがハッキングされる。

 

「これでまた一つ、ラジアータの“穴”ができた。……まったく、持つべきものは昔の縁だな」

 

 彼女が持っているスマートフォンには、ラジアータ用に調整されたウイルスプログラムが仕込んであった。それをスマートフォンを介してハッキングすることにより、監視カメラからラジアータ、そしてDA本部へと送られる映像を掌握することができるのである。

 

「さすがのDAも、本部の警備室に繋がれているハブ一つがバックドアになっているとは気づけないか。そして私が世界的なハッカー集団にお友達がいる、という事も。ま、前者はともかく後者は気づきようもないだろうな。何せ、前世でのお友達なのだから」

 

 そこまで言って黒花は自嘲する。

 昼間ブラッディドラゴンは死んだと自分で言ったばかりなのに、今こうしてブラッディドラゴンとしての繋がりを生かして動いている。

 それがなんだか矛盾しているようで、おかしくてたまらならかったのだ。

 

「血濡れの竜は、生まれ変わってもその穢れを振り払えんか……ふっ、自分から穢れを利用しておいて、何を言っているんだかな。と、そろそろダミー映像が本物に切り替わる。とりあえず、今日はこんなものか」

 

 黒花はスマートフォンをしまい、その場を去る。

 

「……千束、たきな。お前達二人はなれるかな、ドラゴンスレイヤーに」

 

 どこか寂しげな顔で、雨音でかき消されそうなほどの小さな声で、そんな事を呟きながら。

 

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