【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「たきな……さすがに私もそれはどうかと思うぞ」
その日、黒花は呆れていた。
きっかけは、千束がたきなの下着を見たことからだった。
なんとたきなは下着としてトランクスをはいていたからだ。
「いやでも動きやすくて気に入っているのですが……」
「いやだからってなぁ……女としてそれは……」
「ねぇ!? ないよねぇ!?」
黒花に同調するように千束が言う。
一方でたきなはまだよく分かっていないという顔で頭に疑問符を浮かべていた。
「たきなも黒花を見習いなよ! 黒花って超エロい下着つけてんだよ!? 女の子ならそれぐらいでいかないと!」
「そうなんですか?」
「……まあ見習うかはともかく、確かに私の下着は比較的扇情的かもしれん」
黒花は少し顔を赤らめて言う。
一応自覚してつけているとはいえ、他人に下着の事を言及されるのは元男としてさすがに少し恥ずかしかった。
「よし決めた! 明日、みんなでたきなの下着買いに行こう!」
「それは頭数として私も入っているのか?」
「え? 当然でしょ? だってこの中で一番エロい下着つけてるの黒花じゃーん。ここは黒花のセンスの力を借りるしかないっしょ!」
「そういうものなのか……?」
「私の意見は無視ですか?」
黒花とたきなが疑問符を浮かべるも、もう千束の中では決定事項となっていたようだった。
そういうわけで、三人は休日、街に繰り出すことになったのだった。
「あ、来た来た。おーい黒花ー!」
翌日。
黒花が待ち合わせ場所に行くと、そこには私服姿の千束とたきながいた。
千束はカジュアルな格好の上に赤の裾の長いジャケットを着ており、女子らしいコーディネートをしていた。
一方でたきなはTシャツとズボンという質素な格好だった。
「相変わらずいい服着てんなぁ千束。対してたきなは……女子力のかけらもないな」
「そういう黒花は相変わらずイケメンな格好だねぇ」
黒花の格好は黒のレザージャケットと白のシャツ、そしてデニムのパンツだった。
「黒花の格好は動きやすそうですね、参考になります」
「いやそういう意味で着てきたわけじゃないんだが……参考にするならむしろ千束だろ」
黒花はそう言いながら頭を抱える。
一方でたきなは不思議そうな顔をする。
「そうなんですか? 千束の服はいざというときに戦闘しづらそうで……」
「非番のときに戦闘の事考えるんじゃねぇよ。あ、聞いてよ黒花! たきな銃持ってきたんだよ!? 信じられなくない!?」
「あー……まあ今日はショッピングだしなぁ。銃は確かにいらんよな」
「むぅ、黒花までそう言いますか……」
たきなは少し不服そうだった。そんなたきなを見て、黒花は少し笑う。
「うーん、これは根本から教育が必要だな」
「おっ、さすが黒花、意見が合うねぇ。よしたきな、今日は私達が今を生きる女子のなんたるかを一から教えてやるよ!」
ビシっと指をさしながら言う千束。そうして三人のショッピングが始まった。
最初にたきなの服選びからショッピングは始まった。
たきなが服を千束に選んで欲しいと言ったからだ。
そこで千束は大はしゃぎし、たきなを着せ替え人形のように様々な服を着せて楽しんだ。
黒花はそれを眺めながら、自分に合う服を一人物色していた。
その中で千束は下着を買うことを忘れていたが、たきなの一言で思い出し下着を書いにランジェリーショップに行くことになった。
のだが……
「銃撃戦に合う下着はこちらになりますー、ってんなのあるかぁ!」
たきなはランジェリーショップでも下着を性能で選ぼうとしたのだ。それに千束は大いに呆れていた。
「はぁ……黒花先生、お願いします!」
そこで、千束は大げさに頭を下げ黒花に言った。ご丁寧に片手をびっと伸ばし出してまでである。
「あー……まあ、分かったよ」
黒花は頭をかきながらも答える。
そして、並んでいるランジェリーを眺めながら、二人を連れて行く。
「こういうのがいいんじゃないか? たきなは黒髪が綺麗だし、きっと似合うぞ」
「こ、これは……」
たきなは黒花の選択に少し顔を引きつらせる。なぜなら、それは派手なフリルのついたピンク色の下着だったからだ。
「さすがにこれは扇情的すぎでは……?」
「まあ確かに。でもこういうのをはいていると、いざというとき役に立つぞ」
「どんなときですか? それ」
「そりゃ当然、男を引っ掛けるときだよ」
「…………」
「…………」
黒花の言葉に、たきなも千束も無言になる。
たきなは少し引いた顔をしながら、千束は赤面しながら、である。
「黒花はさぁ……よく堂々とそういう事言えるよねぇ。私そういう黒花は凄いと思うよ、ウン」
千束は腕組みしながら言う。
「私達はリコリスです。男女交際なんてありえません」
一方でたきなは、未だ引いた顔で納得していないように言う。
「別に男女交際なんて言ってないだろ? 女の体はな、それだけで武器になるときがあるんだよ」
「武器って……」
たきなの引いているレベルが一段上がったような気が黒花にはした。
一方で千束は、苦笑いしながら別の下着を持ってくる。
「ま、まあさすがにそれはエロ過ぎだしこういうのはどうかな。たきなには似合うんじゃない?」
「……まあ、この黒花の奴に比べたら」
「あ、ひどくない? 私に頼んでおきながらそれはひどくない? はぁ……しゃーない、私ももうちょっと落ち着いたの見繕うよ、で、それをお前にプレゼントしてやる。それで今回は水に流してくれ」
「え? いえ自分のモノは自分で買いますが……」
「いいからいいから! 私に買わせてくれ! このままだと私はただのエロ女扱いで終わってしまうから、甲斐性の一つぐらいは発揮させてくれ」
結局、その場は千束が選んだモノをたきなが買い、さらに黒花が選んだモノをたきなにプレゼントする、という形に落ち着いた。
その後、三人は昼食として甘いものを食べ、さらにその後千束のおすすめスポットに行くことになった。
水族館である。
たきなは水族館は初めてであり、スマホで魚を調べながら目を輝かせていた。
その姿に、千束と黒花は笑みを浮かべる。
「……人探し、ですか?」
そして落ち着いて並んで水槽を見ながら、三人は話す。千束がなぜ非殺傷弾で殺しをしないのか、なぜ千束がDAを離れてリコリコにいるか、をである。
そのリコリコにいる理由を、たきなは左隣にいる千束に聞き返した。
「うん、どうしても会いたい人がいるんだよね。コレをくれた人なんだけど」
そこで千束はアランチルドレンの証であるフクロウのネックレスを見せる。
たきなはそのネックレスの意味を教えてもらい、驚く。
「千束に才能……ですか? 一体どんな才能を?」
「さあねぇー、人間自分の才能って分かるもんじゃないし。あ、あとこれもってるの私だけじゃないよ」
「え?」
千束はたきなの右隣にいる黒花を指差す。
たきなはその先の黒花を見て、驚く。
「もしかして、黒花も……?」
「ああ、私も」
黒花もまた、フクロウのネックレスを首元から抜き、たきなに見せる。
ゆらゆらとそれを揺らす黒花。たきなは更に驚きの顔を見せた。
「まさか、二人のファーストリコリスが二人共才能を認められた人間だったなんて……もしかして、黒花がリコリコにいる理由も、人探しなんですか?」
「んー、まあ、そんなところ」
黒花はネックレスを胸元にしまいながら若干はぐらかすように答える。
「でも、一番の理由は千束が面白い奴だから、かな」
そして、そう付け加える。
「ええー!? 私それ今知ったんだけど!? 私目当てだったの!?」
黒花の言葉に千束は大仰に驚く。黒花はフッと笑う。
「まあな。でも、さすがに本人の前でそれは言いづらいだろう? まあ今言ったんだけど」
「千束のために、わざわざDAを抜けるなんて……」
たきなは黒花と千束を見比べる。二人共、少し恥ずかしそうな顔をしていた。
「二人は、本当に仲がいいんですね」
「まあねー」
「まあな」
微笑みながら言う千束と黒花。たきなはそんな二人の、長年の絆を感じていた。
「あ、でも」
と、そこで黒花が付け加えるように言う。
「仕事のスタイルだけは別。これだけは私達は真逆だから合わないし、一緒にしないようにはしている」
「真逆と言うと……」
「あー黒花はね、殺し過ぎちゃうんだよ。私がまったく殺さないのと違って」
千束は寂しそうに言う。
「殺し過ぎる……」
「そ、リコリスがいくら殺人を許可されると言ってもさ、相手によっては怪我で済ませたり非戦闘員は拘束とかで済ます場合もあるじゃん? 黒花はそれをしないの。まさにサーチアンドデストロイ、おっかねぇの」
「そうだな。だから私と千束は一緒に仕事をしない。すれば、必ずそこがぶつかるからな」
「……それでも、二人は一緒にいるんですね」
達観したように話す二人に、たきなは聞く。
二人は、それに頷く。
「そうだねー、そこ以外は私達、うまくやれてるから」
「だな、お互い譲れないモノはあっても、無理に強制しようとはしない。それが、長続きのコツみたいなモンだ」
そう言って、黒花はポケットに手を突っ込みながら立ち上がる。
彼女の背中に、どこか哀愁のようなものを、たきなはうっすらとだが感じたのだった。
「いやー楽しんだ楽しんだ! 戦利品もこんないっぱい!」
夕方。三人は手元に大量の紙袋を持って街を歩いていた。
三人は街での散策を終え、リコリコに帰宅する途中だった。
「そうだな、たきなの服やら下着やらもいっぱい買えて目的も達成。ついでに楽しく遊んだし、今日は良い日だった」
「うんうん、だねぇ。どうたきな、楽しかったでしょ!?」
「え、ええ。まあ……」
たきなは恥ずかしがりながらも言う。そんな彼女の姿に、千束も黒花も微笑む。
そんなときだった。
黒花のバックにある電話が鳴り響いたのは。
「あ、ちょっと待っててくれ」
黒花は紙袋の持ち手をひじに回し、電話を取った。
「ああ、私だ」
◇◆◇◆◇
男は焦っていた。
その日、男は街外れの古びた小さな工事現場で、武器の取引をするはずだった。大量の武器を、その場で捌けと命令を受けていたのだ。
そして時間となり、武器取引をしようとしたそのタイミングだった。
やって来たのは武器を持った制服姿の少女達、リコリスだった。
リコリスは取引相手、そして男の配下を次々に射殺し、今遮蔽物に隠れている男もいつ死んでもおかしくない状況だった。
故に、男は電話をかけた。
彼に武器取引を命令した、ボスへと。
『ああ、私だ』
帰ってきたのは変声機を通しての男とも女とも分からない声だった。
「おい! どうなってる! 武器取引のはずが、俺達は今壊滅しそうになってるぞ!? お前の情報は完璧じゃなかったのか!?」
『ああそれか? それは、私からのプレゼントだよ』
「は……? い、一体どういう」
『まあ驚くなというのが無理な話か。なんというか、日頃のそっちの行いを見て、私は思ったんだ。プレゼントしてやりたいってな。だから送った。それだけの話だよ』
「それだけって……お前、まさか俺を消そうと……!? そんな、次ミスをしたらって話じゃなかったのか!?」
『まあサプライズって奴だ。どうだ、驚いたか?』
「ふ、ふざけるな! なあお願いだ、助けてくれ! なんでも言うことを聞くから! お願いだ……お願いだ、ブラッディドラゴン!」
『すまん、今日はもう先約があるんだ。だからパーティにはいけない』
「き、貴様ああああああああっ……!」
『存分に楽しんでくれ。じゃあな』
そこで電話は切れた。
男は絶望する。自分はハメられたということ、そして、ここで生き残る術はもうないという事を知って。
「クソっ! クソっ! クソっ!」
悪態を付きながらも、男は銃を手に取る。
「ああああああああああああああああああああっ!」
そして、それを撃つために遮蔽物から出て――
「がっ……!?」
体中に、鉛玉を浴びて、そこで果てた。
◇◆◇◆◇
「存分に楽しんでくれ。じゃあな」
「一体、誰からの電話だったんですか?」
黒花が電話を終えると、たきなが聞いてくる。横にいる千束も、とても興味津々と言った顔で黒花を見ていた。
「何ぃ~? もしかして彼氏か誰か~? かぁーっ黒花は進んでるねぇ!」
「別にそんなんじゃないよ。ちょっと仲の良かった友達に、サプライズプレゼントをしてやったってだけさ」
「へぇ……黒花もそういうことをするんですね、ちょっと意外です」
「おいおい、私は今まで一体どんな風に見られてたんだ?」
苦笑いする黒花。
たきなは感心したように、千束はニヤニヤと黒花を見つめる。
「えーでもパーティかぁ、いいなぁ。あ、そうだ。今度リコリコでパーティ開こうよ! 常連さん集めてさ!」
「常連さんはいっつもうちでボードゲームやってるじゃないですか。それじゃダメなんですか?」
「それとままたちょっと違う趣が欲しいって言うかー!」
「ハハハ、そうだな。せっかくだし、今度大きなパーティに二人を招待するかもしれないな」
「え!? マジですか!?」
食いつくように聞く千束。
黒花は、不敵な笑みで答える。
「ああ、こう見えても私は楽しい友人が多いんだ。だからいつかでかいパーティに二人を招待できると思うよ」
「やったぁ! たきな、楽しみにしてようぜ~?」
「え、ええ。分かりました……」
テンションの上がる千束に、少し困惑気味のたきな。そして、笑顔の黒花。
そんな三人は街の雑踏を抜け、リコリコへと進路を取るのだった……。