【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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12.Hitman

 その日のリコリコへの依頼は、とある老人のために東京を案内することだった。

 名は松下。

 彼は筋萎縮性側索硬化症を患っており、自由に動くことができない。更に、過去命を狙われ長い間海外で過ごしていた。

 そんな彼が最後に故郷である日本の東京の風景を見たい、そのために護衛をして欲しいというのが依頼内容だった。

 千束はその依頼にとても乗り気で、旅のしおりを作る程だった。

 その護衛には、千束とたきなが同行することとなった。黒花はバックアップとしてリコリコでミカやクルミ達と共に待機である。

 

「……それにしても、アラン機関というのは恐ろしいな。あれほどの運動をしてもまったく問題ない人工心臓を、世界との使命と引き換えとはいえ無償で提供するなんて」

 

 クルミがモニターを眺めながら言う。

 その日まで千束が人工心臓であることを知らなかったクルミとたきなは、松下との会話をきっかけにそれを知る事になったのだ。

 

「それが才能にふさわしい対価という奴さ。この世界、才能を持つ人間は限られている。だから、そういった人間が世界に奉仕するためには報酬があってしかるべきなのさ。才能を輝かすための報酬がね」

 

 クルミに黒花は言う。彼女の言葉に、クルミは不敵な笑みを浮かべる。

 

「言うじゃないか。そういうお前はどうなんだ? お前も、アランチルドレンなんだろう? お前は、一体どんな才能に対してどんな報酬を貰ったって言うんだ?」

「私か? 私も千束と変わらないよ」

「千束と?」

「ああ……生きる権利、って奴だ」

 

 黒花は首元からフクロウのネックレスを取り出し、揺らしながらクルミに言った。

 その側で、ミカが一瞬だけ顔を俯かせたが、誰も気づく事はなかった。

 

 

「……ん、三人、つけられてるな。つけてるのはサイレントジンと言われている殺し屋だ」

 

 それから少しして、クルミが三人を尾行している男を見つけ、すぐさま身元を割り出した。

 

「サイレントジン、だと?」

「知ってるのか?」

「ああ、昔の仕事仲間だ。DAに訓練教官としてスカウトされる前のな。文字通り、寡黙なプロフェッショナルだ」

「なるほどね……なら、私の出番かな」

 

 黒花はそう言うとその場を離れ始める。

 

「行くのか?」

「ああ、今追ってるのはミズキだが、プロ相手にどうこうできるかと言われれば怪しいだろう? なら、三人の良好な観光のために私が一肌脱ごうと思ってね」

「……千束が怒るぞ」

 

 言ったのはミカだ。

 

 ミカの言葉に、黒花は振り向き言う。

 

「そうなる前に、こなすだけさ」

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 黒花はミズキがつけた発信機の信号をクルミから教えられながら、ジンの居場所を探っていた。

 ジンは情報によると既に千束達に接近しているようだった。

 ならば、千束達に接触する前に処分しなければいけない。それが一番穏当に物事を処理できる。黒花はそう思い、銃を片手にジンを探していた。

 

「クルミ、ジンの位置は?」

 

 無線で黒花はクルミに聞く。

 

『接近してるぞ……後ろだ!』

 

 瞬間、黒花は背後を向きながら回避行動を取る。

 直後に、黒花の頭のあった位置のガラスに弾着する。

 黒花はすぐさま銃を構え、ジンに向けて発砲する。

 

「ちっ」

 

 だが、黒花の弾は防がれた。ジンの着ているコートが防弾だったのである。

 ジンは素早く近くの非常階段に入っていく。

 

「防弾コートとはふざけたものを……! クルミ!」

『分かってる。今追ってる』

 

 クルミの指示を受けながら黒花は階段を登っていく。

 

「にしてもあいつ足音もなく近づいてきたぞ……サイレントジンという名は伊達じゃないな」

『さっきも言ったがあいつはプロ中のプロだ、気をつけろよ』

「分かってるよ」

 

 ミカの無線越しの注意に黒花は口早に答える。

 階段を登り続け、ついに黒花は屋上へたどり着く。

 クルミによると、ジンは屋上で動いていないらしい。

 

「…………」

 

 屋上に立ち並ぶ室外機の影に、黒花はジンのコートの一端を見つける。

 だが、黒花は思った。

 怪しい、と。

 さんざんミカからプロフェッショナルと聞いているジンが、こんな分かりやすい待ち伏せをするだろうか?

 黒花は罠の可能性を考慮し、周囲に神経を研ぎ澄ませつつ後方から接近する。

 そして、見える位置から銃を構えた。

 

「……やっぱりか」

 

 だが、そこにあったのはコートだけだった。ジンはコートに発信機をつけられていることを察知し、その場に脱ぎ捨てたのだ。

 

「クルミ、今の千束達の位置を頼む! ジンは間違いなくそっちに向かった!」

 

 黒花は千束達の位置を聞き、そこへと向かった。

 

 

「……いた!」

 

 黒花はジンを見つける。彼は工事現場の足場から千束達と一緒にいる松下を狙っていた。

 

「させるか!」

 

 黒花はジンに向かって射撃する。

 ジンにその弾丸がかすめる。

 既に防弾コートを脱ぎ捨てたジンの体に傷がついていく。

 

「……!」

 

 ジンはその場での狙撃を諦め、目下の鉄骨と足場でできた工事現場内に飛び降りた。

 

「逃すか!」

 

 黒花も飛び降りそれを追う。

 彼女とジンは工事現場内でお互いの位置を探りながら撃ち合う。

 

「っ……!」

 

 黒花の銃弾の一つがジンの左足太ももを撃ち抜く。

 二人の距離は二十メートルもない。その位置でジンの動きが止まったのは致命的なものだった。

 黒花はジンの銃を撃ち落とす。

 ジンは物陰に隠れたが、もはや絶体絶命だった。

 

「終わりだ、サイレントジン。死ぬときまで静かに死ぬか、試してみるか?」

 

 黒花は勝利を確信し、そう言いながら銃片手にゆっくりと近づき、やがてジンの側によると、彼の頭に銃口を当てる。

 もはやジンの命は風前の灯火だった。

 だが、そのときだった。

 

「待って!」

 

 だが、そこで黒花を留める声が聞こえてきた。

 声の主は、千束だった。側にはたきな、ミズキ、そして車椅子に乗り機械を体に繋いだ松下もいる。

 

「黒花!」

「千束……ちっ」

 

 黒花は銃を突きつけながらも、渋い顔で千束の方を一瞬向き、そしてまたジンに顔を向ける。

 

「黒花、殺さないで」

「先にこいつと戦ったのは私だ。なら、殺す権利は私にある」

「でも、松下さんの護衛を任されたのは私だよ。だから、決定権は私にあるんじゃないかな」

 

 そう言い千束は近づいてきて、黒花の構えている銃を握り、銃口を上に向ける。

 

「……確かにこの案件はお前の案件だ。私はあくまでバックアップ。間違っちゃいない」

 黒花は軽くため息をつきながら言う。

 

「けれど、そこのご老人はなんて言うかな?」

 

 だが黒花は、そこでフッと笑って視線だけを松下に向けて言う。

 

「千束、殺すんだ。殺してくれ」

 

 そして、松下は言った。

 千束とたきなは驚いた表情をする。一方で黒花は笑い、松下は車椅子で近づいてくる。

 

「そいつは私の家族を二十年前に殺した。だから殺してくれ。それがアラン機関に生かされた、君の使命ではないのか!?」

「松下さん……」

「ほら、依頼主がこう言っているんだ。なら、殺しても構わない。そうだろう?」

 

 黒花はそう言って再び銃をジンに向けようとする。だが、千束の銃を握る手は固く、黒花は銃を下ろせない。

 

「千束……!」

「……私はね、この命を人の命を救うために役立てたいの。私がこの命を救ってもらったように……だから、私はリコリスだけど私の仕事では命を奪いたくない」

「何を言って……」

「……ハハ、ハハハハハ!」

 

 動揺する松下に対し、黒花は大笑いした。

 そして、千束が握る銃を手放す。

 

「まったく、お前と久々に仕事が被ったが何も変わってないな。いいよ、今回はお前の案件だ。なら、私がしゃしゃり出るのはここまで、ということだな。まったくせっかくプロを殺れるっていうタイミングだったのに、もったいない」

「……黒花も、全然変わらないけれどね」

 

 千束は困った顔で銃を黒花に返す。

 黒花はその銃をカバンにしまう。

 

「千束……君は……では、アラン機関は君の命を……!」

 

 一方で、松下はかなり困惑しているようだった。

 そうしているうちに、パトカーのサイレンの音が鳴り響く。どうやら工事現場の作業員が通報したらしい。

 

「やっべ。面倒な事になる前に逃げないと……って、あれ? 松下さん?」

 

 そこで、ミズキが気づく。松下の反応がなくなっている事に。松下に繋がれていた機械の電源が落ちている事に。

 

「え? ちょ? 松下さん?」

「これは……!?」

「……ふむ」

 

 困惑する千束達、一方で黒花はそんな松下をマジマジと見つめて何か思うところがあるように口元に手を置くのだった。

 

 

「松下さんは、存在しなかったなんて……」

 

 リコリコに帰った千束がござに座りながら言う。

 松下が反応を失い、その後とにかく撤収した後に分かった事として、松下という人間は存在せず、今まで話していた相手は薬物の末期患者を通して誰かが遠隔で話していた、ということだった。

 そして、ジンは過去に松下が言っていた殺しはやっておらず、松下暗殺も誰とも分からない女に依頼されての事だったと言う。

 つまり、その日一日の事がすべて嘘だった、という事なのだ。

 それに千束は大きなショックを受けているようだった。

 

「誰かは知らんが、一杯食わされたな」

 

 黒花が隣で言う。

 

「いいガイドだって言ってくれたのに……」

「……いいガイドだったのは、本当なんじゃないですか?」

「どうだろうね。ただのおべっかかもしれないし、本音かもしれない。真実は闇の中だ」

「もう、黒花はすぐそういう事を……」

 

 黒花の言葉に、たきなは口を尖らせながら言う。

 それに対し、黒花はフフっと笑い続ける。

 

「ま、私は千束のガイドは体験してなかったからな。でも、たきなは楽しいと思ったんじゃないか? なら、それでいいじゃないか。たきなが楽しかったなら、少なくともたきなにとっては間違いなくいいガイドだったって事だと、私は思うよ」

「黒花……」

 

 千束が黒花の横顔を見ながら呟く。黒花は、そこですっと立ち上がる。

 

「ちょっと外の空気吸ってくるよ。二人はその間にまあ存分に乳繰り合ってくれ」

「誰がするか誰がー」

「ははっ」

 

 黒花は背中に千束の言葉を受けながらもリコリコの戸を開け、外の道路に出る。

 そして、少し店から離れて周囲を見て誰もいないのを確認すると、ポケットからタバコを出し火をつけ、またスマートフォンを取り出す。

 

「さて、何を企んでいるのやら……」

 

 そうして彼女が見たのは、リコリコで撮った写真だった。そこには、黒花、千束、たきな、そしてシンジが一緒に写っていた。四人で撮った写真だ。

 

「ま、私と千束が至ろうとする道を邪魔しなければ、それでいい。でも、邪魔をすると言うのなら……」

 

 そこまで言うと、黒花はフッと笑い、スマートフォンをしまって吸い終わったタバコを携帯灰皿に入れる。

 

「さて、戻るか」

 

 そしてそのまま彼女はリコリコに戻る。

 

「よお、少しは元気出たか――」

 

 そこまで言い、彼女は固まる。そこで彼女が見たのは、たきなが千束の胸に頭を置いている姿だったからだ。

 

「く、黒花!?」

「待ってください説明させてください、これは――」

「――ごゆっくり……」

「あー待って待って待って!」

 

 黒花はまずいものを見てしまったと言うように扉を閉めようとする。

 そこで、二人の必死の弁明を聞くまで少し悶着するのだった。

 

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