【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「たきな、今度の休み、デートしない?」
「……はい?」
その日、リコリコで黒花は客のいないタイミングを見計らってカウンターに寄りかかりながらたきなに言った。
「突然何を言っているんですか? 黒花」
「はわわ!? 聞いたミズキ!? 大胆告白だよ黒花ったらー!」
「まさかソッチだったとは……いや、ちょっと納得かも」
「おい外野二人、話が面倒になるからちょっと黙ってろ」
疑問しかなさそうなたきなに、明らかに大げさに反応している千束とミズキ。
黒花はそんな千束とミズキに釘を刺しながらもたきなに言う。
「いや、たきなは千束とたくさん仕事をしてるけれど私とはないだろ? だから、まだお互い二人っきりになったことって実はないわけだ。だから、そういう機会があってもいいかなーと思ってさ」
「なるほど……ならデートなんてややこしい言い方をしないでください。勘違いする人が出てしまいます、そこの二人みたいに」
「ははっ、すまんすまん、つい異性を口説くノリで言ってしまってな」
「…………」
たきなの白い目が飛んでくる。
千束は相変わらず興奮しているし、ミズキにいたっては「はわわこん裏切り者がああああああ!」と叫びながら怒りの表情を向けてくる始末だ。
自分の軽率な発言が元とはいえ、黒花は困ったような笑みになってしまう。
「ま、まあアレだ! 今度二人で一緒に遊びに行こうってこと! どうだい?」
「……まあ、別にいいですけれど」
とりあえず、たきなは了承してくれた。
「ありがと」
それに黒花は笑って礼を言うのだった。
「えーずるーい! 私も連れてけー!」
「私もだー! そしてあわよくば男との出会いをー!」
「あっ、だったら僕も頼もうかな」
「お前達、二人でって聞こえなかったのか!?」
連れて行けと要求する他の女子面子をなんとか抑えながら。
◇◆◇◆◇
「やって来ましたTDCAぇー!」
「はぁ……」
ニッコリと笑顔で叫ぶ黒花に、たきなはイマイチついていけない顔をする。
二人が今いるのは東京ドームシティアトラクションズ、通称TDCAである。
東京ドームに併設する遊園地で、都内からなら三十分でいける名所の一つである。
黒花とたきなは、そんな遊園地を訪れていた。
「どうしたたきな? せっかくの遊園地だ、もっと喜んだらどうだ?」
「と言いましても、私遊園地初めてなので……」
「あーリコリスはそうなるわな……」
苦笑する黒花。
しかし、黒花は気を取り直したようにたきなに言う。
「ま、初めてなら初めてなりの楽しみ方があるさ。それにしてもたきな、今日はちゃんと千束が選んだ私服着てきて偉いなー、銃も置いてきたようだし」
「ええ、まあ……今回は持ってくるなと口を酸っぱくして言われましたしね……」
二人はしっかりと私服でやって来ていた。
黒花は以前と同じように黒のジャケットに白のシャツ、そしてデニムのパンツを。一方でたきなは以前千束と選んだ服の一つで、白のブラウスに青いフレアスカートだった。
「ああ。せっかくの遊園地に銃なんて持ち込んだら無粋だろ? さ、まずはあれから乗ろう、ジェットコースター!」
「え? あ、ちょっと、引っ張らないでください!」
黒花はたきなの腕を掴み進んでいく。
たきなは黒花に強引に連れて行かれることとなった。
そうして、二人は様々なアトラクションを楽しむことになる。
「ふううううううううっ!」
「おっ、おおおおおお!?」
ジェットコースターで叫び、
「うわっぷ!?」
「こ、これはなかなかにびっくりですね……!」
ウォーターアトラクションで水を盛大に浴び、
「よーしたきな、写真撮るぞー」
「は、恥ずかしいです……!」
たきなをメリーゴーランドに乗せて写真を撮ったり、
「ひゃっはー!」
「か、体が軽い……」
バイキングの勢いを感じ、と、とにかく楽しんだ。他にもお化け屋敷やティーカップなど様々なアトラクションを楽しんだ。
そうしてたくさん遊んだ最後に二人が乗るのを選んだのは、観覧車だった。
二人は観覧車に乗り込み、お互い正面になるように座る。
「それにしても凄いですね、輪の中央がない観覧車なんて」
「ああ、世界初らしい。この国はそういうの好きだからなぁ」
互いに風景を楽しみながら言い合う。
外は、日が沈み夕焼けが街を染め始めていた。
「…………」
「…………」
そこで、両者無言になる。ゆったりとした時間が流れ始める。
が、そんなときだった。
「黒花」
たきなが口を開いたのだ。
真面目な顔、真面目な口調で。
「ん? なんだ?」
「そろそろ本当の目的を教えてください」
「……何の事だ?」
黒花は窓の外に目を向けたまま答える。
「とぼけないでください」
ソレに対し、たきなは問い詰めるように言う。
「今日の黒花は、どこか無理をしていました。まるで千束のように振る舞って、でもあなた自身は本当には楽しんでいないと、私は感じていました。ならば、あなたには何か他に目的があるはずだと思ったのです。私をこうして誘って二人っきりになった、本当の目的が」
「…………」
たきなの問いかけに対し、しばし沈黙する黒花。
だが、やがて彼女は口を開く。
「……さすが、お見通しなんだな、たきなには」
黒花はそう言うと、たきなの方に向き直る。
夕日が個室内に差し込み、赤く室内を照らす。
「たきな、実は改めて頼みたい事があってな」
「頼みたい事、ですか?」
「ああ……千束の事だ」
黒花は落ち着いた声で言う。
「千束、ですか?」
「ああ……私と千束はもう十年以上付き合ってきた。だから、お互いの事をいつしか姉妹のように思い、育ってきた。いわば、大切な家族なんだ。でもな……でも、どうしても私はあいつと相容れないところがある」
「……仕事のスタイル、ですか」
「そうだ。私は殺し、あいつは生かす。そこだけはどうしても寄り添えなかった。でも、お前は違う。お前はなかなかの腕がある。千束とバディを組めるほどのな。そして、千束の不殺を共に歩む事ができる。だから、頼みたいんだ。千束の事を。私が隣にいてやれない分、お前が千束の隣にいてやってくれ。お前なら、私の代わりになるはずだ」
「黒花の、代わりに……? 一体、どういう意味ですか……?」
たきなは少し驚きながらも聞き返してくる。それに、黒花は笑って答える。
「なーに、ただの保険みたいなものさ。私は業が積み重なってる。だから、いつぽっくり逝くかもわからん。そうして私がいなくなったとき、お前が千束のパートナーでいて欲しい、そう思っただけだよ。今日は、これが伝えたかった」
「そう、ですか……」
たきなは噛みしめるように答える。
「…………」
そして今度はたきなが少し黙り、そして口を開く。
「……分かりました、あなたの意思、確かに受け取りました」
「……ありがとう」
「でも」
「……?」
「でも、あなたも約束してください。千束の側を離れない、と。千束とこれからもずっと一緒にいる、と。それが、あなたにできる精一杯の事だと、私は思うんです。だって、あなたは千束の家族の一人なんですから。家族がいなくなる事は、きっととても苦しい事だと思うんです。そんな思いを、千束にさせないでください。彼女を、泣かせないでください」
「……ああ、そうだな」
黒花は寂しそうに笑みを作って答える。
その笑みの意味をイマイチたきなは測りかねていたが、彼女が千束にとって大切な存在の一人であることはしっかりと分かっているつもりだった。
だから、言う。
「千束を悲しませないでくださいね、黒花。そうしたら、私はあなたを許しませんよ」
「おお怖い。分かった、努力する」
少し大げさな様子で手を振りながら 言う黒花。
そんな彼女にたきなは、
「まったく……千束が千束なら、黒花は黒花です」
と、困ったように、しかしどこか嬉しそうに言った。
「あと、タバコはやめてください。健康に悪いですし、臭いです」
「あ、バレてた?」
「バレバレです。みんな分かってます」
「ハハハ……でもこればっかりは嫌だね。あれは私の命の源だ」
「はぁ……」
そして今度は、本当に仕方ないと言った様子で、頭を抱えるたきなだった。
◇◆◇◆◇
「じゃあなたきな、お前なら大丈夫だと思うが、気をつけて帰れよ」
「ええ、黒花も気をつけて」
夜、二人は食事を終えるとそうして別れの挨拶をし、それぞれの帰路についた。
黒花は自分のセーフハウスの一つに帰るために、人のいない夜道を歩く。
だが、そんなときだった。
「……?」
背後から、うるさいエンジン音が聞こえてきたかと思うと、猛烈なスピードで突っ込んでくるワゴン車の姿を、黒花は発見したのだ。
「っ!?」
黒花はその車をギリギリで回避する。
車は黒花の横スレスレを通ると、急ブレーキをかけ、黒花の前で進路を塞ぐように止まる。
そして次の瞬間、スライドドアが開かれたかと思うと、その中から五人ほどのアサルトライフルAK-47を持った覆面で作業着の男達が降りてきて、黒花に銃を突きつけたのだ。
「平等院黒花だな?」
男の一人が黒花に言う。
「……ああ」
黒花は両手を上げながら答える。
すると、男は言う。
「悪いが、ここで死んでもらう」
男達はそう言いながら引き金に指をかけ、引こうとした。
その瞬間だった。
「っ!!」
黒花は素早く男達の視界から消えたのだ。
「なっ!?」
男達は黒花が突如消えた事に困惑する。
だが、黒花は決して消失したわけではなかった。黒花は、男達の視線を無意識のうちに手に誘導させ、そして素早く態勢を落とし男達の懐に入ることによって、消えたように見せかけたのだ。
「はっ!」
そして黒花は、男の一人の腹部を思い切り殴る。
「かっ……!?」
男の一人が声を上げ、銃を手放す。それを逃す黒花ではなかった。
黒花はその銃を取り、目にも止まらぬ速さでのエイムと射撃で男達五人のうち四人を射殺したのだ。
『ぐはっ!?』
四人の男達はみな急所を撃ち抜かれ倒れていく。
そして一人残された男も、両足を撃ち抜かれ、銃を撃ち飛ばされ地面に這いつくばってしまった。
「があっ……!?」
両足から血を流しながら這う男。
その男の手を、黒花は踏む。
「誰の差し金だ。言え、言わなければお前の命はない」
銃口を脳天に突きつけながら言う黒花。
「もし言えば、お前は助けてやってもいいぞ」
「……ほ、本当か?」
男は恐怖で声を震わせながら答える。
そして男は言った。
「……この前の武器取引で失敗し死んだボスの仲間だ。そいつらに依頼されて、俺達は来た。リストはここだ……!」
男はそう言って胸元から手帳を取り出し、それを黒花に渡す。
「今の時代、手帳とは……電子による情報漏洩を恐れたか。悪くない判断だ。さすが私の仕事仲間。それで、どうして私がそいつに狙われる? 私を特定したのは誰だ?」
「ロ、ロボ太ってハッカーがお前がブラッディドラゴンかもしれないってアタリをつけたんだ! そのハッカーの指示を聞いて俺らの依頼人はあんたを殺すように差し向けたんだ……!」
「へぇ……ロボ太、ね」
黒花はその名前に聞き覚えがあった。かつてウォールナットを殺そうとしたハッカー、それがそんな名前だった。
つまり、自分の裏社会での名と素性をそのハッカーが握ってしまったことになる。
「……よくないなあ、あまりよくない」
「な、なあ俺はコレで助けて貰えるんだろ? だったら――」
その瞬間、AKでの短い射撃で男の頭を破裂させる。黒花にとって、男はもう意味のない存在だったからだ。
ゆえに、黒花は男を殺した。
そして次に、いつからかその黒花の姿を見ていたドローンを撃墜する。
ロボ太のドローンなのを黒花は分かっていた。
「やれやれ、面倒な事になってきた……とりあえずはそのハッカーをどうにかするとして……そろそろ動けって事か。今のぬるま湯も、気に入ってたんだがな」
黒花はAKを捨て、電話をかけながらその場を去る。
「ああ、クリーナーを頼む。場所は――」
闇の静寂に消えていく黒花。
夜の帳の中、彼女の姿を追うものはいなかった。