【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「状況は?」
DAの廊下を足早に歩きながら、楠木が秘書に聞く。
「はい、警察、自衛隊の要人への襲撃は、今度で八件目になります。そのうち、警察が三件、自衛隊が五件。どれも襲撃を察知することができず、要人を暗殺されています」
「ちっ……」
DAは混乱していた。
原因は、日本の治安維持組織の要人への攻撃であった。どれも本来ならDAが未然に防がなければいけない事件であったが、肝心のDAが情報を掴めず、対応が後手に回ってしまっていたのだ。
楠木が司令室に入る。そこでは、オペレーター達が混乱しながらも情報のやり取りをしている姿があった。
「警察、自衛隊への攻撃を我々が察知できなかったのは不可解だ。しかも、どの要人もDAの存在を知り、繋がりのある要人と来ている。これは明らかに敵がDAの存在を認知し、攻撃をしかけているということ。つまりは、我々への挑戦状だ」
「挑戦状、ですか……」
「ああ。我々に喧嘩を売るなど、いい度胸をしたテロリストだ。その蛮勇のツケを味あわせてやる」
楠木は苦い顔でそう言った。
「司令! 今回の事件の首謀者の情報を知っていると思われる人物からラジアータへのクラッキングという方法でコンタクトがありました!」
そのときだった。オペレーターの一人がそう楠木に告げる。
「コンタクトだと? 情報を出せ」
「はっ!」
司令室のスクリーンに情報が表示される。スクリーンに映し出されたもの、それはロボットのアイコンだった。
「これは……」
「はい、ロボ太というハッカーのアイコンです。このハッカーが情報を渡すから自分を匿って欲しい、という事で我々に接触を試みた模様です」
「ふむ……よし、ここは乗ってみよう。リコリスを出す。人員はフキ、サクラペア……そして、千束、たきなの四名だ。他のセカンドリコリス、サードリコリスも現場周辺で警戒に当たらせろ。これは、最重要任務だ!」
そう指示を飛ばす楠木。
こうして、ロボ太護送作戦がきって落とされた。
◇◆◇◆◇
「いやーまさかこうして一緒の任務をすることになるとはねぇ」
「ああ、胸糞わりぃ。護送任務なら私達だけで十分だっつうのによ」
千束の言葉にフキが不機嫌な声で言う。
彼女達は今、高速を走る車に乗っていた。
ロボ太を護送するための車だ。見かけは黒い乗用車にしか見えない。また前後を白い乗用車が固めている。それもリコリスの車だ。
黒い車を運転しているのはサクラで、助手席にたきな。そして後部座席には右にフキ、左に千束が座り、その間にノートPCを抱えたロボ太が座らされていた。
「それほど僕の護送は大事な案件なんだよ! 理解しろリコリス共!」
「あぁん? 守ってもらうのにその口はなんだその口は? てかなんだその被り物は邪魔なんだよ脱げこの!」
フキが明らかに怒りながら横のロボ太にガンをつける。ロボ太は文字通りロボットの被り物をしており、それが更にフキを苛つかせていた。
「まあまあ、いいじゃないっスか先輩。これでDAに喧嘩売ってきた相手の事分かるんだから、我慢しましょうよ」
サクラが運転しながら言う。
その横でたきなが後部座席を向きながら頷く。
「そうですよ。どうもそいつは以前私達のウォールナット警護の仕事を邪魔したハッカーですが、今は貴重な情報源です。気分は良くないですが生かしましょう」
「気分良くないってお前らなぁ! そんな事言っていると、ブラッディドラゴンの事教えてやんねーからな!?」
「へぇブラッディドラゴン、それが今回の犯人の名前ってわけね。言っちゃってるじゃんもう」
「あっ」
千束の言葉にロボ太はハッっとしたという声を出す。
「バカなんじゃないかこいつ」
それに続いてフキが言う。
「バ、バカとはなんだぁ!? 確かに今は口を滑らせてしまったが、その正体までは言ってないぞ! それは、僕の安全が保証されたら言う情報だからな!」
「はいはい、それを知るために私らはこうしてあんたを運んでるんスからね。お互いビジネスライクで行きましょうやー」
サクラがあっけらかんとした口調で言う。
「ですね。それにしても、ブラッディドラゴンですか。なんというか、物々しい通り名ですね」
「ああそうだな。なんせ、相手はこの国の裏社会でずっと暗躍してた殺し屋だからな。でも、あの姿はとてもそうとは……」
「え? そうなの? ねぇもっと詳しく教えてよーロボ太さーん。お願いー」
「あっ! 危なくまた喋ってしまうところだった……! どうやら僕もだいぶ気が動転しているようだ……教えないからな!」
「やれやれ……」
千束の猫なで声に、必死で反発するロボ太。
そこでフキがため息をつきながら、窓の外に怪しいものがないか目をこらした。
同じく千束も、じゃれ合うのをやめて反対側の窓から外を注視する。
そのときだった。
「っ!? みんな伏せてっ!」
千束は見つけたのだ。遠いビルの向こうから輝くスコープの反射光を。
その次の瞬間だった。
車のタイヤが狙撃銃の弾丸によって射抜かれたのは。
「があっ!?」
「うわわわわっ!?」
「きゃっ!?」
速度に乗っていた車は激しくスピンし、ついにはガードレールにぶつかり動きを止める。
更にほぼ同時に前後を警護していたサードリコリスの運転する車もタイヤを抜かれ、横転する。
「ぐ……全員、大丈夫ですか?」
「う、うん! 大丈夫! ロボ太は!?」
「だ、大丈夫なわけあるか!? 狙撃されてるんだぞ狙撃!? 早くどうにかしてくれ!!」
ロボ太は既にパニックになっているようだった。
そんなロボ太の頭をフキが掴みながら外に出る。
「いいから一旦外に出るぞ! タイヤとは言えDAの防弾仕様の車のタイヤを射抜いてきた銃と腕だ! このまま車の中にいちゃいい的だ!」
「あ、あいっす!」
フキに言われるまま全員車の外に出て、狙撃があったビルから影になるように車の陰に隠れてリコリス達は銃を構える。
その直後、車が射撃される。ビルからの射撃だ。弾丸は防弾製のガラスを撃ち抜き、隠れている五人を掠める。
「ちっ、発砲音が聞こえねぇ。しかも防弾ガラスを抜いてくるとなるとアンチマテリアルライフルだな、ありゃ。ざっと一五〇〇メートルは離れてるビルからよく当てやがる」
「なんつう腕前……ロボ太さん、相当おっかない相手を敵に回したね、あんた?」
「そ、そうだよ! 相手は凄腕なんだよ! でもそれでも僕を守ってくれるんだろ!?」
「ええ、それが仕事ですから! ……しかし、このままではまずいですね。私達は身動きが取れませんが、もし敵に仲間がいてここを囲まれたら、だいぶ分が悪いことになります。その前に、スナイパーをなんとかしないと……」
「だな……おい、こういうときのアイツなんじゃないか」
「……ですね。今連絡を取ります」
そうフキから言われたたきなは電話を取り出し、コールする。すると、すぐさま反応が返ってきた。
『おう、どうしたたきな』
「どうしたじゃありませんよ黒花! 今、私達は狙撃を受けています! 場所は高速道路を挟んだ高層ビルの屋上、ここからおよそ一五〇〇メートルの位置です! 至急スナイパーの排除を頼みます!」
『なるほど、任された。すぐ解放してやるからなんとか生き延びろよ』
そこで電話が切れる。
たきなは電話をしまい、再び銃を構える。
「よし、あとはあいつがなんとかしてくれるのを待つだけだが……しかしムカつくぜ。何も出来ず動けねぇってのはよ」
「ちょっとーDA本部は何やってるのー? 車のこともバレてるし。こんな狙撃、見抜けたんじゃないのー?」
「ああ私に言うんじゃねぇようるせぇな! 本部! どうなってるんですか本部!」
千束に言われ怒りながらもDAへと連絡を取るフキ。
すると、返ってきたのは楠木の声だった。
『我々も現在調査中だ。今そちらに救援を送った。現状を維持せよ、フキ』
それは、それ以上はリコリスが知る必要はない、との通告でもあった。
フキは苦い顔になりながらも、頷く。
「……分かりました」
「どうやら、隠し事されちゃったようだねぇ」
「うるせぇ! 本部からの指示は絶対だ。私達は、こいつを死守するぞ!」
「あいあい。ロボ太、大丈夫?」
「ひ、ひいいいいいいっ……! は、早くなんとかしろっ!」
千束が声をかけたロボ太は、頭を抱え小さく縮こまっていた。そんな彼を見ながら、千束は言う。
「大丈夫、あんたは死なせないよ。私達が守る」
千束はそう言って、ロボ太の肩を叩く。
「お、お前……」
彼女の言葉に、わずかに安堵の色を見せるロボ太。
だが、そんなときだった。
五人が背にする車の向こう側から、一つの小さな物陰が飛び出してきたのだ。
それは、ドローンだった。そして、ドローンから小さな物体が投下される。手榴弾だった。
「っ!? ボムドローンです! 全員逃げ――」
たきなが叫ぶ。だが、遅かった。
手榴弾は炸裂した。
同時、激しい音と光が彼女達を包む。
手榴弾は、光と音で相手を麻痺させる、フラッシュバンだったのだ。
「ぐっ……!?」
その激しい閃光と音で身動きが取れなくなる千束達。
「う……ロボ太……!」
千束は気を失いそうになりつつも、ロボ太を守ろうと手を伸ばす。
だが――
「……え?」
返ってきたのは、生暖かい感触。それは、命が流れ出る暖かさだった。
やがて、戻ってくる視界。そこに広がっていたのは、足と胸を撃たれ横たわるロボ太の姿。そして、ロボ太を撃ったと思われるバイクに跨った、銃――マカロフを片手に持つヘルメットを頭にかぶったコート姿の人物。
「き……さま……!」
千束はまだぐらつく視界の中、銃を構えそいつを撃とうとする。
だがその人物はPCを拾い、バイクを発進させその場から消え去った。
こうして、四人のロボ太護衛任務は失敗したのだった。
◇◆◇◆◇
「……まあ、そう落ち込むな。今回は相手の方が私達、更にはDAよりも一枚上手だった。それだけの話だ」
その夜、喫茶リコリコで黒花は落ち込む千束の頭を椅子に座りながら撫でていた。
「うん……でも、もっと私が警戒できれば……私がもっと早く動けてれば……」
千束の目元は赤くなっている。ひとしきり泣いた証だった。
「黒花の言う通りですよ、千束。あの警戒態勢で防げなかったのは、相手が完全にこちらの手の内を知っていたからに他なりません。私達は、情報戦の段階で負けていたんです」
今度は、たきなが千束に言う。
千束はそんなたきなの言葉に、小さく頷く。
「しかし、あのロボ太が殺されるとはな……僕を殺そうとした奴だが、死なれると少しばかり寂しいもんだ。なあ黒花、本当に今回の犯人、見なかったのか?」
「ああ。と言っても、完全に見てないわけじゃない。私が現場に向かう最中、バックを担いた黒いコートとフルフェイスのバイクが通り過ぎていったのは覚えている。千束達の証言からして、そいつが犯人だったんだろうな。まったく、してやられたよ」
クルミの言葉にそう答える黒花。
彼女の言葉に「……ふむ」と考え込む素振りを見せるクルミ。
「どうしたクルミ、何か思うところでも?」
「いや……僕は僕であいつの残したモノを探ってみようと思う。あいつもアレで一流のハッカーだった。なら、どこかに情報を残しているかもしれないからな」
「ああ、頼む。それが、今回の黒幕に近づく第一歩だ」
そこまで言うと、黒花は座っていた椅子から降り、玄関へ向かう。
「……また一服ですか」
「ああ、許してくれ。煙を吸ったほうが、私も落ち着くんでね」
たきなにそう言って外に出ていく黒花。その背中を、クルミはじっと見つめていた。
「やれやれ……これは、そのうち正体がバレるやもな」
店から距離を取り、いつもの喫煙スポットに行くと黒花は呟く。
「ロボ太の家のPCは破壊済みだが、クラウドに何か上げられているかもしれん。はたして、クルミより前に処理できるかどうか……」
そう言いながら、黒花は懐を見る。
そこには、一丁の銃が入っていた。
普段彼女が使用しているM1911ではない。
マカロフが、そこにはあった。
「こいつも、とっとと処分しないとな」
そう言いながら、黒花は携帯灰皿にタバコの吸い殻を入れる。そしてもう一本タバコを取り出し、また吸い始めるのだった。