【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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15.Owl

「っ!」

「ほらほらどうした? 当たってないぞ?」

 

 ロボ太護送任務から少し。たきなと黒花はリコリコの地下訓練場で模擬戦を行っていた。

 言い出したのはたきなからだった。

 あの日、状況が状況とはいえロボ太を守れなかったのを悔いていたのは千束だけではなかった。

 彼女もまた、己の無力さを噛み締め、そして少しでも強くなるためにファーストリコリスである黒花に模擬戦を依頼したのだ。

 

「くっ……!」

 

 たきなのペイント弾は黒花には一切当たらない。

 一方で、黒花はあざ笑うかのようにたきなに接近を続け、そしてついに――

 

「チェックメイトだ」

 

 接射と言える距離まで近づき、ペイント弾を腹部に撃ち込んだのだ。

 

「……はぁ、さすがですね黒花は。まるで千束みたいです。どうやって弾丸を避けてるんですか?」

 

 ペイント弾で服を汚したたきなが言う。

 

「ん? ああそうは言っても千束ほど完璧に避けてるわけじゃないよ。私のは勘というよりは経験での反応というのが正しい。どういうときどういう風にどういう場所を相手が狙ってくるのかを知っているから、それをもとに避けてるのさ」

「はぁ……そんなに経験豊富なんですか? 黒花は?」

「ん? あぁー……まあな」

 

 黒花はごまかすように言う。さすがに前世にあたる経験があるとは言えなかったからだ。

 

「……?」

 

 たきなは少し不思議そうな顔をするも、そういうものだと飲み込む事にするようだった。

 そんなときだった。

 

「はーいお二人さん! 模擬戦はそこまでにして、仕事しましょ仕事ー!」

 

 元気そうな千束の声が聞こえてくる。

 

「どうやら、開店時間のようですね。行きましょう」

「ああ、そうだな」

 

 そうして二人は地下の訓練場を出ていく。そのとき、千束と並んだたきなは聞く。

 

「そういえば、千束は黒花と模擬戦はした事あるんですか?」

「ああそりゃしょっちゅうしてたよー! 最近はちょっと控えめだけど。私と黒花の因縁はそこそこ長いよー?」

「因縁て。単に模擬戦でどっちが上か未だに決められてないだけじゃないか」

「それが因縁なんだよー! えーと確かこの十年で何戦したんだっけ?」

「覚えてないのかよ」

「いや、決着がついてない事は覚えてるのよ、ただ最近してなかったから試合数までは……」

「はぁ……二百戦して、二百戦とも引き分けだよ」

「え!? 全部引き分けなんですか!?」

「そーそー! そうだった! いやぁねぇ、お互い弾に当たらないもんだから最終的に弾切れで終わっちゃうのよ! 勝敗ついたのなんて初めて会ったときの一戦ぐらいかなー」

「そうだな。最初に会ったときの模擬戦で、私は千束に負けた。それ以降は勝ててもないし負けてもない、って感じだよ」

 

 黒花が懐かしむように言う。

 千束もどこかそのときのことを懐かしんでいるような顔だった。

 

「……二人共、本当にずっと一緒だったんですね」

「……そうだな」

「そうだねぇ……」

 

 しみじみと腕を組みながら言う千束と、ポケットに手を突っ込みながら言う黒花。

 

「うぉいお前ら何しとんじゃい! さっさと開店準備手伝わんかいコラ!」

 

 と、そこにミズキがやって来て言う。

 三人はそれぞれ苦笑して、地下から地上に上がってリコリコの開店準備をするのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「わさびのりこ」

「ちいかまお」

 

 夜、千束と黒花はそれぞれ赤いドレスとフォーマルスーツを着て会員制の高級クラブの受付でクルミから渡された偽名を名乗っていた。

 理由は、ミカがこのクラブで誰かと千束の事について話すという事を千束がうっかり見たミカの電話から知ったからである。

 そこで千束は楠木が自分をDAに連れ戻すつもりなのではと思い、それを確かめるためにミカの後をつける事にしたのだ。

 千束がDAに引き戻されれば、黒花としても一人残されるのは面白くないのでDAに戻ると言い、そうするとリコリコがなくなって他の面子も困る、とのことで全員での尾行である。

 その後、クラブに潜入する人選は公平にグーパーで決め、千束と黒花が潜入することになったのだ。

 それにしてもよくこんなひどい偽名で通ったな……と思う黒花がいた。

 とにかく二人はそうしてクラブに入り込み、残った面子は車で待機して、ミカを監視する。

 すると、ミカの元に訪れたのは店の常連になっていた、シンジであった。

 

「これは……」

 

 黒花は思う。シンジは何か秘密を抱えている。しかも、千束に携わる何かを。そして恐らくジンを仕向けたのも彼だと考えていた。故に、そんな彼がミカと二人で会うという事は、何か重要な事を話すのではないか、そう思ったのだ。

 

「あちゃーこりゃ逢引きだ……私としたことが。さ、黒花出よう。邪魔しちゃ悪い」

「あ? ああ……」

 

 だが、そうとは知らない千束は逢引きと確信し、その場を去ろうとする。

 黒花は二人の話を聞いてみたかったが、そこは千束に従い店を出ようとする。

 だが、そのときだった。

 

「――え?」

 

 千束が、急に立ち止まったのだ。

 それはシンジの発言によるものだった。

 

「何のために私が千束の命を助けたと思ってるんだ、あの心臓だってアランの才能の結晶なんだぞ」

 

 千束の救世主がシンジである。

 彼の発言はそれを物語っていた。

 

 そして黒花はそれで合点がいった。吉松シンジは、アラン機関の人間である、と。

 

「ヨシさんだったの……?」

 

 千束がシンジに話しかける。黒花も、仕方ないと一緒に出ていく。

 

「お前ら……」

 

 ミカが驚いた顔をする。

 

「悪いね先生、楠木司令が千束を連れ戻すんじゃないかって話になって」

 

 黒花がそんなミカ達に説明するように言う。

 

「ごめんなさい、今の話! ちょっとだけ! ちょっとだけヨシさんと話をさせて!」

 

 千束が必死に懇願する。

 そんな千束に、黒花はささやく。

 

「……下で待ってる」

 

 黒花は千束をミカと二人で話させるために、先に下に降りた。

 そうしてしばらく、シンジが一人降りて来て、車に乗り込もうとする。

 

「やあ、あんたがアラン機関の人間だったとはね」

 

 そんなシンジに、黒花は話しかける。

 

「…………」

「なら私の事も知っているってわけだ」

「君も、救世主探しかい?」

「いや、私はそんなのに興味はない。でも一つ聞かせてくれ。……千束を、どうするつもりだ?」

 

 黒花は顔では笑いながら、しかし目は凍てつかせながら聞く。

 

「……彼女の才能は神のギフトだ。彼女がそれを活かせないなら、活かせるようにするまでさ」

「……ふぅん」

「君は、才能を存分に活かしているようだな。その調子で、頑張るといい」

 

 シンジはそう言い車で去っていった。

 そのとき、黒花は車を運転しているのが女の秘書らしき人間なのを見逃さなかった。

 

「……女の依頼人、か。やっぱりね」

 

 ジンの供述を思い出す黒花。彼女の中で、ピースがハマった。

 

「化け物フクロウめ。次は何をする?」

 

 

「千束が来ましたー!」

 

 翌日、てっきり仕事を休むかと思っていた千束が少し遅れて店にやってきた。

 その姿に、ミカとたきながほっとしている姿があった。

 一方で、黒花はそんな千束を見ながら一人呟く。

 

「……今は、この時間を楽しむとするか」

「黒花ちゃん、なんか言ったかい?」

 

 常連に聞かれる黒花。

 黒花はそんな常連に向かって、

 

「いや、千束は今日もバカ元気で羨ましい、って言っただけだよ」

「あ、聞こえたぞ! バカは余計なんじゃないかなー黒花ー!」

 

 千束が指をさしながら言う。

 そんな千束に、黒花は、

 

「いいからとっとと着替えてこいこの遅刻者めが」

 

 と笑いながら言う。

 

「はいよー待っててねー!」

 

 明るく対応する千束。

 そんな彼女を見た黒花は客に持っていたお茶を配膳した後、更衣室に向かう。

 

「先生、ちょっとだけ時間頂戴」

「……ああ」

 

 ミカは了承する。

 黒花は更衣室に入ると、着替えている千束の横に自分のロッカーを背にして寄りかかる。

 

「……ちゃんと、折り合いはつけてきたようだな」

「……うん。ヨシさんがまたリコリコに来てくれるかは分からないけれど、私は私にできる事をする。それだけ」

「……そうか。ま、お前らしくて、それでいいと思うよ。その答え」

「へへ、そうかな」

「ああ、そうだよ」

 

 そこまで言い、笑い合う二人。と、そこで千束が気づいたように口に手を当てる。

 

「あ、そういえばヨシさんから黒花の救世主さんの事聞いておけば良かった! ああでもあの感じだと教えてもらえないんだろうなぁ……なんかごめんね、黒花」

「ん? ああ、いいんだよ。私のアレは、お前と一緒にいる方便みたいなモノだし」

「え!? そうなの!? あ、でも確かに前そんな事を言ってたような……でも、人探しも関係あると思ってた……関係なかったんだ、人探し」

 

 びっくりしたように言う千束。彼女は今下着姿で、和服を着ようとしていた段階であった。

 

「いいんだよ、この十年、お前といれて楽しかったし」

「そうだね。そしてそれはこれからも、でしょ?」

「……そうだな」

 

 笑い合う二人。千束はそこで完全に着替え終わっていた。いつもつけていたフクロウのネックレスを、ロッカーに引っ掛けて。

 

「それじゃ行こうか。これ以上先生達を待たせちゃまずい」

「おうよ」

 

 力こぶを作って答える千束。二人はそうして、更衣室を出てリコリコに立つのだった。

 

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