【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「例の襲撃犯の詳細はまだ分からんのか」
DAの司令室で、楠木はイラついていた。
千束達を手玉に取り、ロボ太を射殺した犯人。その正体が未だに掴めていないからである。
「すみません……監視カメラにも殆ど映像が残っておらず、ラジアータでもその足取りを掴めない状況です」
秘書が隣で言う。
司令室のモニターには遠距離からの黒コートでフルフェイスの人物の映像が数点映し出されているのみだった。
「街の警備システムは敵の掌握下にあるということか……しかし、一体どうやって……」
「どうにも、システムへのハッキングは世界的なハッカー集団『デスセクト』が絡んでいるらしいところまでは突き止めたのですが、どうやってハッキングしたのかまでは分からない現状です」
「『デスセクト』……世界各国の管理体制に反旗を翻しているという集団か。なぜそんな集団が我が国を狙う。ラジアータもとい我々DAの存在を国外から感知したとでも言うのか? ……いや、待て」
と、そこで楠木は思い当たる節があるというように口元に手を置き、そして言う。
「……内通者」
「え?」
「我々の内部に裏切り者がいるとするなら、情報が外部に漏れているのも辻褄が合う。そうは思わんか?」
「そんな……DAの人間の身元は加入時に厳重に調査され、その後も定期的に身辺調査は行われています。ありえません」
「しかし、その“ありえないこと”が現状起きている。我々は、もっと身内を疑うべきなのかもしれん」
楠木はそこまで言うと、司令室の面々に背中を見せ歩いて行く。
秘書もその後についていく。
「いいか、DAの人間の身辺調査を再度徹底させろ。どこにネズミがいるか分からんからな」
「……はい」
頷く秘書。
しかし、彼女達の頭からはまだ抜けている対象がいた。
それは、リコリス。
孤児から拾い、DAで養成してきたリコリスの事は、彼女達もまだ疑おうとは考えもしていなかったのだ。
そこにこそ、唯一にして最大の裏切り者が潜んでいる事にも気づかず……。
◇◆◇◆◇
「おーいガキ共ー! ハロウィンのお菓子だぞー」
黒花、千束、たきなの三人はリコリコの仕事で保育園を訪れていた。
ハロウィンのお菓子配りである。
千束はかぼちゃのドレス、たきなは魔女の格好、そして黒花はバンダナを巻いた黒の海賊衣装だった。
黒花はお菓子の入った袋からお菓子を取り出し、子供に一つずつ渡していく。
「わぁー黒花だ! 久しぶりー!」
「お菓子お菓子ー!」
子供達が目を輝かせながら黒花の前に群がる。
「はいはい押さないでー」
「ハッピーハロウィン」
それを、黒花と一緒に千束とたきなも分担して子供達に渡す。
「それにしても、黒花が来てくれるのは珍しいねぇ、どういう風の吹き回しさね?」
「んー? まあな。たまにはこういうのもいいな、と思ってな」
千束に聞かれ、黒花はお菓子を渡しながらも答える。
お菓子はあっという間に子供達の手に渡り、なくなっていく。
「嬉しそうですね、みんな」
「そうだな。ああいう顔を見ていると私のなかのなけなしの父性がくすぐられるのを感じるよ」
「母性じゃなくてですか?」
「ん? ああそうだな、母性だ母性。間違えた」
「もう、変な黒花ですね」
そう言って笑い合う黒花とたきな。そんな二人を見て、千束が言う。
「いやーお二人さんもすっかり仲良くなったじゃないの。私ゃ嬉しいよぉ」
「そう……ですね。黒花ともなんだかんだでもう一年近くは一緒にいますから」
「だな。たきなが最初リコリコに来た頃は桜が咲いてたのに、もうハロウィンだ。時間の流れは早い」
黒花はしみじみとしながら言った。
彼女は思い出していた。たきなが来た日の事を。千束と過ごした十年の事を。
三人で過ごしていると、本当に時間が早く過ぎていく。それがなんだか、黒花には不思議だった。
「なんだろうな、お前らといると本当に飽きないよ。これまで過ごした日々は、間違いなく悪くないもんだったと言えるよ」
「……なんだか、お別れを言うみたいな口調ですね?」
黒花がどこか寂しげな様子で言うのに対して、たきなが不思議に思った。
そんな彼女の言葉に、黒花は一瞬驚きの色を見せ、そしてすぐさま落ち着いた顔になる。
「……ちょっと寒くなってきたからな、センチメンタルになったのかもしれん」
「へぇー黒花もそんな風になることあるんだねぇ。乙女ぇー」
「やかましい、少なくとも馬鹿のお前よりは繊細なんだよこっちは」
黒花は茶化す千束に対し半目でそう言うと、ふらっとその場から離れ始める。
「あれ? どこ行くんですか黒花?」
「いや、ただのお手洗いだよ。いちいち言わせるな恥ずかしい。まあでもそんなんだからあんなウンコみたいなパフェ作れるのか?」
「なっ!? それは別に今関係ないじゃないですか!?」
たきなが顔を赤くする。そんな彼女を見て、黒花はカラカラと笑う。
「何、すぐ戻ってくるよ。それまでガキ共の相手、よろしくな」
「たきなー! ウンコみたいなパフェって何ー?」
「あ、ああ別にそれは知らなくてもいいんですよ別に!」
「ふっふっふ、画像、見る?」
「ちょっと千束!?」
楽しげに笑い合う千束達。
そんな彼女達を微笑みながら見た後、黒花は保育園の奥へと進んでいった。
翌日。
その日、リコリコに立っていたのはたきな一人だった。
千束は定期検診で遅番。そして黒花は未だ連絡がなかった。
「珍しいですね、黒花が連絡も入れずに遅刻するなんて……」
「あのバカどこで油売ってるのかしらねー。はっ、もしや男!? 男なのか!? キーッ! 一人抜け駆けしやがってチクショウー!」
ミズキのいつもの癇癪に苦笑いするたきな。
一方で、クルミとミカも表に出てくる気配がなかった。
たきなは不思議に思い、裏に回る。
「店長、クルミ。どうしたんですか? 一応店は開店してますけれど」
「……ああ、たきなか」
そこには、神妙な顔でパソコンの画面を見ているクルミとミカの姿があった。
「どうしたんですか? 何かあったんですか?」
「いや……実はな、あのロボ太襲撃犯の犯人、どうにか身元を割り出せないかと数少ない資料からいろいろと情報を集めてて、その一つで音のデータからエコーロケーションを試したんだ」
「エコーロケーション?」
「ああ、例えばコウモリやイルカが音波で対象の位置を探る方法だ。それの応用で、対象の身体的特徴を割り出せないかと試したんだが……」
「ああ、確かに相手はコートを着ていて体格も分かりませんでしたからね。それで?」
「……一致するんだ。襲撃犯が、我々のよく知っている人物の体格とな」
「……どういうことですか」
ミカの重々しい言葉に、何か嫌な予感がするたきな。
そんな彼女に、クルミが眉をひそめながら言う。
「……完全に一致するんだよ、犯人の体格と、黒花の体格、骨格が」
「……は?」
たきなは言葉が出なかった。知っている人物が、という前置きを置かれてもなお、襲撃犯が黒花である、というクルミ達の推測の意味が分からなかった。
「ちょっと待ってください、たまたま体格が一致しただけかもしれないじゃないですか。それで犯人扱いは……」
「ああ、しかし骨格まで一致するのはまずあり得ない。しかも、それだけじゃないんだ」
「それだけじゃない、ですか?」
「ああ、そこからは私が説明しよう」
そこで口を開いたのはミカだった。ミカはメガネを片手で掛け直し、神妙な面持ちで言う。
「似ているんだ、ロボ太の死体の銃創と、あいつの仕事スタイルが、な」
「……似ている、ですか」
「ああ。あいつは一対一で殺す相手はまず一旦足を狙う傾向が強い。そのほうが動きを止められるし、尋問もしやすいからな。そうして自由を封じた相手をゆっくりと殺す。それがあいつの癖のようなところがあるんだ。そこで、ロボ太の撃たれた跡を思い出してくれ」
「確か……胸と……足!?」
「そうだ、あの状況なら急所を一撃撃てばいいはずなのに、あえて足を撃ち抜いている。おそらくロボ太は被り物をしていたから、フラッシュバンの影響が少なかったんだろう。それで逃げ出そうとしたところを、足を撃って動きを止め、そして心臓を射抜いた。いつものように」
「そんな……馬鹿な……あり得ない、どうして黒花がロボ太を狙うんですか!? まさか……黒花が要人達を暗殺したブラッディドラゴンだとでも!? そんなの、計算が合いません! だって、黒花はまだ十八のリコリスなんですよ! いくらなんでも……!」
「僕を見てみろ。そんな裏社会の風評、どうだってなるって分からないか?」
「……それは!」
反論したかった。
でも、できなかった。
感情的になっている自分に対し、クルミとミカは冷静に素性を割り出そうとして、そしてその結果犯人が黒花である可能性を追求しているのだ。
「さらに、だ」
そこでまた、クルミが付け加えるように言う。犯人が黒花ではないかという、更なる事実を。
「ロボ太がネットに残した情報……殆どは他のハッカーに消されていたが、なんとかたどり着けたものはあった。それは、ブラッディドラゴンは、女だという事だ」
「っ!?」
ここまで来ると、殆どピースがハマってしまっているようなものだった。
たきなはもう、何がなんだか分からなかった。
「……こうなったら、本人に聞きます。今から電話して、真相を確かめます!」
故に彼女は、電話を取り出し掛けようとした。
それを慌ててクルミが止める。
「おいおい落ち着けたきな! 電話して聞いて『はいそうです私がブラッディドラゴンです』なんて返ってくるわけないだろ? それどころか、逆に僕達が怪しんでるのがバレて対応を取られるかもしれない。ここは慎重にいくぞ」
「……はい、すいません。とりあえず、この事は千束には?」
「いいや、まだだ。あいつにも、ショックな事かもしれんからな」
ミカが首を横に振る。
たきなは、手に持った電話を見つめ直す。
「……そうですね、でも、この事は千束にも伝えたほうがいいと思います。黒花と一番長く付き合ってきたのは、千束なんですから。だからこそ、千束に事の真相を見極めてもらいましょう」
「……だな。千束は襲撃犯を間近で見ている。何か気づく事があるやもしれん」
「そういえば、千束はまだ帰ってこないのか? 検診はもうとっくに終わってるはずだろ?」
クルミが疑問に思って言う。
そこで、面々は顔を見合わせ、そして代表してたきなが言う。
「何か、嫌な予感がします……私、ちょっと見てきます!」
そう言うとたきなは素早くリコリスの制服に着替え、銃を準備し検診を行う診療所へと走った。
そして、診療所にたどり着いた、そのときだった。
ガシャン! と、診療所ニ階の窓が破られたかと思うと、看護師姿の一人の女が飛び出していったのだ。
そして、その後ろ姿めがけて銃弾が飛んでいた。その射撃の主は、黒花だった。
「黒花!」
たきなは叫ぶ。
「っ!」
黒花はそれでたきなに気づくと、逃げるようにたきなから姿を消す。
まるで、後ろめたいことがあるかのように。
「待ってください、黒花!」
たきなは診療所に入り、先程黒花と謎の女が戦闘をしていたと思しき部屋に入る。
そこには黒花の姿はもうどこにもなく、部屋の中央に意識を失っている千束がいるのみだった。
「千束! 大丈夫ですか!? 千束!」
たきなは千束を起こそうと体を揺する。
「……た……きな……?」
薄っすらと目を開ける千束。だが、彼女はまたすぐさま意識を失う。
「千束!? 千束ーっ!!」
たきなの叫び声が、診療所内に響き渡った。
一方で、叫ぶ彼女は気づかなかった。
見覚えのあるバイクに乗って、黒花がその場を去っていくのを……。