【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「エレベーターは……当然止められてますよね」
たきなは旧電波塔入り口にある最上階へと通じるエレベーターを調べて言った。
二人は玄関口へ入るやいなや襲ってきた敵襲をすべて撃退し、そこにいた。
「うへー、ということはこの塔を足で登んないといけないのかー、キッツ」
「なんですかやる前からへばってるんですか? 情けないですよ千束」
「こちとら余命二ヶ月だぞーもっと労れー」
「余命ジョークは笑えないから止めてください」
たきなは不機嫌な顔をして千束にいった。
千束はそんな彼女の言葉に「テヘ」と言いながら舌を出していた。
「それじゃあ行きますよ千束、あの馬鹿を殴りに」
「……あいよ!」
二人はそうして駆け上がり始めた。最上階へと続く階段を。
「くっ、さすがに抵抗が激しいですね!」
たきなが激しい銃撃を近くの崩れた壁の陰に隠れやり過ごしながら言う。
二人のリコリスが階段を少し上がってすぐ、下層階の段階で敵兵が二人に攻撃をしかけてきた。
彼女らはすぐさまそれに対処し階を上がっていくが、上に行くほどに抵抗は激しくなっていった。
そうした中で、二人は一度完全に歩みを止めてしまった。
「っていうかさぁ! なんか向こうリコリスとかリリベルがいるんですけど!? どうなってんの!?」
「……想定しておくべきでしたね、彼女の思想に賛同するリコリス、リリベルがいる事、をっ!」
千束と話しながらもたきなは素早く物陰から出て二人を狙ってくる敵の手足を撃ち抜いていく。
一方で千束もまた、銃撃の中どんどんと敵に接近していき、ほぼ接射と言える距離で非殺傷弾を撃ち込む。
そうしてその場は対処し、また歩みを進めるがまた敵が襲撃をし、足を止められる。その繰り返しであった。
「これじゃあキリがないよ……! 黒花の指定したタイムリミットまでに到着できない!」
「くっ……! 厄介な……一体どれだけの数がいると言うんですか……!」
千束は近距離で、たきなは遠距離で対応しながら進むも、敵の妨害で進行は牛歩だった。
「弾はタンマリ持ってきたけどっ! さすがにこの数は弾切れが怖いねぇたきなさんっ!?」
「だったら私みたいに敵の武器拾って使えばいいじゃないですか! 千束だって敵の手足を撃ち抜くぐらいはできるでしょう!?」
「できるけどさぁ! 先生の弾のほうが慣れてるの!」
彼女達、特に千束は先程言ったようにありったけの弾薬を持ってきていた。
これにより、黒花との戦闘まで弾切れの心配はほぼなかった。
だが、そんな弾数でもつい心配になるほどに、敵の数は多かった。
「本当に、こんな数の私兵をよく集めたよ、黒花は!」
「ですね! ここまで殺したがりがいるなんて、世界の未来は暗いです!」
そんなことを言い合いつつも、なんとか二人は上へ上へと登っていく。
と、その最中の階段だった。
「……たきな、聞こえる?」
「……はい、私達がまだ到着していないのに、撃ち合っている音がします」
二人は警戒しながら階段を上り、階層で言えば中層のあたりの空間にたどり着く。
すると、そこにいたのは――
「――っ!? 錦木千束に、井ノ上たきな……!?」
「あっ!? あいつ!? あの日、私に電撃ビリビリした女!」
「っ!? 貴様っ……!」
そこにいたのは姫蒲であった。
彼女は頭から流血しながらも、全身ラバースーツのようなスーツを着込んで敵のM4A1を使い戦っていた。
既に多くの敵兵が倒され、床に倒れていた。
「何故あなた達がここにっ!?」
「それはこっちのセリフだよぅ! お前、私に電気流して逃げた後どこで何してたんだあぁん?」
「私達は今黒花の挑戦を受け吉松氏の救出および黒花の討伐を目的にこの電波塔を登っています。あなたはなぜここに?」
三人は同じ物陰に隠れ、銃撃の中話す。
すると、姫蒲は言う。
「……私も、あの人を助けに来たんです。彼は私の力が至らないばかりに、誘拐されてしまった。しかも、あの女は私のことは見向きもしなかった。まるで価値のない商品を捨てるかのように、私を放り出した。アランチルドレンとして、これほどの屈辱はありません。彼女に、そのツケを払わせてやるんです。故に侵入してきたのですが、ここで見つかってしまい……」
そう言いながら、姫蒲は遮蔽物から身を出し射撃する。その射撃は正確で、目の前の目標を次々に沈黙させていく。
「……そういうことなら」
「私達と目的は同じ、ですね」
それに続いて、千束とたきなも身を出して敵を無力化していく。
こうして、そのフロアの敵はいなくなった。
「……まさか、共闘しようと? あなたの寿命を縮めた、この私と?」
「……ヨシさんを助けたいって気持ちは一緒、でしょ?」
「私としては大変不服ですが、そもそも千束の寿命を縮めたのは吉松氏の指示ですよね? うちにいる優秀なハッカーと吉松氏の友人がすべて調べ上げてくれました。つまり、あなたは命令通りに動いたに過ぎない。そんなあなたを憎んでもそれはお門違いというものです」
二人の言葉に目を丸くする姫蒲。
だが、一瞬で普段の鋭い目つきに戻る。
「……分かりました。あの人をお救いするまでの間だけ、力を合わせるとしましょう。さあ、行きますよリコリス」
「そうこなくっちゃ!」
「ええ」
こうして、屋上への同行者が一人増える事となった。
三人となった千束達は、それまで以上に屋上へと進むスピードを早めていく。
どんどんと階段を上り、敵を撃破し、フロアを制圧し……と、目まぐるしい速さで進んでいった。
そうして三人はついに最上階へと繋がる上層フロアへとたどり着く。そこでは、何十人もの敵兵が待ち構えていた。
三人は見つからないように物陰からその敵を確認する。
「これほどの数とは……それに、最上階へと繋がる道はあの奥にある梯子だけのようですね、現状。階段は瓦礫で塞がれています」
「何ですか? アラン機関のエージェントが臆病風に吹かれたんですか? たいしたことないんですね、アランチルドレンも」
「ちょっとたきなさん!? それ私にも降りかかるんですけど!?」
「千束は例外です」
「マジ? やったぁ!」
「言ってる場合ですか。……さすがに、この人数を相手取るのは骨が折れますね。それに、平等院黒花が指定したリミットまであと三十分しかない。これは……仕方ありません」
姫蒲はそう言うと、マガジンの残量を確認しはじめる。更に、他に携行している弾、武器もである。
そうしてすべての武器、弾薬を確認し終えたあと、姫蒲は言った。
「ここは私が囮になります。その隙に、あなた達はあの最上階へと続く梯子のあるフロアへと潜入して登りなさい」
「えっ、じゃああんたは!?」
千束は思わず聞く。すると、姫蒲は答える。
「私の事は心配なさらず。私だって、神からのギフトを与えられたチルドレンの一人。こんなところで死ぬヘマはしません」
「……でも」
千束は後ろ髪を引かれるような思いになる。そんな彼女に、姫蒲は笑みを作って言う。
「あなたという人は、面白いですね。あなたの余命を縮めた私を、心配するだなんて。だからこそ、あの人はあなたの才能に執心したのかもしれません……さあ、行って! 私が敵をこれから引き付けますから、その間に早く! そして約束してください、必ず、あの人を助けると!」
姫蒲はそう言うと、素早く物陰から物陰に移動し、そして二人から離れた距離に位置取ると、発砲を始める。
「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「コンタクト!」
敵が姫蒲を発見し、彼女の方へと集まる。
「……ごめんなさい!」
「あなたの意思、確かに受け取りました……!」
千束とたきなは、こっそりと、しかし素早く梯子まで移動する。
そして、二人で梯子を登り始める。
「っ!? おい、あそこ!」
だが、そんな二人も姿が敵に捉えられる。
その二人を撃とうとする敵兵。だが――
「よそ見をするな! お前らの相手は私だ!」
姫蒲が、千束達を狙おうとした敵兵を射殺する。
そうして姫蒲は、何十人もの敵兵相手に、一人で奮戦する。
「はあああああああああああああああっ……!」
次々と倒れていく敵兵。
だが、その戦いにも限度があった。
少なくなっていく弾数。開いていく傷口。溜まっていく疲労。
そんな数々の要素が重なり、彼女の動きは遅くなっていく。そして――
「ぐっ!?」
ついに、姫蒲の太ももが、更には肩が射抜かれる。
姫蒲はその場に跪く。
「……はぁ、はぁ」
血まみれで、肩で息をする姫蒲。
そんな彼女に、敵兵達が取り囲むように集まってくる。
「終わりだ、アランのエージェント」
敵兵の一人が言う。
「……ふっ、ふふふふふ」
そんな相手に、姫蒲は笑った。笑みを見せた。そして、言った。
「殺したがりの狂人共……お前達も、ここからは生きては帰れない……!」
そう言い、彼女が地面に転がしたのは手榴弾だった。
何個もの手榴弾が、ピンを抜かれた状態で彼女の周囲に広がったのだ。
「っ!? まずい、全員散開――」
「――私はヤコブか……後は頼みましたよ、ヤコブの天使達」
その瞬間、いくつもの爆発が起こり、フロアは静寂に包まれた。
「……たきな、今のって」
「千束、行きましょう。彼女の意思を無駄にしてはいけません」
「……うん」
二人は登っていく。長い梯子を、ただひたすらに登っていく。
すべては友と会うため。
すべては姉妹と会うため。
そのために、二人は登っていく。
ついに、二人は到達する。
最上階へと。
目的の彼女がいる、その場所へと。
「コングラッチュレーション、天国の梯子をよく登ってきたな、二人共」
いくつものモニターが吊り下げられ、瓦礫や箱が散乱している、薄暗い最上階。
そこで、二人を拍手して迎えたのは、当然、黒花だった。
「ずいぶん洒落たこと言うねぇ黒花ぁー、そういうキャラじゃなかったでしょ?」
「ここまでですよ、黒花。さあ、人質を解放し、投降しなさい」
銃を向け言う二人。
そんな二人に、黒花は笑う。静かに、ニッコリと。
「人質、か。もうここにはそんなの、いないよ」
「……え?」
黒花がそう言った次の瞬間だった。彼女が、左手に持ったリモコンを操作し最上階を屋外に設置したサーチライトで照らす。
その眩しさに、一瞬目を瞑る二人。だが、やがて慣れ眼の前の光景を見る。
そこには――
「……そんな、嘘……ヨシさんっ!!」
シンジの、頭を射抜かれた死体が転がっていた。