【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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20.Onslaught

「どうして……どうして、黒花っ!?」

 

 千束は叫ぶ。

 彼女の救世主を殺したであろう、目の前の姉妹に。

 一方でたきなは、ただ黙って鋭い眼光で黒花を睨みつける。

 今にも撃ち殺そうという雰囲気を、ひしひしと感じるほどに。

 黒花はそんな二人の視線を浴びながら言う。

 

「こいつはな、お前が本来胸に宿すべき新しい心臓を自分に移植していたんだよ」

「自分に……心臓を?」

「ああ、大方自分を殺させることで千束、お前に人殺しの道を歩ませたかったんだろう。だから殺した。お前には撃てないだろうからな。千束、お前に心臓を渡すには、こうするしかなかったんだ」

 

 黒花は近くにあった大きめのジェラルミンケースを持ち上げる。

 表面が血に濡れた、背筋を凍らせるようなジェラルミンケースを。

 

「その人工心臓はこの中に入っている。千束の寿命を普通の人間程度には伸ばせる、魔法の心臓だ」

 

 黒花はそのジェラルミンケースを置くと、それを足で押し飛ばし、二人の足元に滑らせた。

 

「……どういうつもりですか?」

「どういうつもりもない。元々、心臓は千束に渡すつもりだったんだ。アラン機関の思惑で千束の寿命が縮められるなんて、馬鹿げてるからな……ただし」

 

 と、そこで黒花は再びリモコンを取り出し、ボタンを押す。

 

「私に勝てたら、の話だけどな」

 

 すると、部屋に吊り下がっていたモニターがすべて点灯する。そこに映し出されたもの、それはデジタル表示のタイマーだった。

 およそ二十分と数十秒からタイマーが減少している。

 

「お前達がここにたどり着いたのはおおよそ二十三時四十分。私が指定したタイムリミットは零時ちょうど。シンデレラの魔法が解ける時間さ。その時間になると、街中にしかけた爆弾、そしてこの旧電波塔最上階にしかけた爆弾が爆発するように設定してある」

「っ!!」

 

 たきなが敵から拾ったアサルトライフルを構える。今にも黒花を撃とうとするために。

 だが、それを千束が銃身を握り、止める。

 

「千束!?」

「たきな、早まらないで。まだ情報を引き出せてない」

 

 千束は冷静だった。シンジの死で一時的に取り乱していたが、タイマーが表示された頃には既に頭は冷えていた。

 

「さすが千束、良い判断だ」

 

 黒花はニヤつきながら言う。そして、片手で持ったリモコンをぷらぷらと振る。

 

「こいつを使ってモニターに停止コードを打ち込め。そうすれば、街中の爆弾は止まる。だが、私もタダでコードを教えるつもりはない……千束、たきな、私と勝負しろ」

「勝負……ですか?」

「ああ。私とお前達の、命をかけた戦いだ」

 

 黒花はそこまで言うとリモコンを胸ポケットにしまい、今度はコートの右ポケットからタバコを取り出し咥えてライターで火をつける。

 更に、黒花はライターとタバコを千束達に投げ渡してきた。

 

「ほら、吸ってみろよ。案外、いいもんだぞ」

「……誰が」

「……じゃあ、一本だけ」

「千束!?」

 

 千束はタバコケースから一本取り出し、恐る恐るタバコを咥えて、慣れない手付きでライターに火をつける。

 

「……ごほっ! ごほっ!」

 

 そして、大きくむせこんだ。

 

「はははっ、最初はそうなるよな」

 

 ニカっと笑う黒花。一方で、千束は涙目だ。

 

「……よくこんなもんいっつも吸ってるよねぇ、体に毒だよ?」

「いいんだよそれが。毒による緩慢な自殺ってのが、人生を豊かにしてくれるんだ」

「訳分かんねー……」

 

 千束は口からタバコを取り、指で持つ。

 一方で黒花は、タバコを未だ咥え吸っていた。

 

「千束、私は今日という日のためにこの十年間準備してきた。お前の障害となりそうなものはすべて排除してきた。お前が気持ちよくお前の道を歩めるように」

「……余計なお世話だっつの。黒花の助けがなくても、私は私の道を歩いてた」

「だろうな。でも、私はおせっかいだからな。どうしてもお前の道を切り開きたかった。それはな、お前が私の否定だからだ」

「否定……私が、黒花の?」

「ああ。私は殺す。お前は生かす。正反対の道で、己の生を感じている。それは絶対的に相容れない存在だ。決して交わらない線だ。だからこそ、私はお前を打倒しなければならない。お前は私を打倒しなければならない。それは定められた宿命だ。そのために、私は体が成熟し、こうして最高の舞台を作るための準備をしてきた」

「……街の爆弾も、大勢のリコリスやリリベルを殺したのも、私と殺し合うためだっての? はぁーばっかだねぇーあんた、ほんとバカ。最上級のバカ」

 

 呆れたように千束が言う。続いて、たきなも口を開く。

 

「ええ、あなたは愚か者です。そんなことのために、罪のない大勢の人を巻き込もうとしている。そんな人間を許すことはできません」

「手厳しい」

 

 クツクツと笑う黒花。タバコを指に挟んだまま頭を抱える千束。相変わらず射殺すような目線で見るたきな。

 三者三様だった。

 

「でもな、そんなくだらないことが私にはどうしても譲れない事だったんだ。だから、私はお前達を撃つ。この十年の悲願を、ここで達成する。千束、お前はどうだ? お前は……私を憎いと思うか?」

「……思わないよ」

 

 千束は頭から手を離すと、柔和な笑みで言った。

 

「私はね、黒花の事が好き。この十年一緒にいてくれた、あなたの事が。でもね、それと同じくらい、街のみんなが好き。この街が好き。仲間が好き。家族が好き。友達が好き。だから、私はそんな人達のために戦う。そのために……あんたを止める」

「私もです」

 

 さらに、たきなが一歩前に出て言う。

 

「私は千束から、そしてあなたから多くの事を教えてもらいました。多くのものを貰いました。だから、その恩をここで返します。千束のために、あなたのために。私は……あなたを止めます」

「……止める、か。殺す、でなく。まったく、お前達らしい」

 

 そこで黒花は再びリモコンを左手で取り出し、ボダンを押す。

 すると彼女達の背後にあったエレベーターの上部ランプがポン、という音を立てて光った。

 

「そのエレベーターにはたくさんの重たい荷物を載せててな。重量的に乗れる人数は多く見積もっても少女二人分。だから、帰れるのは勝者のみ。私が勝てば、お前達は乗れない。逆にお前達が勝ったら、帰れるのはお前達だけって事だ」

「私は黒花を連れて帰るよ。わざわざエレベーターに乗らなくても、爆弾止めて体に縛り付けて梯子を降りればいいしねー」

 

 千束がニヤつきながら言う。黒花は、そんな彼女を見てまたクツクツと笑う。

 

「まったく……お前という奴は」

 

 そこで、黒花もまた口からタバコを取り、指で挟む。もうずいぶん小さくなったタバコを。

 

「……それじゃあ」

「……じゃあ」

「……では」

 

 一瞬の静寂。そして――

 

『やろうか』

 

 二人がタバコを床に同時に落とし、床に火の粉を散らす。

 それが、合図だった。

 

『っ!!』

 

 黒花と千束が一瞬で銃を抜き、そしてたきなが銃を構え、三人が同時に撃つ。

 

「ふっ!」

「はっ!」

 

 その弾丸は、片や黒花を、片や千束を狙っていた。

 黒花と千束はそれぞれ弾丸を避ける。

 三者はそれぞれ射撃しながら近くの遮蔽物に身を隠す。

 そして、リロード。

 千束とたきなはリロードを終え再び身を乗り出して黒花を狙う。

 だが――

 

「おらららららららららららぁっ!」

 

 黒花はPDW(個人用護身火器)――P90を取り出し、ばらまくように撃った。

 

「ちょ、それずるくない!?」

「はっ、二対一、しかも片方はM4持ちに言われたくないねっ!」

 

 装弾数五十発を誇るP90の射撃に、たきなは再び遮蔽物に隠れることを強要される。

 一方で、千束はその弾幕の雨を抜け黒花に接近する。

 

「だあああああああああああああああああっ!」

 

 千束はそして格闘距離で彼女の銃、デトニクスコンバットマスターの引き金を引く。

 

「おっと!」

 

 だが、黒花はそれに当たらない。

 それどころか、その距離でP90をリロードし、彼女もまた接近距離で射撃する。

 けれども、それも千束に当たらない。

 両者は、お互い殴り合える距離での射撃をかわし合っていた。

 一方でたきなは、二人が接近戦をしているために照準をつけられずにいた。

 下手に撃てば千束に当たる。それが彼女の引き金を引けなくしていた。

 

「……仕方ないですね!」

 

 そこで、たきなは走る。両者に向かって。

 

「でいやあああああああああああああああっ!」

 

 そして、黒花に向かってタックル。

 

「ぐっ!?」

 

 千束との戦闘と銃口に神経を集中させていた黒花は吹き飛ばされてしまう。

 

「今っ!」

 

 千束はデトニクスコンバットマスターを構え吹き飛んだ黒花に叩き込もうとする。

 

「食らうかよっ!」

 

 それを横転しギリギリで回避する黒花。

 

「止まれっ!」

 

 そこに、たきながM4A1を黒花の足目掛けて撃つ。

 

「ほっと!」

 

 だが、黒花はそれをその場で後方に飛び跳ねることで回避した。

 

「ちょ、サーカスかっ!?」

「あいにくこの十年伊達に鍛えてないもんでねっ!」

 

 そうして二人目掛けてP90を撃ち込む。

 二人はそれを反対方向に転がって避ける。

 

「ふっ!」

 

 千束は再び黒花に向かって走る。今度はたきなが射撃しやすいよう射線を開けてだ。

 だが、

 

「甘い!」

 

 黒花はそれすらも避ける。

 別々の方向から撃たれている射撃なのに、である。

 

「うっへぇー黒花なんでそれ避けれるの!? 化け物なの!?」

「正真正銘の化け物のお前に言われたくないわっ! お互い、動きは丸わかりってことだよ!」

 

 千束と銃撃し合いながらも会話をする黒花。その顔は、笑っていた。

 

「よく笑えるねこんな状況でっ!」

「そりゃお前と本気でやり合えるのは楽しいからなぁ! なぁ千束! 闘争は楽しいなぁ! 殺し合いは楽しいなぁ!」

「分からんでもないけど同意しないよバカ! 殺し合いが楽しい訳ないでしょうがっ!」

「そうですよ、もっと二人共真面目にやってくださいっ!」

 

 リロードしながらたきなが言う。

 

「ちょっと私も!? っ!」

 

 たきなに答えながら千束はスライディングし黒花の懐に潜り込む。

 だが、黒花は後方に大きく跳ね飛びながらP90をばらまくように撃つ。

 それを寝転びながらかわす千束に、近くの障壁に隠れやり過ごすたきな。

 黒花はたきなよりも千束を集中的に狙う。結果、千束は常に動いている状態になり、体力を削られていく。

 

「ちいっ! 休ませてくれないねっ!」

「当然! 次はこれでどうだっ!」

 

 そう言って黒花は次の手を打つ。それは、グレネードの投擲だった。

 

「やべやべやべ!」

 

 千束は思わずそう口にしながらも近くの瓦礫に身を隠す。

 結果、爆発はなんとかしのげた。

 そこで、千束とたきなはそれぞれ反対側に位置する場所に陣取る事になる。

 

「くっ! これでは千日手です! こうしている間にもタイムリミットが……!」

 

 障害物越しに叫ぶたきな。

 時間は残り十分になっていた。

 たきなは焦る。千束も冷や汗をかき始める。

 

「たきな……こうなったら、一か八か、やらない!?」

 

 アイコンタクトする千束。それで、すべてをたきなは悟った。

 

「……ええっ! 千束と二人ならっ!」

 

 物陰で言い合う二人。そして、その次の瞬間だった。

 

『はあああああああああああああああああああああああああっ!』

 

 二人は、同時に飛び出したのだ。

 銃を構え、突進するように。

 

「ちっ! 馬鹿か!?」

 

 二人がそれぞれ別方向から攻めてきたために、黒花は銃口の選択を迫られる。

 因縁に従い千束か、確実に殺せるたきなか。彼女が選んだのは――

 

「悪いがここで死ねっ、たきなっ!」

 

 たきなだった。

 黒花は銃口をたきなに向ける。そのままでは、同士討ち……いや、黒花のほうが既に弾丸を避ける動きをしているため、黒花のほうが有利。だが――

 

「読んでたっ! 合理主義者の黒花なら、そうするってねぇぇぇぇぇ!」

 

 千束が一瞬の隙をついて、黒花のP90を撃ち飛ばしたのだ。

 

「なっ!?」

「私達二人を相手にした時点で、負けなんだよっ! 黒花っ!」

 

 そうして、千束はギリギリまで接近し――

 

「だああああああああああああああああああっ!」

 

 黒花の顔面を、その右手で殴り飛ばした。

 

「がっ!?」

 

 黒花が大きく吹き飛ぶ。そこで、勝負は決まった。

 

 ――かに思えた。

 

「っ!? 千束、フラッシュバンです!」

 

 黒花は殴り飛ばされる瞬間、懐からフラッシュバンのピンを抜いて投げていたのだ。

 それは、主にたきなの方に飛んでいたが、十分千束も圏内だった。

 

「まずっ――」

 

 ――轟音と激しい光が、二人を包む。

 だが、それは黒花も同じ。

 近接距離で投げたフラッシュバンは、彼女にも影響があるはずだった。

 だから、三人は光と音の中どれだけ早く立ち直れるかが決着を左右した。

 いち早く回復したもの。それは――

 

「――オラァっ!」

 

 黒花だった。たきなは、あまりに近くでフラッシュバンを浴びたせいで気を失っていた。

 今度は黒花が、千束を殴り飛ばす。

 

「がっ!?」

 

 千束はまだ視界がはっきりしないうちに殴り飛ばされ、地面に横たわる。

 その際に、銃を落とす。

 

「終わりだ……!」

 

 そんな彼女に、銃を構える黒花。

 風前の灯に思えた千束の命。

 だが――

 

「――私は……諦めないッ!」

 

 とっさに落ちた銃を拾い、まだ完全に回復してない視界で、黒花の銃撃を回避。

 そして、

 

「だああああああああああああああああああああああああああっ!」

 

 ――パァン! パァン! パァン!

 

 三発の、“実弾(・・)”が、黒花の体を貫いた。

 

「………………え?」

 

 千束は、何が起きたか理解できなかった。

 

 ――どうして? これは私の銃のはず……先生の弾が入った、私の銃……じゃあ、どうして、どうして黒花は血を流して倒れているの……?

 

 その疑問の正体は、すぐに分かった。

 黒花の懐から、落ちたのだ。

 本当の千束の銃が。

 黒花の、“すり替えた同じ銃(デトニクスコンバットマスター)”が。

 

 

「黒花! 黒花!」

「黒花っ!」

 

 千束とたきなが倒れた黒花に駆け寄る。

 

「ふふふ……ああ、さすがの射撃だったな、千束……ゴホッ! ゴホッ!」

 

 それに、黒花は床に仰向けに倒れ込みながら笑って、しかし咳き込みながら答える。

 だが、その口からは血がこぼれ落ち、胸は真っ赤に染まっている。

 

「どういうことなの黒花っ!? この銃、一体……!?」

「ああ、それか……それは、私が予め用意してたものだよ……お前はヨシさんの銃好きだからな……同じものを用意すれば、すり替えられると思っていたよ……ゴホッ!」

「何故そんな事を……はっ、待ってください。それよりも、爆弾の解除コードを! あなたの目的は分かりません、でもあなたは私達に負けた! ならコードを……!」

「た、たきな……!」

 

 混乱する千束に対し、あくまで冷静に聞くたきな。

 彼女の言葉に、黒花は答える。

 

「解除コード……? ああ、それか……ないよ、そんなもの」

「……は? ちょっと待ってください。それはどういう――」

「――だって、ここ以外の爆弾は全部ダミーなんだから」

「……え?」

 

 黒花のその言葉に、今度はたきなが固まった。一方、黒花は微笑んだままだ。

 

「さすがの私も、無辜の市民を手に掛けようとは思わんよ……殺し殺されの関係こそ生の肯定となる……私も、この街嫌いじゃないしな……」

「じゃあ、なんであんな事を……」

「そう言ったほうが、お前達も本気で私に向かってくるだろう……? 千束は映画の悪役が好きだからね、気合が入ると思ってな……ゴホッ!」

「……バカ!」

 

 千束は叫ぶ。そんな彼女に、黒花は血濡れた左手で千束の頬を撫でる。

 

「千束……この勝負、お前の勝ちだ……だが、私の目的も達せられた……。お前はお前の意思じゃ決して殺しはしないだろう。だからこそ、こうした手段を取るしかなかった……。お前に、殺めることによる生の肯定を教えるためには……私達が交わるには、これしか……」

「喋らないで! ソレ以上喋ったら、傷が……!」

 

 黒花の傷口を手で抑える千束。だが、血は決して止まらない。

 

「肺を抜かれている……助からんよ。お前達なら理解しているだろう……?」

 

 彼女の顔は、とても穏やかだった。そこには、未練一つ感じない。

 

「でも……! でも……!」

「どちらにせよ、私は死ななければならなかったんだ……。ここまでの事をしたのだからな……しかし、悔いはない……お前達との生活も、存分に楽しめたしな……」

「黒……花……!」

 

 千束は涙をボロボロとこぼしていた。そんな彼女の後ろに、たきなが立つ。

 

「千束……行きましょう。そろそろ、ここが爆発します」

「いやっ! 黒花を連れていくの! 一緒に帰るの!」

「無理です! 怪我をした黒花を安全に運ぶことなんてできません! それにもう時間がないんです! 足で戻るのは無理です!」

「でもっ! でもっ!!」

 

 千束は黒花から離れようとしない。

 そんな彼女に、黒花はとあるものを手渡す。

 

「……黒、花?」

「これを、返そう……お前から貰った髪留めだ……さすがに、これも燃えてなくなるのは忍びない……ちさ……と……」

 

 そうして、黒花は千束の耳元で何かをささやく。それは、千束の目を見開かせた。

 

「…………」

 

 黒花は微笑む。もう、喋る気力もなくなってきているようだった。

 

「行きましょう、千束。あと三分です」

「嫌……嫌ぁ……」

「行きますよ! 千束! 脱出して! 生きるんです! それが、私達にできることです!」

 

 そう言ってたきなは千束の腕を掴み、彼女を無理やり連れて行く。

 

「黒花……黒花……!」

「そう、私は黒花……黒き花……時代に望まれず、狂い咲く徒花……」

 

 彼女の言葉を聞きながらも、千束は黒花に手を伸ばし、ジェラルミンケースを持ったたきなと共にエレベーターの扉が閉まるまで彼女を見続けていた。

 エレベーターは下へと降りていく。

 そうして誰もいなくなった最上階で、黒花は一人残された。

 

「ああ……しまった……また最期にタバコが吸えない……千束にやっちまったからなぁ……」

 

 だが、その言葉とは裏腹に彼女の表情は満足そうだった。

 穏やかで、安らかだった。

 

「ああ……悪くなかったなぁ……千束達との十年、うん、悪くなかった……」

 

 モニターの数字は刻々とゼロに近づいていく。

 爆破まで、残り数秒――

 

「――ああして千束と共にいれて……ああ……女になれて、良かった……」

 

 二十四時。

 男を少女にしていた魔法は消え、旧電波塔の頂上は再び炎に包まれた。

 




次回、最終回です。
どうか最後までご付き合いください。
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