【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
22. Necromancy
不自然な程に白い壁や床に囲まれた窓のない研究所の中を、同じく違和感があるほどに色の無い白衣をまとった科学者達が行き交っている。
細かく区分けされたガラス張りの部屋の中では、大きな台の上で科学者達が試験管などといった実験器具を機械で操作し、実験を繰り返している。
通路では僅かな話し声と固く磨き上げられた床を歩く靴の音が響く以外に音はない。
ガラスによって区切られた部屋の中では機械の静かな駆動音だけが鳴り響いている。
誰しもが他人よりも研究にしか興味がないと言ったような研究者達。
彼ら彼女らに視線を向けるのは無機質な監視カメラのレンズだけである。
そんな研究所の奥は厳重なセキュリティによって区分けされており、深部ではより大きな研究区画が広がっている。
そこに広がっている光景はとても異質であった。
研究者達がタブレットを持ちながら歩く側には大きな円柱状のポッドが並んでおり、五センチ程のスリットのガラスからは黄緑色の液体でポッドの中身が満たされているのが分かる。
また、一部のポッドの中身には裸の人間が収容されていた。
みなまだ幼いか、大きくても中学生、高校生ぐらいの少女であり生死の判別ができないぐらいには全員に生気が感じ取れなかった。
明らかに異質な空気に満ちた空間。
その中を一人の身長の高い女性が歩いていた。
他の研究者達と同じく白衣に身を包んでいるが、その白衣は一際ヨレヨレである。
また、ボサボサとした長い茶髪の髪を揺らし表情はどこか気だるげだ。
「富士主任」
近くにいた研究員の男が駆け寄ってきて彼女をそう呼ぶ。
「どうだ、状況は」
富士はそんな研究員に目もくれず歩きながら言う。研究員はそんな富士と歩調を合わせながら話す。
「はい。やはりデータ通り新たな肉体を形成したC型クローンより既存の肉体を女性の体で再現したB型クローンの方が記憶の再現、及び定着率が高いというデータからC型クローンをそのまま再現したCB型クローンで検証を行い、現状高い数値が出ています」
「ふむ。やはり元がC型クローンであってもナノマシンとマイクロチップによって取得、転送したデータを再現するとなると同じボディが有用という訳だな……。それで、今は何体目だ?」
「はい。現在記憶のコピーを行っているのはCB―
「分かった。では見てみるとしようか。成功するとしたら、今回だ」
富士はそう言って脇に続く研究者を連れてより奥へと進んでいく。
彼女達が歩いていく途中で窓から下のフロアを見渡せる通路があり、そこからは白いラバースーツのようなモノを着た何人もの少女が銃を構え射撃訓練をしている姿が見ることができた。
二人はそんな光景を一瞥もすることなく厳重なロックがされた分厚い扉の前まで行くと、網膜認証とパスワードの入力で扉を開け抜けていき、研究所の最深部にある区画へとたどり着く。
そこは先程までのポッドが並んでいた部屋と基本的な作りは変わらないが、ポッドが並ぶ場所は分厚いガラスで遮られており、その外側で他の研究者達がディスプレイと顔を突き合わせている。
富士はそのうちの一人の側に立ち、ディスプレイを覗く。
「主任。今ちょうど記憶のコピーが終わるところです。現状、エラーなく進捗しています」
「そうか……このまま行ってくれればいいが」
ディスプレイに映る様々な数値の中で一際目立つ『Memory』の数値は現在八九パーセントを示している。
その数値は少しずつ上がっていき、周囲の研究者立ちが固唾を飲んで見守る中、ついに問題なく百パーセントの数値に到達した。
「よしっ!」
「やったっ!」
ディスプレイに向かっていた研究者達が一斉に歓声を上げる。
その中で富士は表情を変えず目の前のポッドを見据え、懐からインカムを取り出し付けながら言う。
「ポッドを開けろ」
彼女の指示で一人の研究者がキーボードを叩く。
すると、並んでいるポッドの中で中央のポッドが横向きになり、上部のハッチが浮いてガスが抜ける音と共に開放される。
開いたポッドを見守る富士。
すると、そのポッドの縁の左側を黄緑色の液体を跳ねさせながら一本の手が掴んだ。
やがて、その手の主は縁を支えに這い上がるように体をポッドの外に出していく。
液体にまみれた、長い銀髪を揺らす裸の十代の少女だった。
少女はポッドから這い出て床に落ちる。
「おえっ……!」
床に倒れたまま口内から黄緑色の液体を吐き出す少女。
彼女はそのままゆっくりと床に手をつき、なんとか立ち上がって正面にいる富士を見る。
鋭い切れ長の、紅の瞳であった。
「う……あ……?」
何がなんだか分かっていないというのが見て取れる少女の声と表情。
そんな少女に、富士は落ち着いた声で言った。
「おはよう。発展型第二世代人工人間CB―17、ブラッディドラゴン……いや、死ぬ直前の名は『平等院黒花』だったかな?」
富士の冷たい表情での言葉で少女は――黒花は自分の両手を一瞥し、そして再び富士を見る。
その表情から伺える感情は、呆然、絶望、困惑……そのような後ろ向きな心情がないまぜになったものであった。
「……フフ……ハハハハハハ……!」
だが黒花は直後、頭を軽く片手で抑え小声で笑う。
「……はあ」
そして黒花は軽く息を吐いて手を離し、今度は富士に不敵な笑みを見せながら、こう言ったのだった。
「……なあ、タバコない?」
何故か今更思いついた第二部です。最後までできてるのでエタる事はありません。