【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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23.Trauma

 厳しい冬が終わり始め、春の兆しが見えてきた頃。

 未だ冷たい風が吹きすさぶ夜の町外れの廃工場に、千束とたきなは居た。

 二人はそれぞれ線対称となる場所で物陰に隠れながら工場の中を伺っている。

 彼女らの視線の先にはコートに黒マスクをした六人の男。彼らの足元には大量の薬物が入ったケースが確認できた。

 

「千束、準備はいいですか?」

「オッケーオッケー、こっちはいつでもいいよ」

 

 二人は無線でやり取りをする。たきなは冷静な面持ちで、千束はニヤリと笑って答える。

 直後、一拍を置いて二人は同時に飛び出す。

 風のように素早く接近する二人に男達が気づいたのはそれなりに距離を詰められてからであった。

 

「なっ!? なんだこい――かっ!?」

 

 声を上げ銃を抜こうとした男の頭部に千束の非殺傷弾が直撃する。

 続いて、その側にいたもう一人の男がたきなによって片足と右手と撃ち抜かれて行動不能になる。

 

「ぎゃっ!?」

「て、敵襲っ!」

 

 残っていた四人が拳銃をホルスターから抜き応戦する。

 だがたきなは物陰に隠れ、一方で千束は弾丸をすべて回避して男達に接近していく。

 

「馬鹿なっ!? 弾が当たらねぇっ!?」

「はい残念でしたっ!」

 

 ほぼ殴り合えるほどの距離に接近した千束は男の腹部に三発の非殺傷弾を打ち込みダウンさせる。

 続いて近くにいた男にも射撃する隙を与えずに接射、無力化する。

 

「このガ――」

 

 千束から距離が離れていた男が千束に向かって銃を向ける。だが、彼が引き金を引く前にたきなが銃を撃ち飛ばし、続けて両足を抜いて動けなくした。

 

「かっ……!?」

「くそっくそっくそっ!」

 

 最後に残った男は敗北を認めたのか一人逃走を図ろうと二人に背を向けて走り出す。

 

「逃がしませんよ」

 

 そんな男の足もたきなは冷静に撃ち、動けなくする。

 こうして六人もいた男達は少女二人の手によって一瞬で制圧されてしまったのだった。

 

「ふいー、お疲れたきなー」

「はい、お疲れ様です。後はDAに任せましょうか」

 

 たきなはそう言いながら男達が取引しようとしていた薬物に目を向ける。

 末端価格で軽く二千万円は超えるほどの薬物がそこには置かれていた。

 

「しかし本当に物騒になりましたね。一応表の世界では普段と変わらない治安を維持できていますが、私達の仕事はだいぶ増えたままです」

「まあまあ。DAもそれなりに持ち直して来たし、ピークだった時よりは楽になってるしさー」

「あくまでピークだったときですけどね。黒花があんな事をしでかした前と比べるとそれでもずっと荒れている状態です」

「は、ははは……」

 

 頭をポリポリと掻きながら苦笑いする千束。そんな彼女を見てたきなはため息をつく。

 

「別に千束を責めてる訳じゃないんですよ。もっとシャキッとしてください」

「いやーそうなんだけどねー、なんかねー」

 

 苦笑したまま目を逸らす千束にたきなは再びため息をついて背中を見せる。

 

「ほら、行きますよ。もうこの場で私達ができる仕事は終わりました」

「ああ待ってよたきなー!」

 

 カツカツと歩くたきなの後を慌てて追う千束。

 こうして二人は夜の街での仕事を終え、喫茶リコリコへと帰っていった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ふいー今日もよく働いたー」

 

 リコリコでの報告を終え、自らのセーフルームへと戻ってきた千束。

 彼女は帰宅後シャワーを浴び、その後下着に着替えたまま枕元の照明だけ点けているベッドの上に倒れ込んでいた。

 

「にしてもたきなも結構厳しいよねー、まあ言ってることは正しいけどさぁ」

 

 ベッドの上で転がりながら言う千束。仰向け状態になった彼女の目線の先に、ある物が止まる。

 それは写真立てだった。

 中に入られている写真は、千束、たきな、ミカ、ミズキ、クルミ、そして黒花が写っている写真である。

 たきなとクルミがリコリコに来た当初にみんなで店の前で撮った写真だった。

 

「…………」

 

 千束はその写真立てを仰向けのままで手に取り、天井を背にするように掲げ、そっと不敵な笑みで写真に写っている黒花の姿を撫でる。

 

「……私、うまくやれてるのかな。私……本当にあのとき何もできなかったのかな」

 

 小声で呟く千束。その表情からは普段の快活さは見て取ることはできなかった。

 

「…………」

 

 写真をしばらく見つめる千束。しかし、ふとした拍子にすっと手を引いて写真立てを元の位置に戻す。

 

「あーもうだからこういうの私のキャラじゃないって! おし! こういうときは映画見よ映画!」

 

 千束はバッと飛び起きて棚に置いてあるブルーレイディスクを取り出し、それを再生機に入れる。

 そうして映画が始まったところで、千束は机に置いてあったタバコケースを慣れた手つきで手に取り、一本取り出してテレビに目線を向けたまま着火して吸い始めるのだった。

 

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