【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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25.Reunion

 太陽もすっかりと沈み、空を支配する闇を心もとない電灯が照らす港湾倉庫。

 その中の一つの前に複数のバンが停車している。乱雑に駐車されているバンは運転している者の気性を表しているかのようだった。

 内部もまた暗めの照明で、中身も分からないコンテナが積まれているその倉庫内に黒花は666と自分を含め四人で武器を持ち立っていた。

 今の黒花は手には世界各国の特殊部隊御用達であるアサルトライフル、SIG MCXが握られ、懐には普段愛用しているM1911も入っている。

 他の黒花の配下も同じようにMCXを携行しているが、666だけはその高性能さ故から競技シーンでも使われているスナイパーライフルのTPG―1を所持していた。

 一見すればただの女子高生が銃を持っている姿はそれだけで異様である。しかし、黒花の前に立つ、屈強な男や見るからに荒くれと言った女など十人程の集団を連れている者の姿は、その場において更に不釣り合いな格好をしていた。

 そこにいたのは黒花達よりも少し年上の娘であった。

 服装はフリルやリボンがついたピンクを基調とした地雷系ファッションで固めている。

 そして髪はショッキングピンクに染まっており、顔立ちは東スラヴ系民族に見られる青い瞳と整い方をしているが、その上に大袈裟なまでの化粧をしているためとても派手な印象を受ける。

 また、その娘が持っているアサルトライフルはテロリストモデルとして名高いAKS74U、通称クリンコフであるが、ビビッドでカラフルな色で塗装されておりまるでオモチャの銃であった。

 

「ふーん? あんたが新しい肉人形ちゃん達のリーダーちゃん?」

 

 その娘は黒花を見るやいなや耳障りなほど甘ったるい声で、人工人間である彼女ら全員を馬鹿にするような言葉を放ってきた。

 

「ああ、そうだよ。平等院黒花だ。そういうあんたがセンチピードのリーダーか」

「そう! ウチはぁ、ミロスラーヴァ・望月って言うの! 気軽にミィちゃんって呼んでいいんだゾ!」

 

 ピースで片目を覆い、もう片方の目でウインクをしながら言うミロスラーヴァの姿は、銃を持った集団の中で明らかに場違いであった。

 だが、そんな彼女に対し黒花は警戒を含んだ笑みを崩さなかった。

 

「了解ミロスラーヴァ。じゃあ今日の仕事の話をしようか」

「むー、黒花ったらノリ悪いー」

 

 頬を膨らませながら不機嫌な顔をするミロスラーヴァ。

 黒花はそれに反応することなく彼女達の前に複数の大きなジェラルミンケースを置いて開く。

 

「ざっと百キロの薬物がここにある。末端価格だと三桁億はくだらないっぽいな。私は今の相場には詳しくないが」

「うんうん、いい仕事だねぇーさすが富士、いいルート持ってる。これを私達が捌いて稼いで分前をお互いで分配、双方ウィンウィンってね!」

 

 ご機嫌な表情で薬物を確認しながら言うミロスラーヴァ。

 だが、ミロスラーヴァはふと薬をケースに戻して立ち上がったかと言うと、近距離でじっくりと黒花を足先から頭まで確認するように観察し始める。

 

「……にしても、あんたは他の肉人形と違って記憶があるそうじゃん。つまりゾンビって事? やだキモーい! 見た目はこんなに普通の女の子なのにねー!」

「まあね。見た目を整えるのは女子として最低限の事だろ?」

 

 クスクスと笑いながら見終え、顔を離して言うミロスラーヴァに今度は自分がウインクして返す黒花。

 彼女のその言葉と仕草に、ミロスラーヴァは一瞬ポカンとした後、すぐさま笑い始める。

 

「アッハハハハハハ! 面白いこと言うじゃーん! さすが富士にとって一番大事な取引相手であるウチの護衛なのに五人ぽっちで来るだけの度胸はあるねー!」

「そこは悪かったな。何分今の環境で動くのは初めてだからね。とりわけ優秀なファイアチームで慣らしときたかったんだ」

「へぇ……ま、いいや。最悪肉壁になってくれればそれで十分。じゃ、とりあえずブツは受け取ったし後は私達が安全に帰れるように肉人形さん達に頑張らせてね。あと、ウチを初見で見くびらなかったのはあんたが二人目だよ、ゾンビ人形さん」

 

 ミロスラーヴァはそう言って背中を見せながら振り返り軽く手を振って言う。

 それと同時に彼女の部下がジェラルミンケースを持ち上げ運び始める。

 

「……黒花司令官。彼女は――」

「――ああ、分かってる。あれはバカを演じてるが、そう単純に割り切れるタイプのバカじゃない。根っこは性根がとことん腐ったタイプの狡賢い悪党だ」

 

 666の耳打ちに答える黒花。

 彼女の目線は鋭くミロスラーヴァの背中を捉えている。

 

「私と話しているとき、あいつはいつでも銃を構えられるようにしていた。新顔の私を試してたな。それにあのバカみたいな色のクリンコフも迷彩として狡猾なやつだ。実銃をオモチャに見せる海外じゃよくある手口だよ。この国ならあのデカさでも効果は抜群だろうな」

 

 黒花がそう分析をし終えたタイミングでの事だった。

 倉庫を一応照らしていたすべての照明が突然落ちたのだ。

 

「……ああ? ちょっと何よコレ。停電?」

 

 露骨に不機嫌そうな声を上げるミロスラーヴァ。だが、狼狽えている他のセンチピード構成員と違いその手は既に銃のグリップを握り安全装置を解除していた。

 

「……全員配置につけ。どうやらお仕事だ」

「了解」

 

 黒花達も銃を構えインカムを付け臨戦態勢を取って動き始める。666はコンテナを登り高所に。他はそれぞれ身を隠せ、かつ倉庫を見渡せる場所に。

 そして黒花は少しその場から引いてセンチピードの構成員を一目で確認できる位置に。

 直後、倉庫のシャッター横の小さな扉が開き夜のかすかな光が倉庫に入る。何者かが侵入してきた証拠だ。

 侵入者は闇に紛れこちらを襲うタイミングを伺っている。それを黒花達は理解していた。

 事態にようやく気づいたセンチピード構成員も銃を構える。

 そうして僅かな沈黙ののち、再び倉庫に光が灯った。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 ――十五分前。

 

「ちっ、なんでお前らなんかとまた……」

 

 ファーストリコリスであるフキが不機嫌そうな声音で言う。

 フキの横には彼女のバディであるセカンドリコリスのサクラ。

 そして千束とたきなの姿もあった。

 四人は今、港湾倉庫にある物陰に隠れながら一つの倉庫を偵察していた。

 

「しょうがないじゃーん。そういう命令なんだしさー」

「んなことは分かってんだよ。そもそもファーストが二人もいるような事案じゃねーだろって話だよ」

「楠木さんから信用されてないんじゃなーい? プークスクス」

「ああ? やるかてめぇ」

「二人ともやめてくださいよ。作戦前じゃないッスか」

 

 煽る千束に怒るフキ。そしてそれをサクラが宥めている。

 たきなはそんな三人の様子に軽くため息を吐きつつ、目標の倉庫に視線を送る。

 

「あの倉庫で間違いなさそうですね。事前情報にもあった黒のバンが雑に駐車されてますし」

「だねー、じゃあどうしよっか。正面から突っ込んでく?」

「んな事やって無事で弾避けれんのはてめーぐらいなんだよちょっとは考えろバカ」

「はー? バカって言ったほうがバカなんですけどー?」

「だからやめてくださいってー……。うーん、とりあえずあのバンはパンクさせておくとして、確かに侵入方法は考えた方がいいっスよねー」

 

 サクラも半ば呆れた状態で言う。そして周囲を見渡してある場所を見つける。

 

「あっ、あそこに配電盤があるッスよ。あれでなんとかできないッスかね?」

「ああ? まあ確かに電気は落とせるだろうが完全に真っ暗になっちゃ私達もなんもわからねーだろ。暗視ゴーグルなんて持ってきてねーぞ」

「そこは安心してください。こんなこともあろうかと一瞬だけ電気を止めてまた回復させる便利な装置を携行しています」

 

 たきなが二人に親指を上げて言う。彼女が冗談を言う事はないと二人は知っていたので、思わず無言になってしまう。

 

「ん? どうしましたか二人共?」

「い、いや……なんだよそのスパイ映画の秘密道具みたいなのと思ってな。どっから持ってきたそんな便利なモン」

「い、いやーちょっと機械に強いアテがあってねー……。てかそういうスパイグッズはDAにもあるし別によくなーい?」

 

 千束が誤魔化しながら笑う。

 それを用意したのはもちろんクルミであるがその事は口にはできないのでそうするしかなかった。

 彼女の態度で事情があるのを察したフキは軽く呆れのため息をついて言う。

 

「……ったよ。さっさとその装置使って突入するぞ。モタモタしてたら逃げられちまう」

「えっ!? 今の深堀りしなくていいんスか!?」

「いいから空気読めやこのバカが!」

「痛ぁっ!?」

 

 スパンとサクラの頭をはたくフキ。そんな状況に千束は軽く苦笑するしかなかった。

 そんなこんなでたきなが配電盤に装置をしかけ、四人は倉庫横の扉に体をつける。

 

「それじゃあたきな。お願い」

「はい」

 

 たきなが遠隔操作の端末のボタンを押す。すると、瞬間倉庫とその周辺の電気が落ち、闇に包まれる。

 

「よし、今っ!」

 

 それと同時に四人は扉を開け素早く倉庫内に入る。

 倉庫内には複数武装した相手がいるようで、四人はそれを取り囲むように辛うじて見える暗中の視界を頼りに移動する。

 そしてそれぞれ配置につき少し。倉庫に明かりが灯される。

 千束は障害物から身を乗り出す。そして、目の前にいる相手に銃を構えて――

 

「――えっ?」

「なっ……!?」

 

 凍りつく。時間が止まったような感覚に襲われる。幻覚を見たのかとまで思う。

 だが、目の前にいる人間の姿を、千束は間違う訳もなかった。

 

「……黒……花……?」

「……千束」

 

 驚愕に目を見開き、口を大きく開けて固まる千束。

 一方、苦い顔をし冷や汗を流す黒花。

 二人は、今こうして再会した。

 

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