【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「嘘……? え? え? なんで? どうして……?」
「ぐ……いや、その……えっと……」
目の前に死んだはずの黒花がいる。
その事は千束を尋常ならざる混乱に落とし込んだ。彼女だけでなく、たきなやフキ、サクラも理由がわからず固まってしまっている。
一方で、黒花は普段の余裕そうな態度はどこへやら、とても気まずそうな顔で汗を流しながら目を横に逸らしている。その様子はなかなかに情けない。
「もしかして、ずっと生きてて……? いやでも確かに私が……それに爆弾で……」
「……えーと、いや、まあその……あのとき死んだのは確かだよ。でも、なんかこう、凄い科学で蘇ってしまった」
「凄い科学!? 凄い科学って何!? そんな一言で片付けていいもんじゃないよね!?」
「しょ、しょうがないだろ! 私だって理屈に関しちゃよく分かってないんだから! 私は殺し以外だとそいういう難しい話に対してCPUの数下がるって知ってるだろ!?」
「知ってるけどさぁ――!?」
二人が口論に発展しだしたそのとき、千束はとっさに後ろに飛び退く。
直後、彼女がいた場所を横から銃弾が掠めた。
ミロスラーヴァが千束に向けて射撃をしたのだ。
「あのさー、なんか知り合いっぽいけどちんたら話してんじゃねーよって感じなんだよねー。ここに乗り込んできたって事は敵でしょ? ウチらの取引邪魔しに来たんでしょ? だったらさぁ、とっとと死んで。ねっ?」
あからさまに不機嫌な表情でそう言うと、ミロスラーヴァは再び引き金を引いて射撃を行う。
千束はそれを素早く避け、近くのコンテナの後ろに隠れる。
また黒花もハッとし近くの横に長い木箱の後ろに飛び込んでしゃがんで遮蔽物にする。
ミロスラーヴァもまた射撃しながら移動し近くの遮蔽物に身を隠していた。
薬物が入ったケースは遮蔽物のない床に放置されている。
「おいゾンビ人形! あんたの部下の肉人形にそのブツ運ばせとけ! んでウチらが逃げれるようにしっかりと弾幕張って壁にもなっときなよ! それがあんたらの仕事なんだからさぁ!」
「チッ! 分かってるよ、そんな事はっ……!
黒花はミロスラーヴァに威圧的な声で叫ばれ、苦い顔で返し同時に仲間に指示を出す。
その指示を受け、623と呼ばれたブロンドでサイドが長めのミディアムアップスタイルの髪で琥珀色の瞳の人工少女、そして716と呼ばれた紫色の瞳で片目を隠したスカイブルーのストレートロングの人工少女は素早く移動し、弾丸をかいくぐりながらケースを拾ってミロスラーヴァの近くに移動する。
一方で黒花は木箱から上半身を出して千束のいる方に射撃をし始めていた。
「は!? 何!? 黒花あんな変なのと一緒に組んでるの今!?」
射撃されながらも千束が黒花に叫び、射撃し返す。
「ああ! 雇われ兵だけどな! てかお前らも人のこと言えないだろうが!」
遮蔽物に身を隠した状態に移行し黒花もまた千束に叫んで返す。
「信じらんない! 明らかにクライアントとしては地雷でしょアレ! 墓場から蘇ったときに脳みそ腐った!?」
対し隠れ、そして再び身を表して銃弾を添えて返答する千束。
それに対し黒花も銃弾と共に叫び返す。
「うるせぇなあこっちにも事情がんだよ事情が! 私がこうして生き返ったあたりでいろいろアホみたいな状況なってんの察しろよ本当にバカだよなお前!」
「はあぁっ!? それこそ人の事言えないでしょうが黒花は! この殺人バカ! 黒花のせいで今すっごい苦労してんだからねみんな! 反省しろバーカ! バカバカバカバカ!」
「お前バカって言ったほうがバカなんだからな! この偽善者バカ! バカバカバカバカバカ!」
「あーそんな風に私の事思ってたんだーっ!? 最低ほんと最低っー!」
「今のは勢いで言った言葉のあやだよだから察しろっつってんだろうが!」
「んな無茶通るわけないでしょうがっ! 発言に責任持てっ!」
まるで子供のような口論を繰り広げながらお互いに撃ち合う黒花と千束。
両者の弾はお互いに当たることはなかった。
それぞれが適確なタイミングで隠れたり体をズラしたりしているからである。
互いの癖を完全に知り抜いた上で起きている銃撃戦であった。
「千束……! もうこうなったら私が――」
その少し離れた位置にあるコンテナの陰に隠れていたたきな。彼女はほぼ千日手のようになっている二人の状況を見かねて前に出ようとする。
「――っ!?」
だがたきなはコンテナから出ようとした直後にまたとっさにまた身を隠す。それは飛び出そうとした瞬間、彼女の正面上方のコンテナの上に人影が見えたからであった。
刹那、たきなが身を乗り出していた場所を弾丸が過ぎ去り、わずかにその場に残っていたたきなの長い黒髪の毛先を吹き飛ばす。
「狙撃……!? 危なかった……!」
「……仕留め損ねちゃったか、今のに気づくなんて鋭敏な勘してる。でもまあいいや、釘付けにしておけば。司令官のもとには行かせないよ」
たきなを狙い撃ったのはもちろん666であった。片膝で銃を構える666は冷静な面持ちでスコープを覗いている。また、スコープだけに囚われず、適宜倉庫内も観察している。
それゆえたきなが隠れている場所から移動できる方向はすべて彼女の監視下にあった。
たきなも自分がもう動けなくなっているのにすぐに気づいた。
彼女の戦闘能力が非常に高いからこそ、下手に別ルートに走ればそれこそいい的であると把握していたのだ。狙撃銃と拳銃の精度の差、また互いの位置の差、情報の差などでも大きく不利な状況であり、チェスで言うチェックがかかった状態に置かれているとたきなは理解した。
「くっ、すいません千束……! 私とした事が状況判断を誤り不覚を取りました……!」
たきなは悔しさで眉をひそめ奥歯を噛む。
対して666はまったく表情も体勢も微動だにしないまま、狙撃銃を構え続けていた。
一方でフキとサクラは逃げようとするミロスラーヴァとその部下相手に交戦をしていた。
どうやらミロスラーヴァの部下達の戦闘能力は低いらしく、次々に二人に倒されミロスラーヴァと黒花の部下二人を除くと残りは三人程となっていた。
だが物資の輸送とミロスラーヴァの護衛についている623と716、そしてミロスラーヴァ本人の苛烈な射撃に合い、打ち合いの応酬でお互い動けなくなっている状況であった。
「チッ! いい加減諦めて欲しいっスねぇあの派手派手な女!」
「ああ! だがあの手のアホは諦めが悪りぃんだ! 油断してるとこっちがやられるぞ!」
「分かってるッスよ先輩!」
二人は息のあった動きで次々に射撃と回避、そしてリロードを交互に行う。
彼女らの攻撃に足を止められていたミロスラーヴァは明らかに苛つきを見せていた。
「あぁーっクソが! マジムカつくんですけどあのデコとブス……! どうせ殺ししかやってない陰キャでしょあんなの! ほんとキモいわああいうの! 肉人形共も荷物持ち程度にしかならないしさぁ……! はぁーもうこうなったら……おい、そこのお前!」
「は、はいっ!? なんすかボス!」
ガリガリと頭を掻きながら吐き捨てた後、ミロスラーヴァは生き残っていた自分の部下の男に叫ぶ。細身のその男は慌てて彼女のもとに行く。すると、ミロスラーヴァは不機嫌な様子のまま言った。
「お前、ウチの『お気に入り』ここに持って来い。ダミーで置いてあるバンの近くにある入口に一応置いといたの知ってるだろ」
「えっ!? で、でもあれ取りに行こうとするとこの弾幕の中を――ガバァッ!?」
狼狽えながら言う男の口に、ミロスラーヴァはクリンコフの銃口をいきなり突っ込んだ。
そしてあからさまに怒りに歪んだ笑みで言った。
「てめぇ、下っ端の癖にいつからウチに反論できる口持った? あぁ!? ずいぶん偉くなったもんだなぁオイ!」
「ず、ずいまぜ……!」
「謝って済んだら悪党はいらねぇんだよ! おら選べ! ここで頭ふっ飛ばされるか、ワンチャン生存かけてウチの『お気に入り』持ち帰りシャトルランするかをなぁっ!」
「じまず! じまずぅ!」
「だったらとっとと行けやぁっ!」
男が涙を流し震えながら答えると、ミロスラーヴァは銃口を抜いて男を蹴飛ばす。男は姿勢を崩しながらも必死に身をかがめて彼女のお気に入りを取りにフキ達に体を晒す。
「先輩! なんか一人走ってますよ!?」
「はぁ!? おい迂闊に体出すなよ! 命かけた囮かもしんねぇしな……!」
それをあえてフキ達は罠の可能性を見て様子を伺う。それがいけなかった。
男はミロスラーヴァの『お気に入り』にたどり着き、それが入ったケースを抱えてまた走り出す。
「あっ、あいつ今度はなんか持って走ってるッス!」
「嘘だろまさかアレを取りに行かされてたのか!? 正気じゃねぇだろ!?」
事態を把握しすぐさま男に銃口を向けて撃ち始める。
その弾丸は男の足、そして体を捉える。
「ぎゃっ!?」
男はケースを落とし倒れる。だがそれでミロスラーヴァは諦めなかった。
「おい肉人形!」
ミロスラーヴァが叫ぶ。それに答え623が素早く身をかがめ片手でアサルトライフルを持って射撃で牽制しながら移動、ケース拾いミロスラーヴァに投げ渡すと、今度はより近くの遮蔽物に隠れる。
「よぉし良くやったよぉ! 肉人形にしては仕事できるじゃーん。んじゃ、パーティと行こうかぁ……!」
ミロスラーヴァはケースから『お気に入り』を取り出す。そして、それを構え隠れているフキ達に向ける。
フキは遮蔽物から少し顔を出し伺う。そして、瞬間青ざめる。
「はあっ!? グレネードランチャーだぁ!?」
ミロスラーヴァの『お気に入り』、それは回転式シリンダーを用いグレネード弾を連射できるグレネードランチャー、レインボーに彩色されたMGL―140であった。
ミロスラーヴァは歪んだ笑顔でMGL―140を構え、引き金を引く。
「サクラっ!」
「分かってるっス!」
二人はすぐさまそれぞれ反対方向に飛ぶ。
直後、二人のいた場所の上空でグレネードが炸裂、派手な爆発を引き起こす。
「ハッハハハハハハハハハハハァーッ! やっぱ爆破って楽しぃねぇー! フゥーッ!」
休む間もなく二人に向かってそれぞれグレネード弾を打ち込み叫ぶミロスラーヴァ。
フキとサクラは反撃の隙も与えられず必死に駆け回り、隠れ逃げるしかなかった。
「なんすかあいつ! 下手したら自分も被害喰らいそうな狭い倉庫であんなもんぶっ放すってイカレてんスかぁ!?」
「イカれてんだろうよ間違いなく! いいかリロードのタイミングで反撃すっぞ! アレの装弾数は六発だしこの調子ならすぐ弾切れするはずだ!」
コンテナの裏に回ってインカムを通じて話すサクラとフキ。
二人の読み通り六発の弾はすぐに発射され弾切れになる。
そのタイミングをついてコンテナから飛び出し反撃しようとするフキ達。だが、瞬間ミロスラーヴァは身を隠し異様に手慣れた動作で一瞬でグレネード弾を装填してまた撃ち始める。
「バーカ! 露骨に隙見せてあげるわけないでしょーがぁ!」
「クソがっ! 思ってたよりもめんどくせぇ相手だなっ……!」
再び隠れ移動するフキとサクラ。二人は仕方なく奥まった場所に隠れる事にある。
すると、途端に爆発音が止み、響く音が黒花と千束の銃声だけになる。
「あ……? どうなってんだ……!?」
慎重に状況を伺うフキ。
すると、バンがあった側とは反対側の扉でミロスラーヴァが煽るような笑顔でフキ達に手を振っている姿があったのだ。
「バイバーイ! 陰キャさん達! じゃあ肉人形ちゃん、後始末よろしくー! バチコーン!」
最後にウインクをして言い捨てるとミロスラーヴァは623と716を残し、生き残った彼女の部下と共に薬物の入ったジェラルミンケースを持って去っていった。
フキ達はまんまと逃げられてしまったのだ。
「クソがあああああああっ!」
フキは叫ぶ。ミロスラーヴァ相手に戦略上でも敗北した事による悔しさの咆哮だった。
そんな状況下でも黒花と千束はなお銃撃戦を続けていた。
双方残弾は殆どなく無駄弾を撃っている状態だったが、それでも二人は射撃を止められなかった。
完全に意地と意地のぶつかり合いになっていたのだ。
「チッ、本当にバカ千束が……!」
遮蔽物に隠れマガジンを交換しながら言う黒花。
そんなときだった。突如666からインカム越しに通信が入ってきたのだ。
『司令官』
「なんだ666! 今ちょっと手が離せないんだが……!」
『センチピードが撤退を完了しました。そして直後、716から報告が入っています。“この場所は、臭う”と』
「……チッ、そうか。716が言うなら間違いないだろうね、クソッ」
苦虫を噛み潰したような顔で悪態をつく黒花。
そして「ハァ……」と頭を抱えてため息をつくと、直後に叫ぶ。
「千束! 私達は撤退する!」
「は、はぁっ!?」
千束は黒花のその言葉に驚く。センチピードがいなくなり残弾が少なくなったとは言えお互いまだ戦える状態で黒花が引くというのは、千束の知る彼女にしてはあまりない判断だったからだ。
「らしくない判断だけどどういう事!?」
「多分説明してる暇はない! お前達もとっとと逃げた方が良さそうだと思うね! じゃあそういう事でっ!」
瞬間、黒花は近い出入り口――ミロスラーヴァ達が逃げた出入り口――に向かって走り出す。666もまたコンテナを飛び降りてその出入り口に向かった。
「みんな、逃げるよっ!」
それを見届ける間もなく千束も叫び反対側の彼女達が入ってきた入口に走る。
「えっ、千束!? いいんですか!?」
動揺して問いながらも千束の後を追って走り出すたきな。千束は背後に走るたきなに振り向きながら言う。
「いいの! あの黒花が一目散で逃げを選ぶって事は、マジでヤバい時なんだからっ!」
千束はたきなに言うと再び顔を正面に戻し全速力で駆ける。
フキとサクラもそれに続くように走る。
そうして、四人が倉庫を飛び出して数秒後の事だった。
――大きな爆発音が、彼女らの背後で轟いたのだ。
「きゃあっ!?」
音のすぐ後に衝撃波が襲ってきて彼女らは転倒、四人の体を粉塵が包み込む。
千束が転んだ状態で背後を振り向くと、粉塵の向こうで、先程まで自分達のいた倉庫がペッシャンコに潰れている光景が広がっていたのだ。
「おいおいマジかよ……」
「ありえねーっス……」
「あれは解体爆破の技術ですね……海外で建築物を取り壊すときにするような、計算された爆破の類です」
フキとサクラがそれを見てこぼし、たきなが答える。
粉塵が収まると、残されたのはペッタリと綺麗に瓦礫の山になった倉庫跡地。
そして爆風で転がったバンだけであった。
ミロスラーヴァ達の姿も、黒花達の姿も、そこにはなかった。
「これは、どうもかなり厄介な状況になったようですね千束……千束?」
瓦礫を眺めながら言うたきなだったが千束の反応がない。
不思議に思い千束の方を向くと、そこにはとても切なそうな表情で、瓦礫ではなくその向こうの闇の中を眺めている彼女の横顔があった。
「……黒花」
そんな千束が、ポツリと消え入りそうな声で呟く。
あまり見たことない複雑な横顔の千束。たきなはそれを見て気持ちをうまく汲み取ることができず、思わず俯いてしまったのである。