【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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28.Malice

「千束、お前に電話だ」

 

 リコリコへの来客が顔なじみだけになってきた昼中頃。

 ミカが店の奥から現れ接客をしている千束に告げてきた。

 

「あー……はいはーい」

 

 千束はその言葉を聞いて一瞬で察し、少し曇った笑みを見せ答える。

 

「ん、千束ちゃんどうしたんだい?」

 

 そんな千束の様子を見て常連客の男の一人が不思議そうな顔をする。

 千束はそんな常連客にぶんぶんと笑って両手を振った。

 

「いやなんでもないなんでもない! ちょっと最近悩み事があるぐらいだから!」

「へー、千束ちゃんでも悩み事なんてあるんだねー」

「むー! それはさすがにひどいよー? じゃ、私は電話取ってくるからー」

 

 千束は笑いながら常連客に言って店の裏に向かい、受話器を取る。

 

『仕事だ千束。黒花の動向が掴めた』

 

 その声は、DAの司令官である楠木のものであった。

 千束は彼女の声と言葉で、ぎゅっと力強く受話器を握りしめた。いつになく、真面目な表情で。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 深夜午前二時。

 東京でも田舎よりの西方面にある場所にある建設中のオフィスビル。

 基本的な部分はできているが内面はまだまだ手つかずでコンクリートがむき出しになっており、窓が嵌まるべき場所からはそのまま夜空が見えている。

 その中の三階、本来はどこかの会社の事務所が収まるであろうフロア。そこで黒花達はサーマル式の暗視ゴーグルをかけ、アサルトライフルを持ちながら横隊で壁際を背にし警戒しながら移動していた。

 

「他のチームの状況は?」

「はい、ブラボーチーム、チャーリーチームはそれぞれビル周辺を警戒中、デルタチームは一階エントランスに残留中です。護衛対象であるはずのセンチピードは未だ発見できません」

「そうか……やっぱこれ、囮にされたな」

 

 666からの答えを聞くと、黒花はフロアの中央ラインに位置する場所で停止のハンドサインを出す。

 それに答え黒花のファイアチームである三人は動きを止める。無論周囲への警戒は解いてはいない。

 

「……引くぞ」

「いいんですか? 富士主任からはセンチピードに従えと」

「ああ。確かに今私がこうしてここに立ってるのはあの女のおかげだし仕事を手伝うと約束はした。でもな、私は別に愛国心を持って国のために殉教する兵士じゃない。露骨な捨て駒になる道理無しだ。そしてそれは、お前達もだよ。ほら、そうと決めたら撤退だ撤退」

 

 そうして黒花は方向転換をしようとする。

 が、直後全員立ち止まりお互いの射撃方向をカバーするように向きを変えて瞬時に銃を構える。

 彼女らの視線の先にあるフロアへの侵入口となった空いている扉をはめ込むための長方形の空洞――来た道と行く道両方にあるそこに人影が動くのを、彼女らの暗視ゴーグルは映していた。

 その人影は小柄であり白黒の世界で闇を切り裂くゴーグル越しでも学校の制服を着ているのが分かる。それは間違いなくリコリスであった。

 扉一つ分の穴からいくつもの銃口が四人を狙っている。それなりの人数がビルに押しかけているのが分かった。

 双方動かないまま互いに銃を向けている。

 そんな中、黒花が向いている方の通路から、ゆっくりと黒花達に近づく姿があった。

 黒花は暗視ゴーグル越しでもその人物が誰か分かり、すっとゴーグルを上げた。

 

「よう千束。今回は随分と連れてきたな」

「まあね。このやり方は正直、私の本意じゃないんだけどねー」

 

 黒花は目の前まで銃も構えず歩いてきた千束に言った。黒花は鋭い笑みで、一方の千束は苦笑いで。

 彼女らの顔は、窓が入るべき空洞からさす頼りない月光でわずかに照らされていた。

 言葉自体はどこか世間話のようにも聞こえる。しかし、剣呑とした空気は未だ消え去っていない。

 誰も声すら出せない中で、ただ黒花と千束が笑って話していた。

 

「だろうね。どうせ楠木司令の指示だろ。あの人がそこんとこで手抜く訳ないだろうしな」

「そうゆうこと。で、聡明な平等院殿なら分かると思うけど、今完全にあんたら包囲してるんだわ。外にいたのも、一階にいたのも含めてさ」

「ちっ、だろうな……」

 

 黒花は冷や汗を流しながらも笑う。

 立て直し中であるにも関わらず数多くのリコリスが動員されている辺り、DAは本気で自分達を拘束するつもりなのだろう、と黒花は推察する。

 そして、抵抗する場合は“生死を問わず(デッド・オア・アライブ)”だという事も。

 

「……黒花」

 

 千束は表情を引き締め、諭すように呟いた。

 だが、それに対し黒花はふっと冷や汗を流したままながらも言う。

 

「……分かってるだろ、千束」

「……はぁ~」

 

 千束は軽く頭を抱え呆れた表情で大きくため息を突く。

 そしてそこから再び黒花に目線を向けると、背中のカバンから彼女が非殺傷弾を込めているデトニクスコンバットマスターをすっと取り出し構えた。

 

「死んでもバカは治らないってマジだねぇ、かーっ! でもいいよ、そっちがその気でも、私は意地でも黒花を生きたまま連れて帰るから」

「連れて帰る、か……ったく。お前も、本当に変わってないな。ふふっ」

 

 黒花はそこで冷や汗無しの、先程よりも柔らかな笑みを浮かべて銃を構え直す。

 今にもリコリスと黒花達の戦闘が始まろうとしていた、そのときだった。

 壁から月光をさし込んでいる枠から、だんだんと騒音が近づいてきたのである。

 その場にいた全員が、それがヘリのローター音なのを瞬時に理解した。音はすぐさま大きな騒音となり、そして突如強いサーチライトで三階フロアが照らされたのだ。

 

『ハァーイ! 随分集まって楽しそうじゃーん! ウチも交ぜてよぉ』

 

 そしてそのローター音に負けないぐらいに大きく拡声された声が響く。そのふざけた調子の声の主を黒花はよく知っていた。

 

「ミロスラーヴァ!? そしてこれは……“キラーエッグ”!? 嘘だろ!?」

 

 彼女の乗っているヘリはただのヘリではなかった。

 小型ながらも高い火力を有しており、アメリカ陸軍が運用している攻撃ヘリ “AH―6 キラーエッグ”であったのだ。

 その突然の登場に黒花だけでなく彼女のファイアチームメンバーも、千束も、他のリコリス達も一様に驚いている。

 彼女らのそんな表情をあざ笑うようなミロスラーヴァの声が響く。

 

『あんがとねー人形ちゃん達! 厄介そうなリコリスをまとめて惹きつけてくれてさぁ。それじゃあ最後の仕事ね。厄介共をしっかり掃除できるように、命かけて足止めよろしく』

「――全員、逃げろっ!」

 

 瞬間、黒花が叫ぶ。

 それと同時に黒花及びファイアチームの三人、そして千束はとっさに駆け出し飛び伏せる。

 だが、その他のリコリス――主にサードリコリス達の反応は遅れた。

 それが、分水嶺となった。

 キラーエッグに搭載されている“ハイドラ70ロケット弾”が、黒花達が背中を預けていた壁に向かって発射されたのである。

 ハイドラはコンクリート壁をいともたやすく破壊する。

 咄嗟に走り伏せた黒花達は衝撃波と一緒に飛んでくるコンクリート片の被害は受けずその場にとどまることができた。

 が、他の反応の遅れたリコリス達は違った。彼女らはその破片を受け倒れる者、また衝撃波により体勢を崩す者が続出した。

 黒花達、そして千束はそれを気にする暇もなくまた起き上がりそれぞれ反対方向の出口から階の下へと向かっていく。

 一方、キラーエッグに備え付けられた二門のガトリング機関銃GAU―19が輪転、直後に十二・七ミリ弾がフロア全体を払い薙ぐように“切り裂いた”。

 ソフトターゲットには過剰と言える弾丸の嵐は次々とリコリス達の命を奪っていく。

 黒花達はとにかく走る。

 再び二階の壁がハイドラで吹き飛ばされても、彼女らはその被害をなんとか受けずに逃げ、走っていた。

 

『はーっ、ちょこまか逃げてムカつくんですけどぉ! こうなったらぁ……』

 

 ミロスラーヴァはイラついた声を上げながらヘリを後退、ビルを中心とするように旋回を始めた。

 その様子を黒花や千束は走りながらも怪訝な表情で見る。

 

「えっ、何する気……って、まさか!?」

 

 千束が気づき叫ぶ。

 攻撃ヘリが今正面に捉えている場所、そこにはへこみ奥まった場所にビルのエントランス入口があり、その入口前で巨大な柱が挟み込まれたつっかえ棒のようにビルを支えるために立っていた。

 

『みんなまとめて、潰れちゃえ』

 

 悪辣な笑みと共に発射されるは主に対戦車用に使用される空対地ミサイル“ヘルファイア”である。

 二発のヘルファイアはそれぞれビルを支えている太い柱を一撃で粉々に破壊した。

 すると、残った柱にヒビが入り始め、ピキピキと不吉な音が鳴りビルが揺れ始める。

 

「まずいまずいまずいっ!」

 

 黒花は慌てた声を上げながら必死に走る。

 どんどんと柱のヒビが大きくなっていく中で、五人はようやく一階エントランスにたどり着く。

 先頭を走るのは666、それに623と716が並走する形で続き、また少し後ろに黒花、そして千束が並ぶ形になっていた。駆け出した順や最初の位置でそうなったものの、それぞれの走力はさほど違いがあるわけでもなく、全員そのままいけばビルの入口から脱出できそうであった。

 だがそのタイミングでそれは起きた。

 度重なるミロスラーヴァからの攻撃でビル全体にダメージが入っており、その結果天井の一部が崩落して走っている千束の上に落ちようとしていたのだ。

 

「っ!? 千束、危ないっ!」

 

 目の良い千束ですら気づかなかった視野外からの崩落。そのまま気づかなくてもおかしくなかったそれに、黒花は偶然気付く。すると彼女は反射的に千束の方に向かって踵を返し、千束に向かって飛びつき抱きしめ千束と共に後方に体をひねって横に転がった。

 

「うわあっ!?」

「ぐっ!」

 

 二人が後ろに転がった後、その場所にコンマの差で大きな天井片が落ちて来る。

 もし受けていたなら十中八九死んでいただろう。

 

「黒花……!? 今の――」

「――それより今は走れ! 話は後だ!」

「う、うん! ――痛っ!」

 

 すぐさま起き上がり走り出そうとした二人。

 だが、千束は左足首に激痛が走って思わずしゃがんでしまう。

 どうやらさっき転がったままの姿勢でとっさに立ち上がったときに足首を捻ってしまったようであった。

 

「千束!?」

「司令官っ! 早くっ!」

 

 足を止めた黒花に対し666達もまた立ち止まり叫ぶ。だが、それに黒花は叫び返した。

 

「お前達は早く脱出しろ! すぐ追いつく!」

「は、はいっ……!」

 

 666達はその言葉を受け再び走り出す。一方、黒花は千束の左手を取って肩を貸す。

 

「おいこら、こんなところでへばるな!」

「黒花……私の事は……!」

「うるさい柄にもないような暗い顔になってんじゃない! そんなおセンチな態度取るヤツじゃないだろお前っ!」

 

 より崩壊が進むビルの中をなんとか進もうとする二人。

 だが、そのとき、ついに大きくヒビの入っていた柱が完全に壊れ――

 

「――!? 司令官っ!?」

 

 ビルから一足先に脱出していた666が完全に崩れ落ちていくビルを見ながら叫ぶ。

 そしてそれは彼女だけではなかった。

 

「そんなっ!? 千束っ!!」

 

 たきなもまた、倒壊するビルを見て叫んだのだ。彼女は念の為に備え外に待機していたが、千束達と同じくミロスラーヴァの攻撃に襲われ服が汚れにまみれていた。

 そんな二人が眺める中、未だ黒花と千束が脱出できていない建築中のビルはそのまま多大な粉塵を撒き散らしながら瓦礫の山に変わり果てたのであった……。

 

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