【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「さて、ここが現場だな」
深夜。黒花は目の前の薄汚れたビルを見上げながら言った。横には千束もいる。
彼女らが受けた指令、それは彼女達が前にしているビルを根城にしているテロリストと思しき集団の排除であった。
その集団は近日武器を集めており、近々何らかの武力行使に出る可能性が高い。
故に、それを未然に防げというのが彼女らに与えられた任務であった。
「それじゃ、仕事と行くか。千束、お前が前に出ろ。俺がバックアップする」
「分かった」
千束は頷くと、サプレッサー付きの銃のスライドを少しだけ引き、チャンバーに込められた弾をチェックする。チャンバーチェックである。
同じく、黒花もチャンバーチェックをする。
「あ、黒花の銃ってDAから支給されてるやつじゃないんだ、珍しい」
そこで千束が黒花の銃を見て言った。
「そういうお前こそ、DAからの支給品じゃないな。どこで手に入れた、その銃」
千束の銃もまたDAから支給されているグロック17ではなく、デトニクスコンバットマスターという銃である。黒花の使うM1911の派生型である。
「うん、そうだね。私のは、大切な人から貰ったんだ。私の救世主さんから……」
千束が銃を眺めながら言う。
その顔は、どこかに思いを馳せるような表情だった。
黒花はその言葉、そして千束が首から下ろすフクロウのネックレスから察する。恐らく、その銃はアラン機関から渡されたものであることを。
「なるほどね……」
故に、黒花はそれ以上彼女に聞くことはなかった。
「黒花は? どうやってその銃を?」
一方で千束が聞いてくる。それに黒花は軽く笑って答える。
「俺も、同じようなモンさ」
そこまで話すと、二人はビルへと入った。
黒花が言ったように千束を前、黒花が後ろで、である。
二人は銃を構え警戒しながらビルを進んでいく。
すると、すぐさま二人の視界に銃を持った一人のラフな格好の男が廊下に立っているのが入った。見張りのようである。
千束達はその姿を物陰から確認すると、千束がバレないようにその男の頭を撃った。
「っ!?」
男の頭に赤い煙が舞ったかと思うと、男はその場に倒れる。
二人はそれを確認するとその見張りの背後に進んでいく。
「黒花は後ろを見て、私は前を見る」
「了解」
黒花は言われた通り後方を警戒しながら千束についていく。
一方で千束は、廊下を進み先にある個室のドアを開けた。
「あん?」
ドアが開けられると、そこには三人の男が銃を持ちながらも座りくつろいでいた。
どうやら侵入者が来ることは想定していなかったらしい。
「っ!」
男達は立ち上がり銃を構えようとする。
だが、千束はその隙を与えず三人の男を射抜いた。
「ぐはっ!?」
男達は倒れていく。
その姿を見て、黒花は言う。
「見事な手並みだな、千束。情報部が言うにはテロリストのグループは四人。これで全員仕留めたな」
「そうだね、後はクリーナーの人に任せよっか」
黒花の言葉に静かに答える千束。
彼女の鮮やかな手並みに、黒花は感心した。
が、そんなときだった。
「ぐ……あ……」
頭を撃たれたはずの男から、うめき声が聞こえてくるのを黒花は聞いたのだ。
「うん……?」
黒花はどういうことかと思い、確認していく。そして、気づいた。
千束は誰一人殺していない事を。彼女が使ったのは非殺傷弾である事を、である。
「おい……これはどういうことだ」
黒花が男を確認した後に千束に言った。その表情は巌しい。
「あー、そのね……私は、殺しはしないんだよ」
千束はすると、困ったような笑みで言った。
「なんだと……?」
「私はね、重い心臓の病気を抱えてたんだ。でも、それを救ってもらった。そしてその人は命を救いたいと言って、私に新しい心臓をくれた。だから、私は人を救うために戦おうって決めたんだ。私を救ってくれた、あの人のように」
千束は胸に手を置きながら言う。
今はここにいない、誰かのことを思っている、そんな顔だった。
一方で、黒花は開いた口が閉まらなかった。
何を言っているんだこの子はと、そう思った。
「おいおい……俺達が握っているのは、人殺しの武器だぞ? それに、DAからの指令はこいつらの排除だ。つまり、殺せという事だ。そんな綺麗事、まかり通るのか?」
「うん、通るよ。いいや、通している、ってのが正しいかなぁ」
黒花の言葉に、困ったような笑みを浮かべながら言う千束。
「この事はDAからもいろいろ言われはするんだけど、でも私の信条だから、そこはどうしても譲れないの。黒花には迷惑かけると思う。でも、お願い。私のこれは、譲れない」
千束は幼いながらも芯のある目で言った。
黒花はそこに断固たる意思を感じた。そして、それは決して揺らぐことのないものであることも分かった。
そういう目をしてきた人間を、なぜなら彼女は生前に何度も目にしてきたからだ。
死の間際にも信念を曲げない人間達。千束の目はそういう人間達と同じ目をしていた。
「ふふ……ははははははははははは!」
それを知って、黒花は笑った。大笑いした。
「……え? どしたの? え?」
千束はそんな黒花のリアクションに今度は彼女が困惑することとなった。
一方で黒花は、銃を持ってない左手を目に当て、上を向いて笑い続けた。
「はははははは! ……ったく、お前は面白い女だな、千束! そういうの、嫌いじゃないぞ」
「あ、ありがとう……?」
千束はよく分からず黒花にとりあえず礼を言った。
一方で黒花はひとしきり笑った後、笑顔で千束に言う。
「そういう事なら、お前の信条とやら、ここでは通そうじゃないか。まったく楽しみだよ。お前の信条がどれほどまでに通じるのか。さあ、後は大人達に任せようじゃないか。さっさとここを出よう」
「あっ、待って!」
部屋を出ていく黒花の後を、千束が慌てて付いていく。
「あ、そうそう」
「うぐっ」
そこで急に黒花は立ち止まり、その背中に千束は顔をぶつける。
鼻をさする千束。そんな彼女に、黒花は言う。
「今後は一緒に仕事を合わせないよう、司令には言っておくよ。俺の
「…………?」
黒花はそう言い放つと、また歩き始める。千束はその後を追う。
結局、その現場はそれで終わりとなった。
「錦木千束……か。本当に面白い女だ」
DAに戻った黒花は、シャワー室でシャワーを浴びながらそう呟く。
「あれは本物だ。本物の光だ」
シャワー室の壁に手を当て、背中にシャワーを当てるようにしながら言う黒花。
その顔は、いつしか笑みを浮かべていた。
「まったく度し難い。しかし度し難いからこそ、愛おしい」
そこまで言うと、黒花はコックを捻り、シャワーを止める。
「ならば、俺は殺そう。あいつが生かす分まで、俺は殺そう。それが俺の存在証明だ」
黒花は一人のシャワー室を後にする。
彼女がいなくなったシャワー室を暗闇と沈黙が支配した。
千束に続いて黒花が数々の任務をこなし、ファーストリコリスに任命されたのは、そのすぐ後の事だった。