【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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32.Conflict

 日本の治安を裏から維持してきた政府の秘密組織、ダイレクトアタック通称DA。

 過去に黒花の手によって破壊され今なお完全な復興には至っていない本部で、組織のトップである楠木は険しい表情で机上にあるディスプレイに向き合っていた。

 彼女の視線の先の画面に映っている複数に分割された枠での映像。そこには深夜の郊外や人の姿のない街中で撃ち合いが起きている光景であった。

 片方は黒花の部隊であるブラックブーケ。そしてもう片方は犯罪組織センチピードである。

 彼女らは人目を忍んでは戦闘を繰り返しており、完全に血で血を争う抗争を行っていた。

 突発的に起こる戦闘において基本的にブラックブーケが勝利しており、現状においてはブラックブーケ有利の形勢ができていた。

 

「……まったく、本当に迷惑な連中だ」

 

 楠木は眼前の映像を停止し、ため息をつくようにこぼす。

 そんな彼女の言葉に苦虫を噛み潰したような顔になっている者が近くにいた。

 フキである。

 彼女は楠木が座るデスクの横に立ちぎゅっと拳を作り握っている。

 

「すいません……私達が至らないばかりに」

「別にお前達を責めているわけじゃない。ラジアータも未だ復旧中の上、人員も大幅に失った現状でここまで広範囲かつ不規則に戦闘を行われては対応が後手に回ってしまうのは事実だ」

 

 楠木は顔の向きは変えず、目線だけをフキに向けて言う。

 

「ラジアータはまだいい。復旧で言えば既に目処がついていてあとはどれだけ早くできるかというだけだからな。問題は失った人員の方だ。元々ラジアータがなくても我々は大規模なテロを未然に防いでいたがそれは大量にいる人員が背景にあった。だが黒花が起こした事件によって多くのリコリスとリリベル、そしてつながりのあった政府、警察、自衛隊の関係者もいなくなった。新しく集めるだけでなく育成の事を考えると、この穴を埋めるのは遠い先の事になるだろう」

「クソっ……あいつ、マジでふざけた事してくれやがって……!」

 

 フキが眉間に皺を寄せ、歯を食いしばりながら言う。

 一方で楠木の表情に変わりはない。ただ軽く「はぁ……」とため息をつくのみであった。

 

「どうしようもならない事を引きずっても仕方はない。我々にできる事は、こいつらの争いをできるだけ世間から隠す事だ。この国の平和という蜃気楼を守り抜く事がDAの役目の一つなのだから。幸い、我々が築き上げてきたこの幻のお陰で国民の目はすっかり眩んでいるしな。この現状ならたとえリコリスとテロリストが銃撃戦をしている映像を中継されようと騙せるだろう」

「それは……いえ、分かりました」

 

 なお釈然としない表情で頷くフキ。

 そんなフキを見ながら楠木は、やっと彼女の方に椅子を回して体を向けた。

 

「……ところで、今日は一体何のようだ。私に聞きたいことがあると連絡では聞いたが」

「あ、ああ……はい」

 

 フキはそこで思い出したように姿勢を正し楠木に視線を向けて言う。

 

「この前、千束が来ましたよね? あいつが検査などの事務的な手続き以外でここを訪れるなんて普通はありえません。そして司令はあいつと会ったとも聞きます。あいつと何の話をしたんですか? やはり黒花の事……ですよね?」

「……確かにファーストリコリスであり関係の深いお前には伝えておいたほうがいいかもな」

 

 フキの質問に一拍置いてから楠木は言い、彼女に話す。千束がDAに来て、楠木に話した内容を。

 それを聞いて、フキはあからさまに驚いた表情になった。

 

「は、ハァ!? そんな事、許される訳がっ……!」

「落ち着け。あくまで仮定の話……希望的観測での話だ。ただの夢物語に近い」

「でも、だからって――」

「――そして、だからこそ私は答えた。その夢物語がもし現実になるのならば、私は貴様の提案を飲もう、とな」

「……ハアアアッ!?」

「落ち着け、みっともないぞ」

 

 大声で叫ぶフキに楠木は変わらぬ態度で言う。だが、フキはなおも動揺を隠さず手を大きく振って言う。

 

「いや、ありえないですよっ!? だってあいつのせいで私達は今……!」

「ああ、だが私達が真に守るべきはプライドではなく国だ。そしてそのためなら手段を選ばずにやってきた。それが変わる事はない。それともお前は、個人的感情と国家の安寧を天秤にかけて感情を取るのか?」

「ぐっ、それは……!」

 

 言葉に詰まり俯くフキ。

 楠木はそんな彼女を尻目に再び椅子を回してディスプレイの方に向き直る。

 

「まあ落ち着け。あくまであのバカの言う希望的観測が実現したらの話だ。そして、私達が知っているままなら、その夢物語は叶わん」

「……ええまあ、確かに」

 

 フキは理屈を説明されてなお釈然としていない様子で、俯いたまま床に向けて視線を泳がせる。

 対して楠木は再び映像を流し始め、じっとその画面を見つめる姿に戻ったのであった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 冷風吹きすさび荒波がコンクリートに打ち付ける東京湾。

 静けさに包まれるその中でミロスラーヴァが港の縁に立ち、ビビットなカラーリングをしたクリンコフを両手で端を掴み首の背に乗せながら冷たい目線を目下に向けていた。

 その先には、だらっと冷や汗を垂らし、手を後ろに回された状態で親指二本を結束バンドで縛られた男が座らさられていた。

 彼はミロスラーヴァの部下の一人であり現場での戦闘指揮を任されていた。

 その結果として、ブラックブーケとの戦闘で敗北、部下を大勢失いながらも彼は逃げ帰ってきたのだ。

 

「……で、なんか言い訳ある?」

 

 そんな彼にミロスラーヴァは端的に言う。言葉だけでなく表情もまた冷たい。

 彼はそれを最後のチャンスと思い、必死に命乞いを始める。

 

「おっ、お願いします俺まだまだ頑張って役に立ちます下っ端仕事でいいですから命だけはっ――ウグッ!?」

 

 彼の叫びは途中で遮られる。彼の口の中にクリンコフの銃口が入れられたからだ。

 

「あのさー、ウチは“命乞い”が聞きたいんじゃないの。“言い訳”が聞きたいの。どうして人形共に負けておめおめ逃げ帰ってきたかその理由をてめぇの口から聞きたかったんだけどなー」

「モガッ!? モガッ!」

 

 言葉を発しようとするも銃口が口の中にあるためにまともに喋ることができない男。

 ミロスラーヴァが銃を押し付ける力が見た目からは想像できない程強く立ち上がる事もできない。

 やがて、ミロスラーヴァの指が引き金にかかり、そして――

 

「――なーんてねっ!」

 

 ミロスラーヴァは突如銃口を男の口から引き抜いて笑顔で言った。

 

「がっ!? はぁはぁ……!」

「大丈夫だよー! 銃殺なんてしないからさぁー! ウチは優しいから、駄目な子にもチャンスをあげちゃうの!」

「……あ、あざますっ……!」

 

 男は涙と鼻水をでろでろに流し、腰が抜け立ち上がれないままに頭を下げる。

 かろうじて命を繋ぎ止めた、そう彼は思った。

 

「んじゃ、早速頑張ろうか」

 

 だがその直後、ミロスラーヴァがそんなことを言ったかと思うと、男が強い衝撃と共に吹き飛ばされた。

 ミロスラーヴァが男に思いっきり横蹴りを加えたのだ。

 男は大きく飛んだ後に夜の東京湾に落ちる。

 両の親指を結び付けられている彼が手を使える訳もなく、必死にバタ足で頭を水面から出そうとする。

 

「がっ!? はっ! はっ!?」

「ほら頑張って! 手は使えないけど、もしかしたら陸に上がれるかもしれないよ? あー生き残る希望を与えてあげるなんて、ウチってすっごい優しい!」

 

 楽しそうに笑って言うミロスラーヴァに対し、頭を出すことが精一杯の男。

 ミロスラーヴァはそんな彼が沈み切る姿を見る事なく男に背中を向け港の奥に歩いていきながら近くにいた他の女の部下に言う。

 

「んじゃ、そろそろあの作戦いこうか。随分とやられちゃったけど、それなりにエリアは絞れたし必要な犠牲ってヤツだね。もちろん準備はできてるよね?」

「はい。指示通りの数を用意してあります。あとはボスがボタンを押すだけです」

「オッケーあんがと。よーし、さっそく起動といっちゃうねー」

 

 ミロスラーヴァはニタニタと笑いながらスマートフォンを取り出す。

 そしておもむろにアプリを開いて、画面下部に表示されているボタンをタッチした。

 すると直後、彼女の近くにあった野ざらしのコンテナの上部が次々と開く。かと思いきや、その中から大量のドローンが飛び出し、どんどんと東京の街に向かって飛んでいったのだ。

 

「ざっと三千台以上のドローンでのスウォームアタックによる索敵と攻撃、そしてジャミング。指定ルートを巡回しながら自律して充電と発進を行うこれでてめぇらの行動は丸見えってわけだねぇ、人形ちゃん共」

 

 軽い口調に反して歪に歯を見せる笑みを浮かべながら言うミロスラーヴァ。

 闇に消えていくドローンの軍団はまるで群れをなすイナゴのようでもあった。

 

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