【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
放置された自動車が並ぶ深夜の駐車場に銃声が響いていた。
主に射撃を行っているのはセンチピードの構成員であり、セダン車の背後に隠れながら防戦一方になっているのは黒花と666であった。
彼女らの頭上にあるセダン車の窓は既に絶え間なく飛んでくる銃弾によって跡形もなく無くなっている。
「チッ……!」
黒花はなんとか意表をついた方向から上体を出して反撃しようとする。
しかしそうしようとするたびに弾丸がその方向に飛んでくるため、急いで身を隠す事になるのだった。
「ああクソ、やっぱり空から見られているな……!」
「ええ、五日前から完全に情報戦で負けていますね。その結果、損害も多数……それもこれも、あれらのせいですね」
666はそう言いながら上空に向けて拳銃のベレッタで射撃する。
彼女の視線の先にはミロスラーヴァの放ったドローンがあった。二人の射程圏内にフラリと入ってきたのだ。だが彼女の銃弾数発はドローンの横を過ぎ去って行って当たらない。
すると、別の弾丸がそのドローンを一発で撃ち落とした。黒花がMCXで放った弾丸だ。
「お前本当に通常交戦距離での射撃はヘタクソだよな……狙撃は私と同じレベルなのにそれはスキル振りが極端過ぎるだろ」
「う、すみません……狙撃銃での定点狙撃なら通常距離でもなんとかなるのですが、拳銃やアサルトライフルでのとっさの対応となるとどうしても……せめて弾切れを起こしていなければ……」
背にしたTPG―1に目を向けながら珍しく落ち込んだ様子で言う666。
空にはまだまだドローンが飛んでおり、ほとんどは彼女らが現在地から射撃できる位置にはなかった。先程のドローンは偶然飛んで来ただけなのである。
「まあそこらへんは今後の課題だな。とにかく今はこの状況切り抜けないとだ。まだ二人とは連絡は取れないか?」
「はい。623も716も先程の襲撃で分断されてからずっと。無線が未だ潰されているので確認は取れません。普段ならあの二人が殺されるとは思いませんが……」
「だけど完全に鷹の目で見られてる状況だからな今……最悪は、覚悟しとけよ」
「……はい」
苦い顔で言い合う二人。
黒花も666も再度銃を握りしめギリギリの隙間から様子を伺う。
彼女らを銃撃してきている敵の数はおおよそ十人程。
普段なら十分制圧できる数だが、現状は少しでも動こうものならすぐさま捉えられて蜂の巣である。黒花は追い詰められている状況に再度「……チッ」と舌打ちをし、苦し紛れに笑う。
「まさにどうしようもない地獄って感じだな。いや、生殺し状態だから煉獄ってところか。少なくとも天国ではないよな」
「また妙な例えですね。ここが煉獄ならぜひベアトリーチェの助けを期待したいところですが」
「ベアトリーチェって……私がダンテって柄か?」
「少なくともさっきみたく時折ポエットって感じですしいいんじゃないですか?」
「はっ、随分と言うようになったじゃないか。でも私には残念ながら助けてくれるような永遠の淑女なんて――」
自嘲気味に黒花が言いかけたそのときだった。
どこからともなく、駐車場に大きめのトラックタイプのラジコンカーが走って入ってきたのだ。それは上部に何やらパラボラアンテナのようなものが空を向いて積んでおり、妙な見た目をしていた。
戦場となっている駐車場にラジコンカーという不釣り合いな存在、しかもジャミングによって通常の電波は飛ばせないはずのそこに動いてやってきたそれを見てセンチピード達はつい銃撃を止める。また、黒花達もその姿に思わず目がいった。
双方の注目の中、ラジコンカーは駐車場の中心で停止したかと思うとキュイーンというモーター音がラジコンカーから駆動音が鳴り、直後にパンッ! と軽い炸裂音が響く。
するとその瞬間、空に十数機は浮いていたドローンがすべて地面に墜落してきたのだ。
「……これ、は?」
呆気に取られた様子の666。それはセンチピード達も一緒ですっかり動きが固まっていた。
だが、一人だけ違った。黒花は素早くセダン車から飛び出し敵に向かって唖然としているセンチピードを素早く射殺していったのだ。
そして黒花が飛び出した瞬間、666も気づきセンチピードに向かって射撃する。
だがその弾丸は掠めるに留まりセンチピードを撃ち倒す事はなかった。
その攻撃でやっと我に返ったセンチピードの構成員達は銃を再び構えるがすでに遅かった。
黒花は完全に位置取りを変え構成員達が丸見えの位置から素早く撃破していく。
また666も拳銃での射撃は諦め手持ちしていたグレネードを投擲する。
これにより敵対していたセンチピード達は一瞬にして壊滅し、二人は窮地を脱したのだった。
「司令官、敵勢力の完全沈黙を確認。通信も復帰し623及び716の生存も確認しました。すぐさまこちらに合流するようです」
「ああ、ご苦労……」
666が黒花の元に歩いてきて言う。一方、黒花の視線は駐車場に現れ形勢を変えたラジコンカーに注がれていた。
「あれは指向性を持ったEMPか……? それをジャミングがされているエリアにラジコンカーで運んで作動させるなんて普通はありえんが、しかしもしかしたら――」
「――さっすが黒花、察しがいいじゃん。まあしばらく一緒にいたわけだしねー」
黒花の言葉に対し明るい声で返答が返ってくる。
声の主を黒花は顔を見ずともすぐに分かった。しかし、あえてその声の方向に視線を向けて彼女は言う。
「……まったく。お前がベアトリーチェって柄か? 千束」
「へ? どゆこと?」
ニヒルな笑みを浮かべながらもどこか嬉しそうな声で言う黒花の言葉に、手にラジコンのプロポを持った千束はきょとんとした顔をしながら歩いてきていた。
千束の隣には呆れた顔をしたたきなもいる。彼女の手にはプロポだけの千束と違って構えてはいないがしっかりと拳銃が握られていた。
「いや、なんでもないよ。それより助かった」
「いいのいいの。これで借り一つ返しね」
「ああ、そうだな。でもまだ一つ貸しは残ってるさ」
お互い笑い合う黒花と千束。
一方でたきなと666はお互い気まずそうな表情で顔を合わせていた。
「……普通の射撃は残念なんですね」
「悪かったわね……しっかりと気にしてるわよこっちだって」
たきなの言葉にバツが悪そうに腕を組みながらそっぽを向く666。
敵がいなくなって戦闘が終わった事もあってか、その場には妙に落ち着いた空気が流れていた。
「そのラジコン、やっぱりクルミ製か」
黒花はラジコンを銃で軽く指し示しながら言った。
「うん、ここを教えてくれたのもクルミ。五日前から異常にドローン飛んでるし密集地で戦闘起こるから露骨に分かりやすいって。それで今日はいつにも増して密集するもんだからって、えーっとなんだっけ……ポップアップ? パンチホッパー?」
「ホッピングですよ千束。飛び回ってるドローンがジャミングするときに飛ばしているバラージジャミング用の周波数は完全に解析したので、それを掻い潜れる周波数で動かせるEMP発射装置付きのラジコンを作って渡してくれたんです。安物ばかりだから簡単だったそうで。クルミに感謝ですね」
「ああ、そうだな……やっぱ凄いなアイツ。さすが伝説のウォールナット」
黒花はわずかに俯き苦笑しながらポリポリと後ろ頭を掻く。そして少しの間沈黙し、顔を上げて落ち着いた笑みで千束に言った。
「なあ千束。今クルミと話せるか?」
「え? まあどうせ夜ふかししてるだろうしいいけど、何話す気?」
「いや、ちょっとした質問だよ。すぐ済む。なんならはっきりしたら教えても良い」
「……分かった」
千束もまた一瞬静かになったが、すぐさま頷いてスマートフォンの連絡先からクルミを選んで電話をかける。
その姿にたきなと666はそれぞれ千束と黒花を訝しい目で見るも、言葉は無駄と思ったのか何も言わなかった。
そうしているうちに千束の電話が繋がり、彼女は軽く喋ると黒花にスマートフォンを渡してきた。
「はい、さっさと要件話せってさ」
「サンキュ」
黒花は千束からスマートフォンを受け取りクルミに話しかける。
「やあクルミ、久しぶり。さっそくだが聞きたいことがある。東京湾近辺で所有者をごまかしている倉庫、または東京湾を行き来している船で同じく所属で嘘ついている船を教えてくれ。まあまああると思うけど、リストをこの千束のスマホに送ってくれるだけでいいからさ。……ああ、ありがとう。恩に着る」
黒花はそう言って少しの間スマートフォンの画面を見ながら待つ。すると、わりと早く通知が飛んできたので黒花はそれをタップして開く。
そこに並んでいた名前をズラッとスライドしながら眺めていくうちに、黒花の指が止まる。
「……これだな。集めた情報にピッタリ合うし、何より分かりやすい名前している」
「ええ。一応623に確認して貰う必要はあるでしょうが、私もそう思います」
確信が表情に出ている黒花の横からスマートフォンを覗き見た666も小さく頷いて言う。
「ありがとうクルミ、じゃあ……って、切らなくていいのか? 分かった、じゃあ……どうも千束。おかげで決着がつけれそうだ」
黒花は不敵な笑みを浮かべながら画面をそのままの状態で千束にスマートフォンを返却した。
「決着って……もしかして」
黒花の言葉を受け、千束はばっと画面を見る。たきなもまたその画面を覗く。
その画面に映っている船舶の名前が並んでいるリストの画面の真ん中に、二人が目を引かれる名前を持つ大型コンテナ船があった。
その名も『真田丸』。
かつて武田信玄が家臣、真田昌幸の次男であり日の本一の
大河ドラマでもお馴染みの名であるため、たきなはともかく千束は聞いたことはありはっとした顔になった。また、たきなも表示されているいくつかの不自然なデータで察する。
「黒花、これがもしかして……?」
「そういうことだ。あいつらの拠点は、海の上に浮いている」
黒花は千束にそう言うと、二人に後ろ姿を見せ去り666も隣に並んでついていく。
そして黒花は歩きながら振り向かずにばっと手を振って言った。
「じゃあな千束。もしものときは、頼むよ」
軽い口調で言ってそのまま去っていく黒花達。
千束は彼女の言葉を聞いてぎゅっとスマートフォンを握る手の力を強め、黒花の背中をじっと見つめた。
「……千束、今の意味、分かりますか?」
横でたきなが静かに問いかける。
彼女の言葉に千束はコクリと頷いた。
「うん……でも、そうはさせない。なんでもあのバカの思い通りになんて、させるもんか」
小声で返す千束。
しかしその声は、声量にそぐわぬ確固たる意志に満ちていた。
そして千束は通話が繋がっているままのスマホを耳に当てた。
「どうクルミ、状況は? ……オッケ、さっすがレジェンドだねぇ」
そう言う千束の顔は、黒花に負けず劣らず不敵な笑みになっていた。