【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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34.Pirates

 その夜の海は荒れに荒れていた。

 強い風と叩きつけるように降る大粒の雨によって波はしけ雷鳴が遠くから鳴り響く。夜であることを考慮しても視界は悪かった。

 そんな乱れている海上に大型コンテナ船『真田丸』は揺られていた。

 長さ三百メートル程、幅四十メートル強、深さは三十メートルといった真田丸は一見するとただのコンテナ船だが、それは外見だけであり中身はセンチピードが擁する基地になっていた。

 かつてセンチピードが戦前の日本で国民監視のスパイ仕事を受け国家とのパイプがあった事、そして戦後の混乱に乗じて偽造し各界隈に潜り込ませたペーパーカンパニーを活用し書類上は海運会社が運用している船という事になっている。

 ミロスラーヴァが反乱を起こし組織を乗っ取った際に真田丸もまた彼女の本拠地となったのだ。

 偽りの姿ではコンテナ船のため、こうして申し訳程度にコンテナを積載した状態で時折形だけ海を航行するのである。

 そんな真田丸に近づく一機のヘリの姿があった。主にアメリカで運用されている軍用多目的ヘリコプターUH―60ブラックホークだ。

 ヘリのキャビンに乗っているのは黒花達ブラックブーケのアルファチームだ。彼女らは普段の黒セーラー姿ではなく全身タイツのように体のラインが出る黒の特殊作戦用スーツの上に防弾プレートを入れられかつ弾薬ポーチなどもついている同色のプレートキャリアを装備していた。

 開かれているスライドドアの部分から黒花は船を見る。

 敵の本拠地であるコンテナ船はライトで甲板を照らしているが間近に迫っている黒花達に気づいていない様子だった。

 

「騒ぐ素振りすらありません。嵐のおかげですね」

 

 同じく船を見下ろしていた666が言う。二人はヘリのローター音の中や作戦中に離れていても言葉を交わせるように耳に指向性で音を拾うマイクにもなるイヤホン型の通信機をはめていた。

 

「ああ。こういうのを天運って言うんだろうな。流れが来てるこの感じならブラボーチームぐらいは同行させても良かったかもしれん」

「船の規模から考えての作戦行動のしやすさを考えると私達だけがやはり最適でしょう。しかし司令官の兵器類の所持については驚かされます。まさかブラックホークまで所持しているとは」

「別にそんな難しいことじゃないさ。ツテさえあれば、平和な国だってそれなりに武装は整えられるんだ。それこそこれから私達がドンパチする相手だってそのいい例だし、なんならあっちの方が豊富そうだ」

 

 黒花はMCXに積んだサーマルスコープ越しに甲板を見ながら言う。スコープからは甲板に歩く歩哨が白く浮き立った状態で強調されて見えていた。

 甲板にはわずかな歩哨が雨の中レインコートを着て巡回しているだけで未だ黒花達を乗せたヘリが船の周囲を旋回するように飛んでいる姿を感知できていなかった。

 

「よし、じゃあ海賊行為といこうか。ペリカン(ワン)、ヘリを後ろにつけろ。私達を降ろした後は一度補給に戻って一時間後に迎えに来い。応答がなかったら逃げ帰っていいぞ」

『了解』

 

 黒花にペリカン1と呼ばれたヘリのパイロットは簡潔に返答しヘリを船尾に飛ばす。

 すると船尾にはちょうどサボっていたのか一人の男が外に面する通路でタバコを吹かしており、男と黒花の目が合う。

 唖然とする男だったが、瞬く暇もなくその男の眉間が撃ち抜かれ壁に血の花を広げる。

 

「今頃気づいても遅いよ」

 

 黒花の横でTPG―1を構え既に発砲した後の666がそう言った。

 船尾にヘリからロープが降ろされる。

 

「乗船だ野郎共。覚悟はいいか」

「私達は女の子なので野郎じゃないですけどね」

「ノってるところなのにそういう細かい事を言うんじゃないよお前は」

 

 表情を変えず言う666に黒花は呆れた顔をしながらも、全員でロープを持ち船尾に滑り降りる。

 

『では一時間後に。幸運を司令官』

「ああ、お前もなペリカン1」

 

 四人を降下させ一言告げ去っていくペリカン1にさっくり言う黒花。

 彼女はそこで銃を構え、追従する仲間に言った。

 

「よし行くぞ。やることはただ一つ、敵すべての抹殺(exterminate)だ」

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 黒花達がコンテナ船真田丸に乗り込んだ少し後、同じく海上の真田丸に向かって突き進むスポーツボートの姿があった。

 乗っているのは千束とたきなである。運転しているのはたきなであり、千束はその横で雨粒が激しくぶつかるフロントガラスからその先を見ていた。

 

「ひぇーすげぇ雨に波! こんなん気を抜いたらすぐひっくり返りそう!」

「そういう悲鳴は実際に運転してから言ってください! 今苦労してるのは私なんですから!」

 

 たきなは必死な顔でボートを高速で動かしながら答えた。

 彼女らもまた黒花と同じく騒音の中でも話せる通信機を耳についていた。

 突風と荒波をかき分けるように進んでいくボートの先に、やがて船の明かりが見える。

 

「たきな! 見えてきたよ!」

 

 千束が指差す先にある停止した真田丸。

 二人にもはっきりとした形が見えるほどに近づいたそれに対して、たきなはさらにボートの速度を上げる。

 

「いきますよ千束、しっかり掴まっててください!」

「加速した後に言わないでようぉわぁっ!?」

 

 転びそうになりながらもなんとか持ち直す千束。

 二人が乗ったボートはついに船体の横まで着き、たきなは並べるようにボートをつける。

 

「おっし! じゃあ行くよたきな! 準備はいい?」

「ええもちろん。ですがここで乗り込んだら最後、この海の状況だとあのボートには私達は帰れませんよね。どうやって帰るつもりですか?」

「……まあ救命ボートとかはあるでしょ!」

「まったく……まあ今に始まった事じゃないですし、こっちも覚悟の上です。でも、一応発煙筒ぐらいは私が持っておきますからね。遭難したら必要でしょうし」

「ありがとぉー! 持つべきものはたきな大明神様ぁー!」

「はぁ……」

 

 わざとらしく両手で拝む千束に対しため息をつくたきなだったが、彼女はそれだけで済ませ千束と共に開けたボートの後ろに出る。

 そして二人は船の縁に向けて長方形の銃のような物を向ける。その先端には四方に伸びた鉤爪が伸びていた。

 千束達はそれの引き金を引く。すると鉤爪付きの太いワイヤーが射出されそれが船の縁に引っかかる。

 彼女らはその射出機を引きしっかりと引っかかっている事を確認すると、今度はそのワイヤーに手持ち部分が丸い長方形の昇降機を取り付ける。

 二人が昇降機を稼働させると、彼女らの体はすっとワイヤーをたどって上昇していき、素早く甲板に上がる事ができた。

 

「ふいー、実戦じゃあんまり使ったことない装備だったけど体は覚えてるもんだねぇ」

「ええ、訓練過程に使用方法を入れていたDAの教えが役立ちましたね」

 

 二人は軽く言葉を交わすと銃を構えた状態で甲板を進んでいく。

 甲板は嵐が吹きすさんでいる事以外は静かで人が動かしているようには思えずまるで無人船なのではないのかと錯覚してしまうほどであった。

 だが操舵室に到達したときに二人はそこが有人船であることをしっかりと確認する。

 操舵室の窓は割れており、内部には射殺された死体がいくつも転がっていたのだ。

 

「外から素早く処理といったところですか。さすが手慣れていますね」

「だね。でもこの船の中身が基地になってるなら本番は内部だろうし、気合入れないとね」

 

 千束達は操舵室に侵入し、そこから経路になっている階段を降りて船内へと降りていく。

 狭く暗く汚れている通路を進んでいく二人。その道中にも多くの急所を撃ち抜かれた死体が転がっており、暗色に塗装された壁にあるいくつもの弾痕と血痕で戦闘が何度か行われたのが分かった。

 だがブラックブーケのメンバーの死体は転がっていないため、一方的に彼女らが勝利したのも分かる状況でもある。

 

「おーおー、ほーんと手際が良い事で」

「そんな事言ってる場合ですか。遭遇したら撃ち合いになってもおかしくないんですよ」

 

 銃を構えながら小声で話す千束とたきな。彼女らはそうして通路をいくつも横たわる死体を跨ぎながら進んでいく。時折通路が分かれるときもあったが、そうしたときも死体と戦闘の痕跡が続いている事により二人は迷うことなく足を動かす事ができた。

 そんな風にしばらく歩いていくと、二人は視線の先にある通路の出口――半開きになっているバルブハンドルの水密扉の先から銃声が響いているのを耳にする。

 

「……千束」

「……うん」

 

 千束とたきなは一度立ち止まって頷き合い、音を立てない程度の早足で出口に向かい通路を出る。

 するとそこには縦横高さそれぞれ十メートル程度はありそうな広い空間になっており、二人はその空間を見下ろせる上階の渡り廊下に出た。

 銃声は下方から響いており、見下ろすとそこには黒花が一人で木箱や一緒に積んである車などを盾にしながら十数人はいるセンチピードの構成員相手に銃撃戦をしている姿があった。

 

「オラオラァ! あのゾンビ人形ぶっ殺したやつにはボーナス弾んでやるから気張れ気張れぇ! 死んだら二階級特進させてあげるからさぁ!」

 

 その中には厳つい顔で笑いながら怒声を飛ばすミロスラーヴァもいた。彼女は手にいつものビビットなカラーのクリンコフを持ち乱射しており、かつ背中に倉庫で猛威を振るったレインボーカラーのMGL―140が背負われている。

 

「あれ!? 黒花一人!? なんで!?」

「さすがに一人で乗り込んできた訳ではないでしょうにどうして……」

「とにかく行かないと!」

「あ、待ってください千束! さすがにもっと状況を見てからでも! ……って、もう仕方ないですね!」

 

 居ても立っても居られずと言った風に駆け出し出口から見て左側にある通路の階段を降りていく千束。そして軽く頭を抱えながらも彼女の後についていこうとするたきな。

 だが、そのときだった。

 ガギィン! と眼前の壁で銃撃によるものとわかる音と火花が散ったのだ。

 

「っ!?」

 

 たきなは瞬時に入ってきた出口の水密扉の背後に隠れる。

 そこからわずかに顔を伺わせると、反対側の通路の先、同じく半開きになっている水密扉の間から銃身が伸びているのが分かった。

 そこから輝いているスコープの反射光。その主を、たきなは顔を見るまでもなくすぐさま把握し、苦虫を噛み潰したような顔になった。

 

「また彼女ですか……!」

 

 たきなを狙撃した相手、それはもちろん666であった。

 彼女は伏せ状態でたきなのいる扉をスコープで覗いており、その緑眼は瞬きをする事がない。彼女の背後にはいくつものセンチピード構成員の死体が転がっており、かつ通路の先の曲がり角には指向性対人地雷であるクレイモア地雷が設置され敵の接近を許さぬ形になっていた。

 

「どうやら黒花と千束を二人だけにするのが目的みたいですね……まったく、利口な忠犬だことで……!」

 

 悪態をつきながらも様子を伺い、拳銃のグリップを今一度強く握るたきな。

 距離は大きく離れているが、たきなと666の間には張り詰めた空気が流れていた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 一方、一人階下の乱雑に物資が置かれた広間に降りた千束は、いとも容易く銃弾を避けながら新しい木箱を盾にしていた黒花の横に滑り込んだ。

 

「やっほー黒花ちゃーん! 今ピンチって感じ? ヘルプいる?」

「はっ! やっぱり来たな千束! ありがたいけどでもやっぱスイスイ弾幕抜けてくんの本当にキモいなお前」

「はぁ!? 誰がキモいってぇ!? 十数人はいる相手を一人で相手取って楽しそうにしてるバカにだけは言われたくないんですけどぉー? てか他のお仲間さんはどーしたのさぁ? あまりのバカさについに見限られたぁ?」

 

 千束の登場に驚く様子なく笑って言う黒花。それに対し千束は嫌味たっぷりの笑顔で返した。

 

「ちげーよ他のメンバーは別区画で雑魚狩りだ。この船にいるセンチピードは一人残さず掃除するつもりで来たからな私達は。てかその一人で楽しんでるバカと今こうして肩ぶつけて並んでるバカ二号は誰って話よ」

「いやー私って弱い子ってほっとけないんだよねーかーっまいったまいった」

「あぁ誰が弱いだとこんにゃろう私とずっとタイマンで引き分けてた癖に」

「頭は明確に弱いでしょ」

「おういう言うじゃねぇか人様の事言える頭してるのか? おぉん?」

 

 二人はぐっと鼻が擽り合う程の距離で顔を寄せ合って睨み合う。

 だが盾にしている木箱の側で爆発が置き、二人はすぐさま正面を見る。そこには怒りの形相でグレネードランチャーを構えたミロスラーヴァの姿があった。

 

「ゴラァ! このミロスラーヴァちゃんを無視して談笑とはいい度胸じゃーん! だったら仲良く地獄に落ちろやぁっ!」

 

 彼女の手前にある木箱越しに更に射撃してくるミロスラーヴァ。

 二人はそれぞれ反対方向に飛び退き転がって遮蔽物に隠れる。黒花は軍用トラックの背後に、千束は扉が開いたコンテナの背後に、である。

 

「はぁ……行くぞ千束。あいつら全滅させてから“やる事やる”ぞ」

「オッケー、いつでもどうぞ」

 

 銃声と爆音が響く中でも二人はニヤリと笑い合って言う。

 すると直後、二人はタイミングを言葉で合わせることすらせず同時に動いた。千束は近くの他の物資の箱を利用しコンテナに乗って飛び降りた正面から、黒花は横方向に飛び出し側面から素早く射撃を開始する。

 その弾丸は次々とセンチピードの構成員を倒していく。黒花の弾丸は命を奪い、千束の特殊弾は気絶させて。

 その中でミロスラーヴァの持っていたグレネードランチャーも流れるように撃ち飛ばされてしまう。

 

「なっ!? ウチのお気に入りがっ!? クソがっ!」

 

 ミロスラーヴァは素早く状況を察知し木箱の背後に隠れる。

 だが他の構成員は隠れることすらできずにどんどんと戦闘不能になっていく。

 その状況に、彼女は一気に自分が不利な形勢に追い込まれたのを理解する。

 

「あークソっ……! マジなんなんだよアイツら……! お前ら! ここを死ぬ気で守ってろ! なるべく時間を稼げ!」

「えっボス!?」

 

 構成員がその言葉を聞いて振り返ったときには、ミロスラーヴァはもう既に彼女らの背後にあった通路に走り、水密扉を閉じていた。

 困惑し立ち尽くしていた構成員だったが、千束の弾を頭に受け床に倒れすぐさま気を失う。

 そうこうしていくうちにその場にいた構成員はすべて倒され、二人はミロスラーヴァが逃げた扉に向かう。

 

「まったく本当に逃げ足の早い女だな……おい千束、行くぞ」

「はいはい。……って、そういやたきなは……ああ、そういうこと。はぁ……本当に黒花、あんたってばさぁ……」

 

 上階を見るまでもなくすぐさま状況を理解し、呆れた様に片手で目を覆って俯きため息をつく千束。

 黒花はそんな千束に振り返ることなく水密扉のバルブを回して扉を開く。

 

「分かってるなら行くぞ。あとは、あいつら次第だ」

「はいはい。分かったよ……ったく、ごめんねたきな。頑張れマジ」

 

 こうして黒花と千束の二人はミロスラーヴァを追って通路を走っていく。

 上階で睨み合い状態になっているたきなと666を残して。

 

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