【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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35.Beast

 千束と黒花が逃走したミロスラーヴァを追ってしばらく廊下を走っていくと、再び広い空間に彼女らは出た。

 どうやらそこは船の後部に位置している格納庫らしく、機銃を積んだ四輪駆動車や非武装の輸送ヘリなどが並んでいた。天井はそれらの貨物を運び出すための開閉できる天井があり、黒花達が船に乗り込んだときに閉まっていたそれは現在開いた状態になっていていつしか雨が止みただ強い風が吹く曇り空になった音を二人に教えてくれる。

 

「うへーいいモン持ってるとは思ってたけど、コリャちょっとした軍隊じゃん。革命でもする気かいな」

「ああ、こんなに揃えるのは相当な金が必要だったろうに。まあそんだけあの研究所が金払いが良かったんだろうな」

 

 呆れた顔で格納庫を見ながら言う二人。

 だが次の瞬間、彼女らは一瞬で表情を引き締め顔を同方向に向け、それぞれ別方向に転がる。

 すると二人がいた場所にグレネードが着弾、爆発を起こす。

 

「そうだよー、これはウチが作り上げた組織の力の証、これからセンチピードが世界で儲けるための投資だったんだよ」

 

 格納庫の四方から響き渡ってくるミロスラーヴァの声。

 彼女は千束達から離れた位置にある車から手でグレネードを投げてきて、そして二人に格納庫に設置された拡声器を通して話しかけてきていたのだ。

 

「守りに入ってた腑抜けたジジババ共を掃除してこっから世界を股にかけたビッグな組織にしてやろうってとこだったのにさぁ、それをテメーらが何もかもメチャクチャにしやがって……! マジ許さん苦しんで殺してやらないと気がすまないんだよねぇ……!」

「ちょっと待ってよ!? そっちの計画メチャクチャにした主犯は黒花じゃん! 私とたきなまで巻き込まないでくれる!?」

「いやここまで押しかけといて今更それは通らないだろ……」

「そうだけど私までこんなに言われる所以はないね!」

 

 呆れた口調の黒花に対し怒りの声を上げる千束。

 

「あぁうるさいっ! なんだろうとお前らみんなムカつくから皆殺しなんだよっ!」

 

 そんな二人にミロスラーヴァは怒り心頭と言った声色で拡声器からの音が割れるほどに叫ぶ。

 すると直後、二人が見える位置にミロスラーヴァが体を出す。それは二人から見て遠くにある四輪駆動車のルーフの上であり、固定されたオートマチック式の四十ミリグレネードを毎分四十から六十発のレートで発射できるグレネードランチャー、Mk.19を握り構えた形でであった。

 

『……やば』

 

 それを見た二人は意図せず声を合わせて呟き、一気に攻撃から逃れるために走り出す。

 

「逃がすかぁっ!」

 

 ミロスラーヴァは明らかに怒りの表情を隠すことなく、まずは逃げていく黒花に砲塔を向け、引き金を引いた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 たきなが隠れている出口の水密扉で銃弾が甲高い音を立てて火花を散らせる。

 666による定期的な牽制目的の射撃であった。

 彼女はボルトアクションのレバーを引きながらじっとサイト越しに扉の隙間に照準を合わせ、鋭い眼光を輝かせる。

 

「さあどうするセカンドリコリス。そこからフロアの下に行くルートはその出口だけで迂回も不可。私の弾丸を恐れずっとそこで隠れているか、それとも破れかぶれで突破を試みて私に行動不能にされるか。どちらにせよ、お前を司令官のもとには行かせないがな」

 

 重い声で静かに言う666。

 相手の位置を完全に把握し照準にほぼブレはなく呼吸も安定している。狙撃手としては理想的な状況であった。

 ゆえに666にとってはほぼたきなを完封できている状況であり、彼女もそれを疑っていなかった。

 

「……ん?」

 

 そんなとき、扉の隙間からあるものが転がってきた。それはすぐさま煙を撒き散らし視界を隠したのだ。

 

「スモークグレネードか? だが甘い」

 

 666はスコープをサーマル仕様に切り替える。通常のサイトとサーマルスコープを切り替えられるサイトだったのだ。だが、そうすると出ている煙が高温を持っていてサーマルスコープの機能を潰しているのが分かった。

 

「……人の体温に合わせたスモークとは小賢しい。だがやはり甘いな、煙で出口から出るのを隠せたとしてもこちらに直接繋がる通路か階段へと行く通路どちらかに行くしかない。そしてどちらに出ようと私は撃ち漏らさない」

 

 666は再びスコープを通常サイトに切り替え煙の切れ目の両端の通路に意識を集中させる。

 どちらから出ても彼女は銃身をそちらに向け的確にたきなを狙撃する――はずだった。

 

「……何?」

 

 だが、煙が晴れるまで彼女はどちらの通路からも出てこなかったのだ。

 一瞬不思議に思った666だったが、すぐさま目を見開いた。煙に隠れていた出口正面の柵に、フックで引っ掛けられたロープが垂れていたのである。

 

「しまった!?」

 

 666は慌てて今まで陣取っていた通路から立ち上がって出て下のフロアに向けて銃を構えながら肉眼で見る。

 だがどこにもたきなの姿は見当たらない。

 

「バカな、いくら足が速く通路までまっすぐ走ったとしてもまだ姿ぐらいは……!」

 

 そのうろたえながらの捜索が666に取って命取りだった。

 たきなのいた出入り口と666のいた反対側の出入り口を繋ぐ通路の柵に鉤爪が引っかかる音に、露骨に反応が遅れてしまったのだ。

 

「っ!? しまっ――」

 

 とっさに666が音の方向にTPG―1を向けたとき、すでにたきなは昇降機で登りきった後であり、彼女の射撃によってTPG―1は撃ち飛ばされた。

 

「ぐっ!? クソっ!」

 

 下のフロアに落ちていく666の愛銃。仕方なく彼女はベレッタを抜いて射撃するが、その弾丸はまっすぐ走ってくるたきなから大きく外れた。

 

「やはり通常の射撃は新兵以下ですね」

 

 すばやく肉薄してきたたきなはそう言い放つと再び射撃し666の拳銃を弾き飛ばす。これによって666は武器なしの丸裸の状態になってしまった。

 

「終わりです。投降してください」

 

 たきなは銃を構えながらゆっくりと666に近づく。666は両手を上げ俯く。

 状況は完全に決していた。

 

「…………」

 

 ……はずだった。

 

 ――まずい。

 

 たきなが666の目の前まで近づいたそのとき、彼女は何故かそう思った。そして同時に、時間がゆっくりと流れる間隔に陥った。

 それは今まで積んできた経験が鳴らした警鐘、生物としての脅威を感じ取る本能、想定していない不意の出来事を察知する第六感、そして純粋に彼女が持つ生来的な戦士としての幸運、それらすべてが合わさりもたらしたものであった。

 たきなの体はそのスローになった時間の中でとっさに後方に飛び退く。

 瞬間、時間の流れが元に戻ったかと思うと、彼女は手に強烈な痛みを感じていた。

 たきなが持っていたM&Pが物凄い勢いで弾き飛ばされていたのだ。それは壁にぶつかり、そのまま反射して下のフロアに落ちていく。まるで銃撃で飛ばされたような痛みと飛び方だったが、もちろん相手は銃を持っていない。

 では何で弾かれたのか? 答えは眼前にあった。

 666の太く、しかし引き締まった足がそこに伸びていたのだ。彼女の目にも止まらぬ回し蹴りによって、銃が蹴り飛ばされたのだ。

 

「へぇ……今のを避けるなんて、さすがじゃない」

 

 足を静かに戻しながら666が言う。彼女はたきなに未だ闘志を燃やした目を見せ、すっと腕を前に上げて格闘戦の構えを取って言う。

 

「いいわセカンドリコリス。脳に刻みなさい、私という存在を。私は第三世代人工人間C―666。コードネームは“ビースト”。ブラックブーケの副官であり、これからあなたを屈服させる力の名よ」

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「ああああああっ! ほんとイカれてるってアイツ!」

 

 千束が爆音鳴り響く格納庫の中で黒焦げになりエンジン部分を炎上させている車を背にしながら怒りとひどい状況で逆に出た笑いが混ざった顔で叫ぶ。

 

「ああそうだな! 間違いなくビョーキだねアレは!」

 

 それに隣で同じような表情で叫んで返す黒花。

 二人はミロスラーヴァのグレネード弾の砲火から逃げていくうちに、こうして合流して遮蔽物に隠れていたのだ。

 

「ハハハハハハハハァ! 隠れてるだけじゃウチはやれないよぉ!?」

「うるせーっ! んなことは分かってんだっつの!」

 

 目を見開き叫びながらグレネード弾を撃ってくるミロスラーヴァに怒りを露わにする千束。

 隣の黒花も芳しくない状況に苦笑いをしながらマガジンを入れ替えている。

 

「チッ、お前と二人っきりでケリつけるためにたきなを666に足止めさせたけど失敗だったかもな。まさかあんなモンをこんな狭い場所でブッパしてくるとは」

「ほんとそれ! なんとか空気読んでこっち来てほしい感もあるけど……んーでもたきなって負けん気強いからなぁ。一度煮え湯飲まされた相手だから呼んでも決着つかない限りは来ないだろうなー現状だと」

「あーそうだな、たきなは普段はクールって感じなのにそういうめんどいとこある奴だよな。ただそれ、うちの副官もそんな感じだから困る」

「えっ、そうなの?」

 

 意外そうな顔で千束は聞く。

 それに対し黒花は引きつった笑いを見せた。

 

「ああ。なんていうかあいつ真面目ではあるんだけど同時に粘着質なんだよ。私が初対面のときの模擬戦の射撃戦で勝ったのを根に持って、今度は格闘戦で勝負しようって言い出してさぁ。んで、乗っかった結果私は床を舐めた。だからたきなにうまくしてやられたら絶対ムキになって長引く」

「へぇー……え? ちょっと待って? 黒花がやられた? 嘘? そういう例え話って事?」

 

 千束は目を丸く思わず聞き返した。さらっと言われた言葉が信じられないのが表情によく現れていた。

 彼女の言葉に対し黒花はより苦い顔になって冷や汗を頬から流す。

 

「いやマジの話。私があいつを副官に選んだ理由は真面目さが一番の理由だったんだが、もう一つの理由ににそこがあってさ。あいつは二芸を持ってるんだよ、通常の交戦距離の射撃がゴミカスなのを上回る芸をさ。一つは私に並ぶ狙撃の技術。そしてもう一つが格闘戦の技術と人並み外れたパワーのセット。そんで格闘戦に関しちゃ、何回か手合わせしたが私が勝てた事は一度もない」

「……マジかぁ」

 

 驚きが隠せないと言った千束の引きつった表情。

 黒花は彼女に見られながらも目を逸らし、頬をポリポリと指でかいた。

 爆音が響くなかで、彼女の頬を伝っていた汗が顎まで流れ、床に向かって落ちていった。

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