【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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39. After Life

 季節は移ろい、穏やかな陽気の春を迎える東京。

 各学校では着々と入学式の準備が進められ、新たに上の学校に進級する全国の小中高の生徒たちや大学へと進む学生達が浮足立っているそんな頃。

 その日も喫茶リコリコはいつも通り開店していた。

 

「いらっしゃいませー!」

 

 入店した客に元気に笑顔を向ける千束。

 客の男性はそんな千束を見て同じように笑う。

 

「やぁ千束ちゃん、今日も元気だねぇ」

「あーおじさん、少し間空けて来てその様子じゃまた大きく当てたねぇ?」

「おっ分かるかい? ふっふっふ、おじさんはしばらくお船頼りだったがやはり信じられるのはお馬さんだったんだよ……初心忘れるべからずだねぇうんうん」

「ははは……痛い目ちょくちょく見てるのに本当に懲りないねぇ……あっ、そうだ! おじさん久しぶりって事は、いい知らせあるんだよー? おーい! 黒花ーっ!」

「ん? 呼んだか? って、博徒おじさんじゃん久しぶり」

 

 千束の声に答えて店の裏から黒い着物姿で銀のポニーテールを揺らす黒花が現れたのだ。

 左の前髪にもしっかりと赤の髪留めをしていて、その姿は以前リコリコで働いていたときと変わりがない。

 彼女のその姿に、客の男はびっくりしている。

 

「えっ!? 黒花ちゃん、留学から戻ってきたのかい!?」

「へ? ああうん、まーそんなそんなとこ」

 

 一瞬虚を突かれた感じを出したが、すぐさま普段の落ち着いた様子に戻って返す黒花。

 そんな彼女に客はニッコリ笑う。

 

「いやー良かった良かった! やっぱおじさんは黒花ちゃんいてくれると元気出るんだよねぇ! こう、黒花ちゃんを見ると運気が上がるっていうかさぁ!」

「まーたテキトーな事言ってら。んなこと言ってスケベな目で見てんだろぉ?」

「そんなことないってないって! おじさんが一番興奮するのは賭けが勝ちそうになった瞬間だよぉ! おじさんは黒花ちゃんのクールな顔見たら幸せになるの! そういう客はいっぱいいるんじゃないかなぁ!」

「筋金入りだなぁ……てか、私の笑顔なんて金にならんよ」

 

 呆れた顔で笑う黒花。しかしそこにはしっかりと嬉しさが出ていた。

 

「おっ、褒められてしっかり嬉しそうじゃーん黒花。そういうとこは結構顔に出るよねー」

「なっ、そんなことは……!」

「いえ、ありますね。あからさまです」

 

 と、そこで二階席から降りながらたきなが言った。

 

「たきな!?」

「うんうん分かる。黒花ちゃんって善意でやってる事とか素直に喜んでるときとかって嘘つくの露骨にヘタクソになるよねー」

「伊藤さんまで!?」

「うん、悪巧みはうまく隠せるけどプラスの感情が絡むと駄目になるタイプっぽいな。うちにもいるんだよなーそういう若いの。だいたい昔ヤンチャしてたタイプが多いな」

「阿部さんまでぇ!?」

 

 常連客である漫画家の伊藤や刑事の阿部にまで言われて黒花は顔が引きつってしまう。

 そして、諦めたように軽くため息をつく。

 

「はぁー……分かった分かった、どうせ私はそっち方面の嘘が下手くそだよクソッ」

 

 黒花は悪態をつくように吐き捨てるが、明らかに顔を真っ赤にしてニヤけていた。

 その様子を見て黒花以上に千束が横でニヤニヤとしている。

 

「ほほほほほー……鋼の黒花さんも褒め殺しには勝てませんかー。プークスクスクス」

「てんめぇ……後で覚えてろよ……!」

 

 口元は一応笑みを作っていたがギリギリと拳を握りしめながら千束を睨む黒花。

 

『みんなーっ! 今日はこんなにたくさん私のライブに来てくれてありがとーっ!』

「ぶほへはあっ!? ゲホッ! ゲホッ……!」

 

 そんなとき、伊藤が漫画を描きながら座っているござから突如底抜けに明るい声が響いて来たかと思うと、黒花が変な声を上げてむせ出したのだ。

 

「へ!? 黒花ちゃんどしたの!?」

「い、いや! なんでも……」

 

 スマホからその音を出したらしい伊藤から心配され、黒花はぶんぶんと心配するなと手のひらを振る。そして彼女はその視線を伊藤のスマホに送る。

 

「……伊藤さん、今のって」

「ああこれ? 凄いよねーネットでの歌ってみた動画と踊ってみた動画からバズりまくって一気にお茶の間でもお馴染みの大人気アイドルになった令和のシンデレラ、六波羅六花(ろくはらりっか)ちゃん! いやー実は今度漫画でアイドルキャラ出そうと思ってさー参考にちょうどいいかなーって! にしても可愛いなぁ仕事関係なくファンになっちゃいそう!」

「あ、ああそうだな……」

 

 ニコニコと笑いながらスマホの画像を見せてくる伊藤。

 そこに映っているのはまさにアイドルと言った派手で可愛らしい衣装を着たブラックブーケの副官C―666――今は六波羅六花と呼ばれる少女が満面の笑みでファンサービスをする姿が映し出されていたのだ。

 黒花はその動画に引きつった笑いを浮かべ目を逸らす。

 

「あれ? 黒花ちゃんこの手のわりと好きじゃなかったっけ?」

「えっなんでそのこと……いや、まあそれはそうなんだけどさ……そのぉ、知り合いの知らない姿は未だ慣れないってかさ……」

「へっ!? 黒花ちゃんって六花ちゃんとお友達だったの!? じゃあインタビューの機会くれないかなー! 実際に聞きたい事が山程あって――」

「――あーはいはいっ! 個人のプライバシーに関してはこの国では尊重される大事な情報ですんでぇーっちょーっと私には無理かなーっ休憩入りまーっす!」

 

 黒花は狼狽しながらささっと店の裏に下がっていく。

 それを見て千束とたきなは声を揃えて、

 

『……逃げた』

 

 と言ったのだった。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 閉店直後の夕方。

 冬と比べると随分と明るくなった時間帯で、黒花はカウンターに座っていた。

 向かいにはミカがいて黒花にアイスカフェオレを差し出す。

 

「お疲れ様。随分と仕事の勘が戻ってきたじゃないか黒花」

「ああ、ありがと先生。これも先生がここに戻るのをどぎつい腹パン一発で許してくれたおかげだよ」

「なんだ? 恨み節か?」

 

 笑いながら言うミカに黒花は苦い顔になる。

 

「違うって。ただ死ぬだろこれって威力だったのに絶妙に私の意識がギリギリ落ちないレベルの一撃をかませる先生の手腕が凄くて忘れられないだけ。後遺症も残らなかったしどんだけ人殴ってたらあんなパンチ出せるんだよ。前日食べた猛虎ラーメンはしっかり全部戻したけど」

「秘密だ。それにあれはお前だから出せたのもある。家族相手なら加減もより理解しているからな」

「……そっか」

 

 黒花はミカの言葉にほのかに嬉しそうになる。

 彼女のその様子にミカもまた静かに笑った。

 それに気づいた黒花は慌てて照れ隠しで「んんっ!」と赤い顔で咳払いをする。

 

「し、しかし六花のライブの音が聞こえてきたときは不意打ちで焦った……おかげで伊藤さんにはしばらくインタビューさせてと泣きつかれそうだ」

「あんたねーいい加減慣れなさいよ。自分とこの副官なんでしょー?」

 

 いつしか横に座っていたミズキが顔を手で支えながらだるそうに言う。

 対して黒花はそんなミズキからは反対方向に目を泳がせだらりと一筋の汗を流す。

 

「いやでもまさかあんな方向にハジけるとは思ってなくてさ……音楽に興味持ったところまでは『うーんそれっぽいなぁ』って感じだったんだけど……人間って知らない面が盛りだくさんなんだなぁって……」

「ふふっ、それもボクと623……いや、今は六海(むつみ)チユリだったか。前の名前はハンドルネームとして使い続けてるからどうもそっちは馴染が薄くてな……まあともかく二人で作った戸籍生成システムのおかげだな。感謝してくれ」

 

 ふらりと背後に現れたクルミが腕を組んで偉ぶっているしたり顔で言ってくる。

 そんな彼女に黒花は苦笑した。

 

「もちろんだよ。そこに関してはお前らには頭が上がらないさ。てか今でもネットでやり取りしてるんだなお前ら。随分仲良くなったもんだ」

「もちろんだ、あいつは色々分かってるやつだからな。毎日ダークウェブでやり取りしてる。表じゃ美少女カリスマインフルエンサーなんてやってるやつが実はどす黒いハッカーなんて誰も信じないだろう」

「それ言ったら六花が一番そうだろ……あんな今どき珍しいぐらいにスピードバカ売れしたアイドルが国の秘密組織の下請けやってる暴力装置の一人なんて誰も思わんて」

 

 黒花はそう言いながらカフェオレをすすりスマホを見てあるアプリを起動する。

 そこにはそれぞれ新しい名前を与えられたブラックブーケのメンバーが今どの仕事を請け負って動いているかが一目で分かる表があった。

 その名簿は元のナンバーと共に今の名前が表記されており、黒花はスライドしていく中で『C―716 鳥弐亭(とりにてい)七色(ないろ)』と書かれている部分で指を止める。

 

「七色は相変わらず爆弾処理かぁそっち方面で引っ張りだこだなあいつ。てか、なんであいつの名前こんな珍妙っていうか落語家とかそんな感じのノリなんだ……どういうシステムでつけられたんだよこの名前」

「ああそれはチユリがあいつはそういうの好きだろうからって手ずから」

「うーん……まあとりわけ仲いいやつが決めて本人に文句ないならそうなんだろうが……」

 

 イマイチ釈然としていない感じを出しつつも黒花はスライドを続ける。

 それぞれ仕事をしているもの、今はしていないものと様々いて現状欠員も出ていないようだった。

 黒花はそれを確認するとアプリを落としスマホをテーブルに置く。

 カップもいつしか空になっていた。

 

「先生、もう一杯いい?」

「ああいいだろう。しかし、千束が言う通り本当に変わったなお前は」

「そうか?」

「ああ。そうやって部下の安否を毎日気にしているなんて、一度死ぬ前では絶対考えられなかった姿だ」

「……まあね」

 

 お互いそこで言葉を止め、そっと微笑む。ミカも黒花もそれが千束の影響があるのは理解しており、言葉にしなくても通じ合っていた。

 そんな二人の様子を見てミズキが呆れたように笑って言う。

 

「でもさー、結局DAの使いっ走りであるリコリスのさらに使いっ走りみたいな位置にいるじゃんあんたら。それで不満とかないわけ、社長さん?」

 

 ミズキの言う通り、今のブラックブーケは立場としてはDAから仕事を回される外部の民間軍事会社という体裁を取っていた。それはあくまで名前だけのモノであるが、仮にも契約として関係を結ぶならPMCというのが都合が良く今の黒花はその社長を兼任するファーストリコリスというポジションに就いていた。

 

「そうだね、まあ正直いつ切り捨てられて廃棄処分だとか言われてもおかしくない。それこそリコリスとリリベルの人員が完全に補充されてラジアータも過去以上にスペックを上げて稼働ってなったなら、いつクビを切られても文句は言えないだろうさ」

 

 黒花はそこでミカから新しいカフェオレを渡される。それを気だるい視線を送るミズキの前で軽く飲んでカップを置くと、黒花は彼女に言う。

 

「でもま、そうなる確率も今は低いんじゃないかな。少なくとも上が楠木さんのうちは、暴動起きるリスクを冒してまでそんな選択はせんさ。あの人はそういうリアリストだもの」

 

 悪い笑みで言う黒花に「ふーん」と言いながらコップに入った酒を飲み始めるミズキ。

 その姿に後ろでクルミが侮蔑したような目で見ていたがミズキはものともしていなかった。

 と、そのときテーブルに置いていた黒花のスマホがポップな曲調の着信音と共に震える。

 着信画面には「千束」と表示されていた。

 黒花はすっとスマホを取り出る。

 

「はーい、こちらハイパー美少女の黒花ちゃん。……え? あーそりゃめんどいな、分かった。すぐ準備して行くから待ってろ。んじゃ」

 

 黒花は通話を終えると素早く立ち上がり更衣室で着替えるために裏に回っていこうとする。

 

「千束からってことは、仕事か?」

「ああ、なんか事前情報より大分めんどくさい感じらしくて。やっぱラジアータの機能が制限されてるとしんどいねこういうとき」

「壊したのお前だろ」

「ははっ、違いない」

 

 クルミのツッコミを軽く笑って流すと彼女はそのまま更衣室に入っていく。

 するとそこに入れ違いで既に着替えていたたきながカウンターに現れた。

 

「黒花が急いで更衣室に向かって言ってたんですけど何かあったんですか?」

「ああ、千束からヘルプが入った」

「ふむ、なるほど。それは急ぐわけです」

 

 たきなは納得しながらカウンター席に座る。そんな彼女にミズキが悪戯な顔でぐいと席を一つ移って近づく。

 

「おやー? たきなちゃんは自分より黒花ちゃんが求められて嫉妬とかしちゃわないのかなー?」

「しませんよ。黒花が呼ばれたってことは本当に面倒くさい状況なんでしょうし。それに留守を預かるという点において私は黒花以上に能力を信用されてますから」

 

 さっくりと言い放つたきな。そしてその言葉の後に彼女は柔らかく微笑む。

 

「それに、まあしばらくは彼女に花を持たせてあげましょう。久々の復帰ですし、なんならあの二人ってずっと別々で仕事やってたわけですからね。店長、一杯お願いします」

「ああ了解」

「おー大人だなーたきなの癖に」

 

 いつの間にかござに座っていたクルミが言うと、たきなはキッとそちらを睨む。

 

「癖にってなんですか癖にって。黒花だけじゃなくみんなの私に対する認識を一度しっかり問い詰めたほうがよさそうですねやはり」

「やべっ、やぶ蛇だったか」

 

 まずいという風に顔を歪めるクルミに苦笑するミカとミズキ。

 すると、そこでリコリスの制服を着た黒花が出てくる。ただ他のリコリスの制服とは違い、色が紫であった。ブラックブーケの所属を証明する特別仕様のカラーでありマーダーライセンスである。

 

「じゃ、行ってくる。たきな後はよろしく」

「はい、ではせいぜい子守頑張ってください」

 

 しゅっと指を伸ばし振って走っていった黒花に軽くひらひら手を振って答えたたきな。

 テーブルには飲みかけのカフェオレが入ったコップが置かれたままになっていた。

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

 街の中にある大きめの建設途中の工事現場。その全体を見渡せる鉄骨の上に千束は足をプラプラさせながら座っていた。

 その横に下から上がってきた黒花が現れ流れるように座る。

 

「で、なんか相手がリッチらしいけどどんな状況?」

「んー見てもらった方が早いかな」

 

 挨拶もせずに千束は黒花にデジタル双眼鏡を渡す。

 黒花はそれを使ってこれから戦う集団がいる工事現場の中央をズームする。

 

「えーと、人数は十九人で、装備はだいたいがアバカンと腰から下げたグレネード二つ、何人かがRPKに……うわっ、嘘だろヴァンピール背負ってるやつが三人ぐらいいるぞ……妙に統制も取れてるっぽいしこれどっかの正規軍がチンピラの振りしてるまでないか……?」

「ねー、厄介でしょ? さすがにアレは一人で倒せたとしてもごまかすのしんどい被害出そうでさぁー。かぁーっどこのやつらだか知らないけど戦争でも始める気かよぉー……」

「ああ、私呼んで正解だなコレ。てかできるならもっと頭数も欲しいが……つってもまあ距離的に難しそうだしなぁ。このややこしそうな状況ならよりたきなは不測の事態に向けて留守番しておいて欲しいし。でもせめてビーストは呼べれば良かったんだけどなぁ」

 

 仕事現場においてブラックブーケのメンバーはコードネームで呼び合う決まりになっている。傍受など万が一の事を考え素性を隠すための措置である。

 

「いやいや、今のあの子の仕事状況考えるとこのタイミングでオファーは出せないって」

「まあなぁ……気持ちは分かる。仕方ない、二人でやるか。確かあと十分ぐらいであいつらのボスらしい車がこっち来るんだよな。で、それをふん縛ると」

「そうそう。それまではまあちょっとだけど待機だね」

「おっけ」

 

 そんな風に段取りを確認すると黒花は双眼鏡を千束に返し彼女もそれをしまう。二人はそれからしばらく鉄骨に座りながら状況を肉眼で観察していた。

 黒花はそんな中で自然とタバコを取り出して吸い始めた。距離もありかつ高所にいるため気づかれることはないと踏んでの事であり、実際敵の集団は黒花達の方を向く素振りすらなかった。

 

「……あのさ、それ、またつけてくれてるね」

 

 落ち着いた空気が流れていた中で、不意に千束が黒花の方に視線を向けて言ってきた。

 

「え? ああ、髪留めの事か。今更だなぁその話題」

「いやだってタイミングがさぁ」

「んまー確かに戻ってからまあまあドタバタしてたからなぁ。でもまあ、当たり前だよ。お前が家族の証ってくれたプレゼントなんだし。駄目になっても使い続けるよ私は」

「えぇーそれはキモい……」

「ちょ、ひどくないかそれは!?」

「ははっ、嘘だよ。本当は凄く嬉しい」

 

 千束はニカっと笑顔を向ける。黒花はそれを見て彼女もまた静かに笑う。

 

「そうか、ならよかった。ってか、私の方だって驚いたよ。まさかまだちゃんと持っててくれたなんてね。どうせ捨てられてるもんかと」

「むっ、それこそひどいんですけどぉ?」

 

 黒花の言葉に千束は頬を膨らませ腕を組んだ。

 

「あんな死に際に告白されて遺品捨てられるような薄情な人間じゃありません。本当そういうとこは鈍いねぇー」

「わ、悪かったよ……というかその、告白って言われると、ちょっと気恥ずかしいね……」

 

 黒花は困ったように顔を赤くし視線を逸らした。

 千束はそんな黒花にいやらしい視線を向ける。

 

「やっぱ黒花さんはこういうことはヘタレで乙女ですなぁー、私を殺そうとしたときの隠し事はあんなにうまくやってたのにねぇー。下手だねぇー下手っぴ下手っぴ。プラスの感情の隠し事が超絶下手っぴ」

「ぐ、昼の事を掘り返しおって……まあでもほらさ、やっぱり恥ずかしいもんは恥ずかしいよ。ただでさえ私達は女の子同士でさ、そういうのは面と向かって言いづらい部分はやっぱあるわけだし……」

「でも、私はしっかりと答えたよ。黒花の事、愛してるって」

 

 千束がはっきりとした声で言った。その表情は、いつしか真面目なものになっていた。

 黒花もそれに応えるように真面目な顔になって、タバコを口から離して指に挟んだ状態で答える。

 

「……そうだね。なのに私が逃げてるっぽいのは、さすがに格好悪いか。ああ、そうだ……改めて言うよ。千束、私はお前の事を愛している。一人の女として、もちろん家族としても。私にはまだ課題が山積みだ。人を殺して生きた心地を感じるのは変わってないし、今いる足場だっていつ崩れるかも分からない。人殺しの末路なんてろくなもんじゃないしね。けど、それでも最期までお前と一緒にいるために、足掻くよ、私は」

「……うん、ありがとう。黒花」

 

 意を決し、しかし落ち着いた口調で言った黒花に千束は笑って答える。そして千束は懐からタバコを取り出し、指で挟んだまま加えてその先を黒花の方に向けた。

 

「…………」

 

 黒花もまた、再び口に戻したタバコを指で挟みながら火のついた先端を千束の方に向け、そして千束の火のついていないタバコの先につける。

 そこで千束は息を吸い、自分のタバコに黒花の火で火をつけた。

 彼女らはそこでタバコの先を離し、それぞれタバコを吸う。

 吸い込み、縮めて、紫煙を吐く。

 ゆっくりと流れていく二人だけの時間。だが、それもすぐさま終わりを告げる。

 工事現場には不釣り合いの黒塗りの車が目の前で停車したのだ。

 そこから明らかに身なりの良いスーツの男が降りてくるのを二人は確認した。

 黒花と千束はそこでそれぞれタバコを投げ捨てすっと鉄骨の上で立ち上がり、銃を抜く。

 

「よし、じゃあ仕事と行くか。あいつは生け捕り、あとはそれぞれ好きにって事で」

「オッケー。あ、でもこっちがダウンしたのを追い打ちで殺すとかはいつも通りナシね。ルールはちゃんと守る事」

「分かってるよ。一度もそれ破った事ないだろ?」

「そりゃそうだけど、確認大事だし」

「まあ、その心がけは大事か。じゃ、おしゃべりはここらへんにして――」

「うん、じゃあ――」

 

 そうして二人は近くの鉄骨や建設中の足場を飛び降りていき、敵集団に気づかれる前に先制射撃を浴びせる。

 動揺する敵集団、だが二人は生き生きとした顔で自然と声を合わせて言った。

 

『仕事と行こうか!』

 

 

 

 

 




 これにて第二部完結となります。
 とりあえずこれでステータスは完結としておきますが、まだいくつか日常方面の外伝を不定期に投げたい気持ちもあるので完結状態でも何回か更新はあると思います。
 それと未だ全容が見えぬ新作アニメーションの中身などによっては第三部が生えてくる可能性もあるのでそのときはまたお付き合い下さい。なんなら関係なく生えてくるかも。
 終わりに、今回も最後までお付き合いくださった方々ありがとうございました。
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