【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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4.Murder

「教えろ、薬の密輸取引の場所は?」

 

 夜、都内にあるとある暴力団の事務所。

 そこで黒花はパソコンの乗った机の前にある黒い椅子に座りながら黒スーツの男の額に銃を当て言った。

 

「……はぁ……はぁ……お前、一体……」

 

 男は両太ももに穴が空いており、そこから多量の出血をしている。

 明らかに銃弾で撃ち抜かれた跡だった。

 

「聞いているのはこっちだ。薬の取引場所は?」

 

 銃を押し付け言う黒花。

 彼女と男の周りには、大量の死体が転がっていた。

 死体はみな男と同じく黒いスーツを着込んでいる。

 男は黒花を、そして散らばっている死体を一瞥して口を開く。

 

「……湾岸倉庫地区のA153番倉庫だ。取引はそこで行われる」

「……そうか」

「なあ、これで助けてくれ――」

 

 男が言い切る前に、パァン! と乾いた音が鳴った。

 それとほぼ同時に、男は頭から血を拭き上げながら床に倒れた。

 

「……ああ、本部か? 取引場所は湾岸倉庫地区のA153番倉庫だ。そこに動員を頼む」

 

 黒花は返り血に濡れた顔で銃をしまいながら電話をする。

 そんな彼女の目線の先には、パソコンの画面が光っており、そこにはこう書かれたメモが残されていた。

 

『取引、湾岸倉庫A153』

 

 と。

 

「ああ、大丈夫だ。裏も取った。そこで間違いないはずだ」

『……そうか、ご苦労』

 

 電話越しに聞こえてくるのは司令の楠木の声だ。

 彼女は黒花にそう言った後、一呼吸置き聞く。

 

『……殺したのか?』

「ん? ああ、殺したよ。全員な。事後処理はそっちの方で頼むよ」

『まったく……あまり殺しすぎるな。後からの隠蔽が難しくなる』

「そうは言っても、それを分かって俺を送り込んだんだろう? 殺したくなかったら、不殺の千束を使えば良い話だからな」

『モノには限度というものがある。お前は千束とは反対に殺しすぎる』

「お説教はまた今度にしてくれ。とりあえず、俺は帰投する。じゃ、また後で」

 

 黒花は一方的に電話を切ると、懐に電話と銃をしまい椅子から立ち上がる。

 

「ん?」

 

 そして事務所を後にしようとしたそのとき、黒花は先程射殺した男の懐からあるものがはみ出ているのを見つけた。

 それは、タバコだった。

 

「おっ、いいじゃないか」

 

 黒花はニヤリと笑うと、そのタバコとついでにライターを拝借する。

 さらに黒花は他の死体もまさぐり、同じようにタバコを持っていた死体からタバコをかすめる。

 

「この体になってからタバコを吸えてなかったが、こりゃいい。これからは持ってそうなやつからいただくとするか」

 

 そう言いながら黒花はタバコを一本ケースから抜き、咥えて火をつける。そうしてタバコを吹かしながら彼女は血溜まりを物ともせずに事務所を今度こそ後にするのだった。

 

 

「司令も話が長い……」

 

 DAに帰った黒花は用意された自室に戻ると、そう言いながらベッドに腰を下ろす。

 同室のリコリスは既に二段ベッドの上で眠っていた。

 

「殺しすぎるな、か。それは俺には無理な相談だ」

 

 黒花はそう言いながら銃を取り出し眺める。

 彼女にアラン機関から与えられたM1911を、最低限の灯りにしてある天井にかざす。

 黒く無骨なシルエットが、彼女の顔に影を落とす。

 

「俺にできるのは殺しだけだ。殺ししか、俺の生きる道はない。そして殺すことで、俺は俺が生きている事を実感する。そんな俺に殺すのを止めろ、だと? 無理な話だね、それは」

 

 彼女は自分がまだ男だった頃の事を思い出す。

 まだ彼女が彼だったとき、彼は何も才能がないと言われてきた。

 家族の中では他の兄弟と常に比べられ、「どうしてお前は」と言われ続けてきた。

 それは学校でも同じだった。

 だが、あるとき彼は家に侵入してきた強盗を幼い身で返り討ちにした。

 そのとき、彼は気付いたのだ。自分には、殺しの才能がある、と。

 それから彼は殺しの道にどっぷりと浸かっていった。

 邪魔になるものは家族でも容赦なく殺した。一人になっても、支援してくれる存在がいたからだ。それがアラン機関だった。どこからかアラン機関は彼の殺しの才能を見出し、支援を始めたのだ。

 そんな彼の殺しは鮮やかかつ手際が良く、誰も彼を止められなかった。

 やがて彼は殺しの中で自分の生を見出すようになり、それを仕事にし始めた。

 生きることを実感するために、また食い扶持を稼ぎ生きるために人を殺め続けた。

 そうした彼が殺し屋の世界で名を轟かせたのは、まだ二十歳にもならない頃だった。

 彼はそうして十数年も殺しを続け、やがて果て、そして彼女になる今に至る。

 黒花はそんな自分のかつての生涯を思い出し、また笑った。

 

「誰も俺の殺しを止められないし、止めさせはしない。でも、千束……錦木千束。あの娘は、違う。面白い」

 

 そこまで言うと、黒花は銃を掲げ眺めるのを止める。

 

「千束……お前なら、あるいは……」

 

 そして黒花は枕下に銃をしまい、床につく。

 

「まぁ、まだその時じゃないか……」

 

 そんな事をつぶやきながら。

 

 

「電波塔がジャックされた。これは至急に解決しなければならない事案だ」

 

 その数日後である。街のシンボルでもあった電波塔がテロリストにジャックされたのは。

 

「今回の件は一大事だが、迅速かつ隠密に処理しなければならない。故にファーストリコリス一人を中心に当たってもらう。千束、お前が行け」

「はい」

 

 集められたリコリスの中から、千束が一歩前に出て答える。

 いつもの明るい態度とは打って変わって、真面目な表情だ。

 

「他のリコリスは千束をバックアップしろ。……黒花、お前は千束に万が一があった際に備えてお前も侵入の準備をしておけ」

「了解」

 

 黒花もまた一歩前に出る。千束と違って軽く笑みを浮かべながら。

 こうして、後に「電波塔事件」と呼ばれる一大事件が始まろうとしていた。

 

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