【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
東京でもとりわけ名だたる街である新宿。
街から人がいなくなる日はなく、休日の駅前ともなればそれは尚更であった。
そんな雑踏に満ちた新宿駅前に、千束とたきなはいた。二人共それぞれリコリスの制服を着ている。
「んへーやっぱ日曜の昼だと電車の混み具合やばかったねぇ」
「まあそうは言っても二十分ぐらいでリコリコからすぐですし。……ミズキが車に乗せてくれたら少なくとも快適さはあったんでしょうが」
「しょうがないよー。『こんな休日に新宿になんか車出せるか!』って言われてお酒飲まれたらどうしようもないって……」
「はあ……まったく……」
苦笑する千束と呆れるたきな。
彼女らはそんなことを言いながらも新宿駅東口駅前から離れていこうとする。
「あっれー? ちーちゃんにタッキーじゃーん! ぐうぜーん!」
と、そんなとき彼女らの背後から耳にキーンと響くほどに明るい声が聞こえてきたのだ。
その声に、千束は少し驚いた様子で、たきなは明らかに渋い顔で振り返った。
「おっ、そういうそっちはチユリに
そこはサイドが長いブロンドミディアムでアンバーの目を持つ陽気な笑顔の六海チユリとスカイブルーのストレートロングの髪で紫の片目を隠した陰気な顔の
二人はリコリスの仕事を下請けするPMC『ブラックブーケ』の所属を表す紫色のリコリス制服ではなく私服を着ていた。
チユリは綺麗な体のラインが出る白色の長袖ハイネックに薄黄色の軽めのアウター、茶色のセンタープレスパンツに黒のヒールとファッションを意識したような服装。
七色は黒の帽子にダボダボと大きめの緑色のスウェット、紺色のジャージのズボン、白いランニングシューズと逆に服に無頓着なのを感じる服装である。
「タッキーって……私そのあだ名で呼ぶのを許した覚えはないんですが」
たきなは嫌そうなのがよく伝わってくる顔で言う。
だが、チユリはあっけらかんと笑って言った。
「えー? 別にいいじゃーん。アタシは気にしてないしさー」
「本人の私が気にしてるんですが?」
「そんな細かいこと気にする必要ないってー」
「なるほど馬鹿にしてるんですね? 分かりました人の少ないところに行きましょう分からせてあげます」
「まあまあ……お、落ち着いて……チユリの相手正面からしてたらきりがないから……」
イラつきを隠せないたきなに七色が少し小さい声量で言う。
彼女の言葉にたきなは「……はぁ、そうですね」と両手を腰に当て大きくため息を吐いてから言った。なんとかクールダウンしたらしい。
「ところで二人は私服ってことはオフ?」
千束がそこで話題を変えるように聞く。彼女の言葉にチユリが笑って頷く。
「そーそー。今んところアタシ達に“仕事”入ってないからこうして遊びに来てるのよ。まあこうやって外歩くのも今のアタシには必要な事だしねー」
「ああーそうだもんね今のチユリってそういうの大事そうだもんねー」
「ん? どういう事です? 話が見えないんですが」
千束とチユリの言葉に首を傾げるたきな。
彼女の様子を見てチユリが大げさに驚いた顔を見せる。
「えぇーっ!? タッキーってば今アタシが何やってるか知らないのー!? ショックーお友達だと思ってたのにー!」
「絶対思ってないですよねソレ。さすがに分かってきましたよもう」
「あーまあしょうがないよたきなはそっち方面全然興味ないし……ほらこれこれ」
そこで千束がスマホを取り出し画面を見せる。スマホに写っているのはとある画像主体のSNSの画面であり、そこには今着ているものとは違うトレンドのファッションをしたチユリが「今日のコーデ!」という一文と共に自撮りで画像を投稿しているアカウントが映っていた。
「これは……」
たきなはまじまじとその画面を見る。その投稿についているいいねとコメントが尋常じゃない数なのはたきなにも分かった。
「ね? 凄いでしょ? 今のチユリっていわゆるカリスマインフルエンサーってやつなんだよね。テレビでもちょくちょく紹介されてるんだよ?」
「まーねー。ちょっとアタシのセンスの良さが世間にバレちゃってさー。ま、これも才あるものの宿命、ってやつかな?」
ニヤニヤと笑いながら言うチユリ。
だがたきなはジトっとした目を彼女に向けた。
「……なるほど。まあそこらへんの人気は私には全然分かりませんけどね。なんならこの投稿で着てる服もそんな魅力的に感じませんし」
「おうおうたきなさん言うねぇ……」
千束が苦笑しながら言う。
一方でチユリはそれまでとは違う感心したような静かな笑いを見せ「へぇ」と小声で言った。本当に小さな声だったために雑踏にかき消され千束とたきなには届いていない。
「ふふっ、まあ人のセンスなんてそれぞれだしいいと思うよそれでー!」
そんな顔をしたのはあくまで一瞬だけであり、チユリはまたニンマリと笑って明るい声で言った。
「それより、二人共リコリスの制服って事は仕事なんでしょ? 話せて楽しかったけどもう行った方がいいんじゃない?」
「あっ、そうだったそうだった! よしじゃあ行こうかたきな! さっさと片付けて店戻んないとね!」
「そうですね。それでは二人共。また今度」
「うん! こっちこそ引き止めちゃってごめんね! また店行くから今度は黒花とかと一緒に話そうねー!」
現場に向かっていく千束とたきなにぶんぶんと手を振るチユリ。それに笑って軽く手を振って返す千束に特に返さず視線だけ向けてまた正面を向くたきな。
そして、横にいる七色はそれぞれをチラ見しながらも手元でスマホをいじっているのだった。
◇◆◇◆◇
「はー……アホくさ」
千束とたきなの二人と分かれて小一時間程した後。
チユリはとあるコーヒーチェーン店の一角でテーブルに肘をつき頬杖しながら言った。
彼女の顔には嘲笑が満ちている。
そして、その前では七色がチユリの態度に無関心と言った様子で一番大きいサイズのフラペチーノを飲んでいる。
「どいつもこいつもさー、アタシにあれ着てこれ使ってとか、欲丸出しで近寄ってくるのマジウケる。今そういうのバレたら怒られるってんのによく表向き一般人相手のアタシにそんなムーブ取れるねどこもかしこも」
「……でも、それが見たくてやってるんでしょ……インフルエンサー……」
「まーね」
チユリは七色の言葉に悪くニヤリと笑って見せる。対して七色に対しまともに視線は向けていない。
「アタシはそういう人間のバカらしさで笑いたくてアカウント作って嘘の数字盛った訳だからね。にしてもここまで当たるとか、分かってはいたけどみんな数字に弱すぎ。数字は嘘つかないなんてマジで信じてるんかね? 人間が作ったもんだからいくらでも嘘があるだろうにさ」
チユリはスマホで自分のSNSアカウントの画面をスライドさせていく。
そこにはチユリの事を絶賛するコメントが並んでいて、彼女はそれを見てさらに侮蔑するように「はっ」と笑った。
「世の中画面に出てるデータしか信じない脳みそツルツルなバカばっか。そんなんだからアタシが作ったマルウェアアプリがバカみたいにダウンロードされるわな」
「……ああ、そういや、別名義で作ってたね……ナビアプリかなんか……」
七色は尚もチユリに顔を向けず言う。フラペチーノは既に半分がなくなっていて、今彼女は一緒に頼んだ小さなドーナツを口にし始めていた。
「そうそう。他のナビアプリよりも高精度でかつUIが使いやすくてしかも基本無料の範囲が広いやつね。でもその正体は使ってる奴らの情報をぶっこ抜きするためのマルウェア。おかげで今の私の手元にはちょっとしたビッグデータが揃ってる。マジ笑える」
「……ほんとチユリって性格悪いし……人間嫌いだよね。それ……たまに表に出しちゃうせいで、たきなとかには薄々感づかれてるよ」
「当たり前でしょ。アタシ達の出自考えたら人間相手に好意なんてないほうが当たり前に決まってるじゃん」
チユリの表情からその瞬間笑顔が消える。
七色もまた、彼女の言葉に眉を動かし、やっとチユリに目線を向ける。
「世界中の自己中心極まったような金持ちに富士みたいな倫理観ゼロの科学者共、人の命イコール食い扶持にしか考えてない兵隊が欲しい政治家共……そんな汚いモンばっか見てきたんだからさ」
「……さすが六百番台の初期ロット。言う事の……含蓄が違うね……」
再びフラペチーノを口にしながら言う七色。
彼女の言い方に多少のトゲを感じたチユリは眉毛をピクリと動かしながらも口角を上げる。
「まあね。そこで言ったら七色は七百番台、うちのファイアチームで見たら一番若いからね。そりゃ見てきたもんも違うよねー」
「そうだよ……私は、七百番台……六百番台の、チユリや六花そして百番台唯一の生き残りなペリカン1とは、経験の差があるのは当然……でもさ……」
と、そこで七色はフラペチーノの飲み干し、カップをテーブルに置いて言った。
「それを加味しても……チユリは、とりわけ嫌いだよね……世の中」
「……否定はしないよ」
七色の言葉を受けたチユリは自嘲気味に笑い軽く俯いて言う。その視線の先には七色とは別種のフラペチーノが入っていたカップがあり、既に空になっていたそれの中でストローを回す。
「アタシにとってはさ、命って本当に軽いもんなんだよ。アタシ達六百番台、それ以前の五百番台や四百番台はゴミのように消費されていったし、一方でアタシ達が引き金に指をかければまともな人生を送ってきたやつらも一瞬でただのモノになっていった」
「……銃は人を殺すために、進化してきたからね……あっけなく死ぬのは当たり前……」
「分かってるよそんなこと。でもさ、にしたって人間って弱いじゃん。みんな等しく一瞬で無になる。それなのに大事にされる命に差がある。優先順位がある。なんなら人間の命より犬猫の命の方が重い事なんて常識にもなってる。そこ考えると、マジでアホくさい」
チユリの口元は依然笑っていたが、その視線は厳しい。
目の色にはある種の絶望の色すら混ざっていた。
「だからアタシは遊ぶんだよ。生まれたときから価値があった連中が生まれたときから価値がなかった私を崇めてるアホアホな姿を見たいの。お前らが尊敬してる女は、お前らが踏みつけるアリ以下の存在だって知ってるとマジ草不可避。バカ丸出しで最高だよ」
邪悪とも言える口元の歪め方をして笑うチユリ。
だが、対して対面に座る七色の顔は変わらず落ち着いている。
そんな七色は残り少なかったドーナツを口にし、咀嚼し飲み込むと一言言った。
「…………繊細拗らせててキモ」
彼女の言葉にチユリは一瞬目を丸くする。だが、すぐさままたわざとらしい笑顔になる。
「……へぇ、言うじゃん」
「いやだってそうでしょ……命の価値なんて、みんな等しく同じだよ……踏みつけられる草木も、左うちわで生きてる金持ちもみんな一緒……死ねばゴミ……そこで勝手に価値の差感じてマウント取ったり拗らせてアレコレやってるの……負け犬根性って感じ……」
「ま、負け……!?」
さすがの言葉にチユリの眉がピクピクとひくつく。
一方でやはり七色の表情は動かない。
「でも、同時に命ってしぶといんだよね……さっき銃の話をしたけど、つまりはそこまで鍛え上げないと人間って簡単には死なないし……なんなら撃っても場合によっちゃ普通に生き残る……だから私、爆弾好きなんだよね……絶対に殺すっていうパワーがあるから……」
「……でも、アタシ達の能力ってさ」
「うん、生まれつきデザインされたもの……とは言え、そこから個人の感情で好きになるのは、また別の話……それを私達は、教えてもらったんじゃない……黒花から……」
「……ま、そうだね」
黒花の名前が出たとき、チユリの笑顔が少し温和なものに変わる。
それまで無表情だった七色もまた、かすかにだが笑いを作っていた。
「そこらへんに関しちゃ、マジで感謝してるよ黒花には。その結果あの六花でさえアイドルにまでなるぐらいなんだし凄いよね。まあお膳立てしたのはアタシ達だけど」
「うん……あの堅物な六花がバリバリ可愛いアイドルやってる側で……こっちは恥ずかしい動画とか画像持ってるから、いつでもオモチャにできる……楽しい……」
「うんうん、すげーからかいがいあるよねー、よく毎度のことあんな新鮮なリアクション取れるなってなれるよ。才能だよアレ」
そこで二人は笑い合う。人を小馬鹿にした笑いだったが、とりわけチユリには先程までの辛さはなさそうだった。
「……はぁ、ごめんごめん! なんか下手に感情出ちゃったね。アタシらしくなかったわ」
と、そこでチユリは仕切り直すようにニッコリ笑って声高に言った。
両手は頭の後ろに回り座っている椅子の背もたれに体重を預ける体勢を取っていた。
「別に……チユリがそういう繊細で面倒臭いメンヘラ女なの、よく知ってるから……ご機嫌取りなんて……慣れっこ……」
「ふぅん言うじゃん。根暗爆弾魔で社会に馴染めてない不適合者の癖に。対外的にはアタシの方がずっと立派なんだよねー、そこんとこどう思いますヒキニートさん?」
「余裕ある生活あれば……むしろ働く必要なんてないし……日銭欲しさに汗水流すなんて……貧乏な下級国民がやってればいいから……」
「うーわマジでカス極まった発言。本当に性格ゴミだね七色は」
「……ゴミクズなのはチユリもでしょ……お互い様……」
「ははっ、だねぇ。そこに関しては言い逃れできないや」
「うん、まったくもってそう……ま、反省する気は毛頭ないけど……」
カラカラと笑い合う二人。人が聞いたらとんでもない会話だが、二人にとっては間違いなく楽しく落ち着いた空気が流れていた。
と、そんなときである。
七色のスマホから着信音が流れてきたのだ。その音を聞いた瞬間、七色は「……はぁ」と大きくため息をついた。
「……はい。うん……分かった……じゃあ情報いつもの通りにお願い……ああそれと……空気読んでよねまったく」
七色はそう言って通話を切ると、少しスマホを操作する。そして直後、チユリのスマホに通知音が鳴る。
チユリはすでに口を歪めた顔になっていた。
「……と言うわけで、私達セット指名で……やりたくもない……仕事が来た……」
七色のスマホの着信履歴には『平等院黒花』の文字が表示されていた。
ブラックブーケとしての、彼女らの“本業”が始まった。
◇◆◇◆◇
――深夜。都内地下。
まるで蟻の巣が如く至る所に穴が伸びる東京の地下には、表の人間が知らない場所が多く存在する。
今二人がいるのも、そんな知られていない通路、知られていない空間の一つであった。
彼女らは心もとない電灯が輝く通路の端、曲がり角の壁裏で紫色のリコリス制服を着た姿でしゃがんでいた。
「はぁ……ほんと唐突に仕事入るのめんどいよねー。ここらへんもっとシフト制とかになってくんないかなー。あと、普通にアサルトライフル持ちたーい」
チユリが口を尖らせながら愚痴をこぼす。
対して横にいる七色は相変わらず表情が乏しい。
「そこはまあ黒花に期待するのは無理だと思う……あの人にそういう細やかな経営……できるわけない……」
「まーそれもそうかー、あー誰か運営スキル開花させてくんないかなー」
「それと……カバンに隠せるサイズなら好きな銃は持ってけてるから……我慢するしかない……というか、そんなデカい銃持ってきてなお不安なのはわがまま……」
七色はチユリの手元を見る。そこに保たれていたのは五〇口径弾を撃つ事のできる大型拳銃の代名詞、デザートイーグルであった。
「でもさーやっぱあくまでサイドアームだけが基本って手元が寂しいって言うかさー。弘法筆は選ばずなんて言ってるけどむしろプロは選ぶんだよなーってさぁ」
「まあ、分かるけど……私もいろいろ持てるなら、持ちたい……」
七色はそう言って自分の手元の銃を見る。彼女が持っていたのはマイクロウージー、ハンドガンレベルにコンパクトなサイズのサブマシンガンである。
「んま、持てる手札でやるしかないか。それでターゲットはこの先だっけ」
「うん……あの部屋」
二人は壁際から通路を覗き込む。その先には通路の途中に汚れた白い扉があり、小さなライトで照らされている。
「本来は、緊急用の秘密通路のここを、テロリストが見つけて拠点にした……それで、爆弾を組み立ててこれから持ち出そうとしてるとか……」
「迂闊だなぁーDAも。前のラジアータは事前に犯行を察知できたらしいけど、今なおこうしたギリギリの段階だからアタシ達が駆り出されてるんだよなぁ」
「……でも、だから私達に価値があるのも……事実」
「まあね。それはそれとして、ラジアータに頼りすぎたせいでなくなったら手が回らなくなってるのは本当にバーカって感じだけどね」
「……それ言うと、黒花が一人でダメージ受けるよ」
「いいのいいの。あの人はちょくちょく殴ってやるぐらいが楽しいから」
ニヤニヤと笑いながら言うチユリに七色はため息をつく。
そんな中、ふとチユリがタブレットを取り出した。
「さて、それじゃあさっそくアタシの手札を使わせてもらおうか」
チユリがタブレットを操作すると、そこに部屋の間取りを表す地図が現れる。そして、その部屋の各所で輝く光点も。
「おうおうやっぱりどいつもこいつもアタシのアプリ落としてるよぉバッカだねぇ。ちゃんと事前情報通り室内人数は五人。他の七人の位置確認したら二人は地上で五人が地下の他の場所。みんなアプリ入れてるおかげでリアルタイムで位置と場所の情報取れて助かるわ。ヒヒヒ」
あえて下衆な笑い方をして見せるチユリの横で七色がそのタブレットを覗き見る。
そして、指で間取りをすすっと追い始める。
「この間取りで爆弾作って置いとくなら……ここらってところか……大丈夫だとは思うけど念の為ここには弾、撃たないでね……」
「間取りだけでどこに置いてあるとか分かるの? 関係なくない?」
「……んー、あくまで予想だから……慣れてる人間は、ここらへんでやるよなっていう……経験則っていうか……」
「ふーん。まあ分かったよ。七色は爆弾に関しては信頼できるしねぇ。爆弾に関しては」
「……わざとらしく二回言われても……そこは自覚してるから大丈夫……それより、行くよ……」
「了解」
二人はそこで銃を手に持ち素早く、足音を立てずにドアの両脇につく。
そして二人で軽く頷き合うと、ドアの左側についた七色がドアノブに静かに左手をかけ、僅かに、静かに、かつ素早く扉を開けて室内にフラッシュバンを投げ込んだ。
「――っ!?」
室内のテロリスト達が気づいた瞬間にはもうフラッシュバンは炸裂し、彼らの目と耳を奪っていた。
そのタイミングで二人は室内に侵入、先程確認した通りの場所にいるテロリストを一瞬で射殺、制圧する。
「おし、じゃあ爆弾持って帰ろうか。解体は上でいいんでしょ?」
「おっけ……」
七色は事前に当たりをつけた場所を見る。すると、そこにはテーブルがありその上に大きな黒バッグが置いてあった。
間違いなく爆弾であると思い、七色はバッグを開く。すると「……はぁ」と七色は面倒そうにため息をついた。
「ごめんチユリ……計画変更」
「え? どったのさ?」
「爆弾、もう動いてる。あと爆発まで十分。ここの地下ふっとばして上の都市部に穴開ける気だねコレ……」
「……はぁ!?」
チユリは声を上げる。一方で七色は既に解体のためにカバンから道具を取り出していた。
「十分って、ここから地上まで二十分ぐらいはかかるんだけど!? ……あー、こいつら下っ端だから捨て駒にされてたんか。マジアホくさ」
死体を一瞥しながらチユリは頭を抱えて言う。
七色は既に爆弾解体に入っていた。
「で、何分ぐらいで終わりそう?」
「んー……まあまあ良い腕してる上にこれ一ヶ月ぐらいかけてじっくり組まれた臭いね。……五分かなぁ」
「一ヶ月の努力が五分で対処されるの草」
チユリは口元を指先で隠しながら嫌味に笑った。
その視線の先にいる七色の手元の爆弾は既にカバーが外されチユリには分からない部品が解体されコードが切られ、隙間から内部に細い紐状のカメラが挿入され始めていた。
そうしていると、チユリのスマホに通知音が鳴る。
チユリがスマホを見ると、チユリは鼻で笑った。
「あーあ、どうやら別の捨て駒が察知して来たっぽいわ。数は五人。地下にいるやつ集まって来たね。これ爆弾にセンサーついてたやつだね。やっちゃったねぇ七色?」
「いや知ってたよ……ただ、そのセンサー回避してる時間惜しかったから無視しただけ……それとも、チユリはこれから来る五人止める自信ないんだ? ダサ……」
チユリの方を一切向かずに手を動かしながら言う七色。その言葉がチユリの眉をひくつかせる。
「ほーん言ってくれるじゃん……いいよ、そっちはゆっくり解体して貰って。私がそっちがまごついても大丈夫なくらい安全確保してあげるから」
「うん……期待してる」
売り言葉に買い言葉をした後、チユリは部屋から出る。そしてカバンからタブレットを取り出して画面を見る。
そこには地下のマップ、そして自分のところに近づいてくる五つの光点を確認した。
「オーケーオーケー、動きは丸見え。それでこの順番でこう来るなら……」
カバンに再びタブレットをしまったチユリは地下通路をデザートイーグル片手に走る。
そして、ある程度進み、所定の角に背中をつけると、急に飛び出しデザートイーグルを構え引き金を引く。
すると、地下に轟音が響き、その通路を走っていたテロリストの男の頭が弾け飛んだ。
「ほいワンダウン。んじゃ、次はあっちだ」
流れるようにチユリは迷路のように伸びている地下通路を迷わず走る。
そして、素早く位置につき、また飛び出して射撃。今度はテロリストの胸に大穴が空いた。
「ツーダウン。次」
そうしてためらいなく地下を走り回るチユリ。
「スリーダウン」
相手は引き金にかけた指を動かすことすらできず倒れていく。
「フォーダウン」
あっという間に残った最後の一人だったが、そいつの耳に響くのはデザートイーグルの大きな銃声だけでまったくチユリの位置を察知できていない。
地下では銃声が反響するため、逆に位置を把握させづらくさせていたのだ。
故に彼は壁の角にしゃがみ背中を預ける。場所は今までの五人の中では一番部屋に近い通路の角だ。
曲がり角であるため、両方の通路に意識を貼っていればチユリの姿を最低でも捉えられトリガーを引く事ができる……はずだった。
だが、それは彼のスマホが突然ショートし、破裂して火花を上げた事で彼の意識がそちらに釣られご破産となった。
その瞬間、男の頭は綺麗に壁に血の花を広げた。
「ファイブダウン、オールクリア。……だから注意しないとだよねぇ、手元にアプリ入れるときはさ」
チユリは馬鹿にする意図一切隠さない嗤いで死体を見下ろす。片手には画面にボタンが表示されたスマホが持たれていた。
「お疲れ……こっちも終わったよ」
すると、いつの間にかチユリの側に七色が近づいていた。肩には爆弾が入っていた大きなカバンがかけられていた。
「あ、そっちも終わったんだー。タイムどうだった?」
「四分四十七秒……もうちょっと早く解除できたと思うから、ちょっと悔しい……」
「ふーん。ま、お互いつつがなく終わったからいいんじゃない? んじゃ、帰ろうか」
「……うん。ただ、この爆弾一旦届けないと……地下から地上吹っ飛ばせる威力あるやつだから、さすがに重い……」
「ういーっす、じゃあここの最寄りだと六花のセーフハウスあるしそこに運んでDAの人間に取りに来てもらおっか。……そうだ、いいこと思いついた」
そこでチユリはニヤリと笑う。
同時に七色も微かに笑った。
「私も……多分、考えてることは一緒……」
「うんうん。だよねぇーだってせっかく六花のセーフハウスに上がるんだから、呼び出しておちょくらないと損だよねぇー」
「うん……なんだかんだアレで遊んでるときが一番楽しい……」
「そうそう! あー楽しみ! じゃあとりあえず六花に連絡しとくから、そっちは準備よろしくぅ!」
「オッケー……じゃあ外のタイマーだけ復活させておくね……フフフ、楽しみ……」
その後、セーフハウスにやってきた二人によって六花は『爆発寸前の爆弾を目の前で解体されるも間に合わない』という二人の遊びにつきあわされ、また彼女の恥ずかしい動画が増やされてしまう事になる。
結果、クルミがネットに上げられたそれを削除する事になりこれまた一悶着あるのはまた別の話である。