【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
そして見える、不穏な影の話。
当たり前の話だが喫茶リコリコにも休日はある。
リコリスの仕事は突然入ることもしばしばだが、リコリコはあくまで普通の喫茶店なので週に決まった休みがある。
そしてその休日には常連客が集まってボードゲームに興じるなどの集まりをすることがあるが、その日集まっていたのは常連客よりもよりもっと身内寄りであった。
平等院黒花率いるブラックブーケのメンバー、彼女のファイアチームの面々である。
黒髪ショート緑眼で可愛げのある顔立ちだが表情が引き締まっているため気配も大人びている
ブロンドヘアーをサイドが長いミディアムアップにし、いやらしい笑みのアンバーの瞳の
スカイブルーのストレートロングで紫色の瞳の左側を隠した
そして黒く生地が薄いタートルネックにデニムの赤目で赤髪飾り付きの銀髪ポニーテールの黒花、そして赤ブラウス白のミディ丈スカートの千束に黒いTシャツと灰色のズボンのたきな。
六人全員私服姿の彼女らは今、リコリコのござにあるテーブルを挟んで座っていた。
テーブルの上には手がついたカフェオレやコーヒー、パフェなどが並んでいて、足元のござにはいくつかのボードゲームも置いてあった。
この日は珍しく全員の休みが重なったので、じゃあせっかくだしとこうしてリコリコに集まったのである。
こう何かしようという目的を設定したわけでもなく、みんな集まってから考えようという無軌道な集会であった。
「にしてもさー、なんというかいい感じに三パターンに分かれてるよねー」
ちょうど先程までやっていた不動産資産で殴り合うボードゲームを終えて片付けた後に、千束がポロっと言った。
「何がです?」
「いやファッション」
たきなの言葉に千束はテーブルに座っている面々を目で見回しながら返した。
「まー六花とチユリはすっごいお高くていい感じなのは間違いないじゃん? んでまあ私と黒花は普通の女の子ラインで、たきなと七色は終わってる」
「終わってるってなんですか良いじゃないですか別に出かけて人目に晒されなければ部屋着で」
「いやぁそういうところで気を抜くから駄目なんだよなーたきな」
「黒花に駄目だしされるのは千束に言われるよりも三倍くらいムカつきますね……理由はうまく言えませんがとにかくムカつきます」
「ひどくない? 差別じゃない?」
「黒花は差別されるぐらいでちょうどいいんですよ。というか七色に比べたらまだマシだと思いますよ私。彼女いつもこれじゃないですか。ちゃんと洗ってるんですかそれ?」
「……洗ってるよ……二、三日に一回ぐらいのペースで……」
「冗談抜きで終わってるじゃないですか……」
結構本気で引いている顔を見せるたきな。
なんなら黒花も千束も苦笑気味であり、六花は呆れ顔。
ニヤニヤとしているのはチユリだけである。
「んまー七色はマジでそこらへん無頓着だしいくら言っても通らないってー。こいつマジ自己完結してて人の意見聞く気ないから」
「さすがチユリ……よく分かってるじゃん……」
嫌味たっぷりのチユリの言葉にもまったく態度を崩さずしたり顔で期間限定メニューのマンゴーフラッペを飲む七色に千束はさらに苦笑いを強めてしまう。
「我が強いなぁ……こんなの私の知ってるリコリスの中だとたきなぐらいしかいないわ」
「え? 私これと同類扱いなんです? 認識の改変を要求します」
「いやお前はむちゃくちゃ我が強いだろ……自分のどこに慎みがあるなんて思ってるんだ……」
「ふざけた事言ってるとぶん殴りますよ黒花」
「まずいまだ私にムカついてた」
やいのやいのと盛り上がる少女達。
彼女らの姿は裏事情を知らなければ普通の年頃の高校生の姿と何ら遜色ない。
「うおおおええ……あんた達……元気ねぇ……」
だが、そんな少女の園に相応しくない掠れた低い声が店の奥から突然響いてきて、千束は思わず表情をしかめてしまった。
「……あのさぁミズキぃ、こうして女の子達が話に花を咲かせているときに二日酔いが突然出てくるのは空気ぶち壊しが過ぎるって」
「うるせぇ……昨日の花見でめっちゃ儲かったのは私のおかげみたいなもんだからいいだろぉ……」
千束の呆れ返った言葉に、店奥から現れたミズキが真っ青な顔で答えた。
先日、彼女はリコリコの側で開かれた花見でそれはもう浴びるように飲み、そのツケが今こうして返ってきているのである。
「飲み過ぎは体に毒だぞー? 自重しろよなー」
「黙れヘビースモーカー……それで言ったらテメェの方がよっぽどだろうがぁ……」
「私は一度死んで蘇って肺をリセットしたからセーフ」
「クソみてぇなライフハックすぎるだろぉ……」
「これはむしろデッドハックと言って欲しい」
「んなことは言ってねぇんだよぉ……」
無責任全開で言い放つ黒花にミズキは頭を押さえながら言う。
どうやら自らの発言で頭痛に苦しんでいるらしい。
ミズキがこんなに二日酔いで死にかけているのは本当に相当な量を飲んだんだな……と千束は呆れた顔になる。
「ほら、これでも飲んでおけ」
と、そこでカウンターの方にいたミカが氷水の入ったウォーターピッチャーとコップをカウンターにドンと置いた。
ミズキはカウンターに座るとコップに氷水を入れてグビグビと飲み始め、一瞬でピッチャーを空にしてしまった。
「ぷはーっ……! 少し生き返ったぁ……!」
「どんな体してるんですか……」
「人体の神秘を感じるね……」
リットル単位であるだろう水を一気に飲み干して急に元気になったミズキにたきなと六花がかなり表情を歪めている。
二人の中でミズキに対するランクが下がっている音が千束には聞こえた。
「あっはーウケるー! てか運転担当がそんなお酒常飲してていいわけー? 責任意識足りないんじゃなーい? 大人としてどーなのー?」
「別に運転担当ってわけじゃねーし! 黙れインターネットメスガキ!」
「なんだミズキそのテクニカルなのかそうじゃないのか分からん罵倒は……。いやまあでも、突然車欲しいときに飲まれてたら困るのは分かる。というかちょくちょくあったよなそういう事。まったくうちのペリカン
呆れを増しながらもチユリに同調するような事を言う黒花。
すると隣で六花もコクリと頷く。
「そうですね。彼女は本当にプロ意識が高いですし、何よりパイロットとして優秀です。普段の輸送ヘリでの移動だけでなく、制空権が欲しいときは彼女がいれば間違いないですから本当に助かります」
「あー、そういやなんかもうそこの評価が独り歩きしてリコリス絡み以外の仕事も来てるって聞いたけどマジなのあれー? そこんとこどうなのさ社長さーん?」
「大丈夫大丈夫、国防絡んでないやつは流石に弾いてるから」
「国防絡んでればリコリス以外のも受けさせてるんですか……? あの、もしかして我々ブラックブーケの隊員に降ろせないクリアランスの情報とかあります?」
「ハハハ……」
「あるんですね……」
「露骨に目を逸らしたねっ!? 教えろーっ! アタシの知らない情報あるとかちょっとムカつくしーっ!」
「うるせーっ! お前に教えたら絶対ロクでもない事に使うだろうがっ!」
「………………あのさぁ」
スマートフォンを無言で弄っている七色を除いて盛り上がっている黒花、六花、チユリ。
そんな彼女らに、今度はミズキが心底呆れた顔を見せて言った。
「こっちが知らない奴について勝手に盛り上がってるんじゃないよ!! 仲間外れに感じるでしょうがぁ!!!!」
「いやそこですか?」
ミズキの叫びにたきなが冷静に言った。
「いやでもミズキの気持ちは分かるよ? なんかちょくちょく名前出てくるよねその子の名前」
「確かに私も気になってました。確かセンチピードの船から脱出するときにヘリ操縦していた方ですよね? それで六花のライブでの暗殺未遂のときに空で警戒もしていた人だとも記憶しています。……そういえば、なぜ彼女の事だけは名前で呼ばないんですか?」
千束とたきなが不思議そうな顔で聞く。
ただ単にタイミングがなかったが興味のある話だったのを聞いた、それぐらいの感覚だった。
しかしその質問に黒花はバツの悪そうな顔をする。
「あー……実はそこちょっと一人だけ例外でさ……あいつ拒否ったんだよ、クルミとチユリが作った戸籍システムでの名前生成とかモロモロ」
「えっ!? 初耳なんだけど!?」
「うむ、それに関してはボクも初めて知ったぞ。なんでそんな事になってるんだ?」
申し訳なさそうな顔をして言った黒花の言葉に大声で驚く千束に、また一人店の奥から出てきて怪訝な顔をするクルミ。
彼女にしてみれば自分の作ったシステムが活用されていないのが不満なのが顔に出ていた。
「ごめんねークーちゃーん! あいつマジ頑固でさー! まったく第三世代における百番台唯一の生き残りだからって面倒なんだからさー」
さらっといつもの調子で謝ったチユリだったが、クルミはその言葉に今度は驚愕を色に出した。
「えっ、百番台? えっと、つまりそれって千人以上作られたお前達の中でも相当古参って事だよな? そんな凄い奴だったのかそのどうかしてるパイロット」
「そうね、凄い奴なのもそうだしどうかしてるのも一緒。コールサイン『ペリカン1』、正式なロットナンバーは『C―
「ああ、私はその全盛期をデータでしか知らないが、少しでも空に携わった事のある裏の人間なら『ジョーカー
「……まさか、その名前をここで聞くとはな」
六花と黒花の説明を聞いて、それまで黙って六人に出すコーヒーやフラッペを淹れていたミカが重々しい顔になって口を開いた。
突然彼がそうなったのだから、千束達は驚く。
「先生知ってるの?」
「ああ。まだ私がDAにいた頃に何度かその名前を聞いたことはある。正体不明、伝説の傭兵戦闘機隊、それが『ジョーカー隊』。金さえ積めばどこの誰からも仕事を受け確実な勝利を呼ぶ、まさに
「聞かなくなったのは単純な話で富士が出撃を禁止したんだよ、データが十分取れたからってさ。それに彼女の仲間はみんな死んじゃって117は一人ぼっち、すっかり偏屈になっちゃったのか私達が造られた後にはもう誰とも喋らない無口女の輸送ヘリパイロットになってたよ」
「ええ、だからセンチピードの船を襲撃するときに『幸運を』なんて言ったのは内心びっくりだったよ。任務に必要最低限以外の事を口にするのは初めて聞いたから」
「あれ、そんなレアだったのか……なんかもったいない気分だ」
ミカに補足するように説明したチユリと六花に、黒花は軽く驚いた。
一方で、千束がまじまじと渋い表情になっている。
「んーーーー……」
「……千束、なんか面倒な事考えてるだろ」
「え? いや別にそんなんじゃないってー! ただ、せっかく普通の暮らしを謳歌できる状況になったのにしてないのはもったいないなーって思っただけ」
「お前なぁ……まあでも、今ならその気持ち、まあ分かるよ」
寂しげな表情になって言った千束に対して、黒花が眉を八の字にして微笑みながら言った。
「私は今、お前と一緒にいるためにいろいろ頑張ってるけどさ、そうなれたのはお前と一緒に楽しい人生を送れたから、そしてこれからも送りたいってなれたからだ。単純な気持ちを知らないと知ってるとで、人生ってここまで変わるんだなってなったし」
「……そうですね、そこは黒花さんに同意です。私も最初はそこのカス二人に乗せられてアイドルになってしまいましたが、今は心からこの仕事が好きになってますし、ファンのみんなを楽しませたいと努力したいとなってます。殺ししか知らなかった私がこうなるとは、驚きですね」
「んー、随分と真面目で情熱的じゃーん二人共さぁ。ま、アタシはバカなやつらを手玉に取れたらそれで笑えるからいいかなーって。こんなんテキトーにエンジョイしとけばいいんだよー」
「やっぱ人をバカにするためにインフルエンサーやってたんですねあなた……」
「あ、言っちゃった。まあいいかーどうせ根っこはバレてるしー」
「私がバラすとか思わないんです?」
「いいよしても? アタシとタッキーならみんなアタシの事信じると思うけどねー?」
「こいつ本当に……」
「はいはいやめやめ! チユリ煽らない! たきな銃抜かない!」
二人の喧嘩を諌めながらも、黒花達の確実に変化している心を感じられて千束は笑顔になっていた。
自分と一緒にいてくれるために彼女の新しい戦いを始めている黒花、そして彼女の仲間達の前向きな変化がとてもいいなと、そんな気持ちになっていたのだ。
「……ごめん、ちょっと私……外の自販機、見てくる……」
だがそんなとき、一人だけずっと黙っていた七色が突然そんなことを言い出して立ち上がったのだ。
「はい!? いやちょっとあんたここの店のコーヒーとか飲めばいいでしょ!?」
さすがの言葉にびっくりしたミズキが大慌てでツッコミを入れる。
だが、七色は彼女に顔を見せずにひらひらと下から上に払うように手を振った。
「……いや……今はちょっと……安い味……飲みたい気分だから……」
そう言って七色は店から出ていった。
一瞬の静寂の後、「はぁ~~~~~っ……!」と黒花が大きくため息をついた。
「あいつ……ほんとあいつマジ空気読めない……」
「よりによって喫茶店で集まってるときにあれを言って出れる胆力は凄いな……いや、だから爆弾解除してるときも平気な顔できるのか……」
「ハハハハッ! マジ七色ウケるー! アタシあいつのああいうとこ好きー!」
「自由奔放さではあなた達も負けてないと思いますけどね」
呆れるブラックブーケの三人と、その三人にさらに呆れるたきな。
だが、一人だけまた違う反応をしている者がいた。
彼女を追うように立ち上がった、千束だった。
「千束?」
「ごめーん、私もちょっと外でヤニ吸ってくる」
千束はタバコをわざとらしく手に持って振ってたきなに言って外に出ていった。
そんな彼女にその場にいたみんなが苦笑する。
「まったく、お節介だな」
「ああ、だがそれがアイツのいいところだ」
黒花の言葉に、ミカがコクリと頷いて言った。
だが彼女らはどうして千束が七色を追って出ていったのか、本当の理由を分かっていなかった。
◇◆◇◆◇
「……やっぱり……来たね……」
「そりゃ、あんなもの見せられたらね」
千束と黒花がいつも喫煙に使っている人のいない公園。
そこで千束は、道中の自販機で買ったであろう微糖の缶コーヒーを片手にし背中を見せながら振り返って言った七色に言った。
彼女のもう片方の片手にはスマートフォンが摘む形で持たれており、その画面には『二人で話したい』とメモ帳アプリに書かれていたのだ。
「さすが……銃弾を避けれる目を持つ……アラン機関に選ばれたギフテッド……あんな一瞬のチラ見せでも……判別とか凄いね……」
「まーねー。てか、喫茶店出ていって外で缶コーヒー飲んでるとか随分と挑発的な事してるじゃーん? さては思った以上に面倒だねあんた?」
挑発的な笑みを浮かべながら言う千束。だが、七色はそんな彼女に軽くため息をつき、気怠げな表情を向けながら体を向けた。
「別にそれは……否定しない……でも……そこは本題じゃない……私があなたと話したいのは……別……」
「ほぉーん? いいよ言ってみ? この広ーい心の持ち主である錦木千束ちゃんが聞いてあげようじゃないのさ」
大げさに胸に手を当てて言う千束。
正直わざわざ自分だけが他にバレないように呼び出された理由はまったく分からなかったが、こうして二人で何かあるなら聞いてあげないとという気持ちになっていたのだ。
「はぁ……じゃあ、言う……めんどくさいから……単刀直入に……」
だが、次の七色の言葉で、千束の表情は一変する事になった。
「……うちのメンバー……あの三人のうち……そのうち誰か、間違いなく死ぬから……準備しといてね……」
「………………は?」
まるで事務報告をするかのような適当さで出てきた七色の言葉。
その言葉に、千束は今までの余裕ある態度がすべて飛んでいき、困惑を抱きながら表情が凍りついた。
「……じゃ、そういうことで……戻ろうか……」
「いやいやいや!? ちょっと待って!? どういうこと!? ハショり過ぎて意味分かんないんだけど!?」
帰ろうとする七色の方を掴み問い詰める千束。
そんな彼女の剣幕に七色は気圧されるどころか再び「はぁ……」とため息を吐き、近くのボロボロのベンチに腰掛けた。
「……ったく、めんど……だる……でも、言わないともっとめんどいし……仕方ないか……」
座る七色は、座れずに七色を見下ろす千束を見上げて言った。
「あの三人さ……人の世を楽しみ過ぎてる……さすがに最近は……ライン超え……殺ししかできない生き物でそれやると……死ぬって相場が、決まってる……」
「……え? 何? じゃあこう言いたいの? 人間として前向きに楽しんで生きてるから死ぬって、そう言いたいわけ? 何その理屈、どうかしてない?」
千束は顔と言葉に怒りを如実に出して言った。
六花、チユリ、そして黒花が頑張って生きようとしているのにそれを否定するような言葉を彼女らの仲間が言うのが、千束は信じられなかったのだ。
だが、そんな千束に再び「はぁあぁ……」と七色は露骨に呆れを出したため息をついた。
「……あのさぁ……やっぱ理解……してないね……殺さないと生きていけない……そういう人種の本質をさ……」
「……どういう事? それって、殺しをしないと生の実感を得ないって事じゃ……?」
黒花の説明はそうものだったと千束はよく覚えていたし、理解もしていた。
だが、七色はゆっくりと首を振った。
「まあ、それもある……でも……本質は、また違う……なるほど……黒花も、ちゃんと理解してなかったんだ……ああ、ナチュラルに殺しやってたせいで、逆に把握してないのか……てかそれ……考えてみれば、あの二人も……正直、そこまで楽しむとか思ってなかったのに……はぁ、アホくさ……」
七色はまさに唾棄するという言葉がピッタリといった様子で吐き捨てた。
彼女の顔は、今まで千束が見てきたどんな顔よりも呆れに溢れていた。
それが千束には、いたく気に入らなかった。
「なんでそういうこと言えちゃうわけ……? あんたも今の生活、楽しんでたんじゃないの? 黒花のおかげで、色々楽しめるようになったって、そんなこと前言ってなかったっけ……!?」
千束はいつだか聞いた言葉を思い出して彼女に聞いた。
怒り、そして困惑も混じった声色だった。
「……うん……そうだね……黒花から、楽しみ方については……教えてもらったし……感謝してる……」
「だったら――」
「――でも」
千束が叫びかけた言葉を七色は遮った。
トーンも声量も変わらないはずなのに、何故か今までで一番威圧感があったように千束には思えた。
「私は……境界線を守ってる……彼女らは、今……越えてる……問題は……そこ……」
そこまで七色は言うと立ち上がり、歩き始める。
「ちょ、ちょっとまだ話は終わってないんだけど!」
「……いや、終わり……私は、人の話聞かないけど……あなたも……それは一緒だから……だから忠告するだけ……とにかく……準備は、しといたほうがいい……心の、準備をね……私も、してるから……ね……誰かが……いなくなる、準備……」
七色もまた、失う準備をしている。
彼女のその最後の言葉で、千束の今までの怒りと困惑の感情が、急になんだか別の気持ちに変わっていくのを千束は感じた。
理解をしたのだ。
彼女は完全な意地悪で今までの話をしていたのではないと。
鳥弐亭七色という、造られた命。だが心は普通の人間と変わらぬ物を持っている少女。
そんな少女の葛藤が垣間見えた、そんな気がしたのだ。
「……分かった。分かりたくないけど、頭の片隅には置いておく。あんまり長く話すと、みんな心配するだろうし」
なので、千束は小さく返して歩き始める彼女を追い始めた。
まずどうしてそうなるか説明してもらってないし、七色の言った通り説明されても納得する事はないのはなんとなく分かっていたが、それでも彼女を一方的に悪者と責めるのは違う気がしたからだ。
だから千束は一旦いろいろと飲み込み、彼女の忠告を受け止めた。
七色はそんな千束の言葉に「……うん」と振り向かずに答え、道中の自販機横のゴミ箱に缶を粗雑に入れ、そのまま二人でリコリコに歩いていった。
◇◆◇◆◇
「ん? ああおかえりなさい、随分と時間がかかりましたね」
二人がリコリコに帰ってくると最初にたきなが言った。
一方でそばにいる黒花達の様子は変なことになっていた。
べったりと黒花がテーブルの上に顔面を突っ伏し、その隣ではクルミが呆れ、チユリがバカにした笑顔を浮かべ、彼女らの背後で六花が冷めた目を向けている。
そして黒花の頭が置いてあるテーブルの上には、沢山のトランプが散らばっていた。なんだか頭から血の代わりにトランプが広がっているみたいだなとなんとなくそんなことを千束は思った。
「えーっと……黒花、ボコられた?」
状況を見て、千束は推測し言った。
「うわあああああああああああああああああああっ!!!! そうだよおおおおおおおおおおおっ!!!! ボロクソにされたよおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」
どうやらそれがトドメの一撃だったようで、黒花の痛ましい泣き声が響いた。
「くそおおおおおおおおおおおっ!! なんなのさあああああああああっ!! 私一人をみんなで狙ってさあああああああああああっ!! イジメだろこんなのおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
「いや黒花がジョーカー1の名前から連想してババ抜きでもしよう、とか言い出した癖にあんなびっくりするぐらいにアホほど弱いとか思わないじゃないですか……私達は悪くないですよ……」
「そうだぞ。せめて戦いのときの十パーセントぐらいは能力出せば普通にやれただろうに……なんで普段はそこまでポンコツなんだお前」
「いやーでもそれが黒花のおもろいところじゃーん。普段はマジダメダメな癖に銃撃戦になると急に凄くなるのがさー、ギャップ萌えってやつだよぉ。まあ平和にやってたらなーんにもいいところないんだけどさー、ハハハッおもしれー!」
「さすがチユリ、フォローする様子を見せながらガッツリ追撃してるわね。まあこの事に関しては私も擁護する気はないからいいけど。ねえ黒花さん、馬鹿にも加減って必要だと思いませんか?」
「があああああああっ!? やっぱイジメだああああああああああああ! 助けて先生いいいいいいいいいいいっ!」
「……すまない、私には無理だ」
「情けな……」
四人からそれぞれ馬鹿にされ、ミカから心から謝られ、しまいにはミズキからも哀れむ目で見られる。
完全に黒花にとってアウェイな環境が出来上がっていた。
「……はーっ! もうみんな! 黒花が大ダメージ受けてるでしょうが! 大丈夫だよ黒花! 私はどんな黒花も大好きだからっ……!」
先程までの重たい雰囲気はどこへやら。
千束はふざけながらも黒花に全力で笑いかけて両手を広げた。
「ううっ、千束ぉぉぉっ……! やはり私には千束だけだよぉーっ……!」
そんな千束に、黒花は抱きつき胸で泣く。
たきなが物凄い呆れた顔を見せる。
「急にイチャつかないでください。見てるだけで疲れるんですけど。これ私何回言えばいいんですかね?」
「……そんないつもそれ言ってるの?」
「うむ……体感三日に一回ぐらいは言ってる気がするぞ」
「ええ……」
六花の問いに答えたクルミの言葉に、素で引いた声を出したチユリ。
今の彼女らの日常の姿が、そこには戻っていた。
「……はぁ……とりあえず……動画撮っていいかな……手札は……多い方がいいよね……」
「帰ってきて早々止めろ! いや止めてくださいお願いします!」
そこで、七色が乗って来る。
彼女も一応は日常に戻ったようであった。そこで、千束は黒花を胸に抱きながらもチラりと七色を見た。
彼女の顔にそこで浮かんでいる微笑みには嘘はないように思えた。
千束はきっとそうだと思った。自分の目はこういうときに鋭いのだと、彼女には自信があった。
「……どうした千束?」
と、そんなとき黒花が千束を見上げて聞いてきた。
どうやらそんな風に考えを巡らせていた千束の感情の機微を黒花は感じたようで、千束はそれが嬉しく思えた。
「ううん、なんでもない」
「……そっか。あと……そっちも何があったかは知らないけど、まあ、無理には聞かないから。ただ、私は騙せないよ」
「……えっ!?」
そして、千束にだけ聞こえる小さな声で黒花が囁いてきて、次に彼女は驚く事になる。
もちろん小声で、であるが。
「はぁ……はいはいもう分かったから! 晩ごはん食べよう! そろそろ良い時間だし!」
と、そこで黒花は千束から離れて気分を切り替えるように言う。
彼女の言葉に他の面々はアレコレ言いつつも食事へと気分を切り替えていく。
その中で、黒花はこっそりと自らの鼻に指を置いて、千束だけに微笑んだのだった。
「……やっぱり、後ろ向きな準備なんて、私には無理かな」
千束はポケットに淹れたタバコケースを握りながら、今度は隣にいる七色にだけ聞こえるように呟いた。
七色は頷きも、首を横に振る事もなくただ立っているだけだった。
第三部でやりたいことできたので書きたいのにせっかくだしと乗っかろうと思ってた新作アニメーションがなかなか出そうで出ないので第三部をお出しできずにやきもきしてるマン!
もうまた完全オリジナル展開で第三部出してやろうかと思いつつもまだ「見」でいようとか踏み切れないマンでもある。