【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】 作:詠符音黎
「さて、我らが最強のリコリス様はうまくやってるかね」
電波塔付近のビルの屋上で、黒花は電波塔を眺めていた。
電波塔は人の出入りが封じられており、中で何が起きているかをうかがい知る事はできない。
しかし、彼女は違った。
彼女の手元にあるタブレットには、電波塔の中の監視カメラの映像が送られてきている。
それはDAの誇る人工知能、ラジアータによるものである。
彼女はそれによって塔内の千束の動きを把握していた。
「おお、やるぅ。武装しているあの数相手にたった一人でここまでやるとは、さすが千束」
監視カメラの映像では千束が並み居るテロリスト達を次々に非殺傷弾で片付けている姿が映し出されていた。
複数の銃撃を次々にかわす姿は、とても人間業には思えない。
「まったく恐れ入る。あんな状況俺ならもうちょっと苦戦するね。それをああも軽々と……脱帽とはこの事だね」
「よく言う。あいつの事を言えないくらいの化け物だろ、お前は」
彼女にそう声をかけたのは、フキだった。
フキはいつの間にか黒花の後ろに立っていたのだ。
「おお、フキか。街の警戒はどうした?」
「それは他のリコリスが万全をつくしている。お前こそ、ずいぶんと楽しそうじゃないか」
フキの目は厳しい。
そんな彼女の視線に、黒花は肩をすくめる。
「まあね。彼女の戦い方は芸術的だ。美しさすらあると言って良い。そんな戦いを見ると、惚れ惚れしてしまうのもしょうがないと思わないか?」
「思わないね」
「そうか、それは残念」
再び肩をすくめる黒花。
そんな黒花に、フキは厳しい口調で言う。
「お前はずいぶんと千束に執心のようだが、どうしてそこまであいつの事を気にする? お前からしたらあいつは気に食わないんじゃないのか?」
「……どうしてそう思う?」
フキの言葉に、黒花は一瞬驚くも、あくまで笑顔で言う。
「お前とは何度か組まされたことがあるが、その度に実感するんだよ。お前は殺しを楽しんでるってな。人の命を奪う事を、お前は躊躇するどころは率先してやる。私はそんなお前が正直気に食わない。千束の事も気に食わないが、お前はそれ以上だ。だからこそ、わからないんだ。自分と対極な存在を、そこまで好きになれるのか、って事をな」
「……なるほどね」
フキの言葉を一通り聞くと、黒花はそう返す。
そして、続ける。
「確かに、俺と千束は対極の存在だ。本来なら嫌悪してもおかしくないだろう。でも、俺にとってあいつは最高に面白く、理想的な存在なんだ」
「……面白い?」
「ああ、だってそうだろう? 殺ししかできない俺と違って、彼女は殺さないことで自分を生かしているんだ。殺しでしか生を実感できない俺と違って、彼女は今を生きている。与えられた命を全うしようと、全力で。俺と彼女はまさに正反対。だが、故に眩しく、美しく見えるんだ。俺の持てないモノを、俺の捨てたモノを、千束は持っているからな」
「…………」
恍惚とした表情で語る黒花に、フキは言葉が見つからなかった。ただ、黒花の言葉から彼女が通常のものさしでは測れない精神をしていることだけは分かった。
「だからこそ俺は、彼女を全力で肯定し、同時に否定する。もし彼女が彼女の選択した道で将来苦しみそうな芽があるなら、俺はそれを潰そう。彼女のやってきた事を否定することによって、その未来を刈り取ろう。それが俺にできる、彼女との生だ」
「お前、まさか……」
屋上の風で靡く銀髪を抑えながら言う黒花に対し、フキがやっと口を開く。
そんなときだった。
地面が揺れそうなほどの激しい爆音が、街に轟いた。
その方向を見ると、電波塔が派手に爆発していたのだ。
「なっ!?」
「これはこれは……厄介なことになったね」
驚くフキを尻目に、黒花は黒煙を上げる電波塔を一瞥すると、屋上から離れようとする。
「オイ! どこへ行く!」
そんな黒花に、フキが叫ぶ。
彼女に、黒花は答える。
「何って、バックアップだよ。そのために、俺はここにいたんだから」
◇◆◇◆◇
「う……あ……」
テロリストグループの一人である真島は、瓦礫の中這っていた。
電波塔を占領した彼ら目論見は、たった一人によって崩壊してしまった。
仲間はすべて倒され、真島もまたその相手に撃たれた……はずだった。
だが、彼は生きていた。生きて、煙の中他の仲間の命の音を聴いていた。
「はぁ……はぁ……よかった、みんな、生きてる……!」
彼の耳は特別だった。目で見るよりも耳で聴いたほうがはるかにあらゆることを知る事ができた。
それこそ、仲間のかすかな吐息や動きの音を聞き分けることができるほどに。
「早く、ここを出ないと……!」
電波塔を爆破はしたが作戦は完全に失敗した。このままでは全員捕まってしまう。そうなる前に、一人でも多く連れて脱出しなければ。
そう思い、立ち上がったときだった。
――パァン!
「っ!?」
銃声が、聞こえた。そしてそれと共に上がる仲間の悲鳴と、消える音も。
「なんだ!?」
さっきの襲撃者がトドメを刺しに来た? いいや違う。先程自分達を壊滅させた銃声とは違う、別の銃声である。またかすかに聞こえる足音も別物だった。
つまり、今の襲撃者は先程とは別の人間だという事になる。
しかし誰が。一体いつの間に。
――パァン! パァン! パァン!
真島がそう思っている間にも、次々と銃声はし、仲間の命が散っていくのが聞こえる。
彼は感じる。土煙の中見えない襲撃者に対する、恐怖を。
「くっ……!」
真島は落ちていた銃を構え、襲撃に備える。
聴覚を研ぎ澄ませ、どこから敵が来るかを察知しようとする。
だが――
「――ぐうっ!?」
ソレは、彼の右膝が撃ち抜かれる事によって無駄骨に終わった。
「この粉塵の中、俺の動きを捉えていたようだがどういうカラクリだ? 千束と違って目がいいというわけでもないようだな……その目隠しを見るあたり、音で聞き分けていたのか? まったく、世界は驚きで満ちているな」
彼の耳に聞こえてきたのは、幼い少女の声だった。だが、その口調はとても幼い少女のモノとは思えない、老獪なものに聞こえた。喋り方が口にタバコを咥えたときの喋り方だったのも、それを加速させていた。
「お前は……!?」
真島は跪きながらも銃を構え声の方向に撃とうとする。
だが、その手を銃撃され、真島は銃を落とした。
「がっ……!?」
「正面から戦っていては厄介だったかもしれんな。こういうときのために装備を整えてきてよかった」
粉塵の中から現れた姿、それは黒花だった。サーマルゴーグルをした彼女が、タバコを咥えながら、跪く真島に歩み寄ってきたのだ。
「はぁ……はぁ……!」
「悪いが、お前の仲間はだいたい始末させてもらったよ。ここでお前達のような無軌道な凶悪犯を生かすと、後々千束の未来に悪い影響を残す可能性が僅かにだがありそうだからな。特に、お前のようなギフト持ちには」
「何を、言って――」
真島が聞く前に、今度は真島の左膝が撃ち抜かれ、彼が地面に伏しする事によって途絶える。
「がっ……!?」
「さて、教えてくれ。お前達の目的、お前達のボス、お前達の支援団体、諸々をな」
「……誰が、言うか!」
「…………」
黒花は真島の傷口にナイフを突き立て、刺し抉る。
「がああああああああっ……!?」
「二度は言わん。お前の知っている事を、すべて教えろ。そうすれば、解放してやってもいい」
「…………!」
真島は一瞬ぐらつく。その声は本気だったからだ。
幾多の声を聴いてきた、彼には分かった。
だが、彼は言う。
「……糞食らえ、だ!」
「……そうか。お前が一番若くて脆そうだと思ったんだが、当てが外れたようだ。あいにく、制御できない
黒花はそう言うと、真島の頭に銃を押し付け、そして――
「さようなら、名前も知らないギフテッド」
タバコの灰を口元から落としながら、脳天を撃ち抜いた。