【完結】狂い咲きオンスロート~殺し屋から少女になった男の殺戮願望~【第二部】   作:詠符音黎

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「千束がDAを抜けた?」

 

 電波塔事件からすぐ。黒花はフキから聞かされた言葉に驚きを隠せなかった。

 

「どういうことだ? DAを抜けることなんてできるのか?」

「あー、正確には辞めたわけじゃないんだ。DAの拠点から出ていって、支部を作ってそこで生活するんだとよ」

「支部……どうしてそんなまた」

 

 黒花には分からなかった。

 不殺で仕事をこなすことは現状DAでもできていた。わざわざ移転する意味がない、と。

 しかし、フキから帰ってきた答えは彼女を納得させるには十分なものだった。

 

「救世主さんを探すんだとよ。探して、お礼を言いたいらしい。だからDAを離れて、一人でやっていくらしいぞ。ったく、本当に勝手なやつだ……先生まで連れていきやがって」

「ふぅん、なるほど、そういうことね……って、先生連れて行ったって、もしかしてミカ先生の事か?」

 

 ミカとはDAの訓練教官の事である。片足を怪我しており前線を退いているらしいが、その腕前はかつて凄腕の殺し屋と呼ばれた黒花も舌を巻くものであった。

 

「そうだよ。ったく、ムカつく……行きたきゃ一人で行けっつんだ」

「……ま、先生は千束の事を自分の娘のように可愛がってたところがあるからな。一緒に行くのも分からんでもない。そしてフキ、お前が先生の事を好きなのも丸わかりだから、残念だったなと言っておこう」

「ハハハ、ハァ!? 何言ってんだ!? だ、誰が誰の事好きだって!? リコリスは恋なんてしねぇんだよ!」

 

 真っ赤になって否定するフキを見てニヤつく黒花。

 もっとからかってやろうか、といういたずら心が湧いてくる。

 

「……いや、ナシだな」

 

 が、結局止めた。

 彼女には確認しなければならない事があったからだ。

 

「あ? 何がだよ」

「いや、なんでもないよ。ま、せいぜい頑張れよ。お前の恋路、応援してるからさ」

「だから恋路じゃないって……! てか、どこ行くんだよ!」

 

 憤るフキを背に、黒花は歩き出す。

 彼女が向かった先はDAの司令、楠木のオフィスだった。

 

 

「……で、実際のところどうなんだよ」

「いきなり部屋にやって来たと思ったら不躾な奴だな」

 

 黒花は楠木と対面のソファーに足を組んで座っている。

 楠木は眉一つ動かしていないが、呆れていることは伝わって来た。

 

「いやだからさ、千束がここを出ていった理由、あいつの足長おじさんがつまるところアラン機関の人間かどうか聞きたいんだよ。DAならそれぐらいの調べはついているんじゃないのか?」

「……お前がそれを知ってどうする」

 

 楠木は問い詰めるように聞く。

 それに対し、黒花は答える。

 

「いや、ただの事実確認さ。正直、俺の中ではほとんど答えが出てる事なんだ。でも一応、確かなルートから確証を得たくてね」

「ふん、そんなことのためにわざわざ私のオフィスにまで来たか。ご苦労な事だ。……正直に言えば、こちらも確証は取れていない。なぜなら千束の手術はほぼミカの独断で行われたからだ」

「先生の?」

「そうだ。だから千束に人工心臓を渡した相手がどんな人間か知っているのはミカだけだ。だがまあ、お前の推論は間違ってはいないと思われる。千束は、例のネックレスを心臓の送り主から貰ったと言っていたからな」

「……やっぱりな。まあ、こっちもあいつの発言からほぼ分かってたから、裏が取れてなによりだよ。じゃあな」

 

 そう言って黒花は立ち上がる。そんな彼女に、楠木は言う。

 

「待て、黒花。……あの電波塔事件、どうして千束が生かした者たちを殺した?」

「……聞いておくけど、今回の事千束には?」

「伝えていない。何かと揉めそうだからな」

「ならよかった。ま、そうするよな普通。……あの手の思想犯は、生かしておくと後々厄介な事になるからな。特に、そのしっぺ返しが千束に返ってくる事だけは防ぎたい。だから、殺したのさ。千束が経験する障壁は、一つでいい」

「一つ?」

「ああ。この俺さ」

「…………」

 

 楠木はその意味を分かりかねていた。彼女の言葉は、とても齢十に届かない少女のモノとは思えない。そんな薄ら寒さすら、楠木は感じていた。

 

「あ、そうそう」

 

 と、そんな事を楠木が感じていたとき、黒花は立ち止まり振り返って言った。

 

「俺も、DA抜けるから」

「……は?」

 

 

   ◇◆◇◆◇

 

 

「というわけで、今日からよろしくお願いします!」

 

 黒花はそう言いながら頭を下げる。

 場所はまだ開店前の喫茶、リコリコ。

 彼女の頭の先にいるのは千束、ミカ、そして元DA情報部の中原ミズキだった。

 

「……え、ええええええええっ!?」

 

 千束が大仰に驚く。

 ミカもミズキも、千束ほどではないが驚いているようだった。

 

「どどど、どうしてっ!? 私はともかく黒花はDA抜ける理由はないじゃん!?」

「まあそうなんだけど……外の方がいろいろと気楽そうでね。正直、俺はDAの堅苦しさは合わないんだよ」

「うーんそっかー……あ、でも黒花って私と一緒の仕事はしないんじゃ……? 前、そう言ってたよね?」

「ああ、それは変わらんよ。ここがDAの支部である以上、そこから仕事は来るだろうが、その際お前と一緒に仕事をすることはない。でも、仕事なら別々にすることもできるだろ?」

「うーん……確かにそれはそうだけど……」

 

 腕を組み悩む姿を見せる千束。

 そんな千束に、黒花は言う。

 

「なあ、頼むよ。実はさ、俺も探したい人がいるんだ。お前と一緒でな」

「え? どゆこと?」

 

 千束は聞き返す。そんな彼女に、黒花は見せる。

 

「ほら、コレだよ」

 

 アランチルドレンの証、フクロウのネックレスを。

 

「あ、あーっ!? 黒花も、そうなのっ!?」

「あらまこれは驚いた……」

 

 千束とミズキが声を出して驚く。ミカも声こそ上げていないが、驚いているようだった。

 

「ああ、さすがにお前の救世主さんと俺の救世主さんが同じかは分からないが、同じ組織にいる人探しって点では重なるだろ? だから、一緒にいられないかと思ってな」

「うーん、そういうことなら……救世主さんを探したい気持ちは、私にも分かるしね!」

 

 千束は無邪気に笑って言った。

 その顔は太陽のように明るく、微笑ましいものだった。

 

「よし、それじゃあ話は決まり! これからよろしくな、千束!」

「うん、よろしくね、黒花!」

 

 そうして二人は握手を交わす。そんな二人を、ミカは渋い顔で見つめていた。

 

 

「さて、じゃあ俺は用意した自分のセーフハウスに行くから、仕事始まったら言ってくれ」

 

 黒花は一通り話すと、リコリコをそう言って後にしようとする。

 そんなときだった。

 

「待て」

 

 リコリコから少し離れた脇道で、声をかけられ止められた。

 声の主は、ミカだった。

 

「やあ先生、どうしたんだい?」

「お前の本当の目的はなんだ」

「……だから、人探しを」

「お前がそんな人間じゃないことは、少し教えていた私にも分かる。お前には何か別の目的がある。そうだろう?」

「…………」

 

 声は穏やかだが、表情はやや巌しいミカ。

 そんな彼の問い詰めに、一瞬黒花は無言になり、そして言う。

 

「……俺はね、千束が好きなんだ」

「千束が?」

「ああ……なあ、今はこの理由で許してくれないか?」

「……分かった。お前も私の教え子の一人だ。信じよう。でも、もしも千束に何かしようとするなら――」

「大丈夫、千束に手を出すことなんて、ないよ。それじゃ」

 

 黒花はミカに背を向け一人歩いて行く。

 

「……今は、な」

 

 そして、彼には聞こえない小さな声でそう呟くのだった。

 

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