墓場   作:埴輪庭

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サディスティック冒険者

 ◆

 

 “侵略者”という存在がいる。

 これは魔獣とも違う別種の怪物だ。

 100年以上前に世界規模で地殻変動が起き、各所に“穴”が空いた。侵略者はその穴から来たとされる。

 

 “穴”が見つかった当初、どの国もさほど問題視はしなかった。

 いや、調査の必要は認めていたものの、“穴”に危急の措置が必要だとは思わなかったのだ。

 

 無理もない。

 穴は空いた。

 しかしだからなんだという話であった。

 穴は空いたものの、そこから何かが這い出てくるわけでもなかったからだ。

 

 しかしある日、各地の“穴”から侵略者たちが溢れ出し、人々に襲いかかり始めた。それはまるで、彼らが長い間待ち構えていたかのようだった。無数の侵略者たちが、都市を焼き尽くし、人々を蹂躙した。

 

 世界は混沌とし、国境や文化の壁は無意味となった。生き残るため、人類は団結せざるを得なかった。かつて敵対していた国々も、今では互いに協力して侵略者と戦っている。

 

 各地の穴は入口は無数にあるが、最終的には一つの場所へと収束するように作られている……と噂され、その終着点には“侵略者”を生み出す元凶がいるとされている。

 

 ◆

 

 いきなりこんな事を言うのはなんだが、私は奴隷が好きだ。

 特に欠損している奴隷が好きだ。

 一人では生きていけない奴隷が大好きだ。

 

 欠損が酷ければ酷いほど良い。

 なぜなら安いし、なによりも欠損度合が酷ければそれだけ他者へ依存しなければ生きていけないからである。

 連中は優しくすればすぐ懐く。媚びる。

 媚びてきたら好きな様に扱う。

 

 身の回りの世話をさせてもいいし、性欲処理に使ってもいい。何をさせても連中は文句を言わない。

 私に捨てられる事は死を意味するからだ。

 

 私に何をされても媚びへつらわなければ生きていけない者たち……私のために何でもする者たち……そんな者たちが私は大好きだ。

 

 私は弱者が大好きなのだ。

 

 §§§

 

「おはよう、メイ」

 

 朝、私が声をかけると、メイはまるで花が開いたかのような笑みを浮かべる。

 

「おはようございます、ファルガ様」

 

 ファルガ。

 それが私の名前だ。

 

 この辺では知らない者はいないだろう。

 品行方正、謹厳実直。

 業前優れたる冒険者、ファルガ。

 私は優れた冒険者だ。

 剣の理、魔の理を佳く解する。

 生存の知識も豊富だ。

 

 私は天才だ。

 

 一年前、王都を騒がす元上級冒険者の連続殺人犯を仕留めたのは誰だ? 

 私だ。

 

 二年前、難病に苦しむ王妃を救うために単身で深層に挑み、霊薬の材料を採取してきたのは誰だ? 

 私だ。

 

 三年前、迷宮深層から“上位侵略者”がのぼってきた時、王軍でさえも蹴散らして暴虐を振るったソイツと三日三晩殺し合い、ついには討伐し、王都を救ったのは誰だ? 

 私だ。

 

 私はなんでもできる。

 ゆえに人は私を“万能”のファルガと呼ぶ。

 

 §§§

 

 メイは3年程前に闇市で購入した奴隷だ。

 左腕と右眼が無く、足の指は親指が切断されていてうまく走れないように“措置”されていた。

 

 年の頃は16、7……それくらいだったと思う。

 

 見目は今でこそ麗しいと言えるかもしれないが、当時は酷いものだった。片目が抉り取られて表情が完全に死んでいて……皮膚には蛆が這っていた。死病を患っていたのだ。

 

 ここまで状態が酷いと値段も相応に割り引かれる。

 哀れ、メイは銅貨20枚という値段で売りさばかれたわけだ。通常、そういう奴隷は“部分取り”に使われる。

 部分取りとは要するに腑分けして、まあ呪術かなにかに使うわけだ。

 

 だが私はメイを購入し、神殿に大金を支払って上級治癒を頼んだ。私がやってもいいが、私は余りにも天才過ぎる。天才すぎてあっという間に治癒してしまうだろう。それでは恩に着せられない。それは駄目だ。もっと恩に着てもらわねばならない。

 

 メイは今後、自身の腕を見るたび、瞳をみるたびに俺を思い出す。そして感謝をする。

 メイがいつか出会うであろう恋人……あるいは夫に抱かれている時も、俺の事を思い出し、夫なり恋人なりに罪悪感を抱くだろう。

 

 それを想像するだけで私は下半身が熱くなる。私はメイの未来の恋人からメイを寝取っているのだ。

 

 ・

 ・

 ・

 

「ファルガ様、本日はどうされますか?」

 

「今日は鍛錬にあてる。最近気付いた事だが空と(そら)は異なるようだ。その辺りを探っていく。メイも知っているだろうが、私は集中すると飲食を忘れるからな。メイ、しっかり私の世話をしてくれよ」

 

 メイの言葉に私がそう答えると、メイは頬を赤らめて是と答えた。

 私が何をして何をいおうが、今のメイはそれを逆らわず受け入れるだろう。私がそう洗脳したからだ。

 

 無垢な笑顔だ。

 乙女の笑顔だ。

 

 この笑顔を浮かべている彼女の頬を引っぱたけば、メイはそれでも笑っていられるだろうか? 

 

 いや、拳を叩き込んでもいい。

 私の膂力で突けば、メイの顔面は木っ端微塵に砕けるだろう。首から上を喪失し、ピュウピュウと血を吹き出すメイ。

 

 ギチギチと私の拳が音を立てる。

 

 もちろんそんな事はしない。

 しないが、メイが傷つき、悲しむ姿を想像すると魔力が滾る。

 メイだけではない。

 弱者を労り、慈悲を与え、信頼を得たらおもむろに暴力を振るう……そんなことを想像する、する、する……。

 

 ◆

 

 エドラ王国の金等級冒険者、ファルガ・ロウは極度のサディストだ。弱者へ暴力を振るう事を好む。

 相手が弱ければ弱いほど、ファルガの嗜虐心は燃え上がり、理不尽な暴力でめちゃくちゃにしたくなるのだ。

 

 だがやらない。

 実行には移さない。

 

 それどころか可能な限り紳士的に振るまい、弱者を虐げるどころか救済をしている。

 だから彼はエドラの民から慕われ、愛されている。

 

 ファルガはその気になればいくらでも暴虐に振る舞える男だが、あえてそれをせず、気を昂らせ、力をため込んでいる。

 

 ファルガには目標があるのだ。

 迷宮最深部に辿り着き、"侵略者" 共を地上に送り出しているという魔神……。自分が強いと思っているであろうそいつをぶちのめし、叩き潰し、しゃぶらせて命乞いをさせるという目標が。

 

 だが、天才ファルガをして迷宮深部は恐るべき魔境であった。

 

 ──凡俗には感じ取れぬだろうが、地上にまで流れてくる魔の波動、私にはよくよく分かるぞ。今は手が出せぬが、今に見ていろ。このファルガが魔神……魔の神とやらにマラを突っ込んで、この天才の種を飲ませてやる

 

 魔力を高めるには精神の練磨が不可欠。

 ゆえにファルガは生来のド畜生マインドを抑え込み、か弱き少女の顔面を叩き潰したいという欲求を完全に制御しながら、日々魔力を高めているのであった。

 

 目指すは天地魔界最強の存在である。

 老若男女、種族を問わず凌辱し、暴虐を振るい、虐待せしめるためには相応の力を身につけなければならない。

 

 故にファルガは迷宮に挑み、ストイックに鍛錬を積み続けるのだ。

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