翌日、俺は洞窟苔の採取護衛依頼を受けることにした。
これは錬金術士ギルドの人達が迷宮の浅層で繁茂する苔を採取する間、魔物から襲撃を受けて万が一が起こらないように護衛をするというものだ。
俺を含めて、4名の探索者が護衛に当たる。
戦士のマイト
戦士のジャド
戦士のニア
魔法使いの俺
戦士が多すぎるが、こんなものだ。
特殊な技能を持つものはこんな子供の使いみたいな仕事ではなく、別の仕事がある。
「よう、あんた魔法使いだろ?なんだってこんな依頼をうけたんだ?」
マイトが聞いてくる。
探索者の間での詮索はご法度だろーがよ。
とっぽい奴だな。
俺が荒っぽい冒険者ならここで拳がとんでもおかしくない。
その類の質問だぞ、不躾な詮索っていうのは。
「僕の親が錬金術を嗜んでいるんです。それでちょっと興味がでてきましてね、もしいざとなった時には僕が親の後を継ぐかもしれませんから」
もちろん嘘だ。面倒くさいから理由をでっちあげた。
よく物語とかだと、答える必要はない、とかいっちゃう主人公がいるが、俺には理解できない。
気に食わないからつっけんどんにする、なんてまるでガキではないか。
まあ全部嘘だとなんとなく悪い気がするから少しだけ本当の事を混ぜた。
錬金術にちょっとだけ興味あるというのは本当のことだ。
そんなこんなで、俺達は迷宮に向かった。
■
迷宮は街はずれにある。見た感じは小さな洞窟だ。
だが奥に鉄の扉があり、その先には階段がある。
地下への道。
その先広がる空間こそ、この世界のダンジョンと呼ばれる場所だ。
迷宮内には魔力が溢れており、それはあらゆる物質に含まれているという。
洞窟苔はこの魔力を吸収した苔のようで、色んな薬の原材料になるのだとか。
目的地までは30分ほど歩く必要があり、魔物も恐らくはでてくる。
といっても浅層なのでせいぜいがブロブとかだろう。まあ子鬼くらいは出てくるかもしれない。
ちなみに今回のリーダーはマイトだ。
唯一の魔法使いということで、とリーダーを頼まれたが断わった。
俺もコミュニケーション能力には乏しいが、マイトみたいなわかりやすい奴の考えていることは一応わかる。
こいつは自分からリーダーをやりたいというと格好悪いとおもってるのだ。
だが本心では自分がやりたがっている。
妄想だとおもうか?
だがマイトにリーダーを頼んだら、凄くうれしそうだったぞ。
ともあれ、今のところはこの一団も人間関係が円滑でよろしい。
トラブルとは人間関係が起因するケースが多いからな。
譲れないこと、仕方のない事はのぞいてわざわざ軋轢の種を作る必要はない。
まあこの分ならスムーズに依頼も済むだろう。
・・・
・・
・
だめでした。
「なあ、あれはコボルトだよな?少し遠いけれどこっちに気付いていないみたいだ、倒そうぜ!」
と、マイト。
なんでや。ルートから外れてるじゃん。一々いかなくていいだろ。
俺ら討伐じゃなくて護衛にきてるんだからちゃんと仕事しようよ。
ほらぁ、錬金術士さんたちだって胡乱げに見てるじゃん。
大丈夫か、こいつらみたいな目で見てるよ。気づこうよ。
「いえ、距離も少しありますし、僕らは錬金術ギルドの護衛を請け負ったわけですしね、やめておきましょう。それにあのコボルトがみえる場所はルートから外れていますから」
俺がいうと錬金術士さんたちは安心した様子だった。
本当にごめんね、コイツが馬鹿で。
「なにいってんだ!あいつが後ろからつけてきたら危ないじゃないか!それにコボルトだぞ、ビビってるなんていわないよな?」
マイトが不敵に笑っていう。
「ビビってます」
俺は堂々と言い、つづけた。
「ただ、コボルトにビビってるのではく、依頼主の信用を失うことにビビっています」
「あのコボルトはこちらに気付いていませんし、進行ルートから外れた場所にいます。わざわざ進路を外れて倒す意味は余りないし、錬金術ギルドの皆さんの護衛の枚数がへってしまうと、それだけ万が一の場合に対応しづらくなります」
「向かってくるようなら倒しましょう。奇襲については、そのために僕が最後尾にいます。この階層の敵が僕の感知魔術を抜けてくる可能性は低いでしょう」
ここで、素人にもわかる程度に魔力を放散させる。
マイトたちにはこれは威圧感のような、プレッシャーのようなそういう重圧に感じるはずだ。
だがこれだけは済まさない。
ですが、と俺はつづけた。
「先々の危険に配慮して、前もって危険を排除しようという考えについては賛同します。マイトさんはやはり戦士の適正があるのでしょう、その勇気、雄々しさは一流の戦士となるために絶対必要なものだとおもいますよ」
俺が一気にここまでいいつのると、最初はいらだった表情のマイトもその様子をやわらげ、うんうんと深くうなずいていた。
「確かに…そうだな、無理をする必要はないか。分ったよ、ウーリ。ここはお前の判断に従う」
俺は心中で唾を吐き捨てた。
手間をかけさせやがって。
ただ、言ったことは本当だ。
一流は時として危険だとわかっていてもその渦中に飛び込むだけの勇気がなければならない。
マイトが勇気や雄々しさを伴った行動をとろうとしていた、とは欠片もおもっちゃいないが。
あいつはただ何も考えていないだけだろう。
だがここは折れてはいけない場面だった。
譲れないこと、仕方のない事はのぞいてわざわざ軋轢の種を作る必要はない、と前にいったがまさに軋轢の種となってでも諭すべき場面だ。
魔法使いはパーティでもっとも冷静でなければならない。
雰囲気に流されることはあってはならないのだ。
まあそんなこんなで無事依頼も完了した。
マイトの名前は覚えておく。
二度と組まない。