【完結】チートツール×フールライフ! ~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~   作:黒片大豆

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第1話【後編】

「さてと」

 

 サックは部屋に入って早々、『お香』を覗き込んだ。

 そして、腰ベルトのホルダーから薬包紙に包まれた粉末を二種類取りだし、お香の中に放り込んだ。

 

 サックを部屋に送り届けて暫くしてから、メイドはその場を出ようとした。

 

「ちょっとまって……と言っても、無理か。強引に行くね」

 

 サックはメイドの首根っこを掴んでお香の前まで引っ張った。

 首が締まって苦しいはずだが、メイドは特になんともせず、まるで人形だ。

 

 サックはメイドにお香の匂いを嗅がせた。先ほど別の何かを追加したため、甘い香りは消え、するどい尖った香りに変わっていた。

 

「……!!!」

 

 すると、匂いを嗅いだメイドが急に眼を見開き、そのまま白目を剥いて気を失ってしまった。

 

「おっと! ……直接だと濃すぎたか。でもこれで、建物に充満させれば……」

 

 メイドが倒れる前にキャッチし、ゆっくりとベットに寝かせた。

 

「あとは、もう少し『証拠集め』かな、キッチンと……あと、裏庭にあった小屋だろうな」

 

 ベットに寝かせたメイドに深く毛布を被せ、誰が寝ているかわからない状態にした。

 

「全く。俺はことごとく『女運』が無い」

 

 そして、皮のマントを手に取り、部屋をあとにした。

 

 

 

 

 メイドが戻ってこないことに、ニオーレは気になっていた。

 

「あのむっつりスケベ……メイドに手を出したか!」

 

 ニオーレは執事を二人つれ、サックの部屋に向かっていった。

 客人を慰める……といった風貌ではない。

 彼女は右手に皮のムチを持ち、執事もそれぞれ物騒な武器を携えていた。

 

 バン! 

 ノックもなく勢い良く扉を開け、ニオーレはベットの毛布を剥いだ。

 

「……あの男っ! なんで動けるのっ!」

 

 そこに寝ていた、気を失っているメイドを気にかけることなく、サックが居ないことが信じられなかった。

 

「まさかあいつ……私たちの秘密を嗅ぎ付けてきたかっ! おいお前ら! 奴を捕まえに……!」

 

 声を荒らげニオーレが執事たちに命令したが、

 

「……!」

 

 2人の執事は急に倒れこんだ。

 メイドと同じく『お香』の匂いを嗅いだからだろう。

 

「こ、この香りかっ!」

 

 ニオーレは即座に、お香の器を床に投げつけ、割れ出た香を踏みつけ消した。

 

「なめた真似をっ! 行商人の分際でっ!」

 

 怒りに任せてムチで香の灰を叩いた。うっすらと灰が部屋に舞った。

 

 

 ++++++++++++++++

 

 

「あっは♪ あなたの中身、素敵ね」

 

 ザクり。ザクり。

 

 家主の妻……ニオーレの母親だ。

 屋敷の裏庭。目立たない場所に建てられた小屋の中で、彼女は『解体』を楽しんでいた。

 

「……」

 

 解体『されている』男は、先ほどまで執事として働いていたが、薬の効きが悪く、命令に従わなくなったため、彼女自らが『解体』しているのだ。

 

「どう? 痛覚を麻痺されたまま、身体を分解されて行くキモチ……ゾクゾクするわ。あなたもわたしも……」

 

 ザク。ザク。

 

 天井から両腕を吊るされた男。だが、すでに男の腹部より下は無くなっていた。

 軽くなった身体が風に煽られ、簡単に左右に揺れる。

 

「……風?? 扉は閉めて……」

 

「なかなかなご趣味で。教育熱心なのですね」

 

 トスン。

 

 彼女の首に『何か』が刺さった感覚がした。

 が、どうやら、それは神経にまで達していたようだ。

 激痛が彼女を襲うが、しかし、併せて『何か』が喉にも刺さった。声帯を貫いたのだ。

 

「……!! ……!!」

 

 ひゅー、ひゅーと、息が抜けるだけの音が小屋に流れた。

 

「……想像を遥かに超えてきたな。こいつは」

 

 突然、男が姿を表した。何もなかったはずの場に、サックはマントを翻し立っていた。

 

「……いま下ろしてやる」

 

 サックは、下手な口笛よろしく空気の抜ける音を奏でるニオーレの母を無視し、吊るされた男を下ろし横たえた。腹部より下はすでに無く、内蔵がもてあそばれていた。

 出血も激しく、もう永くはないだろう。

 

「遺言は聞く。しゃべれるか」

 

 サックは男の口元に耳を近づけた。

 男は最期の力を振り絞り話した。

 

「……娘を……奴らに捕まった……助けて……」

 

 それ以上は、彼は話すことはできなかった。

 

「……」

 

 サックは、彼の眼を静かに閉じた。

 

 バタッ! バタッ! 

 

 激痛によりのたうち回る母。男の鮮血にまみれた床に自らの身体を擦り付ける格好となり、全身血まみれだ。

 

「痛覚を増進させつつ、気を失わないよう覚醒のツボも刺しておいた。良かったな、まだ生きていられるよ」

 

 

 ++++++++++++++++

 

 

「お父様! お父様大変です!」

 

 ニオーレは父親の部屋に向かった。

 母の部屋には誰もいなかった。いつもの『お遊び』に行ったのだろう。

 薬が効きにくい『廃品』を処分する遊びだ。

 

 父も父で、今は『お遊び』をしている頃だ。

 お気に入りの『メイド』にさらに薬を盛り、完全催眠状態で性的な夜伽をさせている。

 最近は目下、かなり若い娘にお熱だ。

 

「お父様……」

 

 ニオーレが父親の部屋の前に着いたとたん、

 

「う、うああぁぁぁぁつ!!!」

 

 父親が飛び出してきた。

 裸一貫、何も身につけて無かった。

 彼も彼で夜伽を楽しんでいた最中に、透明な彼に襲われたのだ。

 

 飛び出してきた父は、首に長い『串』が刺さっていた。

 台所の調理場にある、バーベキュー用の串だ。

 

 はっ! と、ニオーレは父親の部屋を覗き込んだ。

 

 夜の営みを行う直前だったのか、強めのお香が炊かれており、ベットには齢10歳ほどのメイドの女が、服を脱いで横になっていた。

 

 が、そのメイドの裸を隠すように、ふわりと毛布が舞った。

 

「……そこっ!」

 

 ニオーレはムチを振るった。そこに誰かがいる! 

 

「おっと」

 

 ムチはマントを叩いた。すると透過していたマントは効力を失い、そこに、サックが現れた。

 

「……面白いマジックアイテムを持っているのね、行商人!」

 

 ニオーレのするどい眼差し。

 

「……『擬態獣』の体毛で編んだマント。衝撃を受けると暫く使えないのだかね」

 

 パンパンっと、叩かれた場所に付いた汚れを叩くサック。

 

 ギリギリと、ニオーレは歯軋りした。

 

「あなた、なぜ紅茶とお香が効かないの?! 私達親子の最高傑作なのよ!」

 

 ああ、と、サックは残念そうに返事をした。

 

「やっぱそういうことか。強烈な麻酔作用の紅茶と催眠のお香で、旅人を奴隷に仕上げていたな、小屋は差し詰め屠殺場か」

 

「……お母様に会ったのね」

 

「小屋で寝てるよ」

 

 ニオーレの怒りの表情は変わらなかった。

 

「いつから気づいてましたの?」

 

 サックが少し上向きに目線を向け、出会ったときの事を思い出した。

 

「トゴとジェフって人たちの遺体かな。用心棒って割には、肉付きが不自然。薬で痩せたあと増進剤で無理やり筋肉つけたような感じだった。あ、確信はお茶の葉の香りだね」

 

 サックは自分の鼻に指をやった。

 匂いでわかったよ、というジェスチャーだった。

 

「……お香に細工し、自分は無事。あなた本当は『薬師』ね、それなら薬に抗体があるのも理解できるわ」

 

 ニオーレはふっと表情を和らげた。

 ドタドタと、廊下から足音。

 館のメイドと執事が集まってきた。

 彼らは一様に手に武器を携えていた。

 

「秘密を知ったからには生かしておけませんわ。あなたの得意の足技も、そんな粗末な靴では本領発揮できないでしょ」

 

「『出来ない』ね。する必要もない」

 

 ニオーレはメイドたちに号令を出した。目の前の侵入者を始末しろと。

 

 が、

 

 彼らが部屋に入るや否や、突然バタバタと倒れ始めた。

 

「この部屋の『お香』も変えておいた。さっきとは違って、匂いは変えずに調合したから、気づかなかったかな?」

 

「なっ……この短期間で調合なんて不可能よ!! この配合を見つけるのに何年かかったか……ひっ!!」

 

 突然、サックがニオーレの目の前に現れた。

 常人が気づかないほどの高速移動であった。

 

「いい靴だ。『使えば』足音も消せる」

 

 トンっ……。

 

 刹那。ひらけたニオーレの胸元に、短い金属の針状のものが突き刺さった。

 これも調理用の『串』だった。

 

「あ……れ……」

 

 痛くはなかった。しかしニオーレは、強烈な脱力に見回れその場で崩れ落ちた。

 

「神経に作用させて麻痺させたよ」

 

 こいつ何者だ。

 ニオーレは思った。

 自身は『鑑定士』『行商人』と名乗るが、並みの『薬師』以上の調合能力。

 そして、キッチンにある串をまるで『暗器使い』のごとく使いこなす。

 

「……に、ニオーレ……」

 

「お、お父様!」

 

 倒れた先に、すっぽんぽんの中年(ニオーレ父)がいた。彼はまだ生きているが、首から下は痺れて動けないようだ。

 

「ニオーレ、ワシ思い出したぞ、この男! 七勇者が一人『道化師 アイサック=ベルキッド』だ!」

 

 その時、窓から月の光が差し込みサックを照らした。すると彼の左首筋から額にかけて、花弁状の痣が浮かび上がった。

 

 女神に祝福され、勇者として認められた者に浮かぶ痣……。

 

 七勇者の一人である、確たる証拠だ。

 

 

「……いや、違うよ?」

 

「嘘おっしゃい!!」

 

 渾身のツッコミを入れるニオーレ。

 ここまでバレバレで、なぜかシラを切るサック。

 

「ホント違うんだって……」

 

 ポリポリと、頬を掻きながら説明を続ける。

 

「俺の最終能力(マスタースキル)は、潜在解放(ウェイクアップ)

 

 サックはニオーレが落とした皮のムチを拝借した。

 

「道具の秘めた力を、根底から引き出す能力。例えば何の変哲もないこの皮のムチに《潜在解放》すると……」

 

 ブヒュン。

 

 サックはムチを壁に打ち付けた。

 すると、

 

 ドゴォォォ!!!! 

 

 激しい音と共に、壁に穴が空いた。

 砂埃が部屋を満たす。

 

 唖然とするニオーレ。単なる皮のムチで強固な石の壁を軽々と吹き飛ばしたのだから無理もない。

 

「ただ、解放しすぎると壊れる」

 

 ポイ。

 サックは手に持った皮のムチをニオーレに返した。ムチ部分はボロボロに解け、使い物にならなくなっていた。

 

 ニオーレは思い出した。彼に初めて会ったとき、グリーブはボロボロに壊れた。

 彼はグリーブにこの力を使っていたのだ。

 

「この力、あらゆる道具に精通しなければ使えない。『鑑定』『行商』『薬剤』『調合』、あと『錬金術』『暗器』『武器鍛冶』『修理』その他もろもろ……」

 

 つまり、彼が言いたいことは。

 

「……『道化師』じゃなくて、『道具師』ね。『道具師、アイサック=ベルキッド』」

 

「……へ?」

 

「新聞屋が誤字ったあと訂正せず、そのまま広まったらしい。まー、『新聞』らしいことしてくれたよな……」

 

「じゃあ、追放されたのも誤報……?」

 

 うーん……。

 サックは腕を組み、返答に悩んだ。

 

「そこはまあ……ノーコメントってことで……」

 

「……隙ありっ!!」

 

 ニオーレが突然起き上がり、襲ってきた。

 彼女を留めていた『串』が外れていたのだ。ずっと『隙』を伺っていた。

 太もものベルトに仕込んでおいたナイフを握りしめ、サックの首めがけて飛びかかった。

 

「『影踏み』」

 

 ガクン! 

 

 突然ニオーレの動きが止まった。

 突進する格好のまま固まってしまった。

 今度は首から上も動かない。

 

「素敵な靴をありがとう。粗末なんてとんでもない。『縮地』に『絶歩』、それに『影踏み』……希に存在する『レア物』だったよ」

 

 サックは履く靴を鳴らした。ニオーレの影がサックの足元まで延びていた。

 影を踏みつけることで対象の動きを完全固定する、その靴の固有スキル。サックはそれを『解放』したのだ。

 

「あ……あ……」

 

 先ほどとは異なり、会話することすら封じられたニオーレ。わずかに声が漏れるだけだった。

 

「さてと」

 

 影を踏みながら、ニオーレに近づき、今度はナイフを拝借。

 

「オイオイ、これも一級品じゃないか! 解放すれば『首狩り』が使えるぞ! ……どれどれ」

 

 サックは早速、ナイフをニオーレの首に近づけた。

 

「ひ……」

 

 影踏みでまともに声すら出せない状態。

 顔が強ばる。汗だけは人並みに吹き出す。

 助けてください、の命乞いすら出来ない。

 

「や、やめろ! 娘だけは助けてやってくれっ!」

 

 家主であるニオーレの父が叫んだ。

 彼は、ここで真の父親らしいことをした。

 

「サック! 勇者アイサック! 勇者でありながら命乞いする人間に手を掛けるか! やめろ! 止めてくれ! 殺すならワシにしろ!!」

 

 まだ肩から下がまともに動かない状態の、裸体小太り中年が、父親の威厳を見せつけた。

 

「……」

 

 ニオーレの眼から、涙が溢れた。父の優しさに涙した。

 

「やめた」

 

 サックは、ニオーレの太ももに巻いてるホルダからナイフの鞘を外した。

 そして、青光りする刀身のナイフを入れ、自分の腰ベルトに挟み込んだ。

 

「『影踏み』も外すよ」

 

 途端、ニオーレの体が勢いよく倒れた。影踏みは慣性はそのままに縛るようだ。

 

「お、お、お父様!!」

 

 涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、父親のところに駆け寄った。

 サックは、父親に刺さっていた串を抜いた。

 

「に、ニオーレ!!」

 

 抱き合う二人。

 真に死の間際まで追い詰められたことで、改めて親子愛が強くなったのだろう。

 いわゆる、これも『吊り橋効果』である。

 

「なんか、どうでもよくなっちまった。あんたらに特に恨みとか、俺、よく考えたら無いわ、あとは憲兵とかに任せる」

 

 サックは、そんな親子劇場を見せつけられて、興覚めしたようだ。

 

「あ、ありがとうございます。もうこんなことはしません! 女神に誓って!」

 

 ニオーレが泣き顔で感謝を述べた。

 

 ……が。

 内心は、サックに舌を出していた。

 この街の憲兵だったら、上部にワイロをたんまり配っている。なんなら、お茶も渡している。

 うまく辻褄合わせて、なんなら「追放された勇者」をダシにして、サックを脅迫できるんではないか……。

 

 と、腹黒い算段を立てていた。

 兎にも角にも、ここで私たちの命を奪わなかったサックには感謝だ。

 

「……ま、俺はそう思うけど」

 

 サックは、かれらを指さした。

 

「こいつらは、どう思ってるのかね」

 

 むくり。むくり。

 

 執事とメイドが起き上がり始めた。

 彼らの目は、先ほどとは打って変わって、生気に満ち溢れていた。

 が、一様に、怒りの表情であったり、大粒の涙を流すものだったり。

 拳を強く握りすぎて出血しているものだったり。

 

 様々な感情が見え隠れしていた。

 

「……はへ?」

 

 これに驚いたのは、ニオーレだった。

 お茶とお香を嗅ぎ続けた人間が、感情を取り戻すとは思ってなかったからだ。

 

「このお香、彼らを気絶させるものじゃない。『治療』させてたんだ。脳のかなり深い部分まで侵されてたから時間かかったけど……あ、安心しな、奴隷だったころの記憶は『すべて残っている』よ」

 

「なん……ひっ!!」

 

 気づいたら、ニオーレと父親は、元メイドたちに囲まれていた。

 田舎からの出稼ぎに来た者たち、

 冒険者として旅をしていた者たち。

 

 親。

 子供。

 配偶者。

 旅の仲間。

 無二の親友。

 

 そして、自身の人生をぐちゃぐちゃにされた者たちだ。

 

 彼らが、ニオーレたちを許すとは、到底想像できない。

 

「ま、まってくださいま……ぐぶっ!」

 

 ニオーレの整った顔に、女メイドが持つ(メイス)の一振りがクリーンヒットした。

 これを皮切りに、執事とメイドの復讐劇が開幕した。

 

「息子のカタキだ!」

「よくも! よくも!」

「父をどこへやった!」

「トゴとジェフを……返せっ!」

「くそっ! くそっ! お前らのせいで!!」

 

 ばぎっ どごっ ぐしゃ

 

「いやあ! 誰か! 誰か助けて! た、助け……」

「ぎやぁぁぁぁぁ!!」

 

 二人の断末魔を背に、サックは屋敷を後にした。

 擬態獣のマントを羽織り、彼はそのまま、夜の街を歩き始めた。

 

「……女神の加護があらんことを」

 

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