【完結】チートツール×フールライフ! ~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~   作:黒片大豆

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能力使ってケジメ付けるけど、そのぶん失うものも多そうだ
第9話 【その1】


 身体を動かすと、節々が軋んだ。皮膚はパリパリに表面が乾燥していた。

 比喩ではなく、体中が固くなっていた。

 痛みは、未だ残っている。しかし、もう慣れてしまった。生き物の神秘などと思いたくないが、痛みから逃れるために、脳みそが痛覚を忌避しているように思えた。

 

「……」

 彼──サックは、ベットに横たわったまま、まっすぐ両手を上げた。窓から差し込む日の光は、白い部屋を程よく照らしていた。暖かな光は、しかし、利き腕の手首から先が無いことを残酷に知らしめた。

 

 だが、彼は安堵した。

 

「為すべきことを成せってことかな」

 まだ、左手は健在だった。

 あの時。

 サックは最後の力を振り絞り、ヒマワリへ回復薬を使用したのち、武器庫(ストレージ)へ繋がる異次元空間(ワームホール)を無理やりに広げ、武器庫に飛び込んできた。

 荷物持ち(ポーター)脱出スペル(エスケープ)を取得できるが、それの応用だ。

 

 満身創痍だったサックは、最後の行動の中で、左手も朽ちることを覚悟していた。場合によっては、命をも投げ捨てる心持ちであったが、有りがたいことに今はまだ、両方とも無事だった。

 

 周りを見ると、そこは病院であることが一目瞭然であった。もちろん見た目もそうだが、彼の鑑定眼には、否応なしに情報が飛び込んでくる。

 ふと横に目をやると、女性がベットの横に座っていた。背もたれのない椅子に腰掛け、サックの顔を驚いた顔で見つめていた。

 サックの目が、彼女と会った瞬間、彼女……ナツカ=ノワールは涙目になった。そして、驚愕の顔から笑顔に変わった。涙袋から涙があふれ出していた。

 

「アイサック様……ご無事で」

「サックだ」

 サックは開口一番、自分の名前を否定した。言った本人もあきれるほどデリカシーのない言葉だったと反省したが、否定を止めることは無かった。

 

「オレは、サック=リンガダルト。勇者アイサックは……もう死んだよ」

 

 

 +++++++++++++++

 

 

「目覚めたときいてな」

 ジャクレイが、病院の個室の扉をノックし入ってきた。

 サックはベッドの上で、乳鉢を使い、何やら怪しげな薬品を潰し、混ぜ、擦っていた。

 利き腕の先端には包帯が巻かれてあった。しかし彼は器用に乳鉢を抱え、左手で乳棒を使い、薬を混ぜていた。

「丸1日で目覚めたか。今回はかなり危険だったな」

「ああ……何度も世話になってる」

「ホントだぜ。病院代以外に、俺たちへの謝礼も頂かないとな」

「もう、大丈夫だ」

 サックの返答は、心此処に有らずといったような、少しぼんやりとした物であった。

 そんな会話をしながらも、サックは乳鉢に、見慣れない木の実を入れ、ゴリゴリ、と押しつぶし始めた。

 

「しかし……私は未だ信じられません……」

「ナツカには、刺激が強すぎた話だったな」

 七勇者は英雄的な扱いをされている。そのため、ボッサが謀反したなど、にわかには信じられないのも無理はない。

 

「それに、アリンショア様までも一緒だなんて……」

「……」

 サックはあえて、アリンショアも一緒に反旗を翻した、という趣旨で話を進めた。

 アリンショアが「死んだ」という事実は、ジャクレイにも秘密にしておいた。

 

「なったものは仕方ない、それが事実だ」

 サックはそう話しながら、瓶詰めのポーションの蓋を片手で器用に空けて、半分ほど乳鉢に注いだ。

「今、勇者様たちは4人で世界を救おうとしてるってことですか」

「そ、だから、怪我が治ったら、俺が説得にいく」

 サックは嘘をついた。

 

 ボッサに掛け合おうとしたクリエは、危うく命を落としかけた。

 ボッサの催眠術で、集団自殺が行われる寸前までいった。

 そして、イチホ=イーガスと、サザンカたちの件。

「……」

 サックは、それ以降は無言で、回復薬に浸った薬草をまた擦り始めた。液をしっかり含浸させるように混ぜる音が、ゴリゴリと音が病室に響く。

 

「……サックよう、さっきから何をやってるんだ?」

 とうとう、しびれを切らし、ジャクレイがサックに聞いた。こちらが話し掛けているのに、彼はジャクレイの目を見ることなく、ただただ、薬草を練っていたのだから。

 

「……女神に勇者選抜される前はさ、俺、薬師を目指してたんだぜ?」

「初耳だ」

「誰にも話してないからな」

 急なサックの身の上話に、ジャクレイはたじろぐ。しかし逆に、ナツカがこの話しに食いついてきた。

 

「アイサック様は」

「サックだ」

「す、すいません……サックさま……サックさんは、確か、勇者イザム様と同郷ですよね」

「ああ、イザムとは幼なじみ。あいつの方が1つ年上だ」

 乳鉢を擦る手を一旦止め、サックは返事した。

 

「貧しい村だった。薬師みたいな専門職になれれば、食い扶持(ぶち)も見つかるって理由でな。街の薬師の下で、バイトもしてたんだぜ」

 そういいながら、またサックは薬を練り始めた。乳鉢の中に注がれた回復液は、粉末にした薬が液を吸い固まり、いつの間にか泥団子のように丸く纏まっていた。

 

「ま、そんな人生設計も、女神様の天啓を受けて大きく舵を切ることになりますがね」

 ふっ、と、サックは笑った。自嘲を含んでいた笑い方だった。

 その姿を見て、ナツカは思った。サックは、能力を授けた女神を恨んでいるのではないかと。

 超人的な力を得て、国王直下の役職を得たものの、人生を大きく狂わされたことに間違いない。

 

「……」

 ナツカは、これ以上何も言えなかった。

 

 薬剤のすりつぶしも終わったのか、サックは泥団子を今度は細かく、人間の小指の先程度の大きさに細かくし始めた。

 個室内に、しばらくの静寂が訪れた。誰も、口を開こうとしなかった。何を話せばよいのか、話すべきなのか、話してよいのか判らなかった。

 

 そんな静寂は、ドタドタとお世辞にも上品とは言いがたい足音によって破られた。

 

「そろそろ、来ると思った」

 その足音を聞いたサックは、誰に聞かせるわけでもない、小さな声で呟いた。

 そして、個室のドアが激しい音をたてて開かれた。

 

「……病院では静かにな、新聞屋」

「よくも置いていきましたね! 危うく凍えて、魔物のエサになりかけましたよ!」

 

 肩で息をしながら、新聞屋こと、クリエ=アイメシアが病室に飛び込んできた。特徴的なチェック柄の服は乱れ、彼女のトレードマークの眼鏡も曲がっていた。

 突然の訪問客に、ナツカは呆気にとられ、口を開きっぱなしになっていた。

 そして、ジャクレイはいち早く、彼女の死角になる部屋の隅に身を潜めた。

 

「わりぃな、そっちまで気が回らなかった」

「気が回らないって……! 憲兵たちが来なければ、椅子に縛られたまま朽ち果ててました!」

 クリエがさらに抗議の意を込めて、サックを指さした。しかし、彼女の右手には包帯が巻いてあり、指には添え木がされていた。折れていた箇所を処置してもらっていた跡があった。

 

「ジャクレイ」

「居ナイヨ」

「憲兵を派遣してくれていたか……ありがとう」

「……そりゃな。メモの後ろに地図がありゃ、調査にも向かわせるぜ……って、サック! 何をしている!」

 

 体を動かすことすら難しいはずのサックが、立ち上がろうとしていた。

 体中に痛みが走る。しかし、そんな体に鞭打ち、サックは起き上がろうとしていた。

 彼には、行かなくてはならない場所があった。

 

「あっ」

 先ほどまで文句を言っていたクリエであったが、彼の行動の意味を察した。

 サックは何とかベッドから足を下ろし、自立した。しかし体はふらつき、足元はおぼつかなかった。

 

「アイサック様!」

 先ほどまで呆けていたナツカが我に返り、サックを支えようと体を前に出した。

「っと……!」

 危うく前のめりに倒れ込む寸前に、ナツカはサックの体を受け止めた。が、彼の体は思っていた以上に瘦せ衰えており、ナツカは息をのんだ。

 支えた体の重さは、成人男性のそれとは程遠かった。

 

「……まったく!」

 すると、プンスカと怒りながらも、クリエもサックに肩を貸した。

「まあ、命を助けてもらったのは間違いないので、これで貸し借り無し……って、軽っ! 細っそ!」

「うるせぇ」

 クリエとナツカに支えられたサックは、それでも自分の足で動こうとした。向かう先は誰にも伝えていないはずだが、彼女には見当がついていた。

 

「ええーと、確か、付与術師(エンチャンター)ノワールの娘、ナツカさんですね」

「え!?」

「ああ、(わたくし)、新聞記者ですので」

 初対面だったはずの女性に名前を言い当てられ驚くナツカを尻目に、クリエは話をつづけた。

 

「これから、アイサック様が向かう場所については……私が付き添いますので、お引き取り願います」

 先ほど個室にクレームを入れに来た時とは雰囲気が変わった、強く気丈な言葉遣い。彼女の変化ぶりに、ナツカはたじろいだ。と同時に、他の人間……部外者には知られたくない所に向かおうとしていることを理解した。

 

 ナツカは特に返答をすることなく、ゆっくりとサックの体から手を離した。

 全体重が小柄なクリエの体にかかるも、クリエ自体は特に重たそうな所作など見せず、サックに肩を貸して歩き始めた。

 

「場所は、この病院の地下です」

「だろうな、助かる」

 クリエは、サックが行きたい場所を知っていた。

 なにせ、憲兵の馬車に乗せられ、一緒に『帰ってきた』のだから。

 

 サックとクリエは、病院に設けられている、遺体安置所へ向かっていった。

 

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