【完結】チートツール×フールライフ! ~女神から貰った能力で勇者選抜されたので頑張ってラスダン前まで来たら勇者にパーティ追放されたので復讐します~ 作:黒片大豆
バトルものに戻しました。よろしくお願いいたします。
『魔王城』
最北の地『イン=サクル』に封じられていた魔王が、復活した際に併せて建立した城。といっても、便宜上の名前だけで、そこに建物は実在しない。
魔王城の入り口は、異空間へのゲートのようなものだった。
その城門は、『次元錠』により封じられていた。
元々は数百年前の『勇者』達が、魔王を異空間に封じた際に用いた強固な封印だった。
実際にそれは、錠前の形をしており、物理的なロックが掛けられてあった。だが現代の魔王はこれを改良し、逆にこちらからの進入を防ぐ『鉄壁の鍵』としてしまったのだ。
魔王城に攻め入るには、この『鍵』の開錠が必須になる。
人間は外から攻め入れないが、しかし魔王は、魔王城から禍々しい瘴気──『魔瘴気』──を発生させ、生命を死に追いやった。
魔瘴気を浴びた命あるものは、まず例外なく、闇に侵され命を落とす。魔瘴気を浴びた台地には草木が枯れ死の大地となる。
そしてまた、魔物たちはこの瘴気を浴びることで更なる力を得る。魔王の配下になることで自身の能力の限界を突破させるのだ。
この魔瘴気を止めない限り、人間に未来はない。
数日前から、魔瘴気の発生量が多くなってきたことが、先方の伝令から伝えられた。
が、その後すぐに、伝令からの連絡が途絶えた。
過去に前例のない程の、大量の魔瘴気が発生していたのだ。
瘴気が届かないギリギリで偵察していたものは全員、魔瘴気にあてられ帰らぬ人となった。
そして時を同じくして、魔王城の周りには、魔瘴気を目当てに数多くの魔物や、悪魔、生ける屍たちが集まり始めた。その数は、数えきれないほど。
比喩ではない。上空からの偵察では地面が見えなかった。魔王城を囲うように幾千幾万幾億の魔物が集まったのだ。もしかしたら、北の大地全土から召集されたのではないか……。
そして瞬く間に、魔瘴気の漏れ出しはかつてない量となった。瘴気を浴びた魔物はどんどん活性化していく。この数の魔物すべてが、魔瘴気を吸ったとしたら。もう、人間は太刀打ちなどできないだろう。
文字通りの、足の踏み場もない場所。
紫色に漏れ出る魔瘴気と、怪しく発光する『次元錠』。ここは、魔王城正面。
錠の隙間から漏れ出る魔瘴気が一番濃厚なため、高レベルモンスター……デュラハーンやデスサイズ、ワイトロードといった魔物が多く集まり、魔瘴気を貪っていた。
そんな魔瘴気のおこぼれに預かろうと、ゴブリンの群れやレッサーデーモン、悪戯イビルといった雑魚モンスターたちもこぞって集まってきていた。小柄な体格な分、魔物たちの隙間に収まりちゃっかりと魔瘴気を浴びていた。
めきめきと、力が湧いてくるのが実感できる。彼らは歓喜した。もう人間など我々の足元に及ばない。これからは暗黒の世界がやってくる、魔王万歳……。
「……ぅ……ぉぉおおおおおおっ りゃあああああああああ!!!!!」
空から、雄たけびが聞こえた。人間の声。しかも、女の声だ。
その人間は、聖銀で作られた重厚な鎧を身に着け、自身の背丈並みの大きさの巨大な『オノ』を振りかざしながら落ちてきた。ちょうど、魔王城の正門前だ。
「ぶっとべえええええええええっ!!!!」
人間の落ちてくる速度と併せてオノの落下速度も重なった、重い一撃が、正門前にいたティアマットを叩き潰した。
瞬間、そのオノを中心に巨大な光が爆発した。激しい閃光はまるで光の矢のごとく周囲を貫き、爆風に撒かれたモンスターは瞬時に粉々に粉砕された。先ほどまでいた、魔瘴気を浴びた上級レベルの魔物すら、この一撃で一瞬で消滅させた。
地面には大きなくぼみができた。
いま、魔王城正面には、環状にきれいに空隙ができていた。その場に先ほどまでいたはずの魔物は、すべて跡形もなく消え去った。
「さあこい! アタイら人間の存続を掛けた勝負事だ! 手加減なんてできねぇぞ!!!!」
その女は、軽々と巨大なオノを持ち上げ、肩に担いだ。
この斧の光る刃は、併せて邪を纏う。光と闇が重なり輝く巨大戦斧『ムーンエクリプス』。
扱うは、女神に祝福されし七勇者が一人。
『
成人男性並みの身長、顔は、何もしていなければ美人。肩まである黒髪を雑に後ろに纏め、『精霊王のリボン』で結っていた。
『ヲオオオオオ……』
魔物たちが触発されて、正門に集まってきた。今なら濃い魔瘴気を浴びられる。そう考えていたのだろう。
「うおおおおりやっ!!」
そんな雑魚級の魔物が束になっても、七勇者ネアの敵ではない。
斧の一太刀で100のゴブリンの胴体を分断し、返す刃で30体のゴーレムを破壊した。
そして。
彼女が開けた空間。魔王城正面に向かっているのは、魔物だけではなかった。
ダダダダダダダ……
目にもとまらぬ俊足。そしてジャンプ力。
ネアの後方に、青年が着地した。
「ネア!」
「いけっ! 道は開けといたぜ!!」
だっ! 一瞬土埃が立ったかと思ったら、その青年は、既に魔王城の正面……『次元錠』の前に立っていた。
このスピードは、正確には彼の力ではない。
彼の靴は、神速の足を持つ神の名を模した靴、超一級品『韋駄天足』だ。超希少な金属《ヒヒイロカネ》を装飾に使うことで、神の足のごとく素早くなれる。さらに彼は、潜在的に眠る装備の力を意図的に引き出し、神速を超える超足を見せつけたのだ。
彼は、女神に祝福されし七勇者が一人。
『
(《深層鑑定》……解明!! 想定通り!)
『次元錠』に向かい、能力《深層鑑定》を実施。開錠方法から、魔障気の止め方の最終確認を、一瞬のうちに終えた。
(開錠;『三鬼神』の武器を《解放》、錠前に突き立てる!)
サンドバック状の麻袋から、3本の刀を取り出した。いずれも魔王の部下『三鬼神』が所有していた刀だ。そのうち1本を手に取った。
「……! アイサック! すまん、抜けた!!」
ネアの声だ。
アイサックが『次元錠』の開錠を行う間。敵をひきつけるのが彼女の役目だったが、敵の量が想定をはるかに超えていた。
細身のハイオークが2匹、《潜在解放》を試みているアイサックに襲いかかる。
「くっ!」
だが、オークたちはアイサックに近づく前に細切れになった。
「間に合ったようじゃアイサック殿。わっしの出番残してくれてありがとうニャ」
「まったく、埃っぽくて嫌ね……ここは私たちに任せて、サックちゃんは『開錠』を!」
残った希少なヒヒイロカネも、すべてこのために、二足の『韋駄天足』に加工をした。
これを装備した、女性が二人が文字通り神速で駆け付けてくれた。
一人は、人間の身長の半分程度しかない、猫と人との合いの子の種族である『フェルキット族』の女性だ。人間に比べて非常に柔軟性に富み、また夜目も効く。
年齢は30を超えており、語尾が少し特徴的ではあるが、戦闘能力は折り紙付き。
それもそのはず、昔は大盗賊として名をはせ国中を混乱させた人物だ。
そして今は、魔王を討つべく、ここにいる。彼女が握るは、古に魔王と対等の力を持った幻竜の爪を鍛えた二対の短剣『幻竜の小太刀』。
女神に祝福されし七勇者が一人。
『
そしてもう一人の女性。
七勇者の中で一番背が高く、清楚な顔立ち。元は某国で国営雑技一座の花形を勤めていた女性だ。
彼女が舞うだけで国が傾くとまで言わしめた魅惑のダンス。そのあまりに過ぎた力を持ってしまったため、国を追放され、紆余曲折あり、いま七勇者として鼓舞している。
両の手に構えるは美しい扇。火山の爆発を一仰ぎで凌いだ伝説を持つ『羅刹芭蕉扇』に、金輪際争いが起きぬ世の中にと多くの人の願いが込められ編まれた光の扇『天下泰平』。
女神に祝福されし七勇者が一人。
『
「……うっ、くそ! 魔瘴気が……」
アリンショアとユーナリスが、アイサックに向かって(正確には、アイサックが開けようとしている『次元錠』近くから漏れ出る、濃厚な魔瘴気目当て)突進してくる魔物を、一瞬のうちに片づけている。
一方、魔瘴気に直にあてられているアイサックは、思い通りに能力が発揮できない。
今回のために、耐魔瘴気用の薬を調合していた。アイサック一同、今回の作戦参加者にはそれらをふるまわれているのだが、魔王城から漏れ出る魔瘴気の濃度が、想定を超えていたのだ。
(薬……もってくれよ)
魔瘴気による息苦しさに耐え、アイサックは一本目の武器を
「まずは、一本!」
それを力強く『次元錠』に突き刺した。すべての破壊攻撃を弾くはずの次元錠に、刃が通った。
「次! 《潜在開放》……!」
「サックちゃん! まだ開かないの!」
ユーナリスの焦りの声。アイサックも驚いた。既に周りには魔物が集まっていたのだ。
「どういうことだ、ネア殿!! いったい何が……!」
「う……うおおおおおおおおおっ!!!!」
あまりに巨大な戦車。チャリオットを駆るデュラハンであるが、大きさが規格外だった。
どうやら、魔瘴気を十分に浴びていた魔族だったようで、力をため込む際に巨大化したらしい。
それをいま、ネアが一人で抑えている。自身の身長の5倍以上はある巨大な戦車を、アイサックのところに行かせないだけで、精一杯になっていた。
ジリ貧だ。
あまりに多い魔物の数。想定以上に濃い魔障気。魔障気は、耐性薬の上から着実に、みんなの力を奪っていっていた。
「俺も戦う!」
「ダメじゃ! アイサック殿は早く解錠を!」
とは言われるものの、魔障気を一番当てられる中で、能力を使うのは限界がある。
(作戦ミスだったか……もう一人、こちらに来てくれていれば!)
その瞬間。少し離れた位置で巨大な爆発が起こった。
ネアの《獣皇無塵断》ほどではないにしろ、魔物が爆発に巻き込まれて消滅していく。
この遠くの爆発が目に入ったアイサックは、瞬時に、爆発に含まれる《属性》を鑑定し、
(《超速調合》、
目にも止まらぬ早さで、腰のホルダーから色々な薬草と薬瓶を放り投げ、空中でそれらを配合、調合を終えた。
炎と光属性ダメージを軽減する薬だ。
それらはアイサックを中心に、アリンショアとユーナリスに降りかかった。
っズドォォオ……。
その瞬間、先ほどの爆発が正門を襲った。
力無き魔物は蒸発し、また強靭なものも、全てを焼き消す光の炎により致命傷だ。
「……ぶあっぷ! ちょっとー! ヒメコちゃん! 危ないじゃないの!」
ホコリまみれのユーナリスと、同じく砂まみれなアリンショアとアイサック。
多少ダメージは負ったが、大したレベルではない。
レジストが十分に仕事をした。
爆発の張本人は、空に居た。
「ごめんなさいっ! でも『アイサックならやってくれる』って、イザムがっ!」
攻撃魔力を最大限にまで高めた女性専用装備『ハイウィッチローブ』を纏い、先ほどの古代魔法《フレイヤ》を、常人ならざる早さで詠唱、連続発動させた彼女。
降り注ぐ星の欠片を加工した、流星の名前を模した魔杖『ミーティアライト』に跨がり飛ぶ姿は、正に魔女のごとく。
女神に祝福されし七勇者が一人。
『
最初に放った爆発は、アイサックに属性を鑑定してもらうため。そうすれば二発目は味方巻き込みでも最小限に被害は抑えられる。
勇者リーダー『イザム』の、アイサックを信じきった
「……アタイを、忘れてんじゃねええええっ!」
同じく爆発に巻き込まれたネア。だが、持ち前の体力と、『聖銀鎧』の【光耐性】によって無事だった。
焼け焦げたチャリオットが、斧で真っ二つになっていた。
「忘れてないわー! 貴方ほどの脳筋なら耐えると信じてた!」
「ヒメちゃん! こんなときにまでネアを
ユーナリスが、ヒメコを叱る。が、
「お、おおう! こんなの屁でもねぇぜ! アタイ最強だからなー!」
揶揄られた自覚の無いネア。
七勇者一の脳筋は伊達ではない。
と、和やかな雰囲気が流れているように見えるが、しかし事態は全く好転していない。
魔障気は全く衰える気配がなかった。
そして、魔物の数もトータルで換算すると、ほとんど減ってない。一部が消滅したまでだ。
すでに地平線は、魔物で黒く染まっていた。
「どうじゃ、アイサック殿」
「……行けた、2本目!!」
三鬼神の2本目の刀の《潜在解放》を終え錠前に突き刺した。
残りはあと1本。
急いで《潜在解放》に取りかかる、が。
「う……ぐあぁぁぁ!!」
「ぬおっ! なんじゃ……がぁぁっ!」
「ひぃっ! お、音波攻撃!?」
突然、激しすぎる耳鳴りに襲われた。耳の鼓膜を脳みそごと焼けた棒でえぐられるような、形容しがたい痛み。
音波攻撃の耐性薬を作るにも、スタン状態ではなにもできない。
そして、攻撃を発する敵影が見当たらない。 どこから攻撃が来ているのか検討がつかなかった。
アイサックは耳を押さえながら周囲を見渡し、自分の《いつでも鑑定》に引っ掛かることを願った。
……ビンゴ。見つけた。
「地面からだ! ネアっ!」
「お、おうっ!!」
比較的軽症だったネア(聖銀は音波耐性有)、オノを適当に地面に叩きつける。
『ウオヲヲ……』
断末魔と共に、マントラ土竜が一匹消滅した。だが、音波攻撃は止まない。何びきも地面に潜っているのだ。
「これは……マズい……っ! ヒメコさん!」
アイサックは空にいたヒメコを見た。が、
「くっ!! ゴメン!」
ヒメコも、敵に襲われていた。
黒い炎に包まれた不死鳥のような魔物だった。
「こいつ、属性魔法が効かないの!」
決定打を与えられず、空で逃げまわっているヒメコ。
音波攻撃を直撃し、動けなくなった三人。
「このっ! このっ!」
一人もぐら叩きを始めるも、圧倒的な数に翻弄されるネア(知力25)。
そして全く止まる気配を見せない魔障気。
(早く……早く……っ。急いでくれっ!)
彼ら5人は、残りの2人に賭けていたのだ。
自分たち4人(当初ヒメコは入っていなかった)を『オトリ』にしてまで、勇者イザムに賭けていた。
イザムと、もう一人の七勇者に。
眩い光が一直線に地面を走った。
複雑な模様を描きながら、その光に触れた魔物は瞬時に光に吸い込まれていった。
そしてその光がひとつの紋様……魔方陣を描ききった瞬間。
魔方陣から光の柱が立ち上がった。
その魔方陣はあまりに強大で巨大であった。
魔王城に集まっていた多くの魔物が、その魔方陣の上に乗っていたため、ほとんどが消滅した。
そして、それは魔障気でさえも、浄化し薄めていった。
「間に合った……」
音波攻撃が収まり、また、魔障気も薄くなったため、全員が動けるようになった。
空を舞っていた鳥も消え去り、ヒメコも地面に降りてきた。
暖かな光が、彼らを迎え入れた。
大浄化術式《イア=ナティカ》。
この術式を扱えるのは、女神の祝福を受けた聖職者だけだ。
また、今回に限っては一般的な効果範囲を逸脱してる。ここまで広域な術を敷いた前例などない。
しかし今回は、彼はやってくれた。やってのけた。
これの仕込みに、一週間以上前から準備をし、死に物狂いで完成させた。
女神に祝福されし七勇者が一人。
『
「ボッサ、間に合ったにゃあ」
安堵の表情で地面に経たり座るアリンショア。
しかし、まだ終わっていない。
正面の『次元錠』の隙間から、魔瘴気がまだ止まらない。
そうだ、早く鍵をあけて、中で『女神の涙』を《潜在解放》しなければ、魔障気は止まらない。
アイサックは、懐に仕舞い込んでいた拳大の大きさの宝石を確認した。
このとき、彼は慌ててしまっていた。
もちろん、この結界も効果時間は有限である。そのため、急ぐ必要があるが、回りが一息ついている中で、先走ってしまった。
3本目の刀を《潜在解放》……!
そして、次元錠に刺した。
パァン!!
次元錠が、弾けるように開放された。
その場の全員が、そのあとの悲劇の目撃者となった。
門から出てきた魔障気はあまりに濃厚で、それはもう霧ではなかった。
まるで、粘度の高いインクだ。一気にそれが漏れ出し、アイサックを押し潰した。
ドプン。
霧でさえ吸い込めば一瞬で昇天する魔障気。それの濃密な液に飲み込まれ、溺れた。
すなわち、即死を意味する。
(あ、最後に油断したわ)
死を覚悟したアイサックだが、意外と物事を冷静に判断できた。
(魔障気を止めるには『女神の涙』の《潜在解放》が必要……。なのに、俺ここで死んじまうとどうなるんだ?)
七勇者の
この世界の命運を握っていたのに……アイサックは後悔に苛まれたが、
(でも、さすがにこりゃダメだ。ごめんよ皆、あとは、任せた)
薄れいく意識。
(……ああ……)
最後に思うことは、存外、些細なことなのかもしれない。
(……童貞のまま死んじまうのかぁ……悔しいなぁ)
いや、それかーい。
(なんだよ、男として大切なことだろ)
ま、まあ、そこは否定しないが。
(女神の祝福を受けてからずっと女難が続いてたんだ。祝福の副作用なんだと)
それは大変だったな。
道理で異様に女運が無いわけだ。
(ネア、ヒメコ、ユーナリス。彼女たちとワンチャン、なんて考えたけど)
考えてたんだ。
(まあアリンショアは例外な。オバさんだし何より種族が違う)
オバさんいうと怒られるよ。
(でも蓋を開けてみたら……まさか、ネアとユーナリスがなぁ……百合の間には入れん)
仲睦まじいよね。
見ててこっちも幸せになる。
(ヒメコは、ずっとイザムLOVEだし。イザムは鈍いし……。幼なじみとして、恥ずかしかった)
まあ、ごめんよ。
心配かけたよ、でも大丈夫。
(昨夜、とうとう『致してた』ものな! 宿の壁薄いから丸聞こえで、こっちもシモがヤバかったぞ)
えっ……聞こえてたの!!
(本気で羨ましかった。あまりに悔しくて。パンツよりむしろ枕を濡らしてたぜ……)
マジかよ……このまま置いていこうかな。
(は? ……そういや、お前誰だよ、なんで走馬灯に受け答えできてんの?)
そりゃ、お前を迎えに来たからだよ。
「よくやってくれた! アイサック!」
「……イザ、ム……?」
『福音奏者のマント』。
味方にテレパシー通信が可能になるマントだが、魔力を込めれば空を飛ぶことも可能。
元はボッサが装備していたはずだが、緊急事態だったのでイザムに貸したのか。
彼は、正に飛んできた。仲間のピンチに駆けつけるのが、真の勇者であるとの思いと共に。
女神に祝福されし七勇者が一人。
『
アイサックはイザムに抱かれていた。
仰向けのアイサックの顔の先に、イザムの顔がある。
「……魔障気……は……」
完全に魔障気に飲み込まれたアイサック。意識混濁し現状を理解できていない。
「……なんとか、してみせるさ!」
イザムは、右手に握った『勇者の剣「ハルペリオ」』にさらに力を込めた。
すると魔瘴気はみるみる浄化されていく。
魔瘴気の浄化には『女神の涙』が必要なのだが、この勇者の剣にも、『女神の涙』が使われていた、そのため、浄化が可能となっていた。
しかし、あくまで浄化のみで、根底から魔瘴気を止めることはできない。
二人に降り注ぐ魔瘴気をイザムが剣を突き出し浄化し続けていた。しかし、これも時間の問題に思えた。
「……アイサック。聞こえるか?」
イザムが語りかける。アイサックは、かすかに残っていた意識を保ち、耳を傾けていた。
「俺たち、訳も分からず女神から神託受けて、こんなとこまで来てしまったけどさ」
「……」
「なんというか、あとは『やけくそ』だよな。これほどまで強力な力を授かっちまったら、たぶん、もう普通の人間としては生活できない。顔も名前も何も知られてるし、もしかしたら、国家間の戦争の道具に、体よく使われちまうかもな」
何を急に言い出すのか。「世のため人のため」が信条だった、勇者のリーダーイザムの言葉とはちょっと思えない。
「何が言いたいかっていうと、アイザック。最後の最後だけ、お前の能力を使ってほしい。あとは、全部、勇者イザムに任せてくれ。今だけ、頼む」
イザムは、アイサックに『女神の涙』を手渡した。
既に満身創痍なアイサックには、その石を握ることすら難しかった。
しかし。
これが最後だ。
あとはイザムがどうにかしてくれる。
彼はそういうやつだ。
この次元錠の開錠と、魔障気の完全停止を終えれば。
俺は、この命、失おうとも。
彼は、混濁する意識の中『握った』。
強く、誰よりも強く、確かに『握りしめた』
神具が最終奥義。《潜在解放》。
全力で行う《潜在解放》には、使用後には『破損』が伴う。
『女神の涙』も、粉々に砕け使い物にならなくなるだろう。
しかし、そんなこと知ったことじゃない。
「ぜんぶ……持っていけ……」
「! まて、アイサック!!」
アイサックの信条を察してか。
勇者イザムが制した。が、もう、アイサックの信念は止められない。
みせてやる、最後の大花火。
「これが……俺の! クライマックスだっ!」
「だからっ! ちょっとまってアイザック!! ストップ!!」
アイサック全身全霊の《潜在開放》は……女神の石……ではなく。
間違って握られた『勇者の剣』に発動され……。
その後、勇者の剣は粉々に砕け散ることとなった。
自分がヤラカシタ事に、死んでる暇なんて無かった。