ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
前回前々回とヤンガスが雪を見たことないかのような描写がされていました(実際DQⅧではリブルアーチ~オークニス間で「なかま」コマンドを使い、ヤンガスに話しかけると雪を見たことは無いという旨の話をする)が、彼は少年時代に「まぼろし雪の迷宮」に幾度も潜っているので雪は見たことあるはずです。
ということをすっかり忘れていたのでそこのところをほんの少し修正しました。ご指摘いただいた方、ありがとうございました。
…
─薬草園の洞窟─
「うう、よくもこんな寒いところに…と言いたいところじゃが、メディ殿には大変世話になっておるからの。早いところグラッドを迎えに行ってやらねば。ワシもそろそろメディ殿が心配になってきたわい。急いで見つけてくるのじゃぞ!」
「はい、王様!」
洞窟の入り口まで来たところで、エイトたちは再度トロデと別れる。冒険の旅に出てからというもの、町でも城でもダンジョンでも、主君と姫を放置することになっているので少し気が引ける思いのしていたエイトだが、当の本人たちがそこまで不満に思っていないようなので最近は気にしないようにしている。
「とはいえ…だ。上は氷柱、下は氷床…この洞窟を駆け抜けるっていうのはあまり得策じゃないかもな」
「もう向こうから来てくれませんかね…おぅい!グラッドさんや~い!!」
ヤンガスの声が洞窟に響くが、返事は返ってこず…代わりに姿を見せたのは「マヒャドフライ」の大群だ。今の大声に驚いて巣から飛び出して来たらしい。
「うげ…」
「よくもまあ…グラッドもっ!こんなとこで薬草育ててるよなっ!…と」
雪原に生息するモンスターはその環境に最も適した身体を持っているため、逆に高熱にはひたすら弱いという特徴がある。ククールはマヒャドフライの群れが散開する前に一箇所に追い詰め、エイトの『ベギラゴン』でまとめて焼き払わせた。
「まあ、グラッドさんも魔物と戦ってるわけじゃないと思うけどね。…もしかしたら魔物が出ない抜け道のようなものを知ってるのかもしれない。」
「そりゃあ良いでがすね。会った時には是非そんな道の見つけ方を教えてもらいたいもんでがすよ。」
「そうだね──うわっ!?」
「兄貴!?」
ゴッ、という鈍い音を立ててエイトは尻もちをつく。床面に凍っているところと凍っていないところが入り混じっているせいで歩くのにも神経を使うのだ。さらにその上魔物との戦闘が伴えば、流石のエイトも集中が切れてきてこうなってしまう。
「痛そ…大丈夫?」
「いつつ……うん、ありがと……ん?」
「?どうかしたか?」
「今、奥に何か…?んん…?あ!人だ!人がいる!」
「人?もしかしてそいつがグラッドか?」
尻もちをついたことで視線が低くなったエイトは、氷柱の隙間から遠くに人影を認めた。慌てて呼びかけるも、反応はない。
「反応が無い…ということは危険な状態かもしれないわ!急ぎましょ!」
エイトたちは転倒しないように注意を払いながら急いで洞窟の最奥、氷柱の密集地帯へ向かった。エイトが再度呼びかけると、消え入りそうな声で男の声が聞こえてくる。
「だ……誰か、いるのか……?いるのなら、助けてくれ……身体が凍えてしまって動けないんだ……」
「凍えて…?こりゃあてぇへんでがす!こんな寒いところで動かずにいたら一瞬で氷像になっちまうでがすよ!どこかに抜け道は…」
「そんな時間はないわ!ヤンガス、どいて!『メラ』!」
ゼシカは氷柱がそのまま柱として天井に接していることを考慮し、落盤しないよう氷を解かすギリギリの出力で「メラ」を放った。ヤンガスがちょうど通れるほどの穴が空き────その先には男が一人倒れていた。
「だっ、大丈夫ですか…?」
「うっ……わ、私はオークニスの薬師グラッド。薬草の採取をしようとこの洞窟に赴いたら……と、トリに襲われて……慌てて逃げ込んだら、落ちてきた氷柱に閉じ込められてしまったんだ…。」
「……怪我は大したことないみたいだな。」
ククールの『ホイミ』でグラッドの生傷は癒える。安否を問うたのに自己紹介と経緯の説明で返してくるあたり、まだ余裕があるようだ。探し人が見つかった事とその無事にエイトたちはひとまず胸を撫で下ろした。しかし傷は癒えたとしても体温の低下は雪山では死活問題。エイトはすぐにメディからの預かり物の中身を思い出し、グラッドに差し出した。
「グラッドさん、お母様から貴方へ届け物です。中身は『ヌーク草』だと仰っていましたよ。」
「なっ、母が!?…そうか、すまないが……中身をこちらへ寄こしてくれるか」
「?ええ、もちろんです」
「え」
「なあオイ、あれって生でいけるもんなのか?」
「いやあ、スープにしてあの辛さでがすから、生だと……」
「くぁらぁーーっっ!」
「まあそうなるわよね…」
グラッドはヌーク草のあまりの辛さに火を吹いた。もとより湯で薄めたものが顔にかかるだけでのたうち回るような刺激を伴う植物である。そんなものを生で齧ったりすれば当然こうなる。だが、そのおかげで先程まで青白かったグラッドの顔は血色を取り戻し、赤く火照っていた。
「ぐ、グラッドさん…?」
「ふーっ、ふーっ…や、やっぱりヌーク草は生で食べるものじゃないな。……まあ、『粉』になっていなかっただけましか……あ、ああすまない。とにかく身体は温まった。ありがとう、君たちのおかげだよ。それと…あの人のおかげか。」
「礼には及びませんよ、僕らは貴方を探してこの洞窟まで来たんです。そうしたら倒れている貴方を発見して…」
「ん?私に用があったのか?…私の母からの預かり物の件といい、何か訳アリのようだな…」
「はい。実は…────」
エイトは事の成り行きをグラッドに説明した。エイトの話が進むにつれ、次第にグラッドの顔が険しくなっていく。そこまで詳しくは無いものの、やはり彼も母親、そして自分が賢者の血を引いていることは知っているようで、暗黒神が完全復活に向けて動いているという事実、事の重大さは伝わったようだ。
「…うむ、わかった。一度オークニスへ戻るつもりだったが、…うちにはバフがいるとはいえ、そのような状況で母を一人にしておくのは不安だ。早急に家へ戻ることとしよう。」
「オーケー。よし、これで後はメディさんの所へ帰るだけだな。…エイト。」
「任せて。『リレミト』」
オレンジ色の光に包まれ、グラッドと合流したエイトたちは洞窟を脱出した。
…
「そうだ、さっきのふくろを渡してくれるか?」
「メディさんのふくろですね?…はい、どうぞ」
「ありがとう。ちょうど私も母に渡したいものがあってね…」
洞窟を出て家路につく傍ら、グラッドはエイトからヌーク草が入っていたふくろを受け取ると、鞄から出した薬草を入れ、袋の口を絞めた。
「?それはなんでがす?」
「これか?これは『きつけ草』…その原種さ。ついこの間私がこの洞窟で発見したんだ。巷で流通している『きつけ草』は温暖な地域でも栽培できるように作られた改良種でね。原種はめったに市場に出回らないのだ。私がまだ若かったころ、母はこのきつけ草の原種が欲しい欲しいとよく嘆いていたものだよ。」
「なぬ、ワシらがいつも見ている『きつけ草』は改良されたものじゃったのか…初耳じゃわい」
「…そうなんですね」
「ああ。これも何かの縁、これを機に母に贈ってやろうと思ってね」
そう話すグラッドの顔は笑顔に綻び、それがエイトたちには眩しかった。ああ、彼は母親から愛情をたっぷり受けて育ってきたのだな、と。母の愛を知らぬエイトやヤンガスには彼が少し羨ましい。是非お母様の話をもっと聞かせてください、とエイトが言おうとした時────
「みんな、あれ…何…あの魔物…?不気味ね…」
「うん?何って────」
「「!!!」」
いつの間にかエイトたちは数匹の魔物に囲まれていた。……数だけで見れば大したことは無い。しかしその姿にはゼシカ以外の全員に見覚えがあった。
まず最初に声を上げたのは直近で被害に遭っているグラッドである。
「こ…こいつら!私が出てくるのを待ち伏せしていたのか!き、君たち!あの魔物たちが私を襲った奴らだ!」
「なるほど…アッシらは既に一手遅れてたってわけでがすね…」
「おいおい…これって…結構マズいんじゃないのか…?」
「な、ど、どうしたのみんな?」
「……。聞いて、ゼシカ。グラッドさんも。」
「?」
「あれは…あの黒い魔物は、暗黒神ラプソーンの配下だ。グラッドさん、貴方は既に賢者の血を引くものとして暗黒神に目をつけられていたのです」
「な!?」「あれがラプソーンの…!」
「グラッドよ、馬車に隠れておくのじゃ。お前たち、頼んだぞ!」
トロデの言葉でグラッドが慌てて馬車に逃げ込んだのを確認するとトロデは馬車を一番近い崖の壁面につけた。防衛戦の要は如何に攻撃を受ける方向を減らすかである。崖を利用して攻撃方向を半分まで絞り、エイトたちは襲い掛かってきた「黒い魔物」たちを迎え撃つ。
…
「あんこくちょう」が二体と「デスターキー」が三体。平常なら落ち着いて対処できたとして、ここは雪原。特に地面の影響を受けないあんこくちょうの猛攻はエイトたちの体力を着実に削っていく。
「強え…だがアッシらも前とは一味違うでがすよ!ねえ兄貴!」
「もちろん!ヤンガス!これを使って!」
「任せてくだせぇ!」
ハンマー投げの要領で今まで使っていた「キングアックス・レプリカ」を投擲し、あんこくちょうの一体を反対側の崖まで吹き飛ばしたヤンガスは、オークニスで新調された「キングアックス」をエイトから受け取る。そのまま追撃を加えて脳天をかち割った。
一方ヤンガスに武器を投げ渡したエイトは、突然同胞が吹き飛ばされ一瞬気を取られるもう一体のあんこくちょうの頭上から飛び掛かって「きせきのつるぎ・レプリカ」で串刺しにし、あんこくちょうの右の翼を地面に縫い付け、持ち替えた「ドラゴンキラー」で地に墜ちた鳥の首を刎ねる。飛行するモンスターは往々にして自分の機動力に驕りがある。一度地面に縫い付けてしまえば雀も鷹もそう変わりはないものだ。
「あっちはずいぶん威勢がいいな。…ゼシカ、オレたちもやるぞ」
「任せて!『ヒャダルコ』」
ゼシカが唱えたのは中等の氷結呪文だが、雪山というこの環境の中で放たれるそれはもはや『マヒャド』と言っても過言ではないほどの巨大な氷塊になっていた。降り注ぐ氷塊はデスターキーたちを切り裂き、脚部で癒着して動きを止めた。雪山に生息する魔物ならこうはならないだろうが、生憎デスターキーは雪のない世界出身の魔物である。瞬く間に三体の七面鳥は動きを封じられた。
「そのまま動くなよ…動くとイタいぜ?」
ククールの狙い澄まされた弓の一撃「ニードルショット」はデスターキーの命を射抜き、一体ずつ確実に仕留めていった。「ニードルショット」で魔物を即死させるにはまさに「針の穴に糸を通すような」極限の集中が必要なのだが、相手が動かない木偶であれば話は別である。
「やるわね、ククール!」
「ああ。…っと、まだ終わりじゃないみたいだぜ?」
ククールが油断なく弓を構え、ゼシカに警戒を促す。丘の向こうから更に黒い影がちらりと見えた。増援のようだ。
「あと何匹だァ…?ひぃ、ふぅ、みぃ……おいおい、こりゃあ…」
「多い…!」
現れたのは先ほどと同じ「あんこくちょう」と「デスターキー」。しかしその数はさきほどの2倍…3倍…さらに増えていく。流石に焦りを覚えたヤンガスはその先を数えるのをやめた。
「みんな、魔力は持ちそう?」
「…魔物がこれ以上増えないならな」
「なんとしてもグラッドさんは護らないと…」
「へっ、ちょうど冷えた身体があったまってきたとこでがすよ!」
じりじりとにじり寄ってくる闇の魔物たち。鳥類特有の無機質な眼からは何を考えているかなどまるで推測できないが……ただ一つ、確実にグラッドの命は奪うという殺意だけは感じられた。
『待て』
「!?」
双方が相手の間合いに踏み込み、ヤンガスが今まさに飛び出そうとしたところで魔物たちの動きが止まった──否、動きを止めたと言うのが正しいか。そしてどこからか声が…人の神経を逆撫でするような声が聞こえてくる。
「はァ~待て待て、待てよテメェら」
「!?」
「ラプソーン様曰く、そのゴミは賢者ではない…とよ。確かに賢者の血は引いているようだが…『末裔』本人じゃあねェ。ったく、だから俺様はやめとけって言ったのによォ!?考えなしの鳥頭共が!」
空から音もなく舞い降りてきたひときわ巨大な魔物は、腹立たし気に一番近くにいた「デスターキー」をその鋭利な爪で一突きにし、そのまま心臓を握りつぶした。わなわなと震えたのち、どさりと倒れる同胞を見て魔物たちに動揺が走る。
「ふぅ…使えない
「(全員動くなよ…!何をされても対応できるように心の準備だけはしておけ…!)」
今現れた魔物に見覚えのあるエイトとククールは最大限の警戒体制を取った。それに
「(アイツがリブルアーチを消し飛ばした魔物だ…)」
「!?」
ということは、という言葉をゼシカは飲み込み、相手を注意深く観察する。そして…
「(!!!神鳥の…杖…!)」
今この瞬間、もっとも暗黒神に近い存在。それが今目の前にいる。エイトたちからわずか十数メートル離れた先からこちらを嘲るように振り向いて笑みを浮かべる屈強な魔物…妖魔ゲモンの右手には暗黒神の封じられた「神鳥の杖」が握られていた。
「グハハ…喜びな、賢者の成り損ない…俺様は現在忌々しい『道化』とオサラバできてすこぶる機嫌がいい。本来ならそこの奴らみたいなチンケな護衛なんぞ雇ったところで何の意味も成さねェが…今日の所はテメェの臆病さに免じて引き下がってやるとしよう…下等生物らしく、せいぜい醜く汚らしく生きるんだな……ケヒヒヒッ」
そう言い捨てるとゲモンは翼を広げて踵を返し、闇の魔物たちは自身の影に溶けて消えていく。泥のように重苦しい空気が掻き消え、雲の切れ目からは光が差した。
「……」
「……」
「た、たすか────」
緊張の解けたグラッドが思わず安堵の声を漏らしかけた瞬間。ゲモンは突然立ち止まり、くるりとこちらを振り返った。底知れぬ悪意と共に。
「……。ま、考えてみりゃあ…別に生かしとく意味もねェか。おいゴミクズ共、テメェらやっぱ今ここで死んでろ」
「────ッッ!!!」
ゲモンの口から唱えられた『バギクロス』の呪文と共に、真空の刃が世界を刻む。
…
「ケケケ…思わずフルパワーで放っちまったが…こんなとこで風の呪文なんて使うもんじゃねェな。雪が舞い上がっちまって何も見えねェ。ゴミ共は…まあ生きちゃいねェだろうが、仮に生きててもなんら支障は無い、な。グハハハハハ…」
ゲモンは翼をはためかせ、今度こそ空高く飛び立った。大雪崩でも顔色一つ変えなかった雪山の…その変わり果てた姿を残して。
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おおよそ「バギクロス」とは思えないほど高出力の呪文は、さらに魔力の暴走を起こしたことで雪山に甚大な被害を及ぼした。呪文をもろに受けた「薬草園の洞窟」はその基幹となる氷の柱をいくつも損傷したことで落盤。それに伴って山岳の形が歪にうねり。さらにその影響で周囲の山々で小規模な雪崩が頻発している。雪山中から聞こえてくるゴゴゴ、ゴゴゴという雪崩の音は、そのまま星の怒りを表しているかの如き迫力があった。
その爆心地、とでも言おうか。まるで巨大な河跡のように抉られた道の真ん中にある、こんもりと積みあがった不自然な雪塊。ドザサ、と雪が崩れたかと思うと中から紫色の幕に包まれた一行の姿が現れた。誰もが額に大粒の汗を浮かべ息を切らしているが、全員五体満足で生きている様子である。
「はぁーっ、はぁーっ……」
「なん…っつーバカげた威力だよオイ」
「王様、姫!グラッドさんも!ご無事ですか!!」
トロデは風で吹き飛ばされてひっくり返った姿勢のまま左の親指を立て、グラッドもなんとか横転した馬車から這い出てきた。ミーティアは予め身を屈めて低い姿勢を取っていたため、多少の雪を被るだけで済んだようだ。
「誰も…誰もケガ…してないわよね……?」
「あ、アッシは正直……死にそう…でがすよ」
「バッ…お前!もっと早く言えっての!」
本当に死んでしまいそうなか細い声を聞き、慌ててククールはヤンガスに『ベホマ』を唱える。(ヤンガス以外は)ほとんど無傷だが、一歩間違えれば全滅の危機もあった。ククールとゼシカの『マホカンタ』を合体させ、呪文を跳ね返す巨大な膜としてドーム状に全員を包んで風の刃を防ぎ、ヤンガスが「大ぼうぎょ」で飛来する石礫や木片から皆を守る。これら全てを咄嗟に指示したエイトの管制能力にはククールをして舌を巻く。当のエイトは強化された『マホカンタ』に包まれる前に『ベギラゴン』をカーテンを下ろすかのごとく放ち、津波のように降りかかる雪を可能な限り蒸発させていた。
そうしていなければ、仮に『バギクロス』に耐えきったとしても雪に埋もれて今度こそ凍死していたに違いない。教会で復活できる自分たちとは違い、トロデやミーティア、グラッドは一度死んでしまえばそれまでの命なのだ。エイトがいなければ全員死んでいた。とククールは断言できる。しかし……。
「君たち……本当にありがとう…っ!君たちがいなければ私はきっと骨すら残っていなかっただろう…」
グラッドは自分がこれまで生きてきた常識を覆すような状況を上手く飲み込めていないなりにエイトたちに感謝を述べたのだが、彼らの顔は依然険しいままである。
「いいえグラッドさん、まだ何も終わっていません。」
「な…なんだと!?」
「…先ほどの喋る魔物は貴方を『末裔本人ではない』と言って去りました。つまり奴らの真の狙いは…」
エイトがそこまで言うと、それまで喜色満面だったグラッドの顔からも一瞬で血の気が引く。
「ま、まさか…魔物たちは母の命を狙いに……!?だ、ダメだ!そんな、マズい、マズいぞ!!」
「お気持ちは重々お察しします。僕らもメディさんには命を救われた身、決して死なせたくありません。落ち着いてください…とは言えませんが、話を聞いてください。」
「…っ!…わかった。ただし、すまない。長くは待てそうにない」
「ありがとうございます。」
落ち着いてなどいられるか!という言葉をすんでのところで飲み込み、グラッドは今すぐ実家に走り出したい気持ちをひとまず押さえ込んだ。
「エイト、おばあさんの家は…」
「うん、座標はちゃんと記憶してる。…グラッドさん、僕らは今から最速でメディさんの元へ向かいます。しかしそこでは先ほどの魔物との戦闘が起こることは必至でしょう。僕らは貴方を巻き込むことを良しとしません。ですから……」
そこから先、エイトが言わんとしていることはグラッドにも容易に想像できた。しかし想像できたからと言って、納得できるというわけではない。目の前の青年の意図を察したグラッドは何の躊躇いもなくエイトの前で膝を折って座り込み、額を冷たい雪に埋めた。恥も外聞も、母の命を前にしては等しく無価値だ。
「!?」
「頼む。私を…私も母の家へ連れて行ってくれ。君たちの言い分はわかる。それが正しい判断だということも。しかし…どうか。どうか頼む。もし彼女に…母に何かあった時、私がその場にいなければ、私はきっとその判断を生涯後悔することになる。…この通りだ」
「………。グラッドさん、顔を上げてください」
仲間たちは一様に心配そうな顔でエイトを見ているが、何も言うことはない。全ての判断をエイトに委ねるつもりなのだろう。しかし、エイトはグラッドがそう懇願するであろうことは薄々分かっていたため、一拍の間を置いてすぐにその手をグラッドに差し出した。
「わかりました、一緒に向かいましょう。ただし安全の保障はできない上、事態は一刻を争います。『僕らから離れないこと』だけは必ず守ってください。」
「…ああ、ああ!感謝する!」
グラッドはエイトの手を取って立ち上がると、ヤンガスたちも顔を合わせて強く頷き、彼の肩に触れる。そのままエイトは『ルーラ』を唱え、荒れ果てた雪山から姿を消した。
先ほどまでは確かに晴れていたはずの空にはまたもや暗雲が立ち込め、やけに湿っぽい雪がちらほらと降り始めた。
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真っ白な雪山と対極を成す、真っ黒な世界。ここに『色』という概念は存在せず、昼も夜もない。
そんな闇の世界に墜つ異分子……あるいはこの世界そのものの異分子。
『色のある』それは、しかし黒ずんだ血に塗れ、到底生きているとは思えない。
魔物たちですら気味悪がって寄り付かず、『それ』がある空間はまるで時が止まったかのようだった。
「……?あ、あれ…なんだろう?」
「わからない…いや、もしかして……『人』なのか……?」
「ひ、人なら……もし生きてるなら急いで連れて行かないと!」
終わったはずの物語は、『彼』の止まった時は、
原作との相違点
・初めからメディとグラッドの関係が判明している。
原作メディも原作グラッドも何で言わないのってくらいに互いの関係を隠している。グラッドは後に「隠していたわけではないのだが…」とは言うのだが、明らかに不自然である。二人とも母想い、息子想いであることを知られるのが照れ臭かったのかもしれない。
・グラッドがオオカミでなくトリに襲われた。
原作ではレオパルド指揮する「ダースウルフェン」に襲われていたグラッドだが、現在レオパルドはU.S.A.で暢気に昼寝でもしているはずなのでコマンダーがいなくなり、オオカミはグラッドを襲わなかった。しかし代わりに雪山にいないはずのトリに襲われた。
・レオパルドの代わりにゲモンが来た。
とある道化師の尽力によりレオパルドの端末化は防げたのだが、ラプソーンもラプソーンなりに策を巡らせ、闇の世界からゲモンを呼びよせた。原作ではレティスに嫌がらせをしながら数百年過ごしているとんでもない無頼の徒だが、上司から直接の任務を指令されている今は働き者である。性格は相も変わらず最低最悪。
・薬草園の洞窟が落盤した。
だからどうということは無い。宝箱を取り逃してたらもう取れないね、ということくらい。頑張って育ててきた薬草が全部ダメになってしまったグラッドのことを思うとなんともいたたまれない。
・直接メディの家へ向かうことになった。
原作では一旦オークニスに戻り、グラッドがレオパルドに人質に取られる原因となるイベントが挟まれるのだが、今回は戻っている暇などないのでさっさとメディばあさんの家へ直行した。
そして次回はほぼ半年ぶり(半年!?)にあの男が登場!?するかな?