ドルマゲスに転生してしまったので悲しくない人生を送りたい 作:えにぃ
※ここからしばらく主人公(ドルマゲス)サイドはオリジナル展開です。オリジナルの雰囲気が肌に合わないという方も当然いらっしゃると思いますので、キツさを感じられましたら「新・第二十四章 ドルマゲス捜索編 解」までスキップしていただいても大丈夫です。
なお、勇者サイド(Chapter○○表記)につきましては原作と同様に進んでいきますので、そちらだけでもご覧いただけると幸いです。
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目を、覚ました、のか。もしくはまだ夢の中……なのだろうか?永遠に落ち続けるような、それでいて微動だにしていないかのようなふわふわとした感覚。再び遠のきかける意識を俺は懸命に繋ごうとする。
「(こ、こ…は………)」
「っ!!!」
その瞬間、待ってましたとばかりに全身を焼くような痛みが貫いた。俺はそのあまりの衝撃に声すらも出せない……が、そのおかげで意識はなんとか保たれる。意識を失うほどの激痛のおかげで意識を保っていられる、というのも皮肉な話だ。
俺は周りの状況を確認しようとしたが、うまく目が見えない。眼球を損傷したか、神経がイカれたか…?
「(俺は…そうだ、ゲモンと戦って……負けて…)」
「(それで…今は…?)」
生きている、ということは俺の奥の手が上手く発動したようだが。…ひとまず聴覚は無事だ。かすかに草の揺れる音が聞こえる。つまりここは地面?
嗅覚は…どうだろう。何も匂いがしないのは鼻がどうにかなってしまったのか、もともと何も匂いの発生源がない場所なのか。いや、草があるなら匂いがしないのはおかしい。鼻はダメになってしまったようだ。
味覚は…血の味がするな。しかし血はもう止まっているようだ。打ち止めか。
俺の意識は朧気ながら、しかし少しずつ鮮明な像を結び始めていた。
「(そうだ。俺はゲモンに敗北して…それから奴に攫われた)」
最後に記憶に残っている風景は死に体のユリマに手を伸ばす下賤の輩の姿。俺は最後の力を振り絞って奴の指を念力で引きちぎったのだが、そこで本当に全ての気力・魔力を使い果たしてしまった。しかしその後、なにかに肩を掴まれたことだけは覚えている。おそらくゲモンか、奴の配下の魔物か…闇の手勢であることは確かだ。
「(…俺は、助かったのか……?)」
ここが死後の世界でなければの話だが。なにせ全身の神経を酷く損傷しているので身体のどこが接地しているのかも分からない。全身が痛すぎて逆にどこも痛くないかのような気すらしてくる。実際、俺の身体はほとんど死んでいると言っても過言ではないだろう。俺に余裕があるように見えるのは『
…別に五体満足ってだけで、全く無事ではないんだけどなあ。
「(腕…脚…ダメだ、動かん。右腕は……これはもう無理かもな。感覚が完全にない。目も見えんし、鼻も匂わんし…)」
「(もう…)」
終わり。そんな考えが頭をよぎる。ここがどこかは分からないが、俺はゲモン、そしてラプソーンから生き延びることができたようだ。だが、生きているというよりかは「死んでいない」だけだ。今の俺はきっと人間の赤ん坊よりも打たれ弱い。『エーテル』か『ヴェーダ』の効力が切れれば即死するか、緩やかに苦しみながら死ぬだろう。魔物や野生動物に丸のみにされた時なんか最悪だ。
「(トラックに撥ねられて即死した時のことはもうほぼ覚えてないけど…苦しんで死ぬのはイヤだなぁ……)」
次に死んだときもどこかに転生するのだろうか。それともこれは現世の俺が最後に見ている夢だったり?
「…」
意識だけはもうかなりはっきりしてきているのだが、身体がマジで動かないのでやることがない。とはいえ、このまま考え事をしていても良くない方向に進むであろうことは絶対に間違いないので、俺はなんとか身体に動かせる箇所がないか試すことにした。筋肉の構造にはある程度詳しいからね。伊達に魔物の研究はしてないわけ。
…
ま、マジのガチで動かねぇ…。超強化された金縛りみたいだ。冷凍された肉体に反魂された直後の師匠もこんな感じだったのだろうか。一応耳や舌は動かせるようだが…他はてんでダメ。手足どころか首も動かせん。あと確認できてないからよく分からんが、これ俺の頭蓋骨割られてるよね?我ながらなんで生きてんだろ。
「(そういえばサーベルトの前で耳を動かして見せた時、めちゃくちゃ驚かれたっけ)」
少し昔…ベルガラックに向かう道中、パルミド地方で野宿している時。何か面白いものを見せてくれ、というサーベルトの無茶ぶりに俺がヤケクソで応えた時のことだ。それも魔法なのか!?と目を丸くされたのを覚えている。できない人は一生できないもんな、これ。
「…。」
サーベルト、そしてキラちゃん。師匠にユリマ。みんな無事だろうか。特にサーベルトとユリマには何度も酷い目に遭わせてしまった。俺と関わらなければ二人とも平穏な暮らしができていたかもしれないのに。
…賢者の血を引くサーベルトにはどのみち波乱の人生が待っているだろうが…それこそゼシカと共に勇者エイトたちと旅をすることだって出来たかもしれない。彼を妹と引き離してしまったことは本当に正しかったのか、それは今でも俺の心に引っかかっている。
ユリマは…あの子の人生は俺が随分狂わせてしまった。……別に狂わせるつもりは全然、ほんっとに全然なかったんだけども。結果だけを見れば俺が悪い…悪いのか?少々不本意だが…
肉体的な負担を強いてしまった二人に対し、逆にキラちゃんには精神的な負担をかけまくってしまった。聡明で優秀な彼女に俺はいつも頼ってばかりだった。いつもキラちゃんは俺の一歩後ろで、だがいつでもすぐ傍にいてくれて……それがどれだけ俺の助けになったか。本当に嬉しかった。…でも考えてみればキラちゃんもまだ、というかめちゃくちゃ若い。最年少だよな?ベルガラックではお酒飲んでべろべろになってたけど。中身はまだまだうら若き乙女、なのだ。そんな彼女をほいほいとブラック企業の管理職に就かせてしまったのが元・日本人としては一番心残りかもしれない。
師匠は…まあ許してくれるでしょ。俺は師匠のところによく厄介事を持ち込んでいたが、それと同じくらいあの人も俺にたいがい迷惑事吹っ掛けてきたわけだし。痛み分けってことで。
「…。」
みんな、無事でいてくれたならどんなに嬉しいか…。
ああ、もう一度でも逢えたらなぁ…。そんな願いの下、俺は思わず仲間の名を呟いた。
「……ユリ…マ…」
「ひっ」
ひっ?
今、何か聞こえたか?ああいや、絶対に聞こえた!「ひっ」って!シチュエーションによっては結構傷つく
「だ…れか…そこ…に…?」
「ど…どうしよう…本当に生きてた…!サッ、サッちゃん……!」
声の主は何やらこちらを怯えているようだ。何が起きているのかは全く分からないが、今すぐに攻撃してくるような様子はない。見張りか何かだったのだろうか。というか……めちゃくちゃ聞き覚えのある声なんだけど。と、とにかく助けを呼ばないと。
「あ…あの…っ!」
「…」
声の主は既に去ってしまったらしい。相手が見張りであったのなら誰か他の仲間を連れてくるだろうが、通行人とかだったら終わりだな。二度とここに戻ってくることはないだろう。
「…っ」
ああクソ、焦って無理に声を出してしまった。せっかくはっきりしてきた意識が…
俺は『エーテル』と『ヴェーダ』が切れないことを祈りながら掌の中から意識が零れ落ちていくのを感じていた。もう一度俺が目を覚ますことはできるのだろうか。できないかもな…
あぁ、悲しいなぁ────
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目が覚めると、見覚えのない木の天井が目に入った。慌てて飛び起き…ることはできないが、ゆっくり首を動かすと天井同様、やはり見覚えのないものばかり目に飛び込んでくる。本棚、タンス、…壺。
部屋は全面が暗い…ほとんど灰に近い黒色の木材の壁で出来ている。こんな部屋は…今までこの世界で自分の見てきた限りは存在しない。さっきまで感じていた身体の痛みも多少は引いている。『エーテル』はほぼ切れかけ…『ヴェーダ』は既に効力を失っていた。しかし今も無事?でいることを考えると、どうやら誰かが治療を施してくれたらしい。ゲモン戦以前よりかは完全とは言えないが、目も少し見えるようになっていた。カビの生えた木材のような匂いもする。
「…なんか、懐かしいなこの感じ」
初めてこの世界にやってきた時のことを思い起こさせる、よく似たシチュエーションだ。知らない天井、知らないベッド、知らない部屋。立ち上がった時に目線がいつもと違うからしばらく歩くだけで酔ってたんだっけ。そんなことを考えながら、俺は布団の中で足を組む。そして次に腕を────
「…ダメか」
右腕はやはり動かない。……もう俺の右腕は死んでしまったようだ。ラプソーンに操られ師匠を手にかけた右腕、未熟さに絶望するサーベルトに差し伸べた右腕、闇の遺跡でユリマにズタズタにされ、キラちゃんに包帯を巻いてもらった右腕……。
…いや。今は命だけでも助かったことを喜ぶべきだろう。俺は芋虫のように体をくねらせて体勢を変えると、質素なベッドが音を立てて軋む。すると、それを待っていたかのようにドアが開き、三人の人間が入ってきた。
「目が覚めたか、悪趣味なほどに派手な男よ。」
まず初めに部屋に入ってきたのは白髪…なのか?黒とも灰ともとれる髪を後ろで束ね、これまた形容しがたい色の髭を備えた老人。
「起き抜けに悪いが、突然現れた君が何者なのか、俺たちは測りかねている。もし君が俺たちに危害を及ぼす人間だとしたら俺は構わず君を斬る。妙な動きはしないように頼む」
次に入ってきたのは極めて一般的な服に身を包んだ、しかしその牧歌的な服に似合わぬ鍛え抜かれた剣を構える青年。男は刃の切っ先こそ向けてはこないものの既に抜刀しており、いつでもこちらを鎮圧できる準備は整っているように見えた。
「さ…サッちゃん…物騒だよ…」
「…ユリ。君を守るためなんだ。さあ、向こうの部屋で待っていてくれ」
「イヤ…わたしはサッちゃんといる…!」
「ユリ…」
最後に入ってきたのは剣士の後ろに隠れてこちらを窺う少女。ふんわりとした流麗な黒髪は小刻みに揺れている。正体の分からない俺に怯えているのだろう。しかしその上で傍らの剣士を窘めており、心優しい性格をしているのであろうことは見て取れる。
「(!?!?………いやいや…マジでか)」
「さて、派手男よ。お前の今の状況が少しはわかってきたか?…別にこの場で殺そうというわけではない。ただ、『色のある』人間が現れたのは有史以来初めてのことであり、住民たちが不安がっているのだ。お前に治療を施したのはわしだが、お前が我々に敵対的であるとわかれば…すぐさまこの男がお前を斬り捨てるぞ」
椅子に腰かけ、どこか気怠げに淡々と話す老人。依然鋭い眼光で俺を睨みつける剣士、そんな剣士を心配そうに見つめる少女………
俺は彼らを知っている。むしろ知らないわけがなかった。唯一「彼ら」と違う部分があるとすれば、その服も、肌も、瞳に至るまでの全てが水墨画のように濃淡ある黒色をしていることだろうか。俺は動揺を限界まで隠しつつ、ゆっくりと左腕を上げた。動きを見せた俺に剣士が警戒の色を強める。
「…発言の許可をお願いします」
「…ふむ。言葉は通じるようだな。……許可する。言ってみろ」
「ここは…どこなのでしょうか。…この町の名前を教えていただけませんでしょうか?」
「…。…まあ、いいだろう。この町の名は『トラペッタ』。聖地ゴルドから見て北東の大陸にあるトロデーン領の小さな町だ。」
「ありがとうございます。…あともう一つだけ、『この世界に色は存在しますか』?」
「…流転しうるもの、『火』や『水』には色がある…が、色のある人間と言う存在は見たことがない。お前のようにな。」
やはり…。であれば考えられる可能性は一つしかない。
「ありがとうございました。……私の名前はドルマゲスと言います。私は確かにあなた方とは違う、異質な存在ではありますが…敵ではありません。治療を受けたこの身に誓って、皆様に危害を加えないことを約束しましょう」
「…。」
老人は少しの間黙ると、剣士に合図を送り、剣を鞘に収めさせた。
「…ふん、わしとしてはお前本人にはあまり興味がない。懸念点はお前が我々の脅威たるかどうかだけだ。そうでないならば、わしはお前をこれ以上拘留する気はない。どこへなりとでも行くがいい。」
「俺は……君に気を許したわけではないが、君が礼を知り、剣を構える相手にそれを尽くせる度胸ある人間だ、ということくらいはわかった。先程は脅すような真似をしてすまない。」
「いいえ。見ず知らずの、しかも見るからに怪しい私を運んでくれたのは貴方ですよね?貴方がいなければ、私はあのまま命を落としていたでしょう。」
「…まあ、そうかもしれないが。」
「治療を施してくださった貴方も、そこの貴方…私を発見してくださった方ですよね!皆様は私の命の恩人です!本当にありがとうございました!………それで、もしよろしければお名前を…。」
俺がそういってぎこちないながらも頭を下げると、剣士は少しだけ気を許してくれたのか、敵意が少し弱まった。俺の予想が正しければ、彼らの名前は────
「頭を上げてくれ。君の名前はドルマゲスだったな?俺は『サーベルト』。こちらの方は『ライラス』さん、そして……後ろのは『ユリマ』。俺のガールフレンドだ。」
やはり。……って、ん………?がーる…何だって?
「ドルマゲス?…さん?…無事で良かったです。そんな、私なんかあなたを見つけただけですし…サッちゃんが運んでくれなかったら…」
「いや、ユリが見つけてくれなければ俺がドルマゲスを運ぶこともできなかったんだ。全てはユリのおかげさ。」
「も、もう!サッちゃんったら……!」
「お前たち、惚気は外でやってくれ。鬱陶しくてかなわん」
「……」
一瞬だけ脳内に宇宙が広がりそうになったが、おおよその状況はわかった。彼らは俺が知る彼らとは違う『師匠』に『サーベルト』、『ユリマ』だ。
そしてここはトラペッタ。色のない…つまり『闇の世界の』トラペッタだ。ゲーム中では登場しない、しかし確かに存在するはずの町である。
「(しかし…)」
俺はすっかり二人の世界に入り、目の前でイチャイチャしている黒サーベルトと黒ユリマを見る。
これがかの有名なNTR?いや寝たことないし。BSSっての?うーん、別にめちゃくちゃ好きだったかと言われるとどうだろう……。あ、もしかしてこいつが「脳が破壊される」って感覚なのか?実際さっき治療してもらうまでは脳も損傷してたはずだし。
「…。」
「(なんだかなぁ…)」
全くの別人とはいえ、俺の好きな人と好きな人同士が仲良くしているわけだから祝福すべきことではあるはずなのだが…どうも釈然としない。ああ、キラちゃんに会いたい…
『胎児の見る夢(エーテル)』…ドルマゲスが最初に生み出した三つの魔術の内の一つ。当初は幽体離脱を行うだけの魔術だったが、「魂の移動」を拡大解釈することで精神汚染耐性(於:トロデーン)、疑似的な遠隔通信機の確立(於:マイエラ修道院)、肉体への反魂(於:ふしぎな樹木)、単純な記憶の操作(ライラス作・於:リブルアーチ)、そして今回のような感覚の遮断・鈍化など幅広く活躍の場を獲得した。心(魂)と身体は一つであり、分けて考えることはできないのである。
『偶像の見る夢(ヴェーダ)』…各種能力値を底上げする六種の「きのみ」「たね」を芥子(ケシ)、丸香(がんこう)、酸香(さんこう)、塗香(ずこう)、薬種(クコ)、切花(きりばな)に見立て、時間制限を設けることで身体能力を著しく上昇させる魔術。ベルガラックでの呪われしユリマ戦で初披露した。効果発動中は肉体に『不壊』の性質が付与され、部位を切断したり欠損したりすることができなくなる。あくまで「形を保つ」だけなので、『不死』ではない。弱いわけではないのだが、応用力が少ないのでドルマゲスは戦闘以外での用途を模索している。
「お兄さん、わたし…昨日すっごく怖い夢をみました…わたしがお兄さんと恋人関係になってるんです…あまりに怖くて、今も鳥肌が…」
「ほう、奇遇だな。俺も昨日似たような夢を見たんだ。」
「本当に有り得ませんよね!」「ああ、俺も人を見る目はある方だからな!」
「「あっはっは…」」
「「…」」
…
「ちょっ!?ふ、二人とも!?こんなところで殴り合いなんて始めないでくださ…きゃあっ!ライラス様、たすけ…」
「放っておけ。宇宙一くだらん諍いだ」
ACT6はここまでとなります。次回はいつもの番外編+αです!